思うに、人間は進化し過ぎたのだろう。どれだけ知性や理性があれども、お前達は動物だ。ただ食らい、眠り、繁栄する。それだけの生き物と同じなのだ。故に耐えられない。複雑化した社会規範。複数の仮面を使い分ける人間関係。進み過ぎた娯楽は、食べる事、眠る事、そんな基礎的な喜びでは満足出来ないほどに刺激的だ。
単純な精神に対して体験する事が多すぎるのだ。喜怒哀楽。それさえあれば充分なのに、人々は精神すらも多様化し過ぎた。1日に経験する感情が大きく、複雑化している。適応出来る者ならば良いだろう。しかし人間はそもそもそんな複雑な感情を処理出来るように作られていない。故に1人、また1人と、歩みを止める者が出始める。まあ人類全体から見れば些細な数ではあるがね。だから顧みられない。多くの者を助ける方が効率的だ。適者生存。シンプルな死は与えられなくなったが、このルール自体は未だに人間達の中で生きているようだな。
顧みられない者達。はみ出した者達。何れは消える儚くも悲しい存在達。
初めて観測した時は驚いた。逃げ道とはいえ、此処までのものを作るのかと。
次に納得もした。辛いからこそ、逃げたいからこそ必死になるのかと。
そうして決断した。ならば
そうしてこのメビウスは楽園と化した。現代社会に適合出来なかった悲しい者達。逃げたいと切実な願いを想う悲しい者達。そんな弱者達が集う仮初めの楽園。
ふむ。そんな楽園が出来、暫しの時が流れた。私からしたら少しの時間だが、人間からしたら幾許かの時間。傷が癒えれば動き出すように、心に出来た傷が癒えた者達から、現実へと戻りたいという感情を観測した。何故?お前達は逃げたかったのだろう?忘れたかったのだろう?癒えた傷は一時的だ。再び現実という世界に行けばお前達は傷付き、涙を流すだろう。なのにどうして、お前達はそんなにも帰る事を望むのか。
この世界が仮初めの楽園だと気付いても、この場所に居たい者達は、その者達を異分子として扱っているようだが。私は悩んだ。弱者達の言葉、現実より来る者達ならば私は相手にしなかっただろう。だが私の加護下にあった者達の言葉ならば話が変わる。弱者達の中でも一握りの存在。だがそれでも彼等から出た言葉だ。
傷付いても現実に居たいのか?それとも一時的な好奇心のようなものなのか?迷った。少しづつ、その訴えを零す者達が増える事に、私の心は揺らいだのだ。ならば…
『試してみよう。お前達の想いがどれほどのものかを』
こうして私は、舞台へとあがった。管理者としてではなく、傍観者、助力者として。
「ようこそ。我がベルベットルームへ」
目が覚める。初めて目に入ったのは白だった。右を向いても左を向いても、あるのは白ばかり。自分はどうやら
「目覚めはどうかね?快適だとは思うが、一応は聞いておこう」
目の前に居る白衣の男は、自分に対して無機質に問いかけた。確かに、彼の言う通り此処が何処かは分からないが、体調も精神も実に心地よい。健康、良好。そんな言葉がぴったりなくらいに。
「それは結構。ああ、申し遅れたね。私の名前はイゴール。医師兼占い師かな?」
随分とまあ対局的な。オカルトと科学、両方の心得からあるらしい。人間どちらかに傾くとは思うのだが。そんな疑問が顔に出ていたらしく、男はまあそう思うだろうなと肩を軽く竦めた。
「まあ私の事はいい。自己紹介をされたのならば、それに返すのが礼儀ではないかな?」
…それもそうだ。礼儀には礼儀で返す。普通の事だが大事な事だ。
「式島律。……その名前になったか。まあいい、君は占いを信じるかね?」
小声だったから聞き取れなかったが、彼は顎に手を充てると、少し目を瞑った。その後に唐突だが占いについて質問してくるのだった。占いか…まあニュースでやる朝占いくらいは信じてるかな。
「結構。信じてないと言われるよりはマシだ」
パチンと指を鳴らす。するといつの間にか彼と自分の間にテーブルが現れたのだ。少しびっくり。彼、いやいい加減イゴールと名乗ったのだしイゴールと呼ぶか。イゴールは手慣れた手つきでタロットカードをシャッフルしていった。
「愚者…FOOLか…。まあそれ以外が出る筈もないがな」
先程から意味深な事ばかり話すな、イゴールは。愚者、確か愚か者だとかそんな意味だったかな?自分は馬鹿って事か?
「君はよくも悪くも0だ。これからの旅路で様々な事を経験するだろう。君がどの道に行くか、私はそれを見守っていよう」
…?分からないけど激励してくれているのかな。イゴールは最後に自分の手を握ると、
「では、また会う時までご機嫌よう」
意識は其処で途絶えた。
今日は卒業式だ。喜志舞高校3年生である我が身は、こうして晴れて卒業と相成る。これからは大学生活かぁと少しの期待と不安を抱く。まあその前に卒業式なんだけど、先の事をどうしても考えちゃうんだよな。
行ってきますと一言。返す者は居ないけれど、こう言うと何かやる気みたいなのが出るんだよな。マンションの一室から出て、エレベーターに乗る。途中知り合いと挨拶を交わした。卒業式頑張ってねと微笑まれたけど、特に頑張る要素あったかな?まあ良いや、好意は受け取っておかないとね。
クラスメイトと最後の小話。式が始まるまでのちょっとした時間。暗い顔をしてる人も居たけどどうかしたのかな。知らない仲だから深くは関わらないけどさ。そうして馴染のある級友と話を終える。そろそろ卒業式だ。悲しさはあるけれど、次の一歩だと思えば悪くはないさ。
『始まりは近い』
少し立ち眩み。…何か変な声が聞こえた気がした。だけどあんな声は…ん?どんな声だったけ……?あ!ごめんごめん!直ぐに行くから!
「であるからして──」
偉い人の話はどうしてこうも長いのか。卒業式くらいはパパッと済ませてほしい。だって横でウトウトし始めてる生徒居るし。折角の晴れ舞台なのに寝落ちとか勘弁してほしいよ。
『では、また会う時までご機嫌よう』
──ハッ!ヤバいヤバい…少しだけど寝てたみたいだ…。軽く夢見ちゃったし…可怪しいな。昨日はしっかりと寝たのに。校長のお話には睡眠効果があるのか。そんなどうでもいい事を考えていると、校長のお話が終わり。卒業生代表の響鍵介っていう人にバトンが移った。ふむふむ、助かる。彼のお話は短く済みそうだ。それにしてももうすぐ卒業かぁ。実感湧いてくると寂しいね。
──バチッ──
ん…?また目眩か。多いようなら病院行った方が良いかな…これは…。
『新入生代表。響鍵介君、どうぞ』
……え?
「要は帰宅部だな」
へぇ〜帰宅部って噂にあったけどそういう集まりだったんだ。
「信者共は俺達が片付ける!だから隠れてろ式島!!」
おー!すげぇ!何か銃とか持ってますね先輩!胸に何か刺さってますけど痛くないんすか!?
「ガヤガヤ五月蝿せぇ!!」
すいませ〜ん。
「───。どういうつもり?貴方は私達の味方だと思っていたのだけど…」
「今の名前はイゴールだ。なに、好奇心というやつだ」
「……その好奇心でこのメビウスが壊れてもいいの?貴方は」
「それは本意ではない。まあ、試しはしたが、余り期待しているという訳でもない」
「それは何故?」
「
現に今まで、自分が与えたペルソナを御しきれた者は居なかった。今回はやや
「──ペルソナ」
式島律の後ろに、マネキン人形のような巨人が現れる。顔は真っ白。何も羽織らず。手にも何も持っていない。とても弱そうなペルソナ。だがそれでも、確かに
「えぇ!?なにそれYOU?!」
「カタルシスエフェクトじゃないの?」
「あんなの知らないよー!!」
帰宅部の仲間が叫ぶのを耳に聞きつつ、式島律は響鍵介に向き合った。
「何だよ…それ…!」
「行こうか。
人を模した人形。彼にはピッタリのペルソナだ。■■の■から■■■■彼にはこの何も映さないペルソナがお似合いである。
女神異聞録カリギュラ。此処に開幕。
作者繋がりで思い付いたやつ。カリギュラにペルソナ要素入れた再構成的なお話かな。なので主人公の設定やら知らないキャラとか出て来るよ。書く予定はないけど。仲間達のペルソナ考えるの面倒くせぇ!まあペルソナに目覚めるとしても、コミュマックスにしないと何だけどね。
では此処までどうもでした〜。