貴方の胸に鉄色の弾丸が撃ち込まれる。特別課外活動部が使っているような擬似的な銃ではなく、本物の銃。それから放たれた銀色の閃光は、確かに貴方の急所を貫いたのだ。
「……もしかしたら、依頼等無くとも、私は貴方を手に掛けたかもしれません」
白く長い髪。男にしては珍しい長さだ。もう秋の頃だというのに何も羽織らない姿は、彼が制御剤を飲んでいるからだろうか。確かあの薬を飲み過ぎると体温が感じられなく…
「…その目ですよ。何もかもを見透かしたかのようなその瞳。私は初めて貴方に会った時から、その瞳が気に入らなかったのです。まるで全てお見通しだと言わんばかりの…」
そんな事はない。そうは言いたかったけれど。口から代わりに出たのは赤色の液体だった。心の臓に穴が空いた状態では会話をするのも難しいのか、死ぬのは初めての体験だから知らなかったな。
「…もう直ぐ此処も騒がしくなるでしょう。なので最後に一言だけ。…これからは貴方の顔を見ないで済む、清々しい気持ちですよ」
構えた銃を下ろして、彼は薄れゆく意識の貴方に最期の言葉を投げかけた。声色は機嫌が良さそうで、本当に嫌われていたんだなと貴方は実感した。貴方の写し身であるペルソナが消えていく。薄っすら薄っすらと。精神の写し鏡、それが消えるという事はそういう事だ。チラリと貴方のペルソナを見た後、タカヤは貴方に背を向けて路地裏から姿を消した。残ったのは貴方と何とか形を保っているペルソナだけ。
貴方はペルソナ使いで、影時間適正を持っていた。ならば特別課外活動部の一員なのかというとそれも違う。別に貴方から拒んだ訳では無い。ただ単に、貴方が愚かだったが故に仲間として認められなかっただけだ。
ペルソナに目覚めたのは春頃の話。影時間にいつの間にか居た貴方は、迫りくるシャドウに抗う為にその力を覚醒させた。此処までならば普通であった。しかし貴方のペルソナには一つ、他のペルソナとは違う特性があったのだ。
カサンドラ。貴方のペルソナの名前。ギリシャ神話に曰く、預言者であったが、最期までその言葉を信じて貰えなかった悲劇の王女。それは貴方も同じだった。
未来を見た。1人の青年が奇跡を起こす様を。未来を見た。それはこれから奇跡が起こるまでの道筋。未来を見た。その道筋で起こる悲劇の数々を。貴方は愚かであった。しかし人としての良心や善心を持つ人間であった。故にどうにかしたいと動いてしまったのだ。
初めてで最大の間違えは特別課外活動部のメンバーに会った事だった。いや、正確にはその責任者か。貴方は覚醒疲れにより倒れているところを桐条美鶴と真田明彦に保護された。この時は彼等も、新たなペルソナ使いが見つかったと内心喜んでいた。時は電車に巣くった大型シャドウを倒した辺りだったか。
「……君は何を言っているんだ?」
それが変わったのは直ぐだった。新しいメンバーを追加するという事で、今いる部員と責任者である幾月修司が集まった時に事は起きた。貴方は預言に惑わされてしまった。今は信頼を集める存在である幾月修司を、裏切り者として思わず弾劾してしまったのだ。空気が凍った。本性はどうあれ、幾月修司は朗らかな性格を表に出している。影時間やペルソナ等に詳しい事から大人としても頼られる存在だ。新入り候補のペルソナ使い。昔から知っている理事長。何方の言の葉に信を置くのかなど、桐条美鶴にとっては考える必要もないくらい、当然の事だった。
「─────貴様っ!!!」
性格に難がある。それは此処に居る誰もが一度に分かった事であった。しかし戦力が欲しいのは本音である。少々性格に難があろうとも、ペルソナ使いであるというだけで帳消しに出来るくらいには、人材に飢えているのが切実な話。モヤモヤとしたものが心の奥にあるが、これも一つの試練と思い込む事で桐条美鶴は納得しようとした。扱いが難しい人材ですら扱う。敬愛する父ならばこのような状況でもそう判断すると思ったからだ。故にこそ、敬愛する父を侮辱する事だけは、彼女にとって許せない一線だった。
幾月修司が桐条武治を手に掛ける。信を置く者をなじられ、あまつさえ最後には、父を手に掛ける等という妄言を流せる程に桐条美鶴は大人ではなかった。激昂する彼女の威圧感は2年生達をたじろかせる。冷や汗をかきながらも、真田明彦は落ち着くように桐条美鶴へと言葉を掛けた。それからどうなったかは言うまでもない。幾らなんでも性格に難があり過ぎる。それは其処に居た者達全員が思った事だろう。まあ一人はどう思っていたのかは知らないが、少なくとも仲裁に入る程興味が無かったのは事実だ。
「…うーん…流石に、だねぇ……」
苦い顔をしながら幾月修司はその場の意見を代弁した。貴方は真田明彦に連れられ、一度他の部屋へと移されている。なので今此処に居るのは貴方以外のメンバーだけだった。率先して追い出そうという気持ちはなかったが、一緒に居たい人柄でもない。無言の肯定。そんな雰囲気がロビーに広がる。それを察した理事長は、経過観察という事にしないかと彼等に提案した。
「うん、まあ彼も動揺してるのだろう」
気が触れているとは言わないのが大人である。それならば良いのでは、という雰囲気が仲間内で広がり、貴方は監視付きではあるが自由を手に入れた。未来の結末を変えたいのならば、不自由ではあるが巖戸台分寮に入るべきだった。だが貴方は見事、特別課外活動部のメンバー達から苦手意識を持たれる事に成功してしまったのだ。語るまでもないが、ある人物からは特にだ。
故に貴方は、全てといえる事実を知りながらもその中心人物達と関われなかった。この後も一応は同じ月光館学園に所属するという事で、最低限の関わりはあったが、それだけだった。まあ会うたびに不吉な預言をかましてくる相手等関わりたくもない。自然と貴方を避ける空気が出来上がったのは仕方ない事だろう。
季節は進む。貴方が知る通りの出来事を通して。仲間が増えるに連れて、貴方の価値は少しづつ減っていく。別に貴方の力を借りなくても、タルタロス攻略や大型シャドウ討伐には支障がなかった。寧ろ時には邪魔しようとすらする貴方の行動に辟易している者も居た。大型シャドウは倒してはいけない。何の根拠もない貴方の言葉は誰にも響かなかった。難がある存在から邪魔な存在へと認識されるくらいには、貴方の行動は忌み嫌われていた。
そんな貴方にも、1人、いや一匹の理解者は居た。名は虎狼丸。通称コロちゃんである。虎狼丸は人間ではない。ただ亡き主人を想うだけの一匹の犬である。故にこそだろうか、虎狼丸には人間のルールや規範というものが分からない。当然といえば当然の話。獣であるが故に自分の感性は疑わない。それが何度も己自身を助けた事を理解しているから。虎狼丸は初めて貴方に会った時からこの人間は悪い奴ではないと直感していた。人間の間では愚かという言葉が似合う単純さも、虎狼丸が貴方を警戒しなかった所以か。しかし虎狼丸は迷っていた。貴方が発する言葉が嘘ではないと自分自分の感が言っている。しかし己を助けた者達が信頼する存在が果たして本当に敵なのか。確かに胡散臭くはある。初めて見た時も自分の感が何やらざわついたのを今でも覚えている。しかしこの感と貴方の言葉だけで判断していいものか。虎狼丸は悩んだ。こうして貴方には知らず理解者は居た。しかし通訳係の戦乙女が間にいなかった為に、協力する事が出来なかった。偶に会う時間を一緒に過ごす。それだけの関係である。
貴方の足掻きは大きな流れに抗えない。力もなく、頭もなく。過ぎ去るばかりは時間だけ。ペルソナ使いが増える事に減るのは貴方の存在感だけであった。まあ悪い意味では存在感はあったが。
「貴方を殺しに来ました」
故に助けは来ない。来たとしても事が終わってからだろう。貴方はタルタロスへと入れなかった。監視を付けられている状態であったから。故に力は研鑽されていない。ならば目の前の男に勝てる筈もない。一時的とはいえ、特別課外活動部のメンバー全員を相手取る事が出来る彼に、貴方の実力が勝る筈もなし。一方的に、貴方は敗れたのだ。ペルソナという鎧が無くなったのならば、弾丸は貴方の体を貫通するだろう。人殺しにおいても1日の長がある彼の腕前は、的確だった。
奇しくも今日は彼の弾丸で仲間の一人が死ぬ日だった。それが貴方に変わったのは最期だからなのか。しかし彼がこの場を生き残ろうと、消えた蠟燭の蝋は決して元には戻らない。やがて来る死が少し遠のいたくらいの差だ。貴方は倒れる。貴方が生きている間は運命は決して変わらないのだ。
「ワンッ!!」
死にいく間際に白色の毛並みが見えた。貴方は最期の言葉を彼に託した。自分は何も変える事が出来なかったけれど、未だ役者としてこの先を生きる者が少しでも未来を変えられるように。
それからは貴方が居ないだけの世界の話である。残した預言は成就されるばかり。裏切りも、ニュクスが降臨する事も全て貴方の預言通りに。少し違ったのは、桐条武治が生きている事か。虎狼丸の奮戦により少し変わった未来の話。だかそれだけだ。
預言は起こる前ならば吉兆となり得るが、起こった後には呪いにしかならない。貴方が語った通りに物語が進む。それは特別課外活動部にとっては苦いという言葉すら生温い地獄であった。知っているのに抗えない。貴方の気持ちが分かったのはタルタロスの屋上での事であった。
一本の花を咥えた犬が墓地へと参る。彼は後悔はしていない。自分なりに足掻いたつもりだから。故にこそ悲しくはあるが、この結末を受け入れた。愚かであった貴方。呪いを掛けただけのカサンドラ。貴方とカサンドラが居ない方が幸せだったかもしれない。けれども確かに貴方は生きたのだ。未来というものに振り回されながらも。そんな貴方への敬意を込めて、彼は花を贈った。どうか、走り続けた貴方の魂にせめてもの安らぎをと。
カサンドラ
未来を見通すペルソナ。人型の形をしており、頭には月桂樹。片手には本を持っている。常に本を開いた状態でそれを見る体勢ばかり取っている。これは未来が書かれた本にしか目がいっていない貴方の様を表している。スキルとしての預言は相手の次の行動パターンが分かるとかそんな感じ。まあ分かってても対処出来ないから死んだんだけどね。
貴方
男性か女性かは特に決めてない。なので貴方としか明記しない。ぶっちゃけ居ない方が良かった存在。ただし単に後悔を深めるだけの存在にしかならないからね。原作知識を上手く扱える主人公の逆でとことん駄目な選択をした人物として書いた。なので虎狼丸以外からの好感度は軒並み低い。地雷原を普通に踏み抜くからね。仕方ないね。多分FESで虎狼丸と話している場面を見させられる。その時に語った通りの結末にたどり着いたんだからたまらないよね、ペルソナ3組からしたら。
予想してたけど喰らい話になったわ。まあ仕方ないよね。テーマ的には。あんまり細かく書くと長くなりそうなのでダイジェストで早く終わらせました。長々書くもんでもないしね。
では此処までどうもでした〜。