怪しげな噂とは探せば意外と見つかるものである。まあ地元のとなるとネットではなく、地元の図書館やら、人伝に聞かなければいけないのが少し骨が折れるところだが。そうして見つけたのが異界迷い林だ。名前は適当に自分が付けた。何も無いと不便だしな。噂の内容自体はよくあるもの。その場所に行くと悪い事が起きるだとか、突然人が消えて神隠しにあうとか、そんな内容。地元の学生達には度胸試しという事で結構有名であった。まあ噂通りの自体には陥らず、結局は噂だぜ〜みたいな雰囲気の場所。
「準備はいいかい?琴音ちゃん」
「…うん」
動きやすい服装で来てもらった。流石に体操服だとあれだから汚れても大丈夫なような服を着てくるようにお願いした。まだご時世的には世間の目は緩いが、余り小さな子を連れ回すのはいかん。なので現地集合となった。前に影時間内で案内したので、道順は覚えているから大丈夫だろうとの判断。そうして2人が集まった場所が、沢山の木がある雑木林だ。
「じゃあ行こっか」
「……」
手を繋いで雑木林の中へと足を踏み入れる。少し緊張しているのか前とは違う無口な琴音ちゃん。恐怖に近い感情だが、こうして表情に気持ちが現れていくのを見ると、少しづつだが彼女の心に感情が戻っているのだと実感出来て嬉しかった。色んな表情をする方が可愛いからね、女の子は。そうである手を繋いで仲良く雑木林の奥へと進んでいくのだった。
「此処らへんかな」
「?」
急に歩みを止めた自分に不思議そうな顔を向ける琴音ちゃん。可愛いね。噂では語られていなかったが、この雑木林でやってはいけない行為があるらしい。ただただ歩いているだけなら何も起きないのも当たり前である。何らかの儀式を行う事で異界ヘの道は通じるのだから、偶然にもその行為を行ってしまったものが、異界へと導かれるのだろう。持ってきた鏡に自分と琴音ちゃんが映るように近くの岩の上に鏡を置く。そしてもう一個ある鏡と合わせるように反対側にも鏡を。そしてその間に入れば…
「!?」
辺りに漂う雰囲気が一変したのを感じたのか、琴音ちゃんが自分の服を掴んで近寄る。可愛い。古今東西合わせ鏡は良くない事に繋がるが、どうやらこの雑木林にも当て嵌まるようだ。教えてもらった爺さんには感謝だな。いやまあ爺さんからは忠告のつもりで言ったのだろうが、其処はごめんね。好奇心には勝てなかったよ…。
「うわぁ…広い…」
ぐにゃりと周辺が揺らいだ後、目を開けた視界に映りこむのは何個もある道と、鬱蒼と生い茂る林だけの空間であった。異界迷い林。正解の道を辿らない限り永遠に出る事が叶わない場所だ。歩いても歩いても変わらない風景は迷い人の精神を少しづつ少しづつ苛んでいく。
「ピクシー、マンドレイク」
キョロキョロと興味深そうに道や林を見つめる琴音ちゃん。最初のうちは好奇心の方が勝つよね。自分もすげーみたいな感じだったもん。その間に仲魔を呼び出す。異界という事で顕現するだけのMAGは充満している。召喚しても直ぐに戻される事もない。
「あ!2人共」
「ちわ~琴音っち」
「何か久しぶりだね、此処も」
マンドレイクは気さくに琴音ちゃんに挨拶。毎日限られた時間しか会えないので少し嬉しそうな琴音ちゃん。ピクシーは軽く手を振った後に、懐かしの故郷へと目を移す。最近は影時間浸りだったからな。実力的にも無理に2人を呼び出す程でもなかったし、この異界で2人同時に呼び出すのは久しぶりだ。
「よーし、それじゃあ散策始めるぞ〜」
『はーい』
「私が…先導、何だよね…?」
「うん。キツくなったら直ぐに変わるから、無理はしないでね。琴音ちゃん」
今回はシャッフルタイムの検証と琴音ちゃんの経験値稼ぎがメインである。力が無いと選択肢すらないのがこの世界である。未来の結末から助けようとは思っているが、琴音ちゃん自身に力を持たせても損はないだろう。ていうか戦力は少しでも欲しい。何れは神様の悪魔探してぶっ倒す予定だからな。今のレベルだとあんまり強そうじゃない神様でも無理そうだしな〜。レベル上げどうしよ…。
「出発!」
「うーん…先ずは此処から…」
悩みが出たがそれは置いておき今は異界探索だ。油断してたら危ないから、ちゃんと警戒しとかないとな。悩みは後で後で、後ろで地図を広げながら琴音ちゃんの後をついて行く。オートマッピングプログラム等という便利な代物はない。なので手書きで書いたこの異界のマップである。痛い目にあったり、楽しい事があったり、自身の体で体験した事を綴っているので信憑性は高い。迷った時はこれ見れば脱出ルートが分かるしな。
「……」
先頭を歩く琴音ちゃんは少し気を張り詰めてる感じ。異界ではあるから警戒心が湧いてきたのかな。自分達は見慣れた光景だけど、知らない場所ってだけで警戒度は上がるものだからな。そんな緊張しいの琴音ちゃんに仲魔達は軽く声を掛ける。どうでもいい事を話しながら歩いていると、少し気が楽になったのか、体の強張りも抜けてきた。仲魔は出しといて正解だったな。戦力的にも精神安定的にもバッチリだ。
「今日も覗いてくの?琴音っち」
「え、えーと…それは…」
「新しい事また教えてあげるよ…琴音」
「………」
会話内容がピンク色なのは確実に自分のせいだろうな~。でもこれで琴音ちゃんの感情が戻って来てるし…。まあ、悪くないよね…?
「──ッ!??」
「お、ガキか」
「ハラヘッタ…ハラヘッタァァ…!」
ただ迷うだけでも苦しい場所だが、更には悪魔まで出てくる。昔の人が此処を危ないよ、と口伝に残しておいたのが分かるというものだ。実際立ち向かう術がなければ死ぬからな、此処。友好的ではない悪魔。初めて会うタイプに琴音ちゃんは動揺している。
「ピクシー、マンドレイク」
「あいあーい」
「琴音は見ててね〜」
こういうのも含めての経験値稼ぎだ。レベルが上がるのが一番だろうが、先ずは戦闘というものがどんなものかを理解してもらう。少し震えている琴音ちゃんを優しく抱き締めながら、安心するように声を掛ける。必要な事とはいえ、矢張り心が痛むな。でもやれる事はやっときたい。ごめんね、琴音ちゃん。
「大丈夫?琴音ちゃん」
「……うん、何とか…」
目の前で起きる戦闘を見ながら、琴音ちゃんは思いの外早く立ち直る。自分から立ち上がり、2人の助けに入ろうとしようとする様は、彼女が確かに選ばれた人なのだと理解させられた。
「…先ずは心を落ち着けて」
「ふぅ……」
護身用に小さなナイフを渡してはあるが、悪魔に少しダメージを与えるくらいにしか役立たない。なので頼るのはペルソナだ。乱れた心ではペルソナは呼べない。精神を落ち着かせて、自分の心の内に呼び掛けるように促した。大きく深呼吸をすると、琴音ちゃんは目を瞑る。そして少し経つと、
「サキュバス!」
『ハアッ!』
彼女の体から現れたペルソナは、ガキに向かってアギを唱える。当たるように仲魔達も瞬時にサポートしたお陰で、見事ガキのお腹辺りに命中した。蓄積されたダメージ。ガキの動きが鈍くなる。それを見逃さずに2人の仲魔はガキへとトドメをさした。
「サンキュー、琴音っち〜」
「アギ使えるんだ〜琴音」
「2人共…大丈夫?」
『うん』
「…良かった」
粒子となって消えたガキを確認すると、琴音に集まるピクシーとマンドレイク。ワイワイと仲良く3人で話している光景を見ながら、取り敢えず初戦は乗り越えたなとガキが居た場所を見つめる。
「んじゃ行こっか」
「琴音〜前しっかりねー」
「あんまりゆっくりだと抜かすからね」
「…頑張る」
こうして悪魔と人間4人パーティーで異界探索を行っていった。なるべく自分は手を出さずに琴音ちゃん主導で戦いを行う。メインは琴音ちゃんだからな。自分自身を鍛えるのは後回しだ。そうして日が暮れる前辺りに異界を脱出した。流石に1日では踏破しきれないので、何日か掛ける必要はあるが。初日としては上々どころか満点である。戦えたし、ペルソナも出せていたし。琴音ちゃんを見送ると、家に帰った。まあ夜になったらまた来るので2度手間感はあるが、家に帰らないと不審に思われるからな。此処は用心用心。
「ピ、ピクシーでも出来るんだ…」
「変態だからね~うちのサマナーは」
美少女に見られながらの行為は興奮するね。今日の疲れが一気に吹き飛ぶ感じだ。欲をいえばもっと仲魔を増やしたいんだけど、レベルのせいか今は2体が限界なんだよな〜。そういう意味でもレベルアップはしたい。琴音ちゃんの直ぐ目の前で行為を行う。手は出してないからセーフ。絵面は大分ヤバいけどね。琴音ちゃんも興味津々って感じに見てるからOKでしょ。
「ばいば~い」
「…また明日ね、お兄さん…」
顔を真っ赤に染めた琴音ちゃんを家まで送る。人目を気にせずに、抱っこして送り届けられるのは影時間ならではの便利さだな。
「うーん、どう鍛えたものか」
寝る間際にも考える。新しい異界等そうホイホイとは見つからない。なので今のところ打ち止め感が凄い。うーむ、どうしたものか…。新しい仲魔が欲しいという欲望と、それを叶えられないもどかしさが募る夜であった。
何か仲魔の方が琴音ちゃんと仲良くなってる気がする。疎外感だね。
多分語る役割の人が居ないから此処で設定明かし。この世界はニャルラトホテプが弱まっている状態。なので噂とかがあったもセーフ。独自解釈だけど、ニュクスが今まで歴史の影にいたのはニャルが負の側面をコントロールしていたからなのではと考えた。死ぬという事への渇望や興味は負の側面を司るニャルの役目かなーと。で、多分直ぐに死ぬような結末ってニャルは好まないと思うから、ニュクスに死の願望というネガティブな感情が向かないように裏でコントロールしてたという設定。故にニャルが弱まっているこの世界ではニュクスに向ける感情を抑制するものが居ない為にニュクスは降臨したと設定している。フィレモンは相方が弱まっているし、この問題を解決するのも人間自体の役目だと傍観を決め込んでいる。単純に力も無いしね、今は。これらの事情を知っていそうなイゴールさんですが、別に語る必要もないのでだんまり。エレベーターガールさんは多分知らない。なのでこの作品の裏設定を此処に書いときますね。
まとめ
ニャルが居るとニュクスは出ない。だけどニャルが好き勝手する。
ニャルが弱まる。もしくは居ない。そうするとニュクスをコントロールする奴が居ないので復活する。こんな感じ。
長くなったけどこんなところで。ではまた〜