「今度は『かさじぞう』か……」
鉢かづきちゃんのおかげで、破壊を続ける地蔵さんたちに追いついた。
彼らのの破壊力はすさまじいけれど、スピードはあまりないみたいだ。
けれど……。
『『『じいさんの家はどこだ♪』』』
ずしん! ずしん! ずしん!
六体で歌う歌や、彼らの歩む音や振動があたりに響き渡っている。
そのボリュームはあたしの想像を絶していた。
「な、なにこれ! うるさすぎる!」
「なんと……され……子様!」
「えっ何!? 鉢かづきちゃん、聞こえない!」
そして、何よりも、
「大きすぎない!?」
そう、そのサイズが問題なのだ。
地蔵のサイズは、あたしなんか軽く追い越していて、多分四メートル位はあるんじゃないだろうか。
……あれ? でも、あたしのアパート裏の公園の足跡、こんなに大きかったかな……?
それに、こんなに大きな歌声だったら公園を通った時にさすがに気付くはずだよね。
てことは……まさか!
「この地蔵さんたち、成長してる!?」
もしこの推測が当たってるとしたら……放っておいたら手に負えなくなる! 今のうちに〈月光条例〉を執行しないと!
「地蔵さんたち、止まってください!!」
と、あたしは大声で叫んでみるけれど、その声は地蔵さんたちの歌声と足音で当然のようにかき消された。
どうしよう……どうしよう!
すると、戸惑うあたしの耳に、かすかだけど声が聞こえてきた。
「……さ……つ……さい!」
相変わらず何を言っているかは聞き取れないけれど、声の主はどうやら鉢かづきちゃんのようだ。
慌てて周りを見渡すと、そこには、金棒の形になった鉢かづき姫が転がっていた。
……そうだよね。声が届かないんだったら、出来ることは、一つしかない。
「行くよ! 鉢かづきちゃん!」
「……!」
返事は聞こえなかったけど、多分鉢かづきちゃんは返事してくれたと思う。
鉢かづきちゃんを握りしめ、地蔵さんたちの元へと走り寄る。
とりあえず……一番後ろの地蔵さんに向かって、鉢かづきちゃんを振り下ろす!
「いっけえええ!」
ガアン!
『月光条例』〈執行〉!
あたしの打撃は地蔵さんの足元にクリーンヒットして、その地蔵さんは粉々に砕け散った。
少し不安になったけど、そのかけらから白い靄が上がって地蔵の形になったところを見ると、無事に『月光条例』は執行できたらしい。
「よし、あと五体!」
「この調子です! 涙子様!」
「気を抜くな、サテン! すべてのキャラを治すまでは油断できぬぞ!」
「分かってる!」
と、一寸法師に返事をしたところで違和感に気づいた。
なんであたし達、普通に会話できてるの……?
だって、まだ五体の地蔵さん達が残って――
――ゾクリ
あたしが残りの地蔵さんたちのいるほうに顔を向けると、五つの顔がじっと動かずにこっちを見つめていた。
『オマ『オマエ『オ『オマ『オマエ、ナ』ナニモノダ?』ダ?』?』ノダ?』ダ?』
うるっさい! せめておんなじタイミングで喋ってよ! 何言ってるかよくわかんない!
要するに、地蔵さんたちがあたし達の存在に気付いたってことなのかな?
えーと……今のは、『お前は一体何者だ?』ってことかな?
「あたしは、今回の〈執行者〉だあああァァ!!」
ズガン!
『月光条例』〈執行〉!
地蔵さんたちが動き出す前に、二体目にも〈執行〉してしまえ!
これで残るは4体!
『オマエ『オマ『オ『オマエ、オレタチジ』チジャマスル?』スル?』マスル?』?』
今度のは、『お前は俺達のジャマをするのか?』みたいな感じだね。
ジャマって言われるのは心外だけど……〈月打〉されてるから、仕方ないか。
|『ジイ『ジ『ジイサン『ジイサンノイエ』イエドコダ?』ダ?』コダ?』?』《じいさんの家は何処だ?》
「そんなの知らないよっと!」
そう言いながら、あたしは三体目のお地蔵さんに飛びかかった。あたしが振りかぶった鉢かづきちゃん(金棒)は、そのお地蔵さんに直撃し、〈執行〉を完了する――はずだった。
「……あれ?」
あたしの攻撃はなぜか空を切った。でも、目の前には攻撃目標だったお地蔵さんはいない。
「どこ行った?」
きょろきょろと周りを見回すけれど、いるのは残った三体のお地蔵さんだけ。
一応は元に戻ったお地蔵さんも二体倒れてるけど。
「涙子様、上です!」
「上?」
鉢かづきちゃんの声に従って上を見てみると、そこに、あたしの探していたお地蔵さんはいた。
――あたしに向かって猛スピードで落ちてくるお地蔵さんが。
「うわああああ!」
あたしはとっさに横に飛んで、その攻撃の回避を試みた。
うつぶせの形になるけれど、なんとか躱しきれるかな……!
ドシャアアアァァァン!!!
「っくあああああああ!!!!」
い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいい!!!!
な、なんなのこの痛み……!
激痛が走る左の足首に目をやると……痛みの原因が分かった。
あたしの左足の足首から先が、巨大なお地蔵さんによって踏みつぶされていたのだった。
「があああああああああああああ!!!!!」
明らかに女の子が出しちゃいけない声を出してるのは分かる! 分かるけど耐え切れない!
マンガとかだと、とんでもない激痛が走ると気絶していたはずだけど、あたしが気絶できないのは〈極印〉によって身体能力が、痛みに対する耐性が上昇しているから!?
ああもう分っかんない!
「涙子様! 大丈夫ですか!」
「大丈夫な訳ないでしょ! こんな……こんな怪我!」
すると、あたしの足を踏みつぶしているお地蔵さんが、こっちを見下ろして、言った。
「ちょ、何ソレ! 理不尽すぎる!」
いやまあ兄嫁もこんな感じだった気もするけどね?
出会い頭に殺されかけたし……。
って、違う! 今はそういう事を考えている場合じゃない!
「知ってる! おじいさんの家知ってるから!」
「違う! お地蔵さんたちの本の中におじいさんはいるの!」
ふざけんな!
ちなみに、今もあたしの左足首には激痛が走り続けているし、四体のお地蔵さんの体は大きくなり続けている。もう八メートル位にはなってるんじゃないかな。
わお、なんて絶望的。
……絶望的?
冷静に考えてみれば、この状況は完全に絶望的なのかな……。
痛みのせいできちんとは考えられないけど、残りの三体はともかく、あたしの足を踏んでいるこのお地蔵さんだけなら何とかなる……かも!
それに、〈月打〉キャラによって受けた傷は、〈執行〉が成功すれば元に戻るはず!
お地蔵さんが、そろそろ痺れを切らしそう。
あたしは、お地蔵さんが動き出す前に、攻撃のために鉢かづきちゃんを握りしめた。
「あるね! あたしは、きちんと〈執行者〉を全うするって決めたんだ! こんなところでやられるわけには行かない!」
そう言った直後、あたしはお地蔵さんに踏まれている左足の事は考えず、右立て膝――右足を立てて、体を起こす姿勢――になり、水平に金棒を振るい、お地蔵さんに叩きつけた!
当然、左足首を思い切り捻る事になるため、これまで以上の激痛があたしを襲う事になる。
「うあああああああああああああああああ!!!!」
ドガン!
痛みと共に叩きこんだ攻撃は――
――『月光条例』〈執行〉!
お地蔵さんを粉々に砕くこととなった。
「よし!! ……っつう!」
無事に『月光条例』を〈執行〉できたのは良かった……けれど、あたしの傷は癒えていない。
「……あれ……〈月打〉キャラの壊したものって、〈月打〉を治したら元に戻るんじゃなかったっけ……?」
「そのはずじゃが……」
「まさか、お話そのものの〈月打〉を治さないとダメ、とか……?」
「いえ、私が思うに、おそらく地蔵様方は六体で一つのキャラなのではないでしょうか……」
「……嘘……」
ってことは、この左足の傷を負いながら、十メートル以上のお地蔵さん三体を倒さなきゃいけないの……?
さっきのお地蔵さんを倒した時を考えると、足元に打撃が与えられれば良いとは思うんだけど……さすがに無理だ。
……今度こそ、絶望だ。
「涙子様……」
鉢かづきちゃんが、悲痛な声を上げる。
「ごめんね、鉢かづきちゃん」
「……いえ、あとは私が、出来る限り戦ってみます。『覚悟』は、すでにありますので」
『ジイサ『ジ『ジイサンノイ』イエハドコダ?』コダ?』?』
「地蔵様方。すぐに、おじいさんのお宅まで戻してあげます」
そう言って、鉢かづきちゃんは人間の姿に戻って三体の地蔵の元へと走って行った。
「鉢かづきちゃん、一人で大丈夫? ……って、足はやっ!」
「サテン、鉢かづきの実力を知らぬな? とはいえ、心配ではアルガの」
「実力? ていうか、鉢の中から出てきたんだね」
「下手に邪魔になるとまずいからの」
それはただ単に怖いからのような。
「続けるぞ。鉢かづきはあの鉢のおかげで〈月打〉から逃れることが出来るのじゃが、故に、いつも『月光条例』の〈使者〉となっておるのじゃ」
〈使者〉ってのは、〈執行者〉を選んだりする役割の事かな?
「だから、鉢かづきは長い間、鍛錬を行っておるのじゃ。一部のキャラからは『〈使者〉の中の〈使者〉〈呑舟〉』とも呼ばれておるぞ」
「へえ……」
鉢かづきちゃんは、猛スピードでお地蔵さんたちの足元へ近づくと鉢かづきちゃんはある一体のお地蔵さんへ強烈な蹴りを加えた。
〈執行〉までには至らなかったけれど、見事なひびが入っている。
なるほど、確かにかなりの実力者のようだ。
「……あれ、でもだったら〈執行者〉なんて探さずに鉢かづきちゃんだけでもなんとかなるんじゃない?」
この期に及んで、今更〈執行者〉辞めますなんて言わないけどさ、だったらあたしがいる意味はあるのかな……。
「何を言っておるのじゃ。〈使者〉と〈執行者〉は二人で一組、力を合わせて初めて本領発揮できるのじゃぞ」
「え……」
「それが、それがしがさっき言っていた『心配』じゃ。いくら〈呑舟〉の別名を持つ鉢かづきと言えど、あれほどの巨体を相手に立ち回れるかどうか……」
「もしかして、さっき蹴りを入れたのに、『月光条例』を〈執行〉出来なかったのは……」
「言うなれば、パワー不足じゃな」
「そんな……!」
……よく見てみれば、鉢かづきちゃんはなんとかお地蔵さんに〈執行〉しようと試みてみるけど、お地蔵様の身軽な動きに翻弄されている。
な、なんなのあの強さ!
|『ジャ『ジャマス『ジャマスルナ!』ナ!』!』《邪魔するな!》
すると、お地蔵さん達の笠が少し上がり大量の何かが飛び出してきた。
「あれは……餅!?」
その大量の餅は、鉢かづきちゃんに向けて発射されたようだった。
「くっ!」
鉢かづきちゃんはなんとか躱そうとするけれど、大量の餅が鉢かづきちゃんに襲いかかった。
その餅に弾き飛ばされて、鉢かづきちゃんの体は宙を舞いこちらに転がってきた。
「鉢かづきちゃん!」
たしか、『かさじぞう』の中で餅をお礼に上げてたような気がするけど、だからってそんな攻撃あり!?
「……不覚!」
「鉢かづき! 大丈夫か!」
「まだ戦えます、一寸法師様……くっ!」
見れば、鉢かづきちゃんの服はボロボロになっている。鉢かづきちゃんも限界が近いはずだ。
鉢かづきちゃんが実力を発揮するには、あたしが武器として使わなきゃいけない。けれど、あたしの左足はもう使い物にならないし、この痛みを止める術はない。
こうしている間にも、お地蔵さんたちは巨大化を続けているし、こちらに敵意をぶつけてきている。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!
その声に反応して前を見ると、お地蔵さんが笠を上げ、またしても大量の餅をこちらに飛ばしてきた。
だめだ、やられる!
――そう思った瞬間、聞き覚えのない声があたしの耳に飛び込んできた。
「……超さっきから見ていれば、こんなやつも超〈執行者〉なんですか」
「そうなんじゃないかな? 一応〈極印〉もあるみたいだから」
そして、あたしの視界に女の子の姿が飛び込んできた。