転生して無能貴族に!? 赤子で捨てられ美少女悪魔に拾われるも超絶過保護だった件〜気づけば悪の道に、そして魔族の王って正気ですか? 俺が望むスローライフはまだ遠いようです〜   作:冬ノゆきね

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32話 入国

 どうやらこの先では検問を行っているようだ。

 片手に槍を持つ軽装をした兵が身分証の提示とボディーチェックで念入りに確認している。

 何の荷物も持たない親子、物資を運んだ商人、ラフな格好をした冒険者? らしい人物も含めて全員だ。

 ということは、俺や姉ちゃん、ユリアナもその対象、そう思っていた。

 

 しかしすんなりと入国できてしまった。

 何かを提示したわけでもなければ、説明したわけでもない。

 兵士は俺の顔をまじまじと見ていたが、どういった意図があったのかはわからない。でも手に持っていた紙を見ながらだったから、おそらく俺の顔と似顔絵を照らし合わせていた?

 でも何のために?

 

「ネオどういうこと?」

 

 と、ユリアナは俺に聞いてくるが、俺自身も何が起きたか理解していない。

 姉ちゃんも首を傾げているあたり、何も知らない様子だ。だいたいこういう時は姉ちゃんが絡んでるから、てっきり今回もそうだと思ったんだが……。

 

「いや、俺にもわからん」

「お姉ちゃんも知らない」

「だったら――」

 

 その時、一人の男が俺に話しかけてきた。

 

「君がネオか?」

 

 フードで顔を隠している不気味な男。

 なぜ、男だとわかるのか。

 それはどう見ても肩幅が広いのと、男の声そのものだからだ。でも中性よりなんだよな声が。

 男としては細い手足に褐色の肌、空に似た青くて短い髪、女と間違ってもおかしくはないだろう。

 

「ああ、俺がネオだが何の用だ」

「僕はケント。お姉さんを探しにここにきたのか?」

「なぜ、俺のプライベートな事情を知っている?」

「質問してるのは僕。君は答えるだけでいい」

 

 今だからわかる。

 このケントという男から漏れ出る殺気は何だ。

 一歩でも動くと、間違いなく襲われる。

 しかしここで縮こまっていても、相手の思う壺だ。

 だから堂々して、後ろでは姉ちゃんとユリアナが目を光らしてくれているはずだ。心配しなくてもいい。

 自分にそう言い聞かせてはいるが、めっちゃ怖いんですけど~!

 マジで刺されたりは勘弁して欲しい。

 すぐに治るとはいえ、痛いものは痛いからな。

 

「はいはい、どこの情報かは知りませんが確かに実姉を探しにきただけですよ~だ」

「殺されたいのか?」

「ほんと物騒なやつだな」

 

 その一言でケントの堪忍袋は切れたらしく、腰に付けた短剣を抜いては構えた。

 素人ながらでもわかる、隙がない。

 しかしこんな街なかで《殲滅剣(せんめつけん)オーバーウェルム》を出すのも少々抵抗がある。というより、絶対に出してはいけない。

 俺が魔王の器だと証明しているようなもんだし、さらには問題を起こしたからと学園を退学になるのは勘弁だ。それこそ親不孝、いや姉不孝というやつだ。

 

「君の力は知っている。アルズレーンで開催された武術大会優勝者。そしてそこの女が奴隷だということも」

 

 やっぱり姉ちゃんは奴隷として見られるのか。

 どうせ一から説明しても、話を聞いてくれないんだよな、この世界の連中は。

 今ある固定概念を他人に押し付け、自分の言ってること、想像してることはすべて正しいのだと言い張る。それに仮に姉ちゃんが俺の奴隷ならばなぜこんなにも清楚で奥深いエロスを漂わせる格好ができている?

 ユリアナだってそうだ。あんな小汚い格好をしていたのに、俺が主人となりそこらの平民とあまり変わらない格好をしている。おまけに普通に話すことを許している。まあ、本来なら俺が彼女に敬語を使わないといけないんだが――今は立場が逆になったからお互いドロー。

 しかしそんな二人を見ても何の疑問も浮かばないこの世界の人々は概念というデーターを与えられたに過ぎない自動人形と同じというわけだ。

 

「お姉ちゃん、ネオ君の奴隷じゃないんだけど」

「ええ、私もネオの奴隷ではなく、今は友人としてここにいる」

「みんな~俺のためにそこまで。泣けてくるな」

 

 姉ちゃんとユリアナの言葉に感動していると、ケントはまた茶々を入れるように喜ばしい雰囲気を台無しにしてくれた。

  

「操られている、とは。卑怯な奴め」

 

 ここで俺は一言、言いたい。

 マジでふざけんなよボケナスが、と。

 でも本当に言ってしまうと、色々と問題になるので心の中で押し殺した。

 この状況をさらに悪化させてしまう可能性もあるからだ。

 

「もう……お姉ちゃんキレそうなんだけど」

「私も同意見」

「殺しちゃっていいよね? 魂を喰うことぐらい簡単だしね」

 

 後ろで聞こえるえげつない会話。

 みんなそろそろ我慢の限界といったところか。

 あ、いいこと思いついた。

 ここは姉ちゃんに任せて、俺とユリアナはさっさとこの場から立ち去ろう。だったら何の問題も起きない。起きたことすらない状況になる。だって姉ちゃんが処分するだろうし。

 いや、ダメだ。これじゃそこらの貴族と同じだ。

 一瞬、そういう考えに至ったこと自体に俺は驚きを隠しきれない。

 やっぱり……関係しているのだろうか?

 この殲滅剣(せんめつけん)もそうだが、いざ戦いになっても以前みたいに怯えることはもうないだろう。

 それは確信を持って言える。

 力を得て余裕ぶってるのか、殲滅剣(せんめつけん)に宿る始祖の魔王の影響なのかはわからない。

 正直、どっちかと言えば後者であって欲しい。

 そう願うばかりだ。俺はこの世界でイキり主人公みたいになりたくないからな。

 

「よし……逃げろおおおお!!」

 

 俺たちは全力疾走でその場から走り去った。

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