ドガガガガッ!
突如あたし達の前に現れたオレンジパーカーの女の子に、無数の餅が襲い掛かった。
「ちょっ! 大丈夫――って、え?」
い、いや、そんな、あり得ない。
確かにこの子は餅の攻撃を食らったはずなのに、倒れるような気配はなく、それどころか傷一つ付いている様子は無い。
あたりを見れば、きちんと大量の餅が散らばっている。
「……鉢かづきちゃん、この子は?」
「……恥ずかしながら申し上げ御座いません……」
鉢かづきちゃんでも分からない……どういうこと?
「ねえ、大丈夫?」
困惑するあたし達に、後ろから、今度はやけにみすぼらしい格好をした女の子が話しかけてきた。
左足の怪我はともかくとして、今の攻撃からあたし達を守ってくれてすごく助かった。けれど、そんなことより……。
「あなた達は……一体?」
あたしは、さっきからずっと気になっている質問をぶつけてみた。
しかし、帰ってきた返事は、
「今は地蔵達を倒すことが超先決です。あなた達はあっちで超隠れていてください」
という、オレンジパーカーの女の子からのそっけないものだった。
無能扱いされているようで少し悔しいけれど、実際に今のあたしに何もすることは出来ず、あたしは鉢かづきちゃんに連れられて例の女の子に言われた物陰に身をひそめた。
……けど、なんだろうこの違和感。
オレンジパーカーの方はともかくとして、もう一人の女の子の方はどこかで見たことがあるような気がするんだけどな……。
あたしが物陰で、その違和感をどうにか見つけようとしていると、声が聞こえてきた。
「それじゃ超さっさと片づけますよ、マッチ売り」
「うん、サイアイ!」
マッチ売りって――
「あー!」
「ど、どうされましたか涙子様!」
「あの子、『マッチ売りの少女』だ!」
そうだよ、あのみすぼらしい服、絵本で読んだ『マッチ売りの少女』の中の女の子が来てた服にそっくりなんだ!
すると、鉢かづきちゃんが、
「『マッチ売りの少女』……ですか?」
なんて声を出した。
「あれ、鉢かづきちゃん知らないの?」
「なにぶん私、日本の『おとぎばなし』のキャラですので、外国のお話についてはあまり詳しくないのです……」
「そうなんだ……えっと、『マッチ売りの少女』っていうのはね――」
|『オマ『オマエハ『オマエハナ』ナニモノダ』ノダ』ダ』《お前は何者だ》
と、そこまで話したところで、お地蔵さんたちの合唱に遮られてしまった。
「そんなことは超どうでもいいことです」
当然、その声に答えたのはあたしではなくオレンジパーカーの子だった。
「大事なのは、あたし達があなた達に『月光条例』を〈執行〉するってだけだよ」
次いで、『マッチ売りの少女』が声を飛ばす。
『月光条例』……って、まさか。
あたしは、この時点になってようやくある一つの可能性に思い至った。
そんなあたしを尻目に、二人はお地蔵さんに向かって走り出す。
|『コ『コレデ『コレデモク』ラエ!』!』エ!』《これでも喰らえ!》
二人に向けて、またしても大量の餅が発射される。
「あ、あぶな――!」
あたしはとっさに叫んでしまったけれど、二人はまったくうろたえるそぶりを見せない。
どうしたのかと思っていると、『マッチ売りの少女』が、何やら小さな声で呟いた。
「ああ、こんな時、私の身を守ってくれるような大きな盾があればいいのに」
そして、彼女は唐突にマッチ棒をこすり火をともした。
すると、
「うそ……何あれ」
二人の目の前に、大きな盾があらわれて餅の雨から二人を守った。
まるで、彼女の願いを叶えるかのように。
直後、その大きな盾は幻のように消えてしまった。
「もう超めんどくさくなってきたので、超次で決めましょう」
「うん!」
今度は、『マッチ売りの少女』はマッチをまとめて五本取り出した。
そして、
「ああ、こんな時、巨大な敵を倒せるような大きな大きな鉄の玉があればいいのに」
と唱えて彼女がマッチに火をともすと、さも当然のように数メートルもあるような鉄の玉が出現した。
これは、彼女によって出現させられた、と言った方が良いのかもしれない。
「上出来ですね、マッチ売り」
「えへへ~」
「あとは私に任せてください」
すると、信じられないことに、オレンジパーカーの女の子がその鉄の玉を軽々と持ち上げた。
かと思うと、ノーモーションでそれをお地蔵さんの内の一体に高速で投げつけた。
当然、その剛速球をお地蔵さんは躱すことが出来るわけもなく、激突する。
『月光条例』〈執行〉!
「まずは一体目、ですね」
その子は、難なく一体を倒したかと思うと、すぐさま鉄の玉の回収に向かっていった。とはいえ、そんなに遠くまで離れているわけでもないのだけれど。
|『グググ、コ『グググ、コシャクナ!』ナ!』《ぐぐぐ、小癪な!》
またしても、大量の餅が発射される。今度は、オレンジパーカーの女の子一人をめがけて。
しかし、やはり、その子はまったく動じることなく、その場を一歩も動かずにそれを待ち構えた。
ドガガガガッ!
先ほどと同じように、その子は手で受け止めることすらなく大量の餅に直撃した。
砂煙が舞い上がる。
その砂煙が収まる前に、その中から、鉄球を携えて無傷の彼女が飛び出してきた。
『『ナッ!?』』
そのまま、近くにいた方のお地蔵さんを鉄球で殴りつけ、そのまま残るもう一体に向けてそれを投げつけた。
結果は……。
『月光条例』〈執行〉!
『『『『『『此度は迷惑をおかけして誠に申し訳ない……』』』』』』
正気に戻ったお地蔵さんたちが、謝罪の言葉を口にした。
「別に、私達はやるべきことをやったまでです。お礼を述べる暇があるならさっさと本の中に超戻ってください」
『『『『『『フフ、此度の〈執行者〉はかわいらしい女子らじゃのう』』』』』』
「……褒めても何も出ませんよ」
『『『『『『分かっておる。……初めに〈執行〉してくれた女子には、すまなかったの』』』』』』
と、ここであたしに話題が振られる。
「いや、あたしなんて途中でやられちゃって……何も活躍できませんでしたし……」
『それでも、三体も直してもらったのじゃ。あの時は、足を踏んで誠に申し訳ないことをした』
「ああ、あなたはあの……いえ、〈月打〉されていたから仕方ありませんよ」
実際、そうなのだ。
結局この一連の騒動で悪いのは妙な光を放つ月であり、「おとぎばなし」キャラは何も悪くない。
「それに、あの子達が頑張ってくれたおかげで傷も治ってますし、大丈夫ですよ」
『……そうか』
納得してくれたかな?
お地蔵さんは、今度は鉢かづきちゃんの方に声をかけた。
『『『『『『鉢かづき、おヌシにはいつも迷惑をかけるが……これからも頼まれてくれるか?』』』』』』
「ええ、ぜひ私に出来ることがあれば、何でもいたしますので。〈月打〉を正す事、それこそが私の使命でございます」
そして、最後の一人。
『『『『『『それで……おヌシ、〈おとぎばなし〉キャラであろう? 見たところ外国のキャラのようじゃが……』』』』』』
「あ、そうか。ニホンの〈おとぎばなし〉キャラだからあたしのことを知らないのね」
みすぼらしい服の女の子は、大きく胸を張って答える。
「あたしは、『マッチ売りの少女』よ! 名前は特にないから、好きに呼んでくれて構わないわ!」
『『『『『『……なるほど。礼を言うぞ、マッチウリ』』』』』』
すると、お地蔵さん達の体が揺らぎ始めた。
そろそろ本の中に帰る時間だ。
『『『『『『では、此度は誠に助かった。また会おうぞ!』』』』』』
そう言って、お地蔵さん達はどこかへと飛んで行った。きっと、本のあるところまで行ったのだろう。
ようやく、この夜も終わりを迎えようとしていた。
■ ■ ■ ■ ■
『かさじぞう』
(前略)
その夜、真夜中だというのに、ふしぎな歌が聞こえてきました。
『じいさんの家はどこだ♪』
『笠のおれいをとどけに来たぞ♪』
『じいさんの家はどこだ♪』
『笠のおれいをとどけに来たぞ♪』
なんと、おじいさんがしんせつにしてあげたお地蔵様が、おじいさんにたくさんのおれいを持ってきたのです。
『じいさんの家はどこだ♪』
『笠のおれいをとどけに来たぞ♪』
『じいさんの家はどこだ♪』
『笠のおれいをとどけに来たぞ♪』
歌声と足音はどんどん近づいて、とうとうおじいさんの家の前まで来ると、
ズシーン!
と、何かを置く音がして、そのまま音は消えてしまいました。
おじいさんがそっと戸をあけてみると、おじいさんのあげた笠と手拭いをかぶったお地蔵様の後ろ姿が見えました。
そして家の前には、お正月用のおもちやごちそうが山のように置いてありました。
めでたしめでたし。
■ ■ ■ ■ ■
さて。
『かさじぞう』の〈月打〉は治ったけれど、結局のところこの子たちは一体何者なんだろうか。
一方が『マッチ売りの少女』だってことを考えると、おおよその見当はつくけれど……。
「あの……あなた達は……?」
そんなあたしの声に答えたのは、オレンジパーカーの女の子だった。
「多分、あなた達と超同じです」
「同じ……ってことは、あなた達も」
「ええ、超〈執行者〉です」
やっぱり……それにしても、この子の口癖少し気になるな……。
「まあ、あなた達と『同じ』っていうのは超納得いきませんがね」
え?
「私達がここに駆け付けた時、既にあなた達が超交戦していたので様子を見ていましたが……一体なんですかあの体たらくは」
「ちょ、ちょっと、見てたんなら助けてくださいよ!」
「だから超助けたじゃないですか」
「いや、そ、そうなんだけど……」
「まともに戦うかと思えば、結局きちんと超〈執行〉出来たのは三体目を含めても全部不意打ち。真正面からは超まったく戦えていませんでした」
し、しかたないじゃん! あたし、一昨日までごく普通の女子中学生だったんだから!
「あなた、
「……なんでそんなこと言わなきゃいけなんですか」
「多少なりとも何か超能力があれば、もう少しましな戦い方が超出来ると思ったからですが?」
「……」
「まあ、見ていればだいたいわかりますけど。良くても
「ぅぐっ」
「その反応を見ると、超図星のようですね」
図星だけどさ……っ!
「……それが」
「? 超どうかしましたか?」
「それがどうしたって言うの!?
「まあ……超そうかもしれません」
「はぁ!?」
「
「ちょっと、何言って」
「力もないくせに、誰かのことを助けられるなんて、思い上がりも超いい加減にしてください」
その言葉がなぜかあたしの琴線に触れた。
……何が思い上がりだ。
「誰かを助けたいと思う事に、
「……ふざけンな」
すると、今度はあたしの言葉に彼女がキレた。
「何が『
なんか口調まで変わった!?
「弱い人間は、誰も助けられねェンだよ」
「……?」
なんだろう……こう、彼女が一瞬だけ悲しい顔をしたような、そんな気がした。
「……超取り乱しました。とにかく、
「
「そうですが、それが何か?」
「……」
あたしは、遂に黙り込んでしまった。
「ふざけないでください! 涙子様は、〈執行者〉たるべきお方です!」
「鉢かづきちゃん……」
そんなあたしに、鉢かづきちゃんが助け船を出してくれた。
けれど。
「〈執行者〉たるべきお方って……あたしにはそんな風には超見えませんけど」
「そんなことはありません!」
「そういう事はちゃんと敵を倒してから言ってくれない?」
今度は『マッチ売りの少女』にまで否定された。
「それに何なの、あの〈呑舟〉ともあろうものが、あんな無様な戦い方をして」
「……それは」
「まあ、ここしばらくは〈おとぎばなし〉界全体の〈読者パワァ〉も減って来てるから、『鉢かづき姫』なんてマイナーなお話じゃ〈読者パワァ〉も全然たまらなかったんだろうね」
「ま、まいなー!」
ああ! 鉢かづきちゃんがショックを受けている!
っていうか、〈読者パワァ〉ってなんだ?
「だから、伝説の〈呑舟〉も、これからはあたし達に任せてゆっくり休んでよ、ね?」
「もう行きますよ、マッチ売り」
「あ、待って!」
そう言うと、二人は夜の街へと消えていった。
「「「……」」」
その後には、あたし達の三つの沈黙しか残らなかった。