【完結】ブラック★ロックシューターな魔物の子 作:烏何故なくの
「よく生きていられたな? ガッシュ、そして清麿」
ゼオンの言葉にオレは粗い呼吸を返すしかできない。
死の淵から復活したオレは、確かに何かが変わっていた。
どうすれば攻撃を躱せるのか、どのタイミングであれば攻撃を適切に撃ち込めるか。
そう言ったものへの答えが瞬時に頭の中で弾き出せた。
呪文も一つ一つが強力になっており、ロデュウは再起不能なまでに痛めつけ、ジェデュンは本を燃やすことができた。
しかし問題はゼオンだった。
オレの指示でなんとか攻撃を凌げてはいるが、一瞬でも指示を誤るとチリ一つ残さず消し飛ばされうる。
ゼオンとの力の差がここまであるとは……。
そしてゼオンは戦いの中で、自分が兄であることを明かしてきた。
「ならばなぜ、お主はそうまで私に憎しみを……」
「簡単だ。……バオウをお前に奪われたからだよ!!!」
ガッシュの問いに、ゼオンはがなりながら答える。
ゼオンが言うには、バオウは魔界の王であるガッシュの父の最強の呪文らしい。
ゼオンはデュフォーと共に、オレ達をゆっくりと、そして確実に追い詰めてくる。
く、バオウを使うしかないのか……?!
しかし今のバオウからは異様な感じがする。使えば何か恐ろしいことが……!
クソ、迷ってる時間はねぇ。オレ達が負けたら世界が滅ぼされるんだ!!
「いくぞぉおおおぉガッシュ!! バオウ・ザケルガ————!!!!」
そうして現れたバオウは、今までとは形も規模も変わっていた。
バオウはガッシュの体も、オレの力も飲み込み喰らい尽くす術に変貌していた。
ゼオンがバオウを破壊してくれたおかげで、なんとか生きながらえたが………。
ゼオンが健在な今、寿命がほんの僅かに延びただけに過ぎねぇ。
まずは、ファウードの回復液でガッシュを復活させねぇと………!!
ゼオンが手をオレ達に向ける。
マズい、雷が来る……!!
「ゼオン、マントで身を守れ」
「何、をぉっ……!?」
デュフォーがゼオンに指示を出した瞬間だった。
オレの目に止まらないスピードで動いた誰かが、ゼオンの顔を殴り飛ばした。
「あ、あれは……」
「ロック、か……?!」
フォルゴレの言葉に耳を疑った。
今のが、ロックだって?
瞼を無理矢理開き、目の前を見る。
そこにいたのは、間違いなくロックだった。
服は無骨で荒々しいデザインになってはいるが、そのシルエットは間違いようがない。
ただ、その姿からは何か恐ろしいものを感じる。
さっきのバオウのような、ただ破壊するためだけの力を。
「なんだ、お前は?! バリアーのトラップに捕まっていたガッシュの仲間だな!?」
「……」
ゼオンの言葉に返事を返さず、ロックは拳をゼオンに見舞う。
その殆どはゼオンに受け止められているが……二、三発、ゼオンの防御をすり抜けて攻撃がゼオンに届いている。凄まじい身体能力だ。
「大丈夫か、清麿!」
「禄郎さん……」
禄郎さんがオレを、フォルゴレがガッシュを担いでティオの元まで運んでくれる。
ティオのサイフォジオで回復しながら、オレはゼオンとロックの戦いを見ていた。
ロックはノーガードでゼオンの攻撃を受けながら戦っていた。
十発攻撃を受けながら、三発殴り返す。そういう戦い方だ。
そんな戦い方でゼオンに喰らい付いているのだから、今のロックのタフさは規格外だ。
「禄郎さん、今のロックはどうなっているんだ? 身体能力強化呪文を一、二発使った程度じゃああはならない筈だ」
「オレにもわからん……。先程出現した、インセイム・バルセルクという呪文を唱えたらあんな風に……」
今のロックは、なんというか存在の根本が書き変わっているような気がする。
ただの強化呪文じゃない。
しかし、そんなロックもだんだんと押されだした。
デュフォーの指示がある限り、ただ殴り合って勝つというのは不可能だ。
「ザケ……。! ゼオン、手を下げろ」
「何!?」
ロックの顔目掛けて電撃を放とうとしていたゼオンの腕が、何かに弾き飛ばされる。
な、何が起こってるんだ!?
「おい、チェリッシュだ! あそこにいるのはチェリッシュだぞ!」
「え? 本当なの!?」
どうやら遠くから、チェリッシュが呪文でゼオンの腕を弾き飛ばしたらしい。
凄まじい威力の呪文だ。ゼオンの体に傷をつけた………!
常に密着してゼオンに肉弾戦を強いるロックと、精密かつ強力なチェリッシュの狙撃。
相性はいいと思うが……。
……ダメだ。徐々に動きを見切られ始めた。
ゼオンはロックを盾にするように立ち回り、チェリッシュの狙撃を封じだした。
クソ、ガッシュが起きてくれたら加勢に行けるのに……!
「チ、面倒だ! まとめて一掃してやる!」
「レード・ディラス・ザケルガ!!」
「負けるかぁ! バギャム・カノンランズ!!!!」
ゼオンの作り出した雷のヨーヨーと、ロックの手から出現した巨大槍がぶつかり合う。
バギャム・カノンランズは普段より大きい。今のロックは、呪文もパワーアップしているのか。
数回ぶつかり合う度に、巨大槍はどんどん傷ついていく。
あのヨーヨーは絶対に止めなくちゃいけない。
あのヨーヨーなら、チェリッシュごとロックを吹き飛ばせる。
「みんな、オレから離れてろ!」
「え、何をする気なの!?」
「ちょっと裏技がね。……心の力が足りないなら、引っ張ってくればいいんだ!!」
禄郎さんが目を瞑る。
次の瞬間、禄郎さんの本が凄まじい光を放ち出した。
この気配は……デュフォー?
頭の中で瞬時に答えが導き出される。
禄郎さんは心を他人と同調させる力で、デュフォーの精神状態を再現しているんだ。
「う、ぉぉおおおぉっ………」
禄郎さんがえづいた。
体から体力の汗を流し、目に涙を浮かべながらも禄郎さんはゼオンを見据える。
……精神状態を再現するだけでこんなにえづくなんて、デュフォーはどれだけの負の感情を蓄えているんだ?
「頼むぞロ————ック!! ゼオンもデュフォーも倒してやってくれ!! これ以上深い闇にまで、アイツらを落とさないでやってくれ!!!!」
禄郎さんの叫びと共に、ロックが召喚した巨大槍が大きく、強くなっていく。
数回の拮抗の後、ついに巨大槍がヨーヨーを打ち破った。
ゼオンの右腕を、槍が掠める。
「や、やった……! ゼオンの呪文を打ち破った!!」
思わず喜びの声を上げたオレの背筋に、寒いものが走った。
オレ達の方に、巨大槍が倒れ込んできていた。
「マ・セシルド!!」
ティオの出現させた盾が大きくたわむ。
なんとか受けきれたが、もしティオがいなかったら今の一撃でオレ達は全滅していただろう。
「ろ、ロック!? どうしたんだロック!!? ……本が、手から離れない!?」
禄郎さんが困惑の声を上げる。
オレは直感的に理解した。今のロックはバオウと同じだ。
制御できない、暴走状態の呪文。
ロックがこちらに振り返る。
ゼオンより、オレ達が喰らいやすい獲物として判断されたのだろう。
「…………」
ロックがこちらに巨大槍を振るってくる。
マズい、ガッシュがまだ起きていない……!! 逃げきれない!!
「シュート!」
「オラ・ノロジオ!!」
迫り来る槍をチェリッシュの弾丸がずらし、一瞬ブレた槍をモモンの呪文でゆっくりにする。
二人の呪文の効果でなんとか槍の射程から逃れられたが、体力の消耗が激しい。
「………デュフォー、なぜジガディラスを撃たない?」
「アヒル口の魔物が厄介だ。ジガディラスも模倣されうる。……バオウを倒すために心の力も使い過ぎた。今は心の力を回復させておきたい」
「まぁいい。オイ、もう回復しただろう? 奴らを黒髪の女と一緒に潰せ、ロデュウ」
ゼオンの言葉と共に、柱の影からロデュウが現れた。
くそ。さっき散々ザケルを浴びせてやったのに、もう治ったのか?!
「あの女と一緒なら、楽に潰せる筈だ。ガッシュもいない。今のお前には楽な仕事だろ?」
「……………」
「やれ、ロデュウ」
「ギガノ・ラギュウル!!!」
ロデュウの翼から衝撃波が放たれる。
……ゼオンに向かって。
「何!!?」
ゼオンは心の底から驚愕していた。
なんだ、仲間割れか……?
ロデュウはファウードの細胞を埋め込まれている筈だ。
ファウードには逆らえないようになっているのに……。
「一つや二つの障害で、奴隷みたいに支配されてたまるかぁ!!!」
ロデュウは自分の体がファウードの細胞で崩れるのも厭わず、ゼオンに攻撃を続けている。
なんて意志力だ。
ロデュウはゼオンに殴り飛ばされ、床に転がる。
ロデュウはよろよろと立ち上がると、近くにいたロックにも攻撃を始めた。
「お前も自分の呪文に乗っ取られてるんじゃねぇ!! 仏頂面しやがって、クソムカつく顔が更にクソムカつくぜ!!!」
「……」
ロックはロデュウの拳を受け止めながら、ロデュウを思いっきり殴り飛ばす。
でも無闇に追撃をしようとはしていない。
今のロックにも、僅かだけど理性があるのかもしれない。ロデュウの言葉を聞き取れる、理性があるのかも。
だったら……!
「行くぞ禄郎さん! ロックの所まで急ぐんだ!!」
「え、何を……!?」
「ロックを説得するんだ! それができるのはアンタしかいない! ウマゴンは禄郎さんを乗せて、ティオはギガ・ラ・セウシルでロックを閉じ込めるんだ!!」
ロックの意識を取り戻すには、デュフォーが心の力を貯めている今しかない。
「わかった、ディオエルム・シュドルク!!」
「ギガ・ラ・セウシル!!」
ウマゴンの体が鎧で覆われ、ロックが円形のバリアーに閉じ込められる。
ロックは煩わしそうにバリアーに拳を振るう。数秒とたたずにバリアーは粉々になる。
クソ、拳の威力が強すぎる!
「清麿、私達に任せてくれ! ミリアラル・ポルク!」
「ジャイロ・ロック・リグノオン!!!」
キャンチョメの手から放たれた大量の鎖が、ロックの体を締め付けた。
そうか、キャンチョメのコピーの呪文があった!
この呪文は相手の脳内にある呪文を再現する術だから、ロックが強くなっていればいるほど拘束力が上がる!
「……フォルゴレ。今のロックがライオンさんなんだね?」
「そうだな。味方も自分も傷つけるライオンさんだ」
「だったら、僕らが止めてあげなきゃ! 先輩の僕が!!」
キャンチョメはそう言って、更にロックを拘束する鎖を増やす。
最高だぜ、キャンチョメ!!
「禄郎さん! 今のうちにロックに読心の力を! 相手の心に寄り添うんじゃなく、自分の心を相手に伝えるんだ!!」
「こ、心を伝えるって! そんなことしたことないぞ!」
「大丈夫だ!! 必ずできる!!」
今のオレは直感的に理解できる。
禄郎さんの力は他人の心に寄り添う力。
感情や記憶を受け取るだけじゃなく、自分の意思を相手に伝えることもできる筈だ。
禄郎さんは数秒悩んだ後、意を決してロックの手のひらに触れる。
頼む、どうにかなってくれ……! そろそろデュフォーの心の力も貯まりきる筈だ。
時間はないんだ。
◾️◾️
「聞こえるか、ロック? オレの声が……」
禄郎と呼ばれた人間が自分のパートナーに呼びかけるのを、オレとデュフォーはジッと見つめていた。
あのロックとかいう魔物の力は、オレ達の力に似ている。
破壊を齎すだけの力。
産み出すのではなく壊すための力。
破壊の力そのものであるあの黒髪の魔物に、ガッシュ達がどういった答えを出すか?
オレは興味が湧いている。
「これ以上深い闇にまで、アイツらを落とさないでやってくれ」、だったか。
ただの同情にしては真に迫った声だった。
デュフォーも禄郎の叫びを聞いてから、禄郎に少し興味を持っているように思える。
「…………わからない。私は、誰……………」
「あ? そりゃロックだろ」
「私には、何も、何もない……………」
虚な目で、ロックは言葉を連呼する。
ガッシュのバオウの目にも似た、真っ黒な目だ。
「お前なぁ、だったらニンジン嫌いなオレの同居人は誰なんだよ」
禄郎はあの虚な目にも一切怯まない。
ロックと目を合わせ、言葉を続ける。
「ガッシュと遊んで楽しかっただろ。キッドが消えて苦しかっただろ。キャンチョメの芸を見て笑ってただろ」
「……………」
「じゃあほらアレだ。色は覚えてないか? 赤色はガッシュの色だったよな。ティオは朱色、ウマゴンは薄いオレンジ。キャンチョメは黄色だ。………本当に、覚えてないのか?」
ロックの左目に灯っていた光が、徐々に勢いを失っていく。
紫色の火が、だんだん青色に戻ってきている。
「……ふん、長くなりそうだな」
オレはファウードに合図を送る。
日本への進行の命令を取り消し、ファウードを直立させる。
ファウードの外で魔物によって行われていた攻撃が激しかった。そのせいで、未だにファウードは日本へと着いてはいない。
「いいのか、ゼオン?」
「ガッシュと決着をつけるのに、ファウードの力はいらん」
今のオレの目標は、ジガディラスでバオウをねじ伏せることだけだ。
「ゴ———————………」
オレがファウードへの命令を取り消した直後だった。
突如として黒いモヤのような、カビのようなものがコントロールルームの奥に現れた。
その中から、のっぺりとした昆虫のような魔物が現れる。
……あれは魔物が本来持っている力か?
コントロールルームを開けたままにしていたから、どこからか魔物が入り込んだか。
オレが魔物に声をかけようとした瞬間だった。
昆虫のような魔物の後から、白い青年が這い出てきた。
「な…………?!!?」
オレの背筋に悪寒が走る。
他の魔物にゾッとしたのなんぞ、人間界にきて初めてだ。
魔力探知からは何も反応しない。それがかえって不気味だった。
「ゼオン、だったっけ。始めまして、僕の名前はクリア。クリア・ノート」
「く、クリア……!!」
「あれが……??!」
その自己紹介を聞いて、ガッシュ達がざわめき出す。
ガッシュ達はこの魔物を知っているのか?
クリアはまるで散歩に来たかのような気軽な足取りで、ガッシュ達の方へ歩いていく。
視線の先にあるのは………ロックだ。
「ふむ、随分実ったね。そろそろ収穫どきだな」
「な、何を言ってやがる………」
「力を返してもらいに来たのさ」
禄郎の言葉に、クリアは返事になってない言葉を返す。
クリアは禄郎の手から本を取り上げると、昆虫のような魔物の背後へと本を投げ渡す。
「さぁ、返ってこい。全てを飲み干すセウノウスの大顎よ……」
「シン・グ・ラブ・セウノウス!」
昆虫のような魔物の背後にいた、透明な球体に包まれた赤子が呪文を唱える。
その瞬間、ロックの左目の炎が膨張した。
青の炎は紫に、そして紫から朱色に。
炎に炙られるようにしてロックの髪の色も変わっていく。
消しゴムで消されたように、黒から白に。
それとともに、クリアの体からも恐ろしいまでの魔力が放たれる。
「力を返す」……。つまり、ロックに今まで力を預けていたということなのか?
「……久しぶりだね、クリア」
「力の蓄え、ご苦労だった。シン・グ・ラブ」
親しげに会話をする二人からは、圧倒的な威圧感が放たれていた。
どうやら、オレ達を放っておく気はないらしい。
The GAMEから