クワイエット・ゼロ戦記   作:カラテマ

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15 攻略戦3

キャリバーンとエアリアルの接触を確認した指揮所内は、にわかに慌ただしくなった。

「A地点に配置予定の無人艦群、発進しました。あと2分で目標地点に到着する予定」

「C地点の無人艦、予定より遅れてるぞ! エンジニア班は発進準備を急げ!」

本社フロントのオペレーターが報告と指示を繰り返す。動かす人員のいない戦闘艦を、使い捨ての無人機としてクワイエット・ゼロとの戦いに投入するためのものだ。

この時代の戦艦は省力化が進み、移動と自衛ていどなら無人でもこなしてしまう。その艦のプログラムを地球寮とジェターク寮のエンジニアが総出で修正し、指揮所からの制御でビームやミサイルによる攻撃も実施できるようにしたのだ。

無論、有人艦のような臨機応変な回避行動や、細やかな武器の使い分けはできない。無人砲台としての使い道がせいぜいだ。だが今回の作戦においてはそれで充分だった。

 

この状況でもっとも懸念されるのは、危険を察した敵側が先制攻撃を仕掛けてくることだ。前述のとおり無人艦では回避行動は期待できない。ガンドノードによる襲撃を受ければ、どの艦もあっという間に沈められてしまうだろう。

しかし――

指揮所内の椅子のひとつに座って、ロウジ・チャンテはつぶやく。

「敵の弱点の1つ目。攻撃と防御と索敵のほぼすべてを、ガンドノードに頼っていること」

これだけの数の艦艇を沈めるためには、ガンドノードを多数動員する必要がある。しかし動員すればするほど中継機役が減り、クワイエット・ゼロを守るデータストームの密度は低下する。敵は迂闊にガンドノードを攻撃に回すことができないのだ。

さらに――

「敵の弱点の2つ目。ガンドノードの制御は、エアリアルにしかできないこと」

クワイエット・ゼロは巨大なデータストーム発生装置に過ぎず、ガンドノードを制御する仕組みを持っていない。クワイエット・ゼロの防衛機能のすべてを司るガンドノードを掌握しているのはエアリアルただ一機なのだ。

すなわち、エアリアルの注意さえ逸らすことができれば、相手の索敵能力は大きく低下する。この無人艦の動きも、エアリアルが出撃した方向とは逆方面で行っていることもあって、まだエアリアルには気づかれていないはずだ。だからこそ敵の眼前でこのような大胆な戦力展開を行うことが可能なのだ。

 

だが逆に、エアリアルの注意を逸らすことができなくなれば、敵は早々にこちらの狙いに気づくだろう。それは作戦全体の瓦解を意味する。

「頼みます、スレッタさん。グエルさん。ラウダさん」

クワイエット・ゼロ周辺の動きを自身の端末で監視しながら、ロウジは先輩たちの無事と活躍を祈る。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

長大なビームライフルを腰だめに構えたキャリバーンが、赤く光りだした――と思った、次の瞬間だった。

「!」

あっという間に眼前にキャリバーンが肉薄し、エリクトは驚愕しながらもエアリアルに抜刀を命じる。袈裟懸けに振り下ろされた敵のビームサーベルを、エリクトはギリギリのところで防ぐことができた。

「バリアブルロッドライフル……!」

キャリバーンの主武装は、後部に強力なスラスターを備えた奇抜な構造のビームライフル。スラスターを最大出力にした場合の推進力は他に類を見ない。

そのこと自体はエリクトも覚えていた。だがこの速度は、記憶の中のスペックをさらに上回っている。パーメットスコアを極端に上昇させたことによる出力増大……いや、それだけでは説明がつかない。まるでキャリバーン自身から力が溢れ出ているような――

「くぅ!?」

それ以上分析する余裕はなかった。キャリバーンはすでにビームライフルから手を離し、両手に構えた2本のビームサーベルを凄まじい勢いで振り回してくる。エアリアルはそれを躱し、受け止めるので精一杯だ。たちまち防戦一方となり、データストーム空間境界面まで押し戻される。

「この速度……この出力……スレッタ!」

キャリバーン自身から溢れ出る力を加味したとしても、これほどのパワーを保つためには、パーメットスコアを相当に高いレベルに維持する必要がある。おそらくスレッタはかなりの無理をしているはず。一刻も早く止めなければ命に関わる。

――仕方ない。不本意だけど……

エリクトはエスカッシャンに命じ、キャリバーンの背中を狙わせる。スレッタに被害が及ぶ可能性はあるが、背部スラスターを破壊できれば速やかに継戦能力を奪えるはず。

だが3機のエスカッシャンが射撃ポジションにつく直前、その一帯を白い大出力ビームが薙ぎ払う。エスカッシャンは慌てて回避し、攻撃のタイミングを失って追い散らされてしまう。

「なっ……っ!?」

見れば、シュバルゼッテが右手で巨大なライフルを構えていた。先程キャリバーンが推進機として使い、格闘戦に持ち込むために手放したバリアブルロッドライフルを、シュバルゼッテが拾い上げて片腕一本で発射してきたのだ。

その光景の意味を、エリクトは一瞬で理解した。

キャリバーンが前衛でエアリアルに格闘を仕掛け、シュバルゼッテが後衛からの砲撃でエスカッシャンを牽制する。2対1でこちらを封殺するための布陣。相手は最初からこの形を狙っていたのだ。

「だけど……ガンドノードを忘れてるよっ!」

周囲を遊弋させていた20機弱のガンドノードを、すべてシュバルゼッテに差し向ける。エアリアルを圧倒するほどにスコアを上げたキャリバーン相手では、この程度の数のガンドノードなど多少の嫌がらせにしかならない。しかしパーメットリンクを使えないシュバルゼッテには複数機による包囲攻撃をさばくことなど不可能だろう。すぐに撃墜し、敵の後衛を排除することができる。それがエリクトの狙いだった。

 

「舐めるなよエアリアル。ジェタークの最新鋭機を!」

 

シュバルゼッテが左手に持つ大剣が白い光を放った。無数のレーザーが放射状に伸び、殺到するガンドノードを一瞬で焼き払う。

オムニ・アジマス・レーザー。単機で集団を相手取るための殲滅兵器。エリクトを油断させるために温存されていたシュバルゼッテの主武装が、ついに火を吹いたのだった。

「ガンドノードのAIは、シュバルゼッテの意思拡張AIがとっくに解析済みだ。攻撃行動も回避行動も手に取るように読める。パーメットリンクなんか無くとも、こいつらを落とす程度なら造作もないんだよ!」

勝ち誇るラウダに、エリクトは何も言い返せない。

言い返すどころではなかった。眼前のキャリバーンが、恐るべき速度と精密さで2本のビームサーベルを操り襲いかかってくる。防御に専念することでかろうじて致命傷は避けているが、すでにエアリアルの装甲は何箇所も焼かれ、関節部にも被害が及び始めていた。このままでは早々に押し切られ、全身を切り刻まれる――!

「スレッタ!」

たまらずエリクトは叫んだ。

「君は僕を撃墜する気なの!? ベネリットグループに味方して、僕を殺す気なの!?」

「……違うよ」

返答は、荒い呼吸音まじりだった。

スレッタは攻撃の手を緩めることなく、そしてパーメットスコアを落とすことなく、言葉を続ける。

「エアリアルのコックピット部分。みんながいる場所は、そこだよね? 

 なら、そこ以外を全部壊しても、みんなは大丈夫」

ついにキャリバーンのサーベルの片方が、エアリアルの左足を捉えた。

大腿部から先を、あっけなく切断される。

「あああああっ!」

悲鳴を上げるエリクトに、スレッタは息を荒らげながら、淡々と告げた。

 

「わたしはもう躊躇わない。コックピット以外を全部潰すよ、エリクト」

 

事ここに至って、エリクトは思い出す。

水星で救助活動をしていたとき、崩れてきた岩盤や動かなくなったモビルクラフトから要救助者を解放するために、スレッタは外科医じみた正確さでビームサーベルを振るっていたことを。

そしてスレッタは、それが正しいと思い定めたなら、誰を敵に回してでも己の意志を貫き通す頑固な娘であることを。

たとえ長年一緒に過ごしてきた実の姉であろうと、最愛の母であろうと、今の妹は容赦なくビームサーベルを振るう。それこそ息の根を止める以外のありとあらゆる手を、躊躇うことなく使ってくるだろう。

――本気だ。スレッタは本気で僕を潰す気だ。

遅まきながら、エリクトはそれに気づき。

生まれて初めて、本当の恐怖を覚えたのだった。

 

「スレッタ! もうやめて、スレッタ!」

エリクトの分身であるカヴンの子のひとりが、恐慌のあまり泣き始めた。

飛び回るエスカッシャンに意識を乗せ、シュバルゼッテからの砲撃をかいくぐり、キャリバーンに接近する。

「エアリアルの手足は僕の手足も同然だよ!? いくら後で直せたとしても、切り離されたら痛いんだよ!?

 人間だって手足を切られたら痛いよね、怖いよね!? そんな残酷なことをしないで、スレッタ!」

涙を流すカヴンの子に向けられたのは、涙混じりの激怒の声だった。

「そうだよ! 手足を失うのは痛いこと! 怖いこと! 人間だってそうだよ! 残酷なことなんだよ!

 そんな残酷なことを――エリクトは、他のすべての人に押し付けようとしてるんだよ!

 データストームをすべての人に浴びせて、手足の自由と寿命を奪おうとしているんだよ……

 エランさんの経験した絶望と恐怖を、すべての人に無理やり味あわせようとしてるんだよ!」

怯み、恐れ、押し黙るカヴンの子に、スレッタは怒りの言葉を叩きつける。

「許さない……それだけは、絶対に、許さないっ!

 たとえエリクトだろうとお母さんだろうと、わたしは絶対に許さないっ!」

直後、横合いからバリアブルロッドライフルのビームがエスカッシャンを襲った。

カヴンの子が意識を乗せたそれは、一瞬で破壊されデブリと化す。

「スレッタを傷つけさせはせん。悪いが、ガンビットはすべて落とさせてもらう」

ガーディアンを持つ左腕の操作を弟に委ね、グエルはバリアブルロッドライフルを保持する右腕の角度を調整する。キャリバーンの周囲を飛び交うエスカッシャンに狙いを定め、次々と引き金を引く。

パーメットリンクなしのハンデを意思拡張AIの補正で埋め、シュバルゼッテからの砲撃は確実にエスカッシャンを叩き落としていく。

 

形勢は、いまや完全に逆転していた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

クワイエット・ゼロの司令室の中で、プロスペラは歯噛みする。

モニターの中で、最愛の娘が、2機のモビルスーツによって追い詰められていた。

左足を失い、エスカッシャンを次々と失い、防戦すら成り立たなくなりつつある。

 

無論プロスペラたちもただ手をこまねいていたわけではない。格納庫に残っていた予備のガンドノードをすべて発進させ、援軍として差し向けている。だが、この場所から自分たちができることはそこまでなのだ。

発進したあとのガンドノードに命令を下せるのは、データストームを自在に操ることのできるエリクトだけ。それ以外の人間は、ガンドノードのAIが状況を適切に判断してくれることを祈るくらいしかできない。巨大な実験室でしかないクワイエット・ゼロの設計の不備が、ここに来て露わになってしまった。

「この身体さえ万全に動いてくれたら……っ!」

もしプロスペラの身体がデータストームに侵されていなければ、彼女は矢も盾もたまらず司令室を飛び出し、有人操縦のモビルスーツを駆ってエリクトの救援に向かっていただろう。

だが今の彼女では、娘の足手まといにしかならない。周囲に怒鳴り散らしたくなるのをかろうじてプロスペラはこらえる。

そこへ、更なる悪い知らせがもたらされた。

「監視カメラから警報。クワイエット・ゼロ内に、何者かが侵入したようです」

前面スクリーンの一角に、監視カメラからの映像が表示された。

クワイエット・ゼロのコアブロックへと続く廊下を、ヘルメットを被った複数の人間が歩いている。

画像が更にデータ処理され、列の中央を歩く人間の顔が拡大表示された。

「ミオリネ・レンブラン……!」

プロスペラは低い声で呻く。

あの小娘が自らここに乗り込んでくるとは、さすがに予想外だった。

「あいつら……コアブロックのサーバーからクワイエット・ゼロを停止させる気か!?」

殺気だったゴドイが、銃を手に司令室を出ようとする。

それをプロスペラは手で制した。自らの銃を取り出し、残弾を確認する。

「私が行くわ。貴方はこの司令室から状況を教えて頂戴」

「……よろしいので?」

わずかに不安そうな表情のゴドイに、プロスペラは無言でうなずいてみせる。

あの未熟な小娘に遅れをとりはしない、という自負があった。

それに、ミオリネを捕らえて人質にすれば、スレッタは攻撃をやめるという目算もある。ゴドイは優秀な兵士だが、戦士としての本能が勝ちすぎていささか手荒だ。誤ってミオリネを殺害してしまう恐れがある。

 

「わざわざ向こうから来てくれたのだもの。ホスト自らが歓迎してあげるわ」

 

余裕を取り繕ったセリフだったが、声には焦りがにじみ出ている。

装備を確認し終えたプロスペラは、足早に司令室を出ていった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

クワイエット・ゼロの内部は、酸素と重力が保たれていた。

ノーマルスーツに身を包み、銃を構え、青年は周囲を警戒しながら通路を歩く。

「やれやれ。先頭なんて一番危ないポジションは、僕の柄じゃないんだよね。勘弁してほしいよ、まったく」

「嫌なら代わってあげてもいいわよ」

「……いやあ、さすがにそいつは遠慮しとくよ。もう少し安全な場所ならレディファーストで譲るんだけど」

青年のすぐ後ろから、彼と同様に銃を構えたノレア・デュノクが続く。

ときおり軽口を叩き合いつつも、二人は一行の護衛として周囲の警戒を続けつつ前進する。

 

ベルメリアは二人の後ろにつき、自身の端末を見ながら次に進む方向を指示している。

その後ろに、緊張した表情のミオリネ。更にその彼女を守るように、ケナンジが銃を構えて殿を行く。

 

クワイエット・ゼロ内部に侵入後、彼ら5人は妨害に遭うことなく、順調に目的地との距離を縮めていた。このぶんならあと3分ほどで目的地にたどり着く。

「……順調すぎる」

ノレアがぼそりとつぶやく。

「同感だね。連中もそろそろ僕らの存在に気がついてるはずなんだけど」

のんきな態度を崩さないまま、青年が同意する。ここに来るまでの間、監視カメラが隠されていそうな空間はいくつもあった。それが全て思い過ごしであると楽観するほどには青年も修羅場をくぐってはいない。

 

と、ノレアが足を止める。ヘルメットを脱いで素顔を晒し、片方の耳を壁に近づける。

壁一枚隔てた隣を複数のモーター音が移動しているのを察して、彼女はすぐさま険しい表情になった。

「隣の通路を、私たちとは逆向きの方向に複数のマシンが進んでる。

 ……モビルクラフト? 警備ロボットの類……?」

「逆向きに、ってことは……」

青年はすぐさま脳裏にこのフロアの構造図を描く。潜入に備えて頭に叩き込んでおいたのだ。

隣の通路を逆向きに進めば、やがてこちらの通路と合流する。つまり隣の誰かさんは、こちらの後方を遮断するように動いている、ということだ。

やば、と口に出してから、青年は後ろに振り返った。

「このままだと退路を断たれるぜ。回れ右してさっさとズラかろう」

「バカを言うな! それじゃあ役目を果たせんだろうが!」

ケナンジが眉を吊り上げる。見ればミオリネも同様の表情でこちらを睨んでいる。さすがにベルメリアは、と視線を転じてみたが、彼女ですら覚悟を決めたように首を横に振り、こちらに前進を促してくる。

 

おいおい、と青年は天を仰いだ。

こいつら、わかってないのか? 殺すつもりか人質に取るつもりかは知らないけど、わざわざ退路を断ちに来るってことは、向こうはこっちを絶対に逃がさない腹積もりなんだぜ?

 

青年は助けを求めるようにノレアに顔を向ける。さすがに彼女は敵の意図に気づいているはずだった。

水を向けられたノレアは、迷ったような表情で、青年とミオリネたちとを交互に見つめる。

だが、やがて彼女も折れたようだった。申し訳なさそうな表情で、青年に向かってつぶやく。

「……あんただけ逃げてもいい。私は進む」

そりゃないだろ、と青年は胸中で嘆いた。ノレアを置いて一人で逃げ出すことができる、と、彼女にはそう思われているのか。

ふざけるな、そんなことができるか。猛烈な勢いでせり上がってくる死の予感を心の奥に押し込めつつ、青年は覚悟を決める。

彼は再びケナンジたちに顔を向けると、怒鳴り声で命じた。

「だったら、急いでコアブロックに向かうぞ! こんな開けた場所で襲われたら一巻の終わりだ! さあ、走れ!」

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