【求】 幼馴染の生活環境の改善法
「おい奏。これは一体どういうことだ?」
俺は目の前の幼馴染の少女__宵崎 奏__に話しかける。
「どういうことって……?」
首を傾げる奏。奏はかなりの美少女なのでそうしているだけでもかなり映えるのだが、今はそんなことはどうでもいい。
「ここにカップ麺のごみがたくさんありますね?」
「うん」
「エネルギーメイトや缶詰のごみもたくさんありますね?」
「……うん。それがどうかしたの?」
「ここで質問。俺と穂波が来れなかった間、ここにあるやつだけでごはん済ませてた?」
「……」
やめろ。困った顔でこっちを見るんじゃない。それとゴミはもう少し片付けといた方がいいと思うぞ。
俺は思う。毎日カップ麺or缶詰orエネルギーメイトのみの生活は流石によろしくないと。もっと普通の料理も食べよう? 奏は
「……な、
「ん?」
「今日はいい天気だね」
「誤魔化すの下手か?」
むしろ君いつも普段部屋のカーテン閉め切って過ごしてるよね? そんな人に言われても説得力の欠片もないよ?
「はぁ……別に俺だって嫌がらせでこんなこと言ってるわけじゃないぞ?」
「待って直斗。わたしにも言い分があるの」
「言い分?」
「毎日カップ麺は栄養バランス的に良くないことはわかってる。缶詰やエネルギーメイトだって同じ」
「栄養バランスという概念が奏にあるなんて」
「だから毎日違う味を食べるようにしたんだ」
「バカなのか?」
「野菜が多めに入ってるカップ麺も食べたし、ビタミンCが多く含まれてるエネルギーメイトも食べたよ」
「……他のものを食べるという発想は?」
「家になかった」
「買いに行くという発想は?」
「春の日差しが眩しかった」
「出前頼むという発想は?」
「めんどくさかった」
何があっても面倒なことはしないという強い意志を奏から感じた。いや、出前ってめんどくさいか?
「はぁ……まあ、奏ならそう考えてもおかしくないよなぁ……」
「それにしても、何日も直斗が来なかったなんて珍しいね」
「穂波が本格的に働ける年になったからさ、任せてみようと思ったんだよ。すると穂波は忙しかったと」
穂波というのは、奏の家で家事代行のバイトをしてる女の子だ。俺の幼馴染の1人でもある。ちなみに奏の方が付き合いは深く長い。年は俺や奏の一つ下。今月から晴れてJKである。高校生になったから本格的に家事代行の仕事ができると張り切っていた。家事代行をやっているなんてとても年下とは思えない。
4月は、新学年になって色々と忙しい月である。よく奏の家に行って軽い家事とか奏の世話をしていた俺だが、「忙しくて疲れちゃったしたまには行かなくていいか。年頃の男子が女子の家に入り浸ってるなんていくら幼馴染でもよろしくないし。とりあえずJKになった穂波に任せてみよう」と思ってここ数日は奏の家に行かなかったんだ。そうしたら、JCからJKへと進化を遂げた直後の穂波も忙しくて奏の家に行けていなかったということが判明し、この生活能力壊滅的少女を放置してしまったというわけだ。判明した瞬間は穂波と一緒に頭を抱えたなぁ……
「ほっといてまた倒れられたら困るし、俺も定期的に様子見に行った方が良さそうだな」
「そうだね。そのために合鍵渡してるんだし」
「……持ってると落ち着かないからそろそろ返してもいい?」
「返さなくていいよ」
「はぁ〜……」
お兄さん絶対距離感おかしいと思うんだよね。
「今更言ったところで変わんないよな。それじゃあ、適当に料理作ってくるわ。穂波、後数日は来れないらしいから作り置き分も込みで」
「ありがとう。あ、終わったらできた曲聴いてほしいな」
「ん、了解」
◆◇◆◇◆
「ごちそうさまでした。やっぱり直斗が作るご飯は美味しいな」
「お粗末さまでした。何度も作ってればマシにはなってくるよ」
これでも穂波には勝てないんだけどね! アップルパイ作ってきた時に敗北を確信したもん。アップルパイってそんな簡単に美味しく作れるものなの? 俺は普通の料理はするけどスイーツとかケーキとかまでは作れないからよくわからん。
「それで、曲聴いてほしいんだっけ?」
「うん。わたしの部屋に来て」
「ほいほい」
奏の部屋に入る。明らかに奏の下着っぽいものがあるが、心を無にして見なかったことにする。以前指摘して少し気まずくなったことがあったから、仮に見つけてしまっても何も言わないようにしている。指摘されて恥ずかしく思うくらいならタンスに閉まっとけよと思った俺は多分悪くない。
「はい、ヘッドホン」
「ありがと」
奏からヘッドホンを受け取って装着。作曲する時に使っているだけあって音質が良いやつだ。装着してすぐに曲が流れ始める。
奏は、音楽活動をしているグループ、『25時、ナイトコードで。』、通称『ニーゴ』の一員だ。いや、一員というより中心的存在か。簡単に言うと、奏が曲を作って、それに他のメンバーが歌詞とかイラストとかMVとかつけて、動画サイトに投稿している。
奏の作曲能力に関しては天才的と言うしかない。日常に必要な生活能力と引き換えに音楽の才能を手にしている。こうして完成した曲をよく聞かせて貰っているんだけど、毎回毎回心に響く曲を作ってくれる。幼馴染の贔屓目もあるのかもしれないけど、それ抜きにしても天才の所業としか言えない。
「……!!」
今回もそうだ。一体何を食べたらこんないい曲が作れるのかね? カップ麺?
「どうだった?」
「毎度の事ながらすげえわ。今回はいつもより穏やかな曲だな。落ち着く感じがして俺は好きだぞ」
「そっか。いい曲ができてたなら良かった……これで一人でも多くの人を救えるといいな」
『どんな人でも救える曲を作る』
これは奏の
俺から見れば、この奏の状態は危険だからどうにかして治したい。しかし、呪いとなるからにはそれなりの事情があるわけで……
「……」
……俺にできることは、精々、奏を見守り、支えとなるくらいだ。俺みたいな一般人じゃ奏の問題を解決するなんて不可能だから。
「……? 直斗、どうしたの?」
「ん? ああ、なんでもない。そうだな、お前の曲なら救えるさ」
つい考えすぎてしまったみたいだ。俺らしくない。今考えたところでどうにかなるわけじゃないし、それなら多少は気楽でいないと。
◆◇◆◇◆
「……ってことがあったんだよ」
「なるほどね……」
ここで問題! 俺は今、どこにいるでしょーか!
「……人のプライベートのことかなり話してるけど大丈夫?」
「大丈夫だ問題ない」
答えは〜………………
「だってここ、俺の想い?からできた精神世界みたいなもんだし、ここにいるお前が何を知っても現実世界に影響なくね?」
俺の精神世界でしたー!!
……頭おかしくなったのかこいつと思った人もいると思う。しかし、俺は何一つ嘘を言っていない。信じてくれ。本当なんだ。
あれは今から36万……いや、2年くらい前の話だったか? まあそれくらいの話だ。スマホに『Untitled』という身に覚えの欠片も無い曲がインストールされていたので再生してみたところ、この謎空間に飛ばされたのだ!
「あはは……まあ、キミの言うことは間違ってはいないんだけどさ……」
そして目の前に現れたのがこのツインテールの少女、『初音ミク』。超有名バーチャル・シンガーである。一般的に知られている初音ミクと、俺の目の前の初音ミクは見た目が多少違うけど、目の前の少女が初音ミクだということは事実である。
俺も最初は夢か何かかと思って、ミクに「俺の頬叩いてくれない?」と言ってドン引きされた。ファーストコンタクトが最悪すぎる。
そして、ミクが言うには、今俺がいる場所は『セカイ』。俺の『想い』から生まれた空間らしい。何を言ってるかわからないだろう? 俺もわからない。
どうやらこの『セカイ』には、『Untitled』を再生する、あるいは止めることで、自由に行き来できるらしい。どういう原理か一切が謎のままだが、気にしたら負けなんだと思う。
「でも、そっか。キミはもう高校2年生なんだね。ということは、遂に始まるんだね」
「第三次大戦が?」
「キミは何を言っているんだい?」
俺の精神世界なのに俺の考えを理解してくれないミク。どうやら俺たちは一心同体ではないらしい。
「キミが変なことを言うのはいつものことだからいいとして……」
「おい」
「始まるっていうのはね、
「ん? 俺はもう十何年も生きてるが?」
「そういうことじゃなくてね」
キミたちの物語……? ミクがよくわからないことを言うのはいつものことだけど、今回のことはいつも以上に理解できぬ。
「まあ、詳しいことは言えないけど……これからのキミの選択次第で、キミと、キミの周りの人の運命が大きく変わる」
「へぇ〜」
「もう少し興味持ってほしいな」
「興味持てるように話してほしいな」
うーん……俺が生きてる以上多かれ少なかれ自分自身や周りに影響与えるのは普通じゃね?
「そうだね……まず1つ。キミが今いる場所、『セカイ』が、君の周りでいくつか現れる」
「嘘やん」
こんな訳分からん現象が他にいくつも起きるってどうなっとるねん。俺の周りって具体的にどこだよ。奏とかか? 奏が「わたし、精神世界に行けるようになったんだよね」って言ってきた日には問答無用で病院に連行するわ。
「そしてもう1つ。キミの周りの人の運命が大きく変わると言ったけど……特に、奏の運命に、キミは大きく関わっている」
「……!!」
大切な幼馴染のことを言われると、さすがにスルーはできない。
「ミク。お前、奏に悪いことが起こるとでも言うのか?」
「そんなこと言ってないよ。早とちりは感心しないね。まあ、キミが奏を悪い方向に導いたら話は別だけど」
「てめぇ……!」
「そうなりたくないなら、奏にしっかり向き合って助けることだね」
「……」
「それと、いくら大切な幼馴染のことでも、すぐにカッとなるのは治した方がいい。いつか災いになるよ」
「むむむ」
この性格は昔からなんだよなぁ……小学生の時に奏がいじめられてた時はいじめてた奴らを(物理的に)ボコって病院送りにしたり、中学生の時に奏が教師に八つ当たりされてた時はその教師を(精神的に)ボコったり……学校には死ぬほど怒られたなぁ。両親は褒めてくれたけど。俺の両親に常識があるのか怖くなってきた。
まあ、皮肉なことに、奏が他者とあまり関わらなくなったからトラブルも自然となくなってきているのだが。
「忠告はしたよ。後は頑張ってね。私も応援しているよ」
「応援よりはもっと具体的なアドバイスが欲しい」
「それは無理だよ。私だって全てのことがわかるわけじゃないんだから」
未来がどうなるのかなんてわかりはしないけど、やれるだけ頑張りますか。俺のためにも、俺の周りの人__特に奏__のためにも。
〇長尾直斗
本作の主人公。作者の過去の作品から名前をそのまま持ってきているが、その作品とは全く関係がない。ボケもツッコミもできる便利キャラ。奏とは幼馴染であり、その面倒をよく見ている。ちなみに、奏以外にも幼馴染枠のキャラがたくさんいる。穂波も幼馴染ということは……
〇宵崎奏
本作のヒロイン。主人公の幼馴染。主人公の存在のおかげで原作よりはメンタルがマシなので、主人公相手に冗談を言える余裕はある。でも作曲という呪いからは逃れられない。
〇初音ミク(長尾直斗のセカイ)
皆大好きバーチャルシンガー。主人公はセカイを持っているので、そこにも当然ミクがいる。どこか達観している。主人公のセカイは今後も出てくるよ。知らんけど。
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