クワイエット・ゼロ戦記   作:カラテマ

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14 攻略戦2

20機目のガンドノードを破壊した直後、シュバルゼッテのコックピットに警報が鳴った。

後部座席のラウダが大声で告げる。

「パーメットパターン検出! エアリアルだよ兄さん!」

瞬間、グエルはモニターに目を転じるより早く操縦レバーを倒した。シュバルゼッテが急減速し、すぐさま左にカーブを描く。直後、機体の近くを複数のビームが掠めた。そのまま直進していれば直撃を喰らっていたところだ。この複数方向からの同時攻撃は、まぎれもなく――

「エスカッシャン……!」

幾度もジェタークを苦しめてきた遠隔操作兵器。機体を急加速させながらグエルがモニターを確認すると、11機のエスカッシャンは散開し、上から包み込むようにこちらに迫ってくる。

「ラウダ!」

「わかってる!」

即座にラウダは、ドロウ形態への移行をシュバルゼッテに命じた。ビームライフルとして機能していた大剣が6つのパーツに分離して機体の各部に接続され、全身を包み込むように電磁バリアを展開する。

この形態のシュバルゼッテはビームへの防御力が格段に高まるが、反面、攻撃能力は大きく損なわれる。だがそれで構わなかった。グエルは機体の軌道に不規則性を織り交ぜつつ、エスカッシャンからの逃げに徹する。

「……ちいっ!」

複数のビームがシュバルゼッテの至近を掠め、うち2発は電磁バリアによってかろうじて弾かれる。軌道が読まれ始めたことを悟ったグエルは、素早くカウンターを当てて進路を修正した。

パーメットリンクのない今のシュバルゼッテでは、四方八方から浴びせられるエスカッシャンのビームを細かな機動で躱すことは不可能だ。ランダムに進行方向をずらすことで相手の予測を外しつつ、あとはバリアの効力を信じてひたすら逃げ回るしかない。

 

『情けないね。そんなできそこないのモビルスーツで戦場に出てくるからだよ、グエル・ジェターク』

 

唐突にコックピット内に通信が届き、グエルは目を見開く。

スレッタによく似た、しかしどこか酷薄な響きの声。

思い当たる人物は一人しかいない。

「エアリアル……いや、エリクト・サマヤか!?」

肉体を失い、生体コードをエアリアルに転写されたという少女。データストーム領域内でのみ自由に活動できるスレッタの姉。その存在についてはスレッタやエラン・ケレスの影武者から聞いてはいたが、実際に声を聞くのは初めてだ。

どこかスレッタに似た幼い声は、しかしスレッタには似ても似つかぬ憎たらしい口調で、グエルを挑発するようなセリフを連ねる。

『逃げ回ってばかりなの? 君は僕に負けてばかりだったから無理もないけど、男の子なら少しは反撃しなよ。みっともないと思わないの?』

「こいつ……っ!」

「放っとけラウダ! 機体のモニタリングを頼む!」

声に気を取られた弟を制止し、兄は回避に集中する。

実際、エリクトに構っている暇などない。これは決闘ではなく実戦だ。ビームの直撃を受ければ自分も弟も死ぬ。それどころか作戦全体が瓦解し、大勢の大切な人たちを命の危機に晒すことになる。

プラント・クエタでパニックに陥りながら逃げ惑っていたときとは違う。四方八方から迫りくる死の恐怖を強固な意志で無視し、グエルはシュバルゼッテに逃亡を命じ続ける。

目的地は最初から定まっている。データストーム空間境界面のすぐ外、第二射が突入してきた一角だ。ランダムなジグザグ軌道を描きつつ、グエルは着実にその場所との距離を縮めていく。……が。

「ぐっ!?」

エスカッシャンのビームの一発が直撃し、電磁バリアを破って機体の背中に着弾する。コックピットが大きく揺れ動いた。

やられたか!? グエルが動揺した直後、背後から冷静な声が響く。

「ガーディアンの接続部損傷。背面のフライトユニットにはダメージなし。問題ないよ兄さん」

「よし!」

ラウダのダメージ読み上げに冷静さを取り戻したグエルは、シュバルゼッテの軌道にさらに不規則性を加える。

もはやアクロバットとしか形容しようのない操縦を続けながら、彼の瞳に宿る闘志はますます燃え盛る。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

エリクトは、シュバルゼッテを仕留めきれないことに苛立ちを隠せない。

あの白い機体を操っているのは、返答こそ無いものの、グエル・ジェタークで間違いないだろう。これまで三度も戦ってきた相手だ、動きの癖から察するくらいはできる。彼がなかなかの手練であることももちろん承知している。

だがあの機体は非パーメット機だ。一世代前の兵器、どころか一時代前の兵器を相手取っているも同然なのだ。例え話で言うなら、複葉機が気球に攻撃を仕掛けるようなもの。パイロットの腕など関係なく、一瞬で蜂の巣にできて当然なのである。

だがエアリアルとガンドノード20機による追撃を受けてなお、シュバルゼッテは平然と逃げ回り続けていた。

 

ガンドノードの攻撃は一発も当たっていない。AIによる未来位置予測と射撃タイミングを完璧に読み切っているのか、白い機体はひらりひらりとポイントを外し、決してガンドノードのビームの当たらないポジションに身を置き続けている。

一方でエスカッシャンの攻撃は何度か命中しているが、ことごとくあの電磁バリアが威力を逸している。一度は直撃弾を浴びせてバリアも突破したのだが、堅牢な背部装甲は大きな被害を許さなかったようだ。シュバルゼッテは一切スピードを落とすことなく今も飛び続ける。

「本当に目障りだね、ジェターク。

 ……そういえば、お母さんの計画を邪魔したのも、スレッタの学園生活を無茶苦茶にしてくれたのも君たちだったよ」

苛立ちを強めながら、エリクトは執拗にシュバルゼッテを追撃する。

シュバルゼッテがデータストーム境界面を超えてもなお、本社フロント方向に逃亡しようとする白い機体を追い続ける。

「最初の戦いのときに、こうしておくべきだったのかもね」

エリクトは両翼を広げるようにエスカッシャンを展開した。180度からの一斉射撃。これならば確実に電磁バリアを破り、シュバルゼッテを破壊し尽くすはず。

終わりだよ。そう呟きながら、エリクトはエスカッシャンに攻撃を命じ、

 

「!!」

 

驚愕し、身を引く。

高出力のビーム砲が、こちらめがけて放たれていた。それはエアリアルの20メートルほど横を通り過ぎ、後方に引き連れていたガンドノード数機を貫く。

直撃を食らった機体はどれもあっけなく爆散し、宇宙の藻屑となった。

モビルスーツ複数を一撃で撃破とは、尋常ではない出力だ。少なくとも、フロントの守備隊が持ち歩いていいような火力ではない。

「誰……!?」

シュバルゼッテではなかった。回避に専念していたあの機体は、攻撃の予備動作すら見せていない。

ベネリットグループの艦艇からの遠距離砲撃か、とも思ったが、そちらはさすがにエリクトも最初から警戒していた。データストーム領域から外に出た時点で戦艦の大出力ビームを弾くことは不可能になるからだ。艦の砲口がこちらを向いていないことは既に確認済みだ。

 

ならば、この攻撃を放ったのは。

 

エアリアルと、残存するガンドノードのセンサーが、ビームが飛んできた方向に一斉に向きを変える。

そこには白銀の機体がいた。自身の全高を超えていそうな長大なライフルを腰だめに構え、こちらに狙いをつけていた。

エアリアルのデータライブラリには、その機体の記録が残っていた。

21年前にヴァナディース機関で開発され、正式採用を賭けてエアリアルとコンペティションで争った機体。

「キャリバーン!?」

懐かしい名前を、エリクトは口にする。

データストームへのフィルターが一切なく、容赦なくパイロットを殺しにかかる呪いの機体。それゆえ化け物と渾名され、コンペティションで敗北したあとは封印されたはずのモビルスーツ。

それがいま目の前にある理由は、一つしかない。データストーム空間下でエアリアルを打倒するために、ベネリットグループが封印を解いたのだ。

そして、アレを乗りこなすことができるパイロットがいるとしたら、それはただ一人。

 

「スレッタ……!」

 

確信とともに、エリクトは妹の名を口にする。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

窓の外に浮かぶクワイエット・ゼロを、青く球形に包み込むデータストーム領域。

その表面を白い光が走った。間違いなく、キャリバーンの巨大なビームライフルが放つ光だ。

それはクワイエット・ゼロからエアリアルが釣り出されたという合図であり、同時にこの船が行動を開始する合図でもあった。

 

狭い船内のサブシートにノーマルスーツ姿で座るノレア・デュノクは、足元が振動を始めたことに気づく。クワイエット・ゼロに乗り込むべく、この船を抱えるデミバーディングがエンジンを始動したのだ。

震える膝の上で、少女は拳を握りしめる。

いつになく緊張していた――死への恐怖ではなく、失敗の恐怖にだ。自分が失敗すれば友人の命も助からない。そして今までアテにしていたガンダムもここには無く、この頼りないノーマルスーツのままで敵地に乗り込まなければならない。

心細さに一人で耐えていると、隣から軽薄な声が降ってきた。

「いやはや、本当に無茶苦茶だよね。ジェタークCEOがモビルスーツで一騎駆けして敵の目を引いている間に、ベネリットグループの総裁が自ら敵陣に乗り込んで白兵戦なんてさ。野蛮にもほどがあるよ」

すでに聞き慣れた青年の声は、完全にいつも通りで緊張感の欠片もない。一瞬だけイラッとしたノレアだが、隣を見上げて罵声を浴びせようとしたところで、青年の表情に気づいて口を止めた。

彼はヘルメット越しにこちらを注視していた。ヘラヘラとした、だらしのない、見ているだけで腹の立ついつもの顔だ。ただし瞳だけは真剣に、こちらの様子を伺っている。

ノレアは一つ息を付き、そして青年に同意した。

「……ホント、前時代的ね。いくら人手が足りないからって、命が惜しくないのかしら」

ノレアは、船の前方に座るミオリネのヘルメットを見つめる。

ベネリットグループの総帥ともなれば、どんなときでも危険はすべて部下に押し付け、安全な部屋でワイン片手に優雅に過ごすものだと思っていた。

だが現実はいささか異なるようだ。少なくともこの新総裁は、自ら死の危険を背負うことで、ベネリットグループに残る従業員たちを鼓舞するつもりなのだ。

そしてもちろん、シュバルゼッテに乗り込み前線で戦い続けるジェタークCEOとその弟も、だ。誰よりも危険な場所で彼らは孤軍奮闘し、他の作戦を成功させるための囮となっている。

――ベネリットグループの幹部にも、こういう人達はいるのか。

ノレアが今まで抱いていた偏見が、再び和らぐ。

長年スペーシアンに対して抱いていた嫌悪と殺意は、スレッタやグエルやペトラ、ミオリネを知った今、相当に薄れてきていた。

しかし少女のそんな心境変化をよそに、青年はヘルメット姿のままで首を振りつつ、小声で毒を吐き続ける。

「まあ、尻尾巻いて自分だけ逃げるよりは確かにマシだけどね。なんていうか、これはこれで嫌味ったらしいっていうか、スノッブっていうか」

スペーシアンの上流階級がどうにも気に入らない様子の彼を、ノレアは軽く睨んだ。悪口なら勝手に言え、いちいちこっちに同意を求めるな。そう言おうとして、ふと気づく。

 

そういえば、なぜ彼も自分に同行しているのだろう。

なぜ彼までもが、己の命を危険にさらしているのだろう。

彼自身の目的は、市民ナンバーを得て、最底辺の生活から抜け出すことだったはず。そして、彼にとって一番大事なのは自分自身の命だったはずだ。ただの好意でここまでするなんて、ありえない。

「ノレア? どうしたのさ、僕の顔をじっと見つめて。

 ……ははあ、さては僕に惚れ」

「あんた、なんでこの船に乗り込んだの?」

青年のたわけたセリフを遮って、ノレアは直截的に尋ねた。

ミオリネの護衛任務も、グエルたちに負けず劣らず危険だ。危険な任務を引き受けなければ自分やソフィの減刑は叶わなかったのだから、自分がそれに駆り出されるのは仕方ない。

だが、青年には自分のような強い動機はない、はずだ。市民ナンバーを得るのが目的だというなら、もう少し安全な任務でも充分だっただろう。

彼がそうしなかったのは、きっと――

その予想は口には出さず、ノレアは重ねて問いかける。

「あんた自身の目的は、ペイル社から逃げ延びて、長生きすることだったんでしょう? なのに、どうしてここまでするの?」

「……いまさら、しかもこの状況で聞くの? それ」

「聞きたいのよ。教えて」

窓の外の光景が、動き始める。

船を抱えるデミバーディングがカタパルトから撃ち出され、クワイエット・ゼロに向けて飛翔する。

決戦の地へ向けて動き始めた船の中で、少女はじっと青年を見つめ、その答えを待つ。

 

青年は、困ったような顔で考え込む。

だが5秒ほど逡巡したあと、彼は真摯にノレアを見つめ、口を開いた。

 

「守りたかったから、だよ。命がけでもね」

 

ノレアは目を閉じた。

……そう。やっぱり、そうだったのか。

ひとり得心し、目を開け、青年を見返す。

「じゃあ、こんなところで死ぬわけには行かないわね。あんたも、私も」

「当たり前だよ。僕はむざむざ死ぬつもりはないし、君を殺させもしない」

決意を交わし合うと、そこで自然と二人の会話は途切れた。

ノレアは青年から目を離し、再び自らの膝の上に手を置く。

 

身体はもう、震えていなかった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

キャリバーンは腰だめにバリアブルロッドライフルを構え、エアリアルと対峙する。

エアリアルは大きく展開しかけたエスカッシャンを引き戻し、自らの周囲で回転させている。こちらの砲撃を警戒しているのかも知れない。

ガンドノードもデータストーム空間境界面のすぐ近くに留まり、遊弋している。そのため、シュバルゼッテへの攻撃は一時的に止まっていた。

キャリバーンの真横にシュバルゼッテが飛来し、そして停止する。ドロウモードを解除しつつ、白い機体はキャリバーンに通信を飛ばしてきた。

「スレッタ、助かった! あの援護射撃がなけりゃ危なかった」

「いえ、こちらこそありがとうございます、グエルさん。

 これでエリクトとお話できます」

スレッタ・マーキュリーは、キャリバーンのコックピットからエアリアルを見上げる。

 

スレッタとエリクトが一対一で対話する。それが作戦の一つだった。そのためにジェターク兄弟はガンドノードを何機も叩き落してエリクトを挑発したのだ。そして見事、エアリアルをここまで引きずり出すことに成功した。

データストーム領域のすぐ外、この場所であれば、スレッタはパーメットスコアを上げる必要はない。落ち着いて姉と会話を交わすことができる。

 

と、エアリアルの真横にうっすらと人影が浮かび上がった。データストームと繋がった者にしか認識できない空間情報だ。

人影は白いノーマルスーツの姿を形作ると、キャリバーンに向かって語りかけ始めた。

「そんな欠陥品に乗ってまで、どうしてここに来たの、スレッタ」

妹は気合い負けしないよう、腹筋に力を入れた。

悠然と宇宙に浮かぶ姉を睨み据え、声を上げる。

「そんなの決まってる……止めに来たんだよ、二人を!」

スレッタの呼びかけに対し、姉は即座に非難を返してきた。

「お母さんの邪魔しないで。お母さんは、僕が自由に動くことができる世界を作ってくれる。どうしてスレッタが邪魔をするの?」

「クワイエット・ゼロなんか使わなくたって、エリクトは自由な身体を取り戻せるよ! ミオリネさんや地球寮のみんなに協力してもらって、エリクトのための身体を作ってもらえる。そうすれば……!」

「ダメ。信用できない。地球寮はともかく、ミオリネやベネリットグループは信用できない」

「どうして!?」

妹の問いに対して、姉は冷たい声で、こう答えた。

「21年前にあの人たちが何をやったか、スレッタにはもう教えたでしょ?

 あの人たちは、お母さんの大事な人たちを皆殺しにしたんだよ。

 友達。先生。そして何より、お父さんを」

「……!」

スレッタの脳裏を、姉から渡されたヴァナディース事変の記録が巡る。

事前の協定を破り、当時の法律を無視し、デリング・レンブランはヴァナディースに関わる人間を皆殺しにした。その犠牲者の中にはエリクトの父も含まれていた。

「ベネリットグループの人たちは今も、あの虐殺を反省していない。お母さんにも一度も謝罪していない。あの人たちは、自分の都合に合わせて平然と約束を破る人たちなんだよ。今さら信用なんかできない」

「……ミオリネさんは違う! ミオリネさんは、わたしを騙したことを謝ってくれた!

 グエルさんも、わたしのことをいっぱい助けてくれた! ジェターク寮の人たちも、それ以外の人たちも! だから、」

「無駄だよスレッタ。お母さんが信用しない人たちを、僕は絶対に信用しない」

その声は、徹底的な拒絶の意志で満たされていた。

母への盲信。母の意志の絶対化。それは少し前までのスレッタ自身の姿でもある。今ここで覆すことは難しい――そう悟って、スレッタは臍を噛む。

「クワイエット・ゼロは、データストームの中でしか生きられない僕らの問題。スレッタには関係ない。君は地球寮のみんなと一緒に、学園に帰るんだ」

「違う! そんなわけない!」

まだだ。まだ諦めるわけにはいかない。

スレッタはさらに声を張り上げ、姉に呼びかける。

「エリクトに自由な世界を与えるために、全世界をデータストーム領域で包み込む……そんなことをしたら、耐性のない人たちはどんどん寿命を削られていくことになる! エランさんやソフィさんのようになってしまう人たちが大勢出るんだよ!? そんなこと、絶対にやっちゃいけない!」

母の計画が大勢の犠牲の上に成り立つものであることを、エリクトが知らないはずがない。それでもスレッタは一縷の望みをかけて姉の良心に訴える。

なぜなら、スレッタとエリクトは、水星で何人もの命を救ってきたからだ。

極度の高温と極度の低温。低重力。乏しい酸素資源。採掘途中で発生する崩落、そして不定期に襲いかかる強烈な太陽風。

それらに脅かされて命の危機に瀕した人たちを、二人で協力して何度も助けてきたからだ。

「命は簡単に失われる……失われたら、もう戻ってこない。失ってしまったら、たくさんの人たちが悲しむ。

 エリクトはそれを知っているでしょう!? 知っているから、水星でわたしと一緒に救助活動をやったんでしょう!?

 だったら、データストームを広げるなんてこと、絶対に――!」

 

「ああ、アレ?」

 

姉からの返答は、身震いするほどに素っ気なかった。

「あんなもの、水星で居場所を作るためにやってただけだよ。あの老人たちの命なんてどうでも良かった」

「…………っ!」

絶句する妹に、姉は酷薄な声で続ける。

「お母さんとスレッタさえ無事なら、僕はそれ以外の命なんてどうでもいい。寿命が短くなろうが健康を損ねようが気にしない。

 ……ああ、言い忘れてたけど、スレッタは低度のデータストームなら浴び続けても大丈夫。君は僕ほどじゃないけど強い耐性があるからね。だから、安心して学園にお帰り」

姉のそのセリフは、スレッタにとっての最後通告だった。

もはや説得は不可能、という。

 

目を閉じ、拳を握りしめ、葛藤し。

やがてスレッタは、決意した。

戦ってでも、姉を止めるということを。

 

スレッタはシュバルゼッテとの通信を開く。

「グエルさん、ラウダさん。すいません、エリクトを説得できませんでした。……お二人に、また危ないことを頼むことになります」

少女の胸中に、申し訳ないという思いが満ちる。

説得が失敗した場合に何をするのかについては、あらかじめ作戦で決まっている。次の行動の内容は、スレッタもグエルもラウダもすでに承知済みだ。

だがそれでも、二人の兄弟を命の危機に晒すことについて、スレッタは忸怩たる思いを抱かざるを得ない。

「……でも。

 エリクトを止めないといけない。絶対に、ここで止めないといけない。そして、わたし一人の力では止められない。だから――」

コックピットのモニターに映るグエルは無言のまま。そしてラウダも無言のまま。グエルは優しい表情で、ラウダは厳しい表情で、こちらをじっと注視している。

その二人に向け、スレッタは真剣な表情で告げた。

「お願いします。わたしを手伝ってください」

「任せろ、スレッタ」

「やってやるさ。……兄さんのために」

二者二様の、承諾の返事。

スレッタは微笑みを浮かべてありがとうと返答し、そして、再び真剣な表情に戻る。

操縦レバーを握り直し、もう一人、否、もう一機の仲間に呼びかける。

「……キャリバーン。お願い、わたしに力を貸して」

白銀の機体の各所に、赤い光が浮かび上がる。

それはパーメットスコアが一定値を超え、臨戦態勢に入った証だった。

 

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