「ランサー1からランサー各機へ、接敵まで30秒。フォーメーション、アローヘッドワンで前方、BETA群に突撃。第2中隊の撤退を支援する。」
「「「「了解!」」」」
12機の撃震がBETAに向けて突撃した。
1997年
日本帝国陸軍特殊開発試験部隊は朝鮮半島に第3中隊を残し、第1、第2中隊は本土に帰還した。
東京・帝国陸軍朝霞基地司令室
「何故です!まだ仲間が大陸に残ってるんですよ!。」
「大尉、上からの命令だ。私ではどうにもならん。それに解散では無く一時的なものだ。」
男は納得いかなかったが渋々了承した。
「わかりました。」
部屋を出て廊下にいた副官とともに隊室へと向かった。
「黒鉄大尉、司令は何と?」
「上からの命令で“各隊員は衛士訓練学校に行き教鞭を取れ”だそうだ。大陸での戦闘などを訓練生に話し今後の事に役立てろだと。」
「部隊は解散ですか⁉︎」
「いや、短期間の講師みたいなものだ。」
「大尉は何処に?」
「帝都の山百合女子衛士訓練学校だ。」
「………ご愁傷様です。」
京都・山百合女子衛士訓練学校教官室
「本日から講師として配属となった黒鉄 健吾です。よろしくお願いします。」
「真田だ。短い間だがよろしく頼む。」
黒鉄は他の教官にも着任の挨拶をした。
そして真田から
「黒鉄教官、早速で悪いんだが俺が受け持つクラスで講義を行なってくれ。そうだな、題は“戦場について”だ。」
ある教室
「今日着けで教官として着任した黒鉄 健吾だよろしく。ここに来る前は開発試験部隊に所属し、2週間前まで大陸の方で戦っていた。では講義を行う前に君達に質問がある。君達は死ぬ覚悟があるか?」
黒鉄の言葉に教室内にいた生徒達が騒めきだす。
生徒達が近くにいた友人などと話しをしていると黒鉄が話し始めた。
「ここにいる貴官らは卒業後、帝国陸軍では無く帝国斯衛軍の所属となる。斯衛軍は殿下の護衛が任務となり、国外に派遣されることはほぼ無いと言っていい。だが例外は存在し一部の部隊は大陸派遣部隊に同行し共に戦った。まあ、いきなり聞いといてなんだがそれはおいおい考えるとして、では講義を開始する。私は………。」
講義が終わり黒鉄は教官室に戻り一息ついていた。
「(衛士になるまでもう3年と言ったところか。だが奴らは待ってくれないだろうな。」
「黒鉄教官。」
「真田教官、どうしました?」
「最初にしては上出来だ。死ぬ覚悟か、あの場にいた何人に響いたのやら。」
「見た感じ2人です。まだ名前と顔を覚えていないので分かりませんが。」
「明日からうちのクラスの副教官として授業に出てくれ。」
「わかりました。」
教官として着任して2ヶ月がたち、普段と変わらない日々を過ごしていたある日。
「黒鉄教官、お電話です。」
黒鉄は電話を取った。
「葛城かどうした?」
黒鉄の表情が硬くなっていった。黒鉄は静かに受話器を置き真田のところへと向かった。
「真田教官。今、よろしいでしょか?」
「どうしましたか?」
「来月、1月より国連軍、大東亜連合軍の撤退を支援するため日本と統一中華戦線による撤退支援作戦“光州作戦”が発動されます。それに伴い訓練生の任官が早まるとのことです。」
「我々の原隊復帰もか。」
「はい。訓練生の授業内容を全て戦術機操縦訓練にするべきだと思います。」
「黒鉄教官、大陸はどのくらいもつと思う?」
「分かりません。戦場は何が起こるか予想が出来ません。一年持つかもしれないし最悪の場合、作戦が失敗し2月には本土上陸という可能性もあります。」
ここで、教官室のドアが開いた。
「失礼します。篁 唯依、山城 上総は黒鉄教官に用事があってまいりました。」
黒鉄は2人の方へと歩いていった。
「なんだ?」
唯依が話した。
「戦術機の操縦について指南していただきたいのですが。いつも講義言っていることを忘れなければ自ずと身につける。」
「それはわかっているのですが。」
「どうした?」
唯依は周りを見て声を小さくして話した。
「大陸で撤退作戦が始まると聞きました。それで私達の…………。」
黒鉄は驚いた顔して、慌てて言った。
「篁、山城、格納庫に行くぞ。」
格納庫に着き、撃震の戦術機管制ユニットの前まで行った。
「ここなら他の訓練生には聞こえないかな。」
黒鉄は一呼吸おいて、
「篁、さっきのは一体どこから聞いた?」
「えっと……。おじ、じゃなくて陸軍技術廠の巌谷 榮ニ中佐です。」
黒鉄は大きな溜息をついた。
「流石に中佐の事は言えんないな。しょうがない篁、山城、この事は極秘だ。親友だろうと親だろうと絶対に話すな。今回の作戦はどっちに傾くか検討がつかないからな。分かったか?」
「「はい。」」
「ならいい。それで戦術機操縦の指南だったな。放課後、やる気があるなら俺のところに来い。但し、講義のように優しくはしないからな部下と同じように扱う。怒鳴られて泣こうがそんなものは無視する。それを踏まえて今日の放課後まで答えを出せ。」
「いえ、放課後まで待ってくださなくても私はやりますわ。」
上総が言った。そして唯依も答えた。
「私もやります。」
「わかった。なら今日の放課後、1600まで強化服を着て、シミュレーション室まで来るんだ。」
「「はい!」」
それから毎日、放課後になると黒鉄の怒声がシミュレーション室に響き渡った。
「何度言ったら分かる!その高度は光線級の的だぞ!突撃級が来ようが戦車級が飛び掛かってこようが進み続けろ!何の為に両手に突撃砲を持ってる思う!」
「馬鹿か!残弾数を確認しないとは何事だ!そんな事も出来ないで衛士になろうとしてんのか!座学からやり直せ!いや辞めてしまえ!てめえみたいなのが仲間を殺すんだ!」
「泣いている間は襲ってこないと思ったか!操縦桿は何があろうと離すな!離したら死ぬぞ!」
「何だ⁉︎もう疲れたのか!体力が足りねんだよ、体力が!今日から死ぬ度にハイポでグラウンド1周だ!走りきるまで休ませねえからな!」
「今日はこれぐらいにしといてやる。今日のハイポの分は明日走れ!今日はさっさと飯食って風呂入って寝ろ!」
黒鉄はシミュレーション室を後にした。
黒鉄に怒鳴れ、精神的にも体力的にも疲れた2人はシミュレーション室から動けないでいた。
「唯依、動ける?」
「無理。上総は?」
「私も。もう少しこのまま……。」
2人はその場で寝てしまった。
黒鉄は喫煙所に行き懐から煙草を取り出した。煙草を口に咥え火をつけようとしたところ真田が声をかけてきた。
「今日は終わりか?」
「ええ、終わりです。」
「それで2人の出来は?」
「吐かないようにはなりました。まあ吐かないようになっただけで“死の8分“を乗り越えられるかは彼女ら次第ですが。」
「手厳しいな。俺から見た感じ、黒鉄教官が着任した時と比べると全然違うがな。」
「まあ、あの時と比べればマシになった方です。ですが他の訓練生は違う。この訓練学校は他の訓練学校に比べて訓練生一人一人の能力が低い。真田教官や元大陸派遣組の衛士がいるからある程度までの操縦技術を身に付けていますが、もしこれが内地にいる衛士が教官だったらと思うとゾッとしますよ。」
「それは俺も同意見だ。俺も部下とともに初めて着任した日は驚いた。ここは本当に衛士訓練学校なのかとな。全生徒留年だと、言いたかったんだがな上からの圧力が凄くてな。」
「斯衛か。戦場に出た事もない老害じじいどもが。」
「斯衛と一悶着あったのか?」
「自分が所属してる開発部隊は人を集める為に帝国軍からだけでなく斯衛軍の方にも参集を求めたんです。そしたら「お前らに与える衛士は無い」といきなり突っ張られました。」
「国の為にと参集を促したのに自分達の利益の為に断られたてところか。」
「はい。現在、配備が進められている94式不知火は機体性能がある一点に偏い一部の衛士しか使えないのが現状です。それを改良するために…。」
「斯衛にも参集を求め沢山の意見を聞きたかったと。」
「その通りです。まあ今後どうなるか分かりませんが。さて俺は戸締りをしてきますかね、多分ですげどあいつらそのまま寝てると思うので。」
「ほどほどにしとけよ。あんまり言い過ぎると嫌われるぞ。」
「自分の見解ですが教官ていうのはある程度、嫌われたほうがいいんですよ。」
黒鉄はそう言って喫煙所を後にした。
その後、戸締りに戻ってきた黒鉄からまた怒声を浴び、唯依と上総はやっとの思いで自室に戻って行った。
1998年4月
「黒鉄教官、陸軍開発廠からお電話です。」
「巌谷中佐どうされましたか?……………分かりました。明日までに原隊に復帰します。」
黒鉄は電話を置き、校内放送をかけた。
「篁 唯依、山城 上総、至急、教官室までくるよう。繰り返す、…………。
数分後、唯依と上総が黒鉄のところへ来た。
「すまんが先程、原隊に復帰せよとの命令が下った。本来ならば任官まで訓練に付き合ってあげたいところだが命令が出てしまったんでな、ここまでだ。あとは俺から言われたことや真田教官達から言われたことを忘れずに頭に入れとけ、そうすれば実戦でもまず死ぬ事は無いだろう。」
「黒鉄教官。ご指導の事、今までありがとうございました。これからも上達するよう励んでまいります。」
唯依が言った。その後、2人で黒鉄に対して敬礼を行った。黒鉄も返礼し唯依と上総が去った後、帰る準備を進めた。
「原隊復帰だそうだな。」
「真田教官、大陸は逼迫しています。今、落ちても不思議じゃ無いほどに。後の事は頼みます。」
「任せておけ。」
「では失礼します。」
その後、2人が再会したのは戦場だった。