クワイエット・ゼロに対する宇宙議会連合の第二波攻撃は、失敗に終わった。
その光景を映像で目にしながら、グエル・ジェタークは暗澹たる思いに囚われる。
遠距離からの大出力ビームはすべて弾かれ、誘導ミサイルは制御を乗っ取られて逆に反撃に使われる。モビルスーツでの攻撃が無意味、どころかただ犠牲者を増やすだけということは、宇宙議会連合の一回目の攻撃ですでに証明済みだ。
打つ手が見当たらない。このままクワイエット・ゼロがこの本社フロントに襲来すれば、自分たちも宇宙議会連合の二の舞いになるのは明らかだ。
そもそも、人手が足りない。
剛腕でグループを強引にまとめ上げていたデリングは、未だ意識不明。新総裁であるミオリネは地球での出来事にショックを受けて自室に閉じこもっている。トップがこんな有様では、離反者や逃亡者が続出するのは当たり前だった。クワイエット・ゼロを迎え撃つ戦闘従事者どころか、敵の戦力を分析するための技術官にも事欠く始末。クワイエット・ゼロの設計図や仕様書は手元にあるというのに。
幸いにしてジェターク社からは離脱者の報告はまだない。だが折悪しく、クエタ・テロ以降のトラブルや業績不振を解消するために多くの社員や技術者が遠方のフロントに散っており、本社フロントへの集結はまだ時間がかかりそうだ。
――打つ手なし、か。
グエルが苦々しくも胸中で認めた、ちょうどそのときだった。
「宇宙議会連合の査察官から、面会の申し出が」
彼のいる会議室に、そんな連絡が入った。
さらには、別の来客の知らせも。
「アスティカシアの学生が、ジェタークCEOにお会いしたいと」
「俺に? ……誰だ?」
怪訝に思いながらも、グエルは椅子から立ち上がる。
このまま会議室で座っていても時間の無駄だ。ならば――
彼はそう判断し、自分から宇宙港に出迎えに行くことにしたのだった。
―――――――――――――――――――
ジェターク寮艦が本社フロントの港に係留されるやいなや、ラウダ・ニールは積み荷の搬出に携わる予定の生徒たちを残して、寮の主要メンバー全員で港に降り立った。その数、10人以上。
彼らの目的はただ一つ。
「兄さんを――グエル・ジェタークを、止める。そして、連れ帰る」
「グエルが無謀なことをやろうとしているのであれば、だぞ」
横からカミルに釘を差され、一度はラウダもうなずいた。
だが、彼の中に秘められた意志は揺らがない。
漆黒の感情を乗せて、ラウダの瞳が暗く光る。
必ず止める。
あの女に誑かされ、利用され、危険な道を突き進む兄を、どんな手を使ってでも止める。
ラウダはただ前だけを見据え、生徒たちの先頭に立って宇宙港の通路を進んでいく。
懐に隠し持った武器の重さだけが、今の彼の味方だった。
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本社フロントに到着してから20分ほどが経過していたが、ノレア・デュノクは未だ地球寮の船の積み荷の搬出に追われていた。
なにしろ人手が足りなければ機械も足りない。自分と同じくタダで乗船してきたスペーシアンの二人組は、なんだかんだと理屈をつけて肉体労働への参加を拒んでいた。別に遊んでいるわけではなく、二人とも別々の方法で情報収集や手続きに明け暮れているようではあるが――
「金持ちは安全な場所でのんびりと過ごし、私たちは積荷作業。本当に、気に食わない」
率直な感想を口にすると、ノレアと並んで荷物を運ぶ長身の青年が苦笑した。
「ま、こればかりは同感だね。人が宇宙に出る時代になっても、肉体労働への評価は不当に低いままだ。こんなことだから貧富の差はますます広がり、宇宙に不幸がバラまかれていく――」
茶化すように軽口を繰り広げる青年を、ノレアはじろりと睨み、そして、
青年のすぐ向こうを歩く、学生服の一団に目を留めた。
彼らはこちらに目もくれず、一直線に通路を進んでいく。
それはいい。だが、先頭を行くあの生徒の表情と、その懐。
「あいつは……?」
ノレアのつぶやきに、隣の青年が足を止めて答えた。
「ラウダ・ニール。グエルの弟だけど……なんだ? あの思いつめたような顔」
彼もラウダの様子がおかしいことに気づいたようだ。だが、服装の不自然な膨らみまでは見落としたか。
ノレアは小声で青年にささやく。
「ラウダ・ニールの左脇。何か武器を隠し持ってる」
「…………!」
すぐに青年も事の重大さを悟った。いつもの軽薄な雰囲気はどこかへと消えうせる。
静かな緊張感を身にまとった青年は、身をかがめ、低い声でノレアに話しかけた。
「どうする? あいつが何をするつもりかは知らないけど、この場でコトを起こされたら、きっとまずいことになる」
「……追いかける。まずいことになりそうなら、私たちが未然に防ぐ」
最低限のやり取りで方針を決定すると、二人は荷物をその場に置き、ジェターク寮生たちを追って歩き始めた。
―――――――――――――――――――
会議室から宇宙港までは目と鼻の先だ。グエルはすぐにその場に到着し、そして、港の通路を歩く学生服の一団に気づいて愕然とした。
「全員ジェターク寮生か!? あんなに大勢……!」
ラウダやカミルが一人でやってきたのであれば、グエルはここまで狼狽しなかっただろう。だが、いずれ戦闘が始まる可能性の高いこの場所に、これほど大勢の知り合いが乗り込んできたのは完全に想定の外だった。
今の自分がCEOの身分であることも忘れ、彼は全速力で駆け出した。学生の頃の彼を思わせる勢いで、制服姿の集団のもとまで走り寄る。
「何やってるんだ、お前らっ! ここには来るなと命令しただろうっ!?」
開口一番、彼は大声で怒鳴った。
さらに、集団の戦闘を歩く二人を激しく詰問する。
「ラウダ、カミル! お前たちがいながら何故こんなことになった!?
ここは危険だと伝えたはずだ! それなのにこんな大勢の生徒を……! 何かあったらどうするつもりなんだ!」
その剣幕に、寮生たちのほとんどがたじろいだ。
だがジェターク寮の柱である二人は身じろぎもしない。まずはカミルが一歩前に出た。
「その何かっていうのは、人類全体の危機なんだろう? 俺たちだけ逃げるなんてことはできるのか?」
「なっ……!? お前ら、知ってたのか!?」
驚くグエルに、今度はラウダが諭すように語りかける。
「クワイエット・ゼロ。もうみんな知っているよ。いま何が起こっていて、兄さんが何に立ち向かおうとしているのか。
知った上でみんなここに来てくれているんだ。それなのに、兄さんは僕たちを追い返そうというのかい?」
そしてラウダのセリフを合図にしたかの如く、他の寮生たちも堰を切って声を上げ始めた。
「事情はスレッタや宇宙議会連合の査察官から聞きました! 私たちも先輩に助力します!」
「あんなことが起こってるって聞いて、じっとなんてしてられないですよぉ! わたしにも手伝わせてください、グエル先輩!」
「俺たちも手伝います! 俺たちにもできることはあるはずです、グエル先輩!」
「お前ら……」
同級生や後輩たちから口々に呼びかけられ、グエルは立ち尽くす。
正直、彼らの申し出は嬉しい。光明の見えないこの状況で、気心の知れた彼らの助力を得られることがどれほど心強いことか。
思わず口元を緩めたグエルの脳裏を、しかし、血まみれの光景がよぎる。
口から血を流しながら、グエルの身を案じる父の姿。
彼の腕の中で静かに死んでいった、一人の少女の姿。
「――駄目だっ! 絶対にっ!」
両の拳を強く握りしめ、グエルは絶叫する。
もうこれ以上、大切な人々を死なせるわけにはいかない。死ぬのは自分だけで充分だ。
「帰れ! 帰るんだ! ラウダ、カミル、みんなを連れてここを出るんだ。ジェターク社の避難施設へ行けっ!」
「おい、グエル。落ち着け。まず俺の話を聞け」
「もう話すことなんてないっ! さっさと行け、カミルっ!」
自分の腹心にも等しい同級生を怒鳴りつけたのち、グエルは背を向けた。交渉も会話も拒否すると言わんばかりに。
こうなってしまっては、彼は梃子でも動かない。それをよく知る寮生たちは言葉に詰まり、意気消沈する。
気まずい雰囲気が漂う中、ラウダは一人、悲しげにつぶやいた。
「……やっぱり兄さんは、変わってしまったんだね。昔の兄さんなら、僕たちを頭ごなしに否定するなんてことはありえなかった」
その声は小さく、周囲の学生たちには聞き取れなかった。背を向けているグエルも気づかなかった。
誰にも気づかれることなく、ラウダは右手を制服の中に入れる。
そこに隠し持ったものを、しっかりと握りこむ。
「兄さんは変わってしまった。あの女に囚われ、惑わされ、誑かされ……道を間違えた。
そして今、あの女に利用され、破滅へ突き進もうとしている」
彼は兄の背に向かって足を踏み出す。
「――僕が止めるよ。どんな手を使ってでも、絶対に、兄さんを止める」
―――――――――――――――――――
ノレア・デュノクはそのとき、学生服の一団のすぐ横で様子を窺っていた。
幸いにも学生たちはグエルのほうしか見ていない。ノレアたちのことは眼中にもない。
彼らの表情をじっくりと観察しながら、ノレアは隣の青年と小声で会話する。
「ラウダの狙いはグエル・ジェターク。協力者はいない。間違いないわね」
「ああ、他の生徒の顔色はふつうだ。おかしいのはラウダだけ。単独犯だね。
だがラウダのやつ、さっきからずっとグエルの顔を凝視してる。間違いなくこの場でやる気だ」
「……阻止するよ。絶対に」
ノレアは静かに青年に告げる。
なぜラウダがグエルに攻撃を仕掛けようとしているのか、その理由はわからない。
だがもしここでグエルが倒れてしまえば、クワイエット・ゼロへの攻撃計画が大きく狂うことは確実。そして何より、ソフィを治療し、匿うことを決定した責任者が不在となってしまう。そうなればソフィの治療の継続も危うくなる。
できればラウダが動き出す前に二人がかりで飛び掛かりたかったが――それでラウダの動きを一時的に封じたとしても、おそらく自分たちは周囲の生徒たちに引きはがされ、拘束されてしまうだろう。そのあとでラウダが兄に襲い掛かれば、止める術は完全になくなる。
となれば、ラウダが動き出した後、攻撃が届く直前に割って入るしかない。
「私が盾になる。あんたはラウダを取り押さえて」
「おいおい、ちょっと待て。盾になるなら君じゃなくて僕だろう?」
「私の体格でアレを止められるわけがないでしょ。あんたがラウダ、私がグエルよ」
役割分担を決めるや否や、ラウダが動き出した。懐に右手を入れている。
ノレアは即座に駆け出した。青年も舌打ちとともに少女に続く。
―――――――――――――――――――
「――兄さんっ!」
小さな絶叫とともにラウダが突進する。グエルの背中に向けて、右手に持ったものを押し当てようとする。
「……!?」
グエルが殺気に気づいて振り返る。だが、身をかわすほどの時間はなかった。無防備な背中を晒したまま、彼は目を見開く。
刹那、小柄な人影がグエルを庇うように割って入った。攻撃が届く直前にそれに気づいたラウダは驚き、一瞬動きを止める。
直後にラウダは地面に押し倒された。片羽締めの形で首と右腕を極められ、完全に身動きが取れなくなる。
「……なっ!?」
「はいはい、物騒なことはやめようねラウダ。僕としては別にそこの筋肉ゴリラを助けるつもりはあまりないっていうか、ちょっと痛い目にあってくれてもまあいいかなって気分なんだけど、今この状況でそいつにくたばられると困るんだよ、いろいろ」
「エ、エラン・ケレス!? ……いや違う、影武者の方か!」
「あれ、バレてる? ああそっか、ペトラから聞いたのか。そう、僕はエラン・ケレスの影武者さ。……おや、君が持ってるのはスタンガン? 君もこの武器を選んだの? 意外だなあ、君とは気が合いそうだ♪」
「やかましい! さっさとこの手を放せ!」
「悪いねえ、それはできないんだ。いや僕としても野郎と密着するのはゴメンだし、君が襲撃を諦めてくれれば今すぐにでも離れるんだけどね。だから考え直そうよラウダ、兄弟は仲よくするもんだぜ?」
ラウダを引きずり倒したままの姿勢で、エランは勢いよく軽口を連ねる。その異様さに呑まれ、周囲の生徒たちはしばし押し黙るが――
やがて彼らは我に返り、一斉にエランに非難の声を浴びせ始めた。
「おいコラっ! ラウダ先輩に何やってるのさ!」
「ジェタークに喧嘩を売るつもりか!? 離れろテメー!」
ラウダとエランを引きはがそうと周囲から手が伸びる中、青年は落ち着き払って周囲を見回した。
場違いなまでに綺麗な笑顔で、告げる。
「ああ、すぐに離れるさ。ただその前にぜひとも、彼が右手に持ってるものを没収しておくれよ」
その言葉で、色めき立っていた学生たちも気づく。
ラウダ・ニールがスタンガンを握っていたことを。そしてそれを、たった今グエルに向けようとしていたことを。
無論、襲撃の対象であるグエルもまた、自らの弟が信じがたい行動をとったことに気づいた。
「ラウダ、お前……なぜそんなことを……?」
その場にいる人間すべてが、ラウダの意図を測りかね、戸惑いの表情を浮かべる。
一瞬の沈黙。それを破ったのは、ラウダ本人だった。
「決まってる……兄さんを止めたいからだ! ここで兄さんを止めないと、兄さんは死んでしまうじゃないか!」
地面に引きずり倒されたまま、ラウダは兄だけを凝視し、大声を上げる。
怒りと悲しみに満ちた、鬼気迫る声を。
「CEOになってからずっと、兄さんはろくに話を聞いてくれなかった! 僕だけじゃなくて、ジェタークのみんなの話を!
みんな兄さんを助けたかったのに、誰の助けも借りようとしなかった! それがどんなに悲しかったか、悔しかったか……兄さんにはわからないのか!?」
ラウダは全身全霊で兄を非難する。
その瞳には、大粒の涙がにじんでいた。
「今もそうだ! 命の危険が迫っているっていうのに、僕らを安全な場所に逃がして、自分だけが危機に立ち向かおうとしている……!
なんでそんなことをするんだ!? どうして僕らを頼ってくれない!? どうして僕らに何も話してくれない!?
兄さんにとって僕らは……僕はその程度の存在なのか!? 答えろよ兄さん!」
「…………!」
弟の気迫に、兄がたじろぐ。
自分の行動がどれほど弟を傷つけたのかを、やっとグエルは悟ったのだった。
「ラウダ……」
謝罪の言葉を口にしかけて、しかしグエルは、歯を食いしばる。
血まみれの記憶が、二人の人間の死の光景が、彼の心を捕えて離さない。
――親しい人間をあんな目に遭わせたくない。自分のせいで大切な人を失うことは、もう二度としたくない。
何よりも強固な思いに突き動かされ、再びグエルは、両の拳を強く握りしめる。
「……駄目だ。」
決然とラウダを睨みすえ、グエルは別離の言葉を投げつけた。
否、投げつけようとした、そのときだった。
「聞いてあげられませんか。弟さんのお話」
視界の外から少女の声が響き、グエルは言葉を止めた。
顔を下に向けると、ついさっき自分をかばった少女が、こちらをじっと見上げている。
彼女は――
「私はノレア・デュノク。あなたに助けて頂いたソフィ・プロネの友人です。ソフィのこと、本当にありがとうございました」
少女はぺこりと頭を下げると、再びグエルを見上げ、言葉を続けた。
「あなたは私の恩人です。それなのに差し出がましいことを申し上げるのを許してください。
……どうか、弟さんの話を聞いてあげてください。でないと、きっとみんな、一生後悔することになります」
「みんな……後悔する?」
「はい」
ノレアがこくんとうなずく。
一つ息をついてから、少女は語り始めた。
「ソフィは、自分の身を犠牲にして私を助けました。止めようとする私を引きはがして、一人で自殺的な戦いに行ってしまった。
確かに、そのおかげで私は死なずに済みました。でも私は、ソフィを一人で行かせたことを後悔しています。
……今でもずっと、後悔し続けています。ソフィが死なずに済んだ今でも、ずっと」
ノレアが目を伏せる。
悲しみを湛えたまま、彼女は続けた。
「もしソフィがあのまま死んでいたなら。あなたに助けて頂けなかったなら、きっと私は、この世のすべてを呪っていた。
あなたたちを憎み、この世界を恨み、たくさんの人間を道連れに自殺していたと思います」
そして彼女は、再びグエルを見上げた。
「――このままだと、あなたの弟さんやペトラさんがそうなってしまうかも知れない。
皆を巻き込みたくないという気持ちはわかるつもりですが、けれども、どうか」
ノレアは真摯にグエルを見つめ、そして自らの思いを口にした。
「どうか、あなたが死地に赴く前に、親しい人とだけでも話し合ってください。
……どうか、お願いします」
再びノレアがぺこりと頭を下げる。
「…………」
グエルは無言だった。何か言い返そうとして、しかし何も言えず、ただ天を仰ぐ。
重い沈黙が、しばし周囲を満たす。
それを破ったのは、ジェターク寮のナンバースリーだった。
「このお嬢さんの言うとおりだ、グエル。これからどうするにしろ、まずはラウダと腹を割って話し合わなきゃな。そうだろう?」
「カミル……」
今にも泣きだしそうなCEOの肩を一つ叩いてから、カミルは床を見下ろす。
「エラン、悪いがラウダを離してやってくれ。これからグエルと二人で話し合いなんでな。
――ああ、すまんペトラ。まずはスタンガンの没収だったな」
「そうですよ! こんな物騒なもの……!
いったいどこでこんなモン仕入れてきたんです、ラウダ先輩!?」
おかんむりな様子でラウダから武器を取り上げるペトラを、カミルはまあまあとなだめる。彼女の怒りはもっともだったが、ここでラウダを吊し上げたところで事態の解決にはならない。
エラン・ケレスから解放されたラウダに、カミルは手を貸し、その体を引き上げる。
まだ思いつめた表情のままのラウダの肩を平手で強めに叩いてから、彼は周囲を見回した。
不安げに見守る寮生たちに、落ち着いた声でジェターク寮としての方針を告げる。
「皆はベルメリア氏およびグストン氏と合流し、お二人とともにクワイエット・ゼロの情報や設計書を入手。そのまま全員で攻略方法の検討に入ってくれ。
一年二年も関係なく、可能であれば地球寮やブリオン寮の連中とも協力し、各自遠慮なくアイディアを出し合うように」
そしてカミルは、傍らに立つ二人の後輩に小声でささやく。
「お前たちには悪いが、ラウダたちのことはひとまず俺に任せてくれ。いいか?」
「……そりゃ、まあ……」
「カミル先輩がそう言うなら、お任せしますけど……」
二人がうなずくのを見て取ると、カミルはさらに言葉を続けた。
「では、俺が戻るまでの間、ペトラはメカニック科を、フェルシーはパイロット科のまとめ役を頼むぞ」
「……え、私たちだけで話を進めるんですか?」
「で、できるかなぁ……?」
自信なさげに顔を見合わせる二人に、カミルは力強く笑いかける。
「なに、授業でやった机上演習と同じ要領だ。ちょいと条件が特殊だが、今まで聞いた話のとおりなら、要塞攻略のセオリーのいくつかは通用するさ」
そうして寮生たちを送り出したのち、カミルは部外者二人に向き直った。
エラン・ケレスの影武者と、地球出身のテロリストの少女。並んで立つ二人に対し、その場で深く頭を下げる。
「本当に助かりました。ジェターク寮を代表して、お二人に感謝を申し上げます」
グエルを上回るほどの大男が、小柄なノレアよりも低い位置に頭を置いている。
スペーシアンのエリート学生が、アーシアンに丁重な礼を見せている。
その事実に虚を突かれたノレアは、一瞬だけだが呆然となった。
気を取り直すのにしばしの時間を使った後、少女はカミルを見つめ、小声で返答する。
「……私のことはいいです。どうか、ソフィの治療の継続をお願いします」
「もちろんです。可能な限り力を尽くさせていただきます」
もう一度、カミルは深々と頭を下げる。
それは非の打ち所のないほど、誠実で、心のこもったお辞儀だった。
最後にカミルは、自分の級友二人に苦笑を向けた。
「まったくお前ら兄弟は、二人そろって何度も苦労をかけてくれる」
「……すまない、カミル」
「…………」
謝罪する兄と、押し黙る弟。二人を交互に眺めてから、カミルは両手を大きく広げた。
そのまま、二人の背中に腕を回す。
「CEOの部屋へ直行するぞ。そこでじっくりと話し合いだ。ジェターク寮伝統の方法でな」
「ジェターク寮、伝統……?」
「そうだ。お前らは寮生とは喧嘩をしなかったから知らんだろうが、こういうときにぴったりの方法があるんだ」
戸惑う二人を、その太い腕で強引に引きずっていく。
単純な腕力勝負なら、グエルですらカミルには敵わない。二人の兄弟は、そのままなす術もなくジェターク社のオフィスまで連行されていったのだった。