地雷系女子は勇者王が好き【完結】   作:マイク徳田

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第1話:私だけの『勇者王誕生!』?

 グォルルルル、と獅子の吠え声が巻き起こり、胸にドリルを携えた黒色の歪な機械巨人――ゾンダーロボ『EI-15』はその方を振り向いた。

 見ると、そこには胸にライオンの頭部の衣装を付けた白色のロボット『ガイガー』が腕を組んで待ち構えていた。

 東京の新都心であるGアイランドシティ、宇宙開発公団タワー眼前の海辺にて、その死闘が幕を開ける。

 

「さぁ、決着をつけるぞ!皆、用意は良いか!」

 

 ガイガーのパイロットであり、黄金色のプロテクターに全身を包んだ長い赤髪の青年、獅子王 凱は真剣な面持ちで頼れる仲間たちに通信を送る。

 

「ステルスガオーは任せとけ!」

 

 上空のステルス戦闘機『ステルスガオー』より、緑のモヒカンが特徴的な筋肉質の男性、地球防衛組織GGG作戦参謀火麻 激が通信に応じる。

 

「ライナーガオーもOKだ!」

 

 海沿いを通る新幹線の線路から、500系新幹線を模したガオーマシン『ライナーガオー』より、禿頭と豊かな白髭が印象深い老博士、GGGエグゼクティブ・スーパーバイザー獅子王 麗雄が通信に応えた。

 

「こちら、ドリルガオー!牛山 一男、準備完了!何時でも合体できます!」

 

 ガイガーの立つ三段飛行甲板空母の第3カタパルトより現れた、二対のドリルを装備した戦車『ドリルガオー』より、糸目の優しそうな恰幅の良い青年、GGG整備部チーフの牛山 一男が応答した。

 各部ガオーマシンに登場した皆が、基地そのものが機能停止し合体プログラムの遂行が不可能になったファイナル・フュージョン――所謂合体をマニュアルで実行しようという、まさしく勇者の所業を今まさに行わんとしていた。

 

「マニュアル操縦によるファイナル・フュージョンの成功率……31.2%!?危険すぎます!」

 

 GGGのオペレーターを務める美貌の女性、卯都木 命はそのあまりに低い数値に、危険を知らせずには居られなかった。今までのオート操縦ですら失敗のリスクが伴っていたのだ。

 

「何だと…!?」

 

 メインオーダールームにて総指揮を取る、長い金髪を後ろで纏めた壮年の男性、大河 幸太郎も流石に合体指令に躊躇した。成功率31.2%という数字は、裏を返せば7割近い確率で数字で全員の戦死を意味していたからだ。

 そんな事情なぞ素知らぬEI-15はバーニアを吹かしてガイガーに急接近、剛腕の右フックを見舞おうとするも、白い機体は目にも止まらぬ速さの急上昇でそれを回避する。

 

「迷っている時間はない!」

 

 凱が断言する。GGGの勇者ロボである氷竜と炎竜が出撃出来ない以上、ゾンダーロボに立ち向かう為には合体を敢行する他ないのだ。

 

「そうです、このままじゃやられるだけです!」

「GGG隊員は、決して諦めてはならないんだろう!?」

 

 牛山 一男と麗雄博士も、とうに覚悟を決めた表情をしていた。しかし、全隊員の命を預かる立場である大河長官は尚も逡巡する。

 

「長官、こちらで合体をサポートすれば、成功率は約60%になります」

 

 GGGメインオーダールームに居る諜報部チーフ、猿頭寺 耕助の提案が入る。彼は基地内に侵入したゾンダーを、多次元諜報潜水艦と侵入者破壊プログラムにて撃退した、まさしく勇者の1人だ。

 

「1人10%ずつ、勇気で補えば100%だ!」

 

 火麻参謀の目にも迷いはない。現場、及びメインオーダールームにいる全員が死の覚悟をすら決めて戦う勇者であったのだ。

 

「長官、私からもお願いします!一つでも可能性がある限りは……!」

 

 現場でゾンダーの攻撃に耐えていた、忍者を模したGGGのロボット『ビッグボルフォッグ』が左手のローター状の武器、ムラサメソードでEI-15に切り付けながら必死に進言する。彼も基地内で特別隊員・天海護少年と共にゾンダーを退け、今またこうやってゾンダーと対峙、ガイガーの援護をしている。

 

「そう、迷う事など無い筈!」

『長官!』

 

 凱の、そして現場にいるGGG隊員皆の声を受け、大河長官も笑みを浮かべ――

 

「良かろう!ファイナルフュージョンマニュアル、承認!」

「了解!ファイナルフュージョンマニュアル、プログラム・ドライヴ!」

 

 大河長官の号令以下、命隊員がプログラムを起動し、勢いよく右拳を保護ガラスに包まれた非常用スイッチに振り下ろし、叩きつける!

 

「サポートプログラム、スタート!」

 

 ファイナルフュージョン用プログラムが起動され、GGGメインオーダールームからのサポートが同時に開始される。

 

「ファイナル・フュージョンッ!」

 

 ガイガーの叫びと共に腰からEMトルネード――電磁竜巻が噴射される。これにより合体時の妨害から身を守るシステムになっているのだ。

 

「ドリルガオー入りマス!サポート開始!」

 

 メインオーダールームに響く金髪の美女、獅子王博士の助手であるスワン・ホワイトの緊迫した声。そして同じくメインオーダールームに居る、特徴的な髪型の少年――特別隊員・天海 護も固唾を飲んで見守る。

 

「続けて、ステルスガオー、ライナーガオー、入ります!」

 

 命隊員のナビゲートと共に、ドリルガオーに続いて、ステルスガオーとライカーガオーも電磁竜巻内に進入する。激しい加速とGで、中にいるパイロットの全員が顔を歪めていた。

 

「合体開始!」

 

 猿頭寺の掛け声から、ドリルガオーが変形してガイガーの脚部に装着されるかに思えたが、縁の部分と接触して合体に失敗してしまう!

 

「落ち着け!もう一度やるぞ!――何っ!?」

 

 体勢を立て直して再びの合体を試みようとするガイガーに、電磁竜巻を超えEI-15の手が迫っていた!

 EI-15は素体にGGGロボットの予備部品を使用しているため、例外的に侵入が可能なのだ。

 

「邪魔はさせません!」

 

 そこにビッグボルフォッグが、身を挺してEI-15の腰に喰らい付き妨害する。そのお陰で残りの合体シーケンスは順次に行われる事となる。

 ドリルガオーのドリル部分が開口し、ガイガーの脚部にドッギング。続いて獅子王博士の乗るライナーガオーがガイガーの胴体を貫通し、肩と上腕部を形作る。そしてステルスガオーがガイガーの背部に逆向けに合体し、翼と下腕部分になる。まさしく全員が命懸けの合体であった。

 ステルスガオーから出た兜、そして牙を模したフェイスマスクが装着され、額からは勇者の証である、緑に輝く宝石『Gストーン』が迫り出し――

 

「ガオッ!ガイッ!ガァァァーッ!」

 

 そこに出現したのは、胸にライオンの頭部、膝にドリル、肩に500系新幹線、背中にステルス戦闘機の翼を備えたくろがねの巨神――人類の守護者『ガオガイガー』であった!

 

「やったぁ!」

 

 合体完了にメインオーダールームの護も思わず笑顔でガッツポーズを決めた。

 そう、戦いはまさに最高潮を迎えようとしていた。

 

 

 

「はぁ〜〜〜やっぱり『狙われたGGG』は序盤テーマの総決算的な話だよね〜〜〜!もう最高〜〜〜!」

 

 都内某所に位置する住宅街にある邸宅の、2階にあるピンク色を基調とした装飾と、アニメ『勇者王ガオガイガー』のポスターやグッズに彩られた部屋で、鷺沢 麗奈(さぎさわ れな)は1人、とろけ切ったような恍惚の表情でPCのディスプレイの前で舌鼓を打っていた。

 歳の頃は15といった辺りだろうか。肩の近くまで伸ばした流れるような黒髪に、やや垂れ目がちな整った顔立ちが印象的な少女だ。世間的には比較的美少女といっても差し支えが無いだろう。

 彼女の目の前のディスプレイに再生される映像は、まさにガオガイガーがマニュアルによるドッギングを果たし、名乗りを上げるシーンそのものであった。

 

「いや〜〜〜、やっぱTV版はオンリーワンよ〜〜〜!勇気を行動で示す姿勢が大事よやっぱり!Blu-rayBOXあって良かったぁ!」

 

 天にも昇るような顔つきで身を捩らせる麗奈。全身から放たれる幸せオーラが、周囲の家具や調度品、ガオガイガーのグッズをも照らし出しているようであった。

 

「麗奈〜!今日は美琴ちゃんと出かける日なんでしょう?朝ごはん食べなくて良いの〜?」

 

 昇天状態の麗奈にクールタイムを促すかの如きタイミングで、下の階にいる母親からの声がかけられた。麗奈の意識は急速に現実に引き戻される。

 

「やっば!そうだった!」

 

 脱兎の如く動き出した麗奈は急いで下の階に駆け降りた。

 1階のリビングルームでは、パンとコーヒー、ウィンナーが数本にベビーリーフのサラダと目玉焼き……といういつもの朝食メニューが湯気を伴って鎮座していた。

 

「おはようパパ!ママ!」

 

 挨拶もそこそこに、麗奈はせわしなく食事を始めた。父親はいつものペースでコーヒーを啜り、麗奈の様子を見た母親は呆れて溜息をつく。

 

「おはよう麗奈、今日も元気だね」

「おはよ。アンタ昨日あれだけ『朝早く起こしてね』って言ってたじゃない。もう1時間くらい前から声かけてたんだけど」

 

 うっ、と麗奈はばつの悪そうな顔で言葉に詰まる。今日のイベントに向けて『ガオガイガー』何十度目かの再履修をしていたのが裏目に出たようだ。

 

「そ、それは悪かったけど……いっけない、こうしちゃ居られないよ!」

 

 早急に食事を胃袋に収めた麗奈は、「ご馳走様!」の挨拶を残像のように残して浴室前の洗面台まですっ飛んで行った。

 

「あの子ったら、この歳になってもあんな調子で、大丈夫なのかしら」

「まぁまぁ。あの年頃の子はあの位元気でも良いと思うよ」

 

 母の愚痴を父は海に繋がる川の下流のように受け流す。朝方に麗奈がごたごたする事など、鷺沢家では日常茶飯事の光景と言えた。

 麗奈は神速の手捌きで身支度を整えていく。メイクは薄めで。素材の味を活かす事が肝要と、今日同伴してくれる友人も言っていた。

 自室に猛スピードで戻った麗奈は、ジャージを瞬時に脱ぎ捨て、箪笥の中から他所行き用の服を取り出す。

 桃色をしたレースを重ねた黒のハートドットが散りばめられたフリルブラウスに、黒色のハートビジューをあしらったリボンレースアップフリルスカート。世間的には『地雷系』と呼ばれるコーデだが、麗奈はこれを何より気に入っていた。

 髪型はいつものハーフツイン。麗奈の髪質の良さで、アニメのような髪型もよく決まって見える。

 1時間も経たないうちに、麗奈のお出かけコーデは出来上がる。今日も中々上手く決まった。

 

「これが私の『ファイナル・フュージョン承認!』……なんてね!」

 

 麗奈はいつものバッグを掴み、お気に入りのショートブーツに足を突っ込んだ。

 

「行って来ます!」

 

 またも挨拶を残像のように残し、麗奈は飛び出して行った。

 麗奈の存在した残滓である土埃が僅かに舞う中、母親はまたも溜息をつく。

 

「あの子、あんな歳になってもロボットのアニメに夢中だなんて……育て方を間違えたのかしら」

「良いじゃないのママ、世の中多様性を重んじるようになって来てるんだから、女の子がそういうものを好きになっても可笑しくないさ」

 

 父親はそう笑うと、残りのコーヒーを喉に流し込んだ。

 

 

 

「ご、ごめーん!待った……よね?」

「お前にしては珍しく時間ぴったりだな。いつもこの位に来てくれりゃ良いんだけどよ?」

 

 5月のゴールデンウィーク終わりかけの、人酔いしそうな程の往来が行き交う渋谷ハチ公像の前。肩で息を切らし謝る麗奈に、やや意地悪な笑顔を向ける少女の姿があった。

 歳の頃は麗奈と同じ程だが、背はやや麗奈より高い。ショートの金髪に、やや鋭い眼光の緑の瞳が印象的な活発そうな少女だった。

 

「今日はお前の付き合いなんだから、昼飯くらい奢れよ?」

 

 にしし、と笑う金髪の少女は、鷹見 美琴(たかみ みこと)。麗奈とは幼馴染の関係だ。2人とも幼稚園の頃からの付き合いで、現在でも家族ぐるみで親交がある。

 

「分かってるよ美琴ちゃん。でも、今日のグッズ代もあるし、2000円までに収めてくれると助かるなぁ…」

「それって消費税も込みでか?」

「う、うーん……出来たら消費税込みで2000円までだと……嬉しい……」

「分かった分かった、出来るだけ手加減するからさ」

「ありがとう、じゃあ行こっか!」

 

 交渉と冗談を交わし合い、2人の足は近辺にある大型商業施設へと向かう。麗奈の足取りはスキップのように軽くなった。

 

 この日はTVアニメ『勇者王ガオガイガー』放送25周年を記念した展示イベント、通称『ガオガイガー展』の開催日だったのだ。

 放送当時や放送後に発売された玩具や当時の設定画を筆頭に、ガオガイガーの必殺技をモチーフとした撮影コーナー、さらには放送当時のショーの資料や絵コンテ等、門外不出の資料までも一斉にお蔵出ししたイベントで、放送当時産まれていなかった麗奈にとってはまさしく宝の山であった。

 

「見てよ美琴ちゃん!これDX合体玩具の限定ゴールドメッキバージョンだよ!?まだ現存してる物があったんだ!?」

「あーはいはい、スゴイナー」

「あっ!?あれって当時の絵本用のセル画じゃない!これ私もまだ実物手に取った事無いんだよね!こんな綺麗な状態で保たれてるなんて、スタッフさんマジで神じゃない!?」

「へー、ソウナンデスネ」

 

 麗奈は隅々まで見てまわり、展示コーナーでは早口で美琴に解説して苦笑いさせ、特に撮影禁止コーナーでは自分の記臆野に焼き付けようと凝視していた。フルスイングで振り回された美琴にとっては災難かも知れなかったが、麗奈にとっては正に夢のような時間であった。

 

 

「ふぁ〜〜〜楽しかった〜〜〜。まさか絵コンテまで見せてくれるなんて、『私の監督生命をこの最終回に捧げる』まで言ってくれてたなんて、もうこの世に未練無くなりそう……」

「そしたらお前享年15歳になっちまうけど、良いのかそれで?」

 

 同商業施設内にあるカフェにて、幸せによる虚脱状態に陥って椅子にスライムのような溶けた座り方をする麗奈と、またしても困った笑みを浮かべながらストローでアイスコーヒーを飲む美琴の姿があった。

 正直、ガオガイガーをよく知らない美琴からすれば右往左往縦横無尽に振り回されたのだが……友人の幸せそうな笑顔を見ると、そういった疲れも全て『まぁ良いか』と流せるように思えるのだった。

 

「それにしてもお前、良くそんだけグッズ買ったなぁ?持って帰んの大変だろ?」

「だ、大丈夫だよ!お小遣いの範囲は超えてないから!」

 

 美琴が麗奈の脇に置かれた中身のどっさり詰まった紙袋を見て、感心3割呆れ7割程の口調で言うと、麗奈はふんすと鼻息を一つ吐いた。

 紙袋の中身はブックレットや雑誌連載の総集編本、アクリルカレンダーにアクスタ、ポスター、Tシャツやらのガオガイガー関連グッズがぎっしりと詰め込まれていた。

 

「前みたいに後で小遣い足りないって泣き溢しても知らねーぞぉ?」

「あ、あれは色々出費が運悪く重なっただけっ。普段はちゃんと貯めたりしてるからっ」

 

 美琴が意地悪く笑うと、麗奈は慌てて取り繕う。本当に麗奈は表情がころころ変わって、見てて飽きない奴だ。

 

(それだけ熱中できる物があるのは、ちょっと羨ましいかもな)

 

 …という内心の声はしかし、実際に出される事は無かったのだが。

 

 

「今日は一日付き合ってくれてありがと!美琴ちゃん!」

 

 住宅街に位置する帰り道。日もすっかりと暮れ、夜空に星明かりが疎に点灯し始めていた。

 麗奈はいつもの分かれ道で、夕暮れ時すら照らし出す真昼間の太陽かのような笑顔を浮かべた。

 美琴も釣られて笑みを溢す。

 

「今度は、あたしの趣味にもちゃんと付き合えよ〜」

「もっちろん!じゃあ明日!お疲れ〜!」

「おう、お疲れ!」

 

 麗奈は手をぶいんぶいんと振って美琴を見送る。

 

 (美琴ちゃん、いっつも付き合って貰って悪いな…)

 

 麗奈の中に罪悪感が産まれる。美琴はおくびにも出さないが、彼女は自分と違ってオタクな趣味はない。むしろバレー部でも次期エースではないか?と目されているらしい。そんな彼女を自分の趣味に付き合わせるのは、気が引ける面も確かにあった。

 

 (でも、嫌な顔一つせず一緒にいてくれるんだから、私も美琴ちゃんを大事にしないとね……)

 

 自分は良い友人を得た、麗奈は心からそう思った。ひらひらと手を振って帰り道を進む美琴の姿を、麗奈は見えなくなるまでいつまでも見送っていた。

 

 

「お疲れ様でーす!」

 

 翌日の放課後。麗奈は漫研部の部室となっている教室の扉を勢いよく開け、まるで格闘技系の運動部かのような大声で挨拶をした。

 室内では数人の部員が原稿用紙またはPC、或いはタブレットと向き合い、思い思いに筆を走らせていた。

 

「おはよー鷺沢さん、何か顔がいつにも増して機嫌良さそうだけど、嬉しいことでもあった?」

 

 部室に並んだ机の一角から声をかけるのは、茶髪にショートボブの髪型が似合う少女。麗奈と同じ一年生である阿澄 友里(あすみ ゆうり)だ。麗奈とはウマが会うため、部室でも良く喋る仲である。

 

「へへへー、実はね、前行ってたガオガイガー展に行ってきたんだよー!」

「鷺沢さんガオガイガー大好きだもんね。周年系お祝いのイベントあると良いよね〜」

 

 麗奈はにへらーっとした、だらしの無い思い出し笑いを浮かべる。昨日の記憶に耽溺していて周囲が完全に見えていない、そんな表情だ。

 そんな麗奈の御し方を友里は理解している様で、まるで乗馬の騎手であるかのような所作で背を撫でた。

 

「お疲れ鷺沢さん。今日は一段とテンション高いね」

 

 別の机から麗奈に声をかけるのは漫研部部長の青嶋 康太(あおしま こうた)。すらりと整った顔立ちにノーリムの眼鏡が良く似合う、理性的な印象を与える男子生徒だ。

 

「僕も勇者シリーズは一通り見たけど、ガオガイガーは面白かったね。そんなに良かったの?」

「そうなんですよ!特に撮影禁止のコーナーがすっごく良くて……あんまり言いすぎてもネタバレになっちゃいますから詳しくは言えないんですけど、部外者にここまで見せてくれるかってくらい展示してくれてたんですよ!」

 

 麗奈はガオガイガーの話になると急に早口になってしまうのを抑えられない。周りの部員も苦笑いを浮かべる者すら居る始末だ。

 

「ガオガイガーって、何でも勇気で解決するアレ?」

 

 部員のうち1人、如何にも『チーズ牛丼を注文していそうな』生徒がオタク特有の冷笑仕草混じりに言ったのを、麗奈は聞き逃さなかった。

 

「はぁ〜〜〜?GGGの皆は勇気を持ち出す前に、まず技術的な解決を可能な限り試みているんですが?そもそも、勇気で何でも解決する作風なら、ディバイディングドライバーもプライヤーズもゴルディーマーグもステルスガオーⅡも存在しないんですけど?大体2話の時点で『勇気じゃどうにもならない現実も同時に存在してる』という描写があるけど、本当に本編見て言ってんのその台詞?コントラフォール突破作戦を見てまだそんな寝ぼけた口が叩けるなら、まずはその腐った目と脳みそを取り替えた方がいいんじゃ無いですかぁ〜〜〜?」

 

 ……という罵詈雑言は、麗奈の心の奥底深くに仕舞われたまま。彼女は声の方を一瞥もせず、その表情筋は向日葵のような笑顔を崩す事は無かった。

 

「それはそうと、鷺沢さん。8月の会誌交換会なんだけど」

 

 何か不穏な雰囲気を感じ取ったのか、康太が唐突に話題を切り替えた。

 

「あぁ、前言ってた鳥田高校と会誌を交換し合うっていう、あの?」

「そうそう、うちと鳥田高校の漫研は前々から親交があってね。会誌を交換し合うのが慣例になってるんだ。会誌にはどっちの学校も二次創作投稿OKで、毎年流行りのソシャゲやアニメの二次創作絵を描いてくる人は多いから、そこでガオガイガーを書いても良いんじゃないかな?」

「えぇ!?私がガオガイガーの漫画を!?」

 

 麗奈はまるで眼前で天変地異でも起こったかの様なリアクションで驚いた。

 

「それ良いですね、先輩!麗奈ちゃん、特にガオガイガーのロボットやキャラ描くのすっごく上手いし!」

 

 友里が無意識のうちにハードルを上げるが、麗奈は首をぶんぶんと横に振った。

 

「む、無理ですよ!メカやキャラの絵は描いた事ありますけど、漫画はまだ――」

「これを機に描いてみるのもアリだと思うよ。文化祭の会誌や卒業制作の時に漫画か小説はどうしても描くことになるから、こういうのは場数が大事だよ」

 

 にこやかな康太の提案だが、麗奈はまだ迷っていた。確かにガオガイガーや勇者シリーズのメカやキャラクターのイラストを描いた事はある。友里ちゃんや部長、他の部員にも上手いと褒められた。しかし、起承転結のある話を作るとなるとまた別だ。

 麗奈は目を閉じて考え込んだが……とある一言が頭を過った。

 

『1人10%ずつ、勇気で補えば100%だ!』

 

 はっ、と麗奈は水に打たれたような顔になった。

 そうだ。あのシーンだって可能な限り不確定要素を潰した上で、それでも尚賭けに出た場面だ。まず一歩を踏み出さねば何も始まらない。

 漫画の描き方は部長や友里ちゃん、他の皆にも話を聞いてみれば良い。どの道、漫研部に居る以上漫画は描くのだから、経験も多い方が良い。

 麗奈は意を決して口を開いた。

 

「わ、分かりました!何処まで描けるかは分からないけど……やってみます!」

 

 頷く康太と、ぱちぱちと手を叩く友里。

 麗奈の頭の中に『安請け合いしてしまった』というモヤモヤがないと言えば嘘であろうが……麗奈は拳をぎゅっと握りしめた。

 

(本当に描けるかわかんないけど…描いてみよう!)

 

 ――『私だけの勇者王』を!

 

 




君達に、最新情報を公開しよう!
遂に動き出した、麗奈の『私だけの勇者王』漫画。
しかし、麗奈は漫画の経験も浅く、プロットの作成に早くも躓いてしまう。
そんな折、漫研部員の友里からオフ会に誘われるが、そこで予想外の事態が舞い降りて……?

『地雷系女子は勇者王が好き』NEXT 「オフ会の『ゾンダー先生』?」
次回もこのSSで、ファイナルフュージョン承認!

これが勝利の鍵だ!――『勇者エクスカイザー』
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