転生して無能貴族に!? 赤子で捨てられ美少女悪魔に拾われるも超絶過保護だった件〜気づけば悪の道に、そして魔族の王って正気ですか? 俺が望むスローライフはまだ遠いようです〜 作:冬ノゆきね
しばらく皆の注目を浴びながら、通りを進んでいると一台の馬車が俺の姉ちゃんの前に停まる。窓から顔を出したのは、いやそんなまさかとも思ったが学園長本人だった。
でも、何でここに? と質問しようとも思ったが、やっぱりやめた。だって愚問にもほどがあるからだ。
少し考えればわかる。アズルレーン王国があんな事態になればそりゃ学園長も安全地を求めて、この魔国に帰ってくることぐらい普通の感覚だ。
人間だってそうだ。もし身近な場所で災害や戦争が起きれば、人間の本能として安全地に避難することを最優先に考える。それは悪魔も同じなんだろう。
「早く乗りなさい。リリス、それにネオも」
「お、おう……」
そんな学園長の誘いに俺と姉ちゃんは馬車に乗り込んだ。前に馬車に乗ったけど、あのエロ爺の時だ。
比べ物にならないほど内装は綺麗で、もちろん外装もだけど。赤と黒を基調とした色合いは勝手なイメージではあるが、実に悪魔っぽい。
さらには豪勢なことに一枚一枚小包に入った焼菓子や少し粘度のある水も備え付けられている。
こんな粘度がある水誰が飲むかって言ってしまえばそれまでだが、まあ実際ポーションとかも飲むと粘度があったりしたからそういった類の飲み物なのかもしれない。
「さて、リリスがここに帰ってきた……その理由を聞かせてもらえる? おまけに魔王の器とはいえネオまで連れてくるなんて。一体、どういう契約を?」
「もうそんなに聞かれるとお姉ちゃん困っちゃうよ~」
「姉ちゃん正直に話してくれ。俺に対してやったあの詐欺まがいな契約の話を」
「え! 何でネオ君まで敵に回っちゃうの!」
「俺は知らん。契約内容も伝えず、さらには脅して半ば強制的に。ああ、俺は悲しいな」
「どういうことかしら? リリス」
学園長の表情が曇り始めた。
さらには馬車の中だというのに立ち上がり、勢いよくリリスに迫る。
「まさかとは思うけど、一生に一度の契約を――」
「結んだよ、だって今までずっと長い間生きてきてここまで愛せた人は……あの人以外にネオ君だけだもん」
「何が『だもん』よ。はぁ……その契約内容は?」
「………………」
「何を黙ってるの? きちんと答えなさい」
しかし姉ちゃんは口を開くことなく首を横に振るだけ。その違和感というのか、予感がしたのかわからないが学園長は黙り込んだまま、重い腰を降ろした。
それから馬車の中では沈黙が続き、決して誰も口を開くことはなかった。
「ヒヒーン!」
そんな馬の鳴き声とともに揺れがなくなった馬車。
どうやら目的地に到着したらしい。
扉を開け、外に出ると我が国と言わんばかりの城が堂々と佇んでいた。ここが王城というやつか、と少しばかり興奮を覚えた俺は門前の上がった橋まで走った。
姉ちゃんはそんな俺の様子を見てクスクスと笑っている。何がおかしいのかわからないけど、笑顔でいてくれるならそれはそれでいい。
ゆっくりと橋の元まできた学園長は首から下げたネックレスを取り出した。
「第一王女リリス、新たな魔王様がお戻りよ。今すぐ開門を」
ガタガタと音を立てゆっくりと下りてくる巨大な橋。
およそ馬車が五台同時に通れるほどの幅がある。
そして下りた橋を渡ると、次は鉄製の門が何人かの掛け声と同時にゆっくりと開いた。中に入ると胸当てに兜を身に着けた尻尾の生えた魔族がいた。
どうやら彼らがこの門を開閉しているようだ。
陽の光が眩しくて上を見ると、そこにも同じような格好した魔族がいた。彼らを見るに橋を上げ下げしているようだ。現に鎖を握って必死に橋を上げている。
こう考えると魔族の腕力はやっぱ化け物並だな。
人間では何十人が揃ってやっとだろうが、彼らはせいぜい六人ほどでそれを成し得ている。
これは思った以上に期待ができるかもしれない。
「では城に入りましょう」
どうやら学園長が案内をしてくれるみたいだ。
はい、早速城の中に入ったわけだけど、もう勘弁して欲しい。やたらと侍女は「あの方が魔王様!」なんてことずっと言ってるし、「きゃあ! 魔王様可愛い!」なんてことも言ってたりする。
俺は可愛いより、カッコいいと言われたいんだ!
男としての可愛いは正直へこんでしまう。
他の人がどう思おうが、俺はへこんでしまうのだ。
「まずはこの広場。ここは玉座の間――ネオあなたが魔王となったその時から本格的に使用することになる広間」
広々とした空間の奥にはポツンと一席設けられている。いかにも王が座りそうな装飾をされた椅子だが、あんなのに座ることになるのか?
絶対にイヤだ、もう明らかに責任重大案件じゃないか。
「ここで商人や魔国の重臣と謁見をするのよ。主にはそうね……民の暮らしをよりよくするための進言を聞く場、と思っていたら問題ないわ」
「へ、へぇ~」
ほんとに勘弁して、そう叫びたい。
だって俺みたいな知識も何もない素人が政治に関わってみろ。ろくでもないことになるだけだ。