転生して無能貴族に!? 赤子で捨てられ美少女悪魔に拾われるも超絶過保護だった件〜気づけば悪の道に、そして魔族の王って正気ですか? 俺が望むスローライフはまだ遠いようです〜 作:冬ノゆきね
武術大会も無事終わり、さんざんな出来事だらけの忙しい学園生活だったが、とうとう明日からは待ちに待った長期休暇。
この世界には春夏秋冬といった概念はないらしく、国や学園の事情で長期休暇の時期が決められる。
まあ、長期休暇というが、せいぜい長くて二週間程度の休みしか与えられない。
それに国に甚大なる被害――例えばそうだな。
自然災害や日に日に緊張感が高まっている隣国との争いなどが起きた場合は、すぐさま学生であろうと関係なく国から召集される。
しかし、俺は学園に通っているだけで、この国に籍を置いていない。
だから気にすることもなかったはず、なんだが……これは一体どういうことだ。
「ごっめ~ん、お姉ちゃんに不備があったみたい」
「嘘だ……冗談だろ? 姉ちゃん冗談って言ってくれ!」
「…………」
「なぜ何も言わない!」
てっきり魔国に籍がある、そんな余裕ぶってた俺ですが、このたび姉ちゃんの不備によりアルズレーン王国に籍を置くことになりました。
はい、俺の人生早くも終了予定です。
*
そんなおぞましい事件のきっかけとなったのは、二日前のことだった。
見事、武術大会に華を飾った俺と姉ちゃん。
学園長にも挨拶に行き、その日は、俺と姉ちゃんで大はしゃぎ。
大通りの屋台では武術大会で得た賞金を片手に食べ歩き、前々から興味があった女性とイチャイチャできるそういうお店にも姉ちゃん同伴で顔を出した。
もちろん追い出されたけど。
てな感じで、金貨を片手にぶいぶい言わしてた俺と姉ちゃんだったが……ある人物のみすぼらしい姿を見かけ勝利の酔いは一気に醒めた。
その光景というのが、学園の元生徒会長であり、オブリージュ家の長女――ユリアナ・オブリージュが鉄格子付き馬車でどこかに運ばれている姿だ。
初めて顔を合わした時の威厳や清楚さはもう残っていない。ガリガリに痩せ細り、綺麗だった髪はくしゃくしゃ。塞ぎこみ、外を見ようともしない。
もうユリアナの目には光が宿っていない様子だった。
一日の出来事から起こった転落人生。
学園長から話は聞いてたが、さすがにここまで酷いとは思わなかった。
「姉ちゃん、あれ本人だよな?」
「うん……。
「まあ、人によると思うけど。相応の責任を取らされたって感じか」
「ふーん、やっぱり醜い生き物ね。
姉ちゃんの言葉に反論する余地はなかった。
実際、あんな光景を見てしまえば、そう感じるのも当然だと思ったからだ。
「おっちゃん。止まってくれ」
「チッ、ガキかよ。おまんみたいなガキに用はない。とっとと帰れ、シッシッ」
「話くらいよくないか? だってそこの女性――例の学園の生徒会長さんだろ?」
「な、なぜおまんが!」
「ああ、俺その学園の生徒なんだわ」
「それで何のようだ」
「その生徒会長さんを解放、してくれたら嬉しいけど。おっちゃんも商売だと思うし、この姉ちゃんと引き換えってどうかな?」
俺は目で姉ちゃんに合図を送る。
これで何となく察してくれるはずだ。
姉ちゃんは頷いたあと、おっちゃんに胸の谷間をチラチラと見せる。誘惑のつもりだろうか。
ほんとはしたない。俺の姉ちゃんは。
「姉ちゃんなんてもういらない。俺はその奴隷が欲しいんだ。ということで、おっちゃん。金じゃなくて交換ってどうかな?」
「ちょ、ネオ君何を言ってるの!? お姉ちゃんネオ君以外に触れられるのは――」
「いいぞ、いやぁ~これは上玉だ。儲けさせてもらうぜ。お姉ちゃんさん。ヒヒヒッ」
おっちゃんは条件通り鉄格子の鍵を開け、ユリアナの腕を乱暴に掴み引っ張り降ろした。
「おい、奴隷。これからはこの坊主がご主人様だ。よかったな。せいぜい身体を差し出しな。お前にはそのくらいしか取り柄がねぇんだから」
「……はい、わたくし何でもさせていただきます」
「さて、じゃあお姉ちゃんさんは鉄格子に入って――」
しかし姉ちゃんの姿が見えない。
もしかして逃げ出したか? いや、まさかそんなことしたら俺の作戦が水の泡になってしまう。
徹底的にこういう商売をするやつを潰すつもりでいるのに、と思っていたが、よく見るととっくの前に姉ちゃんは鉄格子の中に入っていた。
笑顔なだけあって楽しんでいるようにも見える。
「ネオ君……さようなら。お姉ちゃんは奴隷にされちゃって穢らしい男からあんなことやこんなこと――」
「おっちゃん連れて行っていいぞ」
「お、おう。坊主いい取引ができたな。またよろしく頼むよ」
おっちゃんは馬車の手綱を握って発進させた。
姉ちゃんは鉄格子に入れられながらも、ところ構わず大声を上げている。
「ネオく~ん! お姉ちゃんを捨てないで! 他の女ができたからってお姉ちゃんを売るなんて~!」
演技は素晴らしい。
けど、その演技がリアル過ぎて、さっきからすれ違う人達に冷たい目で見られるのはキツイ。
どう考えたってクズ男がするようなことだから当然か。
もうちょっと他の方法を考えた方がよかったかもしれない。
でも、あの場で思いつくのはこの作戦しかなかったわけで。
まあ、ユリアナを救い出せただけ一応自分の中での目的は達成できたわけだし、あとのことについてはついでって感じだ。
最後までやり切るのが俺のポリシーみたいなもんだからな。
だがこの状態のユリアナを連れて行くのはさすがに無理がある。
「会長、歩けますか?」
ユリアナは静かに頷いた。
でもあまり無理はさせられない。
少し時間はかかるかもしれないが、ゆっくりと歩いてあの場所に向かうしかない。
それまで姉ちゃんには我慢してもらおう。
「じゃあ行きましょう」
俺はユリアナの手を優しく握る。
一度顔を上げたものの、すぐにまた下を向いてしまう。
それほど辛い経験をしてきたのだろう。
ゆっくりと歩いていると、俺とユリアナは竹林の中に足を踏み入れた。