【完結】ブラック★ロックシューターな魔物の子 作:烏何故なくの
「何を、言ってるんだ……?」
「落ち着きなよ、禄郎。君は私のパートナーだったし、信じられないのも無理はない。最初から説明しようか」
目の前のロックだった存在は、オレを宥めるように落ち着いた口調で話しかけてくる。
ロックとは真反対の、どこか芝居がかった口調。
それがオレには、どうにも不快だった。
「ロック、なんて魔物の子供は最初から居なかったんだよ。ロックの正体は、バオウと同じ意思を持った呪文なんだ」
「……じゃあ、なんでロックは本を持ってたんだよ?」
「さぁ。クリアがロックに全ての力を譲渡したら自然とそうなっていたんだ。もしかすると、魔本のバグかもしれないね。魔本を作った存在も、意思を持った呪文に自分の力を全部託す、なんてことは想定していなかったんじゃないかな」
オレは本を持っていた右手を見る。
クリアに本を取り上げられたオレの魔本の色は、カディス・ブルーから透明に変わってしまった。
元々、クリアの本だったと言うことなのだろう。
「……なんで、クリアはそんなことしたんだ?」
「アシュロンに出会って、魔物の可能性を思い知ったんだよ。もしかすると自分並みに強い存在が居るかもしれない。そう言う時の為に、自分の中の力を育てることにしたんだ。君がパートナーになってくれたから、ロックは成長することができた……。おかげで、私はクリアもう一人分くらいのパワーを手に入れられたよ」
そう言って、シン・グ・ラブと呼ばれた少女はオレの首を締め上げる。
「……ロックの意識は、どこにいったんだ!?」
「消えたよ。元々私の人格に上書きする形で現れた人格だから、ロックの方が異物なんだ」
「なんだってそんなこと……!!」
「全ての魔物を消すっていう私の命題が、万人に理解されないことはわかっていたからね。ロックの人格は、人間のパートナーに取り入るためだけに作られた存在なのさ」
前々から思ってはいた。
ロックの存在がいるということは、百人の魔物の王を決める戦いで誰か消えてしまった存在がいたんじゃないかって。
これが、真実なのか?
ロックの人格は、オレに取り入るだけに作られた仮初のものだったなんて。
オレの眼前に、シン・グ・ラブの顔が近づいてくる。
「オレを、殺す気か?」
「まさか。もっと有益に使うよ。私はバオウと似た力でね。術を飲み込むことはできないが、魔物や人間を飲み込んで知識を自分のものにできるんだ」
シン・グ・ラブの口が大きく開く。
オレの首筋に、鋭い痛みが走った。
「ネブレイド」
バギ、ぐしゃばりボキぐちゃ。
不快な音を立てながら、オレはシン・グ・ラブに飲み込まれた。
◾️◾️
△月‥日
(追記)
シン・グ・ラブに飲み込まれたと思ったら、いつのまにかだだっ広い空間にぼんやり浮かんでいた。
もしかして死後の世界かとも思ったが、腕は動くし文字も書ける。
読心能力を使おうとすれば、シン・グ・ラブと戦うみんなの情報が頭に直接流れ込んできた。
どうやらここはシン・グ・ラブの腹の中らしい。
文字を書く以外にやることもないし、とりあえず日記の続きを書こう。
シン・グ・ラブとクリアは、オレを飲み込んだ後に他の魔物も取り込もうとしたらしい。
まずは弱っていたロデュウが飲み込まれた。
それを見たゼオンはファウードのワープ装置を使い、近隣の無人島までコントロールルームの全員をワープさせた。
コントロールルームにいては、全員飲み込まれると思ったらしい。
無人島では、ゼオンとクリア、シン・グ・ラブの戦いが始まった。
ゼオンが二人の相手をしている間に、デュフォーはゴームと交渉をし出した。
「シン・グ・ラブがお前を飲み込めばワープの力は使えるんだ。もはやクリアにはお前を生かしていく理由がない」
交渉っていうか脅迫だな。
でも、もうクリア側にゴームの生存を許す理由は無かったのは確かだ。
ゴームとの交渉が終わった段階で、ファウードの外にいたブラゴとアシュロンが合流。
アシュロンとゼオンが前線を張り、ブラゴ、チェリッシュ、サイフォジオで復活したバリーとガッシュがサポートに回っていた。
あと、パピプリオも結構な働きをしてくれた。
煙幕を出すモケルドや、油のように滑る液体を出すニュレイド、粘着性の高い液体を吐き付けるダレイドを使い前線をサポートしていた。
ゼオンもアシュロンも強かった。
圧倒的な防御力を誇るアシュロンが攻撃を受けとめ、ゼオンが破壊力のある一撃を叩き込む。
二人の連携は、初めて会ったばかりだと思えないほどに洗練されていた。
しかし、戦いは長く持たなかった。
クリアとシン・グ・ラブの集中攻撃を受け、アシュロンが倒れてしまった。
クリアとシン・グ・ラブはそれぞれが別個に術を行使できるらしい。インチキすぎる。
アシュロンはそのままネブレイド……吸収されてしまった。
一度前衛が崩れると後は速かった。
アースが、チェリッシュが、モモンが、パピプリオが、次々に吸収されていってしまった。
ゴームだけは吸収されないように、デュフォーの指示で戦いの序盤でウマゴンに本を燃やしてもらっていた。
ゴームの力だけはクリアに持たせちゃいけなかったからこその決断だった。
「僕が絶対に生き残るから! クリアを王にはさせないから!!」というキャンチョメの説得がなかったら、ゴームは本を燃やさせてくれなかっただろう。
千年前の魔物との戦いの後でゴームとキャンチョメが合っていなかったら、ゴームはキャンチョメに心を開いてはくれなかったと思う。
思い返せば、あの時ゴームはロックを見張っていたのだろう。クリアの力を蓄えているロックが、うっかり戦いに負けて魔界に帰ってしまわないように。
どんどん仲間がシン・グ・ラブに吸収され、もはやクリア達と戦えるのはゼオンだけになってしまっていた。
ティオの最強防御呪文、チャージル・セシルドンとゼオンの最強攻撃呪文、ジガディラス・ウル・ザケルガの合わせ技は強力だったが、クリア達を倒すには至らなかった。
しかしゼオンには必殺の策があった。
ガッシュのバオウだ。
ゼオンの雷の力を全てガッシュに貸し与え、ガッシュの父が鍛え上げたかつてのバオウの力を再現する奇策。
ゼオンをネブレイドし気を緩めたシン・グ・ラブは、ゼオンのマントに隠れていたガッシュに気づかなかった。
ガッシュの放ったバオウ・ザケルガは、クリア達にも止めようがないほど強力で強大だった。
クリアもシン・グ・ラブも体の殆どを消し飛ばされていた。そこまでしても死なないのは、流石のラスボススペックと言うべきか。
クリアは体を治し、完全体になる為に十ヶ月程姿を隠すことにした。
十ヶ月。
それがガッシュ達に与えられた期限だった。
その間に、ガッシュ達はクリア達に勝てるくらい強くならなくてはいけない。
ネブレイドの被害を免れ、クリア達と戦えるのは六人だけだった。
ガッシュ、ティオ、ウマゴン、キャンチョメ、バリー、ブラゴ。
どうにか彼らがクリアに勝ってくれることを願う。
今のオレにはそれしかできない。
「月♭日
感覚を研ぎ澄ませば、シン・グ・ラブに取り込まれたみんなの心が伝わってくる。
みんなは完全に吸収されたわけじゃなく、オレと同じように体内に収納されているらしい。
オレ達が吸収されても意識を失っていないのは、心の力を削らないためだろうか?
⁂月/日
クリアは自分のパートナーである、ヴィノーの乳母代わりをしていたらしい。
ロックが大きい胸に反応していたのは、もしかして乳母代わりをしていたクリアが母乳を求めていて、その記憶が僅かに残っていたから……。とか、ありえるだろうか?
数ヶ月も一人だと変なことばかり考えてしまうな。
]月{日
ロックに会いたい。
寂しい。
¿月〓日
シン・グ・ラブが現れてから、九ヶ月ほど経っただろうか。
ガッシュ達に動きがあった。
修行を終え、クリアとの決着をつけに来たのだろう。
ガッシュ、ティオが囮になり、その隙に他のメンバーがクリアの元まで辿りつく作戦らしかった。
シン・クリア・セウノウス・バードレルゴはウマゴンの活躍で。
シン・クリア・セウノウス・ザレフェドーラはティオが一人も民間人に被害を出すことなく、受け止めきった。
全力で強力な術を連発した代償として、ティオもウマゴンも魔界に帰ってしまったが、二人の頑張りのおかげで、ブラゴ、バリー、キャンチョメ、ガッシュがこの順にクリアの元へと辿り着くことができた。
……それにしても、シン・グ・ラブはどこでこの戦いを見ているんだ?
太平洋からロッキー山脈の戦いまで、残さず視認している。
地球上でそんなことが可能なのか?
◾️◾️
「遅かったなぁ!! ガッシュ!!! 清麿!!!」
ブラゴの声がロッキー山脈に響く。
ティオとウマゴンのおかげで、オレ達は無傷のままにクリアの元へと辿り着くことができた。
キャンチョメとバリーに目くばせをする。
もうオレ達の間に会話は要らない。オレ達の思いは一つだ。
クリアを、絶対に倒す!
「ザグルゼム!!」
ガッシュの口から放たれた光の玉が、オレから数m離れた地点に着弾する。
地面に電撃の力が溜まったのだ。
「は。今になって威力強化呪文か? 力を溜めている暇があるのか?」
「シン・ポルク!!」
キャンチョメの最強の術、自分も周りの景色も本当に変える術の力でロッキー山脈の大地が花畑に変わる。
ザグルゼムが当たった場所は一匹の蝶に代わり、クリアの周りを羽ばたき出す。
「またこの術か!? もうこの術の対処法はわかっている!!」
「バ・スプリフォ!!」
クリアを中心として、消滅の力の波が全方位に広がった。
ザグルゼムの力を溜めていた蝶もまとめて消されてしまう。
クリアの消滅の力を、キャンチョメの幻術は突破できない。
だが、ブラゴとバリーなら話は別だ。
「バベルガ・グラビドン!!!」
「……? なんだ、どこに呪文を放った?」
相手を強力な重力で押しつぶす、バベルガ・グラビドン。
しかしこの術はクリアを押しつぶす為に使ったわけではない。
ブラゴの狙いは、空中で待機していたバリーだ。
「ディガル・ドルゾニス!!!」
ブラゴの重力の力も加算し、バリーは一本の矢のように体を加速させていく。
どずんっっ、ど重厚な音がした。
「く、ぁぁぁぁああぁっっっ!!?」
クリアが苦悶の声を上げた。
バリーの一撃により、クリアは右腕を両断されていた。
「ザング・マレイス!!!」
「エクセレス・ザケルガ!!!」
ここが好機だと、ブラゴの重力による斬撃がクリアを追い詰める。
オレもタイミングを合わせ、クリアが回避できないタイミングで術を放った。
「グォオオオオオオオオオオオオオオォオオオオオオッッッ!!?」
「クリア!?」
クリアの体をガッシュの放った電撃が襲う。
ヴィノーが困惑の声を上げた。
クリアは地面を転がりながら、大きく吹き飛ばされた。
「……出していいぞ、ヴィノー。「シン・クリア」だ」
幽鬼のような顔で立ち上がったクリアがそう呟く。
その言葉を聞いた瞬間、オレのアンサートーカーの力が反応した。
シン・クリアを倒してはいけない。
倒した瞬間、クリアは完全体になる……!
力に体を乗っ取られ、破壊を振り撒くだけの存在へと変わってしまう。
「シン・クリア・セウノウス!!」
止める間もなく、ヴィノーが呪文を唱える。
強大で神々しい、天使のような力の塊がオレ達の前に顕現した。
しかし、この場には頼れる仲間がいる。
シン・クリアを消し飛ばさずに、クリアだけを倒せる。
「ブラゴ! シン・クリアを押さえつけてくれ!!」
「シン・バベルガ・グラビドン!!!」
シェリーが呪文を唱えると、強大な重力の波がシン・クリアを押しつぶした。
星の力も借りた一撃は、天使のような力の塊を地面に押さえつけた。
「キャンチョメ、バリー! 今のうちに…!!!」
オレが言葉を言い終える瞬間だった。
はるか頭上から降ってきた光の槍が、シン・クリアを撃ち抜いた。
「な………!!!?」
シン・クリアの体がひび割れ、中から悪魔のような怪物が姿を現した。
「力の支配」が始まってしまった。
もはやクリアもヴィノーも意識がない。
ただ力の塊に心の力を供給するだけの、エネルギー体になってしまった。
今の一撃は……シン・グ・ラブの仕業か!!
オレのアンサートーカーの力が答えを弾き出す。
シン・グ・ラブは最初からこれが目的だったのだ。
直接的にオレ達に攻撃せずに、クリアを完全体に移行させるのが目的。
その為に、月面からオレ達の戦いを観戦してやがった。
呪文の力で構成され、肉体を持っていないシン・グ・ラブは宇宙空間でも存在できる。
アシュロンから奪った高速移動の力で月面まで移動し、モモンの魔力探知技術で地球の存在を知覚。
チェリッシュの遠距離攻撃呪文に他の魔物の力を加算し、月面からシン・クリアへの狙撃を可能にしたんだ。
「清麿!! 指示を!! 早くしろ!!!」
「う、く………!! 奴に攻撃して一番効果が出そうなのは、奴の眉間にあるクリアの体に額だ!! 全員でそこを撃ち抜くんだ!!!」
絶望している暇はない。
オレ達は絶対に、コイツを撃ち倒さなければいけないんだ!!
「シン・バベルガ・グラビドン!!!
「バオウ・ザケルガ————!!!!」
『狙いは、いい………。ただ圧倒的なのは、力の差!!』
完全体になったクリアから放たれた消滅の力は、オレ達の最強呪文をあっさりと吹き飛ばした。
もうガッシュも死にかけている。
手足は消滅の力で痩せ衰え、心の力もまったく残っていない。
だけど、オレ達は負けるわけにはいかないんだ。
ティオにも、ウマゴンにも、ゼオンにも、魔界の未来を託されてる。
こんな所で、終わるわけには、いかないんだ…………!!!
決意した瞬間、オレの持っていた本が輝きだした。
新しい呪文が出た時とも違う、金色の輝きだ。
◾️◾️
「ふむ、やはり金色の本が現れたか」
月面で、一人私は呟く。
禄郎の知識にあった通り、ガッシュの本は金色に光り始めた。
私は禄郎をネブレイドした瞬間に、ガッシュを力で叩きのめすのは諦めている。
ガッシュはどれだけ絶望的な実力の差があろうとも、必ず諦めない。
ロックの記憶から、それはわかっている。
だから、私達が魔物全ての消滅を願う限りは、どんな手を尽くそうとも最終的にはあの金色の本が現れるのだろう。
「だから、私は一つ作戦を思いついた」
すでにヴィノーは心の力を生み出すだけのエネルギー体になった。
私も自由に呪文が使える。
「シン・グ・アムナグル・ドユ・ストレングス」
呪文を唱えると、私の首から巨大なアームが現れる。
この呪文はアム・ストレングスをもとに作った力だ。
スピードは遅く、射程も短く、実践的な呪文ではないが……パワーだけは、とにかくある。
「ふ………ッッ!!!」
私は力いっぱい、地面を……私が立っている、月面を殴りつけた。
宇宙空間だから音はしないが、凄まじい揺れが起こり月面に大きな大きなクレーターが発生する。
よし、この衝撃で月の公転はズレた。シン・グ・アムナグル・ドユ・ストレングスには、求めていただけのパワーがある。
何度もアームを叩きつけば、そのうち月は地球に落下していくだろう。
生半可な術では、ティオのチェージル・セシルドンに防がれてしまう。
だから月という巨大な質量の塊を使う必要があった。
これでガッシュ達は、落ちてくる月と完全体になったクリアの対処両方に追われる事になる。
もちろん、私もただ黙って見てるだけじゃない。
「シン・グ・グラード・デッド・マステラ」
私の手の前に、何十mもある巨大なライフルが現れる。
チェリッシュの呪文を原型に、色々な魔物の力を複合させて作った狙撃の呪文だ。
シン・クリア・セウノウスを撃ち抜いたのもこの呪文だ。最大射程は約38万kmといった所かな。
さぁ、ゲームを始めよう。
ガッシュ達は私の全てを叩き伏せ、ハッピーエンドを使うことができるのかな?