彼女たちのコズミック・イラ   作:Scorcher

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『Wings of Words』をガンダムのOPらしくないと思う一方で、『vestige -ヴェスティージ-』も大概OPっぽくない曲だと思ったりしちゃうんですよね。元々挿入歌ですので。

次回からは第一部のエンディングパートです。


Phase16:傷跡

C.E.58:コロニー・メンデル

 

研究室に銃声が響き渡った直後、アウラの指が引き金に掛かっていた銃から放たれた弾丸が、クライン博士の腹部を貫通していた。

 

「クライン博士っ!」

 

床へと倒れ込んだ博士のもとに急ぎ駆け寄るギル。その傍らでは、呆然とした様子のアウラが銃を握ったまま崩れ落ちていた。

 

「あっ、あぁぁっ……ウソ、でしょ……わたし、そんな……こんなこと……こんなの……!」

 

涙声となりながら、自身の所業が招いた結果に恐れ戦くアウラ。そんな彼女に尻目に、ギルはクライン博士の身体を仰向けにして、応急処置を試みる。

 

「博士、しっかりしてください!すぐに医療スタッフを呼んで手術をさせますから。」

「え、ええ……ありがとう、ギル。でも、もういいわ。私も医者だから、自分がどうなるくらい……分かっているの。」

 

顔色は瞬く間に青くなり、見るからに生命力が喪失していることを表していた。そして何よりも、仰向けとなった彼女の床に面した背中からは、なおも大量の鮮血が流れているのであった。

 

「違うの……!わたし、こんな……本当はこんなことをするつもりなんて……!」

「何をしているんだアウラ!早く止血をしないと……!このままだと本当にクライン博士は……!」

 

ようやくアウラは銃を床に置き、意識が混濁し始めたクライン博士と顔を合わせる。そうして博士と顔を合わせる彼女の目からは、大粒の涙が止めどなく零れているのであった。

 

「アウラ……わたし、あなたに謝っておかないといけないことがあるの。」

「な、何よ……こんな時に、何を言うつもりなのよ……!?」

 

銃を離した手でクライン博士の手を握り締めるアウラ。そうして握り締めた彼女の手は冷たく、既に生気を感じられなくなっていた。

 

「わたし……知ってたの。あなたの気持ち、想いを……ずっと……ずっと前から……」

「えっ……?」

 

クライン博士からされた突然の告白にアウラは唖然とする。彼女は狼狽えた様子を見せながらも、声を震わせて博士に対して問う。

 

「な、何よ……私の気持ちって。そ、そんなの……私、何も……!」

「わたしとあなたの仲なんだから、気付かないわけがないでしょ……?そんなにわたしが、鈍い女だと思っていたの……うぅっ……ごほっ、ごほぉっ!」

「ダメだ博士!もうこれ以上は喋らないでくれ!」

 

声を上げるだけでも身体には障り、口からも鮮血を吐いてしまうクライン博士。既に辺り一面は血の海と化し、彼女を支えていたアウラとギルも血に塗れていた。

 

「でも、わたしは……あなたから、あなたの口から聞きたかった。あなたの想いを、わたしのことを想ってくれた……あなたの言葉で……!」

「ウソ……ウソよ……!だって、わたし……そんなこと言ったら、あなたに嫌われちゃうって……絶対におかしいって思われるって……!」

 

クライン博士は全てを理解していた。アウラが自らを抱いていた心を、胸の内を。同性でありながらも、自身に思いを寄せていたアウラの恋心を察していたのであった。

 

「ふっ……ふふっ!そんな悲しそうな顔をしないで。わたしがあなたことを、嫌いになるわけないでしょ。だって、あなたはどんなわたしのことだって、好きでいてくれたんだから……」

 

閉じようとする目を懸命に開きながら、笑みを浮かべて言葉を紡ぐ博士。そうした彼女の言葉を理解出来ずに呆然としていたギルに、博士は顔を向けることなく声を上げる。

 

「ギル……アウラをお願いするわ。彼女は……とても優秀な子だから。あなたが傍にいれば、きっと……大丈夫だから。」

「博士……僕は……僕はっ……!」

「ダメ……よ。おとこのこが……そんな声を上げちゃ。アウラを支える、強い子にならないと……」

 

アウラと同じく涙を零すギルに、博士は男らしさを求める。自らに恋心を抱いていた少年が、より逞しく育つことを願っていた。

 

「アウ……ラ。ラクスのことは……本当に、許してちょうだい。あの子に……自由を与えようしたのは、わたしの勝手なんだから……」

「いい……もういいわよ!ラクスはあなたの娘なんだから……あなたの好きにしていいから!だからお願い……お願いだから……ねぇっ!」

「ふふっ……やっぱり、アウラは……わたしのお願いを、ちゃんと聞いてくれるのね。こんなワガママなわたしのことを……なん……でも……」

 

声が消え始め、開き続けようする瞼が静かに降りようする。アウラはそんな博士の身体を抱き締め、顔を近付けて言葉を告げようする。

 

「ええ……そうよ。あなたのお願いならなんでも聞くわっ!だって、わたしは……あなたのことを……あなたのことが……」

 

その言葉続きをアウラが言おうとする前に、クライン博士の全身から力が抜ける。そして、開くことを諦めた瞼が閉じて、アウラの握り締めていた手が自然と落ちていくのであった。

 

「は、博士……?」

「博士……?クライン博士っ!?」

 

アウラが問い掛けても、ギルが問い掛けても、クライン博士が反応を示すことはなかった。だが、それでもアウラは声が枯れるまで幾度となく彼女は名を呼び続けた。

 

「―――!!!!―――!!!!」

 

しかし、安らかな表情を浮かべる彼女が、その名前を叫ぶ声に応じることは二度となく、研究室にはアウラの声だけが響き続けるのであった。

 

「いやぁっ……いやっ、嫌ぁっ……!わたしこんなの……こんなのなんてぇっ……!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

C.E.61:コロニー・メンデル

 

そして、アウラとギルが2人だけとなった研究室に、あの日と同じような甲高く狂い果てた悲鳴が響き渡るのであった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

耳を激しく劈くような、枯れ果てた喉からさらに絞り出すように放たれる悲鳴。絶望と狂気、おおよそ生きた人間が出せるとは思えないような悲鳴を、アウラは壊れた表情で響かせていた。

 

「あぁっ……あぁぁぁ……いや、いやぁっ!いやぁぁぁぁぁ……!!!!!」

「アウラ……!ごめん、さすがに僕も言いすぎたかも……!」

 

心を失ったかのように頭を抱え、ギルを見ることもなく悲鳴を上げ続けるアウラ。幼い彼女の悲鳴はより甲高く、子供の泣き叫ぶ声をより狂わせたような声音であった。

 

「あぁっ……あぁぁっ……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!!!!!そうよっ!わたしよっ!わたしがぜんぶおかしいのよっ!わたしってぜんぶおかしいのよっ!」

 

精神が破綻したかの如く、謝罪の言葉と自らを責める言葉を繰り返すアウラ。これが彼女、クライン博士が死んでからの彼女にある、本来の心を現した姿であった。

 

「あ、アウラ……?」

「違う?間違ってる?いいえ、そうよ!全部違っているのよ!あなたもわたしも全部間違っているのよ!ここに正しい答えなんてあるわけないでしょ!?」

 

アウラの支離滅裂な言動に言葉を失うギル。彼はその姿に恐怖を感じながらも、意を決しながら近付き声を上げる。

 

「アウラ……頼む、少しだ。少しでいいから落ち着いてくれ。僕が言いすぎたのは謝る、本当にすまなかった。」

「えぇ?ああ……ギル、帰ってきたのね。遅かったじゃない。いま“博士”と一緒にデスティニープランの詰めの準備をしていたのよ。」

 

突如としてギルと会話をしようとするアウラ。しかし、彼女は既にいないクライン博士と思わしき人物を交えながら話を進ませようとしていた。

 

「ふふっ……!もう少しで、私たちの計画が完成する。ザラ委員はいつ帰ってくるのかしら。あなたの夫のシーゲルだけじゃ、ちょっと頼りないものね。」

 

アウラの目には何が映っているのか。幼い少女の姿をした彼女の瞳には、想い人と共に未来を歩む希望の光が満ちているのであった。

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