地雷系女子は勇者王が好き【完結】   作:マイク徳田

3 / 4
第3話:親友からの『遥かなる凱歌』

『貴方は間違いなく、ママとパパの子よ』

『そうさ。ただちょっと、授かり方が他の子と違っただけさ』

 

「うう〜……やっぱり『終演序曲』は屈指の泣きエピソードだよ〜……天海夫妻、本当に良い人過ぎるんだよね……」

 

 麗奈はディスプレイを流れる『ガオガイガー』の映像を前にして、椅子の上でクッションを抱きしめたまま涙と鼻水を滂沱と流していた。

 オフ会があった日の夜。あのまま友里と別れた麗奈は自宅にて、今日の悪い事を全て払拭する為に『ガオガイガー』より泣ける回をチョイスし、Blu-rayにて視聴していた。麗奈にとって嫌な事があった日のルーティンとも言える。

 不意に麗奈の眼に、白紙のままの原稿用紙が入った鞄が映った。

 

「……はぁ……」

 

 さっきまで感動に浸っていたばかりだというのに、思わず溜息が漏れてしまった。

 確かにあの須々木という男の、金稼ぎの為に二次創作をやる手法は間違っていると言い切れる。だが、自分のやっている事は翻ってどうだ?原作を歪めているのは同じではないか?

 麗奈はディスプレイに視線を戻す。護少年の正体を知っても尚、友人かつ恋人であろうとする華ちゃんの姿に心打たれると同時に、自分のやっている事が余計に後ろめたく思えた。

 

「私、あの人とやってる事そんなに違わないのかな……」

 

 

 

「うー……一つも描けない……」

 

 翌日の放課後。漫研部部室の机にて、鉛筆を持ったまま固まってしまっている麗奈の姿があった。

 プロットそのものは既に出来ている。コマ割りをこうしたい、見せページはこう描きたい等の構想も頭の中にはある。ただ、それを出力出来ずにいたのだ。

 

「さ、鷺沢さん……ごめんね、私が誘ったりしたから……」

「調子が悪いなら、休むのも手だと思うよ」

「だ、大丈夫ですよ、あすみん、青島部長。ちょっとスランプ気味なだけですから…」

 

 友里と康太が石像のように固まった麗奈を気遣う。麗奈はぎくしゃくと首を動かし、笑顔を張り付かせて見せるのが精一杯であった。

 会誌の交換会まで残り2ヶ月近く。期末試験の勉強期間を考えると、今すぐにでも取り掛からなければ間に合わない。それは麗奈も重々承知ではあったのだが。

 

 (まるで、身体の何処かがブレーキかけてるみたい……)

 

 麗奈は力無く項垂れる。友里と康太は心配そうな顔を見合わせた。

 結局。この日麗奈のネームが進行する事はついぞ無かった。

 

 夕日が沈み、夜の帷が降り始める頃合い。陽昇高校の校門をとぼとぼとくぐる一つの影があった。麗奈のものだ。

 結局ネームは進行せず、締め切りまでの日がまた一日縮まってしまった。アイディアそのものは豊富にあるのだが、手だけが動かない。

 

「私、描けないままなのかな……」

 

 麗奈は力無く呟いた。校門から出て最初の角を右に曲がった刹那。

 麗奈の背中にばしん!と痛覚と衝撃が走った。

 

「おっす、麗奈!何シケた顔してんだ?」

「み、美琴ちゃん!」

 

 軽快に麗奈の手前に回ったのは、にかっと悪童のような笑顔を浮かべている美琴。

 

「今日は練習じゃないの?」

「先生が用事で自主練になってさ、早めに帰れる様になったってワケ。一緒に帰ろうぜ」

「そ、そうなんだ……」

 

 いつもなら美琴の笑顔を見ると麗奈も元気が湧いてくる筈なのに、今日は気分が沈んでしまいがちだ。

 美琴はそんな麗奈の様子を察したのか、こちらの方を覗き込むや否や問いかける。

 

「なーんかメンタルやられてるみたいだな、何かあったのか?」

「……う、うん……やっぱり美琴ちゃんには隠し事出来ないなぁ」

「なーに言ってんだ、お前のメンヘラなんてこっちはとっくの昔に慣れっこになってるんだよ」

 

 冷静に考えたら結構ひどい事を言われている気がする、と麗奈も思ったが、目の前でえへんと大仰に胸を逸らす美琴を見ると、やっとその顔にも笑顔が戻った。

 

「まぁあたしで良ければ、話くらい聞いてやるよ」

「いつもごめんね、美琴ちゃん。美琴ちゃんには、助けられてばっかり」

「気にすんな気にすんな、あたしも好きでやってるんだからさ」

 

 手をひらひらと振って笑顔を見せる美琴に、麗奈は意を決して、先日のオフ会であった出来事を話し始めた。

 

「……ははーん、自分のやってることとソイツのやってる事の違いが、分からなくなっちまったと」

「うん、原作に無いものをアレコレ足してるって意味では、私もそんなに違わないんじゃ無いかなって」

 

 麗奈は節目がちになって、懺悔する様に口にする。

 美琴はそんな麗奈の様子を怪訝そうに見ると。

 

「でもさ、お前は別に『ガオガイガー』で金儲けしたりとか、公式がやるなって言った事をやったりしてる訳じゃないんだろ?」

「えっ?……それは、そうだけど」

 

 意表を突かれたと言わんばかりの顔をした麗奈に、美琴は尚も不思議そうな顔で続ける。

 

「じゃあ別に、漫画描いて公開するくらいなら良いんじゃないか?確かにそれでお金稼いでますってんならあたしも疑問に思うけど、部活の会誌に載せるくらいなら誰も気にしないと思うけどな」

「……そ、そうかな」

「そうだって。原作に無いものを足す事が悪いみたいに言ってたけど、そういう空想みたいなものは誰にだってあると思うし、よほど貶める内容じゃ無かったら別に良いと思うんだけどな」

 

 美琴の念押しに、麗奈の顔にも輝きが戻った。その様子を確認した美琴は優しい笑顔を浮かべ。

 

「外野がどうこうなんて気にすんなよ。大事なのは、お前が『ガオガイガー』や『エクスカイザー』に対してどう誠実であるか、そこの一点だけだと思うぜ」

「どう、誠実であるか……」

 

 麗奈は美琴の顔をまっすぐに見つめ、今の言葉を反芻していた。確かに二次創作で設定を継ぎ足す、というところだけを切り取れば、麗奈も須々木も大差ないかもしれない。

 しかし、そこにリスペクトが込められているか否か。技術が上手い下手だけの問題ではなく、作品に敬意を表しているか?そこの差異は確かに存在するのではないか。

 

「そうだ、他人がどうのこうのなんていうのは一先ず置いておいて、まず一番大切なのはそこだと思うぞ」

 

 美琴がにかっと笑って見せると、麗奈も満開の向日葵のような笑顔を取り戻した。

 

「ありがとう、美琴ちゃん……私、描けるような気がしてきたよ!」

「おう、ようやくいつもの麗奈に戻りやがったか」

「うん!私、今ありったけの気持ちをぶつけてみるよ!」

 

 麗奈は目の端に浮かんだ涙を拭った。もうその瞳に迷いの色は見受けられなかった。

 

 

 

 それからというものの、原稿の作業は順調に進んだ。

 ネーム、下書き、そしてペン入れに突入……と麗奈は周囲が驚く程の速さで描き上げ、特に先日の不調な麗奈を知る友里と康太には大層驚かれた。

 非常に細かい勇者ロボのディテールですら、麗奈自身も驚くほどのスピードで息吹が吹き込まれていく。元々短期に集中して描き上げるタイプではあったが、こんなにもスピーディに描き上げる体験は麗奈自身も初めてだった。

 

「ねぇ鷺沢さん、どうして『ガオガイガー』好きになったの?」

「え?」

 

 ある日の放課後。部室で相変わらず神速のペン捌きで線を掻き上げていた麗奈に、何気なく友里が尋ねた。

 麗奈はペンを止め、うーんと考え込む仕草の後、一つ何か思い出したような顔をした。

 

「私が『ガオガイガー』を見たのは、5歳の頃でね。初めて見た時はちょっとEI-01怖いなーとか、凱兄ちゃん格好いいなーとか、そんな感じで観てたんだけど……多分あの一言がキッカケだったんじゃ無いかな?」

「『あの一言』って?」

「『成功率なんてのは単なる目安だ!後は勇気で補えば良い!』って。言葉の表面だけ取ると凄く脳筋に聞こえるんだけど、本当は防衛組織設立や勇者の建造、被害者の救助や現場の避難まで全部やった上での台詞なんだって。今はそう思う。けど、当時この言葉に凄く惹かれた記憶があるから、私の原体験はそれなんじゃ無いかな」

 

 ガオガイガーの1話を見た時の記憶は、だいぶ朧げになってしまったが……それでもその台詞に強く、強く惹きつけられた事だけは、麗奈の脳裏に焼き付いている。

 

「私が漫画や絵を練習し始めたのも、ガオガイガーを上手く描きたかったからなんだ……結局、地雷系の服と一緒でさ。周りからどう見られても、それが一番好きなんだよ。好きだから、どうしても止められないんだ」

 

 麗奈は自分の中に眠る思い出を慈しむように、自分の中の愛そのものを撫でるように、そっと胸に手を置く。

『好き』の衝動は、初めは小さなキッカケだったかも知れない。しかし、それを形にしようとして試行錯誤し続けた事は、決して無駄にはならない。

 そんな麗奈の様子を見て、知らずに友里の顔にも笑顔が溢れる。

 

「そっか……鷺沢さん、描き上がったら私にも読ませてね」

「もっちろん!」

 

 麗奈は大輪の花のような笑顔を向けると、またペン入れの作業に戻って行った。

 

 

 

 それから間も無く試験勉強の期間が始まった為に、一旦作業は中断せざるを得なかったのだが――試験が終わるとまたしても猛スピードでペン入れ、ベタ塗り、トーン貼り……と麗奈は手を動かした。それこそ寝食を忘れる程に。

 康太が家からアニメーター・大張正己氏の画集を持ってきて、貸してくれたのも大きかった。勇者ロボットの描き方という点において、これ程までに大きな参考になる資料は他に無かった。

 そして――

 

「完成だーっ!」

 

 7月も終わりに近づいた徹夜明けの朝。

 登ってきた朝日の差し込む中で、麗奈は自室で完成した原稿を高々と掲げた。

 タイトルは――『勇気と友情〜ガオガイガー&エクスカイザー』。

 




君達に、最新情報を公開しよう!
遂に完成した麗奈の『私だけの勇者王』。
その物語は、勇者シリーズを知らない若い世代に届くのか?
同好の士は存在するのか?
自分の『好き』を表現するために闘う勇者の物語は、今ここに終局を迎える!
『地雷系女子は勇者王が好き』最終回 「同好の士と、『いつか星の海で』」
次回もこのSSで、ファイナルフュージョン承認!

これが勝利の鍵だ!――『勇者王ガオガイガー』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。