転生して無能貴族に!? 赤子で捨てられ美少女悪魔に拾われるも超絶過保護だった件〜気づけば悪の道に、そして魔族の王って正気ですか? 俺が望むスローライフはまだ遠いようです〜 作:冬ノゆきね
動揺した信仰者達をよそにケントはサラの喉元に鞭を打ちつけた。
サラの「ぎゃあああ!!」といった痛みを訴えかける悲鳴。
その光景を見てケントは満足そうな笑みを浮かべる。
「泣け! 泣け! 泣き叫べ!!」
「……い、いや痛い……いやあああ!!」
襲撃された時にも感じたが、こいつ只者ではなさそうだ。こいつも名前からして転移者――勇者なのかもしれない。
しかしいかにも強者らしい風格を懸命に見せようと努力しているみたいだが、あれは単に少し強いやつが弱いやつをいたぶっているだけの話だ。
けども、ここで黙って見てられないのが俺の性分。
「姉ちゃん、ユリアナ」
「ネオ君、お姉ちゃんが援護する」
「私も」
「ああ、頼む」
俺は片手を天に掲げた。
目の前には次元の狭間が現れ、そこに勢いよく手を入れる。そして引き抜いたのは、“殲滅剣オーバーウェルム”。禍々しい色は相変わらずのようだ。
でもこれを創造したのが、姉ちゃんだったのはさすがに予想外だった。
まさかと思うけど、まだ隠し事があるんじゃ?
いやいや、今はそんなことよりあいつの相手が先だ。
「おっと変な空気を感じると思ったらいたんだ。で、それがヤクモを
「さて、どうだか……」
「勿体振って、後悔するよ。悪いけど君は殺されるんだ。この僕にね」
「はいはい、そういうセリフもう聞き飽きたよ」
俺は殲滅剣を上段に構え振り下ろす。
斬撃波が真っ直ぐとケント目掛けて飛んでいく。突風を起こり、地面を裂いては戦意喪失した信仰者をも巻き込む。
俺と姉ちゃん、そしてユリアナに牙を剥いたやつは徹底的に潰す。それにあのケントってやつにはセレシアのことを聞き出せないといけないからな。
「へぇ~なかなかの威力だね。でも、残念だな。この程度だなんて」
ケントは鞭一つで斬撃波を消し去った。
あの威力のものを簡単に消し去るとは、さすがは転移者って感じだな。ヤクモと同じく特殊なスキルを所持しているのか、それともあの変わった鞭のおかげか。
「ボーっとしてていいのかな。とっくに僕は後ろに――」
「ああ、気づいてるさ」
殲滅剣を床に突き刺すと“
上手く捌いているように見えるが、実際は手足を含めて数カ所に傷を負っている。トドメに背中から突き刺すつもりだったが、やっぱり武術大会のようにはいかないみたいだ。
まあ、そりゃ対策はするわな。
同じ転移者のヤクモがああも情けなく
「はぁはぁ……やっぱりすごいよ。これならヤクモが殺されたのも納得だよ」
「それはどうも」
「君は気づいてるだろうけど、僕は転移者だ。この教団の奴等が信仰するちっぽけな女神ではなく、本当の神に力を授かった。この世界を救えと」
「だって姉ちゃん。神っているんだな」
「みたいね、感慨深いわ~。でも大天使がいるぐらいだもの、その主がいて当然かも!」
「おお、確かにそれはそうだな。アハハハッ」
呑気に話している余裕がある。
正直、相手はその程度のやつだということだ。
これならまだヤクモの方が厄介だったかもしれない。だって大蛇を召喚しては操り、さんざん好き放題に試合を運んでくれたからな。
まあ、あの時は状況だけに俺に戦う力なんて皆無だったっていうのもあるけど。
「君達、僕をバカにしているの?」
「あ、ごめんごめん。えっと力が何だって?」
「全員僕をバカにして。許さない、許さない君達もアイツらも全員殺してやる!!」
「ネオ煽りすぎよ! 気をつけて!」
確かにユリアナの言う通り煽りすぎたかも。
ここは反省するべき点だ。
もう相手も怒っちゃって話すらできない状態になってるし。
今までの姿とは打って変わり、見事なまでに人間を辞めた姿に変貌していた。
女性のように細かった手足は肥大化し青白く変色している。顔面は溶け潰れダラダラした液体床に流れ落ちる。しかし厄介なことにその液体は酸性のようで落ちるたびにジューっと音を立て床を溶かす。
俗にいう元の原型を保っていないとはこのことだ。
「哀れな姿になったな」
「君達を
ケントは肥大化した腕を大きく振り下ろした。
さすがにこれを真っ向から受けるのは、少々無理があるか。
そう思った俺はユリアナに指示を出した。
「ユリアナ!」
「ええ、光の精霊よ
ユリアナは俺と姉ちゃんの前に障壁を展開した。
肥大化した腕の力と圧力が強く乗しかかる。
際どい表情を浮かべるユリアナ。
何とか耐えてはいる状況だが、いつ破られるか……。
「ここからよ!」
障壁は何度が点滅し、肥大化した腕を大きく弾き飛ばした。その反動で化物ケントは背中から転倒する。
今だ、今しかない。
俺は殲滅剣に黒き炎を付与する。どんな物でも焼き尽くすこの炎は地獄の業火とも呼ばれている。肉体はもちろん魂ごと葬る。
「
目にも止まらない剣戟で何度も何度も化物ケントを斬り裂いた。その勢いに燃え盛る炎は天井にまで広がりを見せる。
「ぐぎゃああああ! まだだ、まだ終わらない……君達を殺すまでは!!」
化物ケントの再生力はおぞましい物だった。
斬っても斬っても再生する肉体に俺の剣戟は通用しない。というより、この再生速度に俺の剣戟が間に合わないのだ。
「許さない、僕をこんな……醜い身体に――」
「はぁはぁまだやるつもりか……」
「僕は負けてない、君達を殺すまでは死ねない。それになぜ転生者の君が僕達と敵対する……わからない、なぜ」
「決して敵対しているわけじゃない。たまたまそういう状況になっているだけの話だ」
「そのたまたまを疑問に思わないのか……? 神はなぜ僕達をこの世界に転移させた?」
「いや、俺に聞かれてもな。そもそも本当に神はいるのかすら怪しいんだが」
「そう思うのも無理はない……けどこれだけは君に伝えたい。この世界を破滅に導く者を討つために僕達は神に転移させられた……だから本当の敵は僕達ではなく――」
俺の背後で聞こえたパチンッと指を鳴らす音。
それと同時に化物ケントは一瞬で灰と化した。