命のこたえなんていらない   作:ペルソナのおじさんコミュはいいぞ

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キリのいいところまでと思うとどうしても文字数がブレますね


First encounters

 2009年4月6日

 

 遂に原作が始まる日ではあるが、数多くの不安要素を抱えている身からすればめでたくもなんともない。

 そもそも自分にペルソナが扱えるのか、扱えたとしてワイルドの力があるのか、こっちの人達と上手くやっていけるのか……最後の悩みだけなら真っ当な転入生なのだが。

 こうして自分が結城理として過ごしてみるとつくづくユニバースの力は奇跡の産物に等しいのだと実感する。……まだ本番ですらないのに何言ってるんだって話ではあるが。

 

「……早く寮に向かおう」

 

 鍛えてきたとはいえ、あくまで人の範疇を出るわけでもない。万が一イレギュラーでシャドウに襲われでもしたらひとたまりもない。ペルソナに目覚めていない人物の物理攻撃がシャドウに有効かすら記憶があやふやだ。仮に有効でも現状走って逃げるけれど。

 歩けどもそこらに棺が立ち、怪しく月が光る異様な風景はもう慣れたものだが、彼方に聳え立つ天を衝かんばかりの塔は画面越しで見るよりも不気味だ。

 

「巌戸台分寮……」

 

 今日から一年間お世話になる場所であり、場合によっては終の住処になり得る場所でもある。

 仰々しい扉を開け、目に入ったのは閑散としたラウンジだ。自分が知っている光景と同じものが眼前に広がっていることに少しばかりの感動を覚えつつも左手にあるカウンターに目を向ける。

 

「ようこそ」

 

「……」

 

 こんな夜更けに起きているには相応しくない歳をしている囚人服の子──ファルロスがそこにいた。ある意味では彼も運命の被害者と言えるだろう。

 こちらが黙っていても構わず話し続けるファルロスに促され、入寮名簿に『結城理』と記載をしていき、書き終えたら渡す。そもそも精神が結城理ではない僕が果たして契約を成せるのか……まさに最初の関門だ。

 

「……確かに受け取ったよ。時は誰にでも結末を運んでくるよ。後悔しないようにね」

 

 そう言い残し、彼は影に溶けるように消えていった。

 

「はぁっ……」

 

 緊張が解けて初めて自分が汗ばんでいたことに気づく。じんわりと不快な感覚がするのは、きっと春の生暖かさのせいだけじゃないだろう。

 ブレザーを脱ぎ、リボンタイを外しながらボタンをいくつか外す。少々だらしない格好だが、誰に見せるわけでもないのだから構わないだろう。

 

「──誰!?」

 

 あ、初邂逅あるの忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、あなた誰? こんな時間に用があって来たなんて言わないでよね」

 

「結城理。月光館学園に編入したからここでお世話になることになった」

 

「入寮するってこと? でもそんな話聞いてないけど……」

 

「──彼の言っていることは本当だ」

 

 玲瓏な声が聞こえた瞬間、ラウンジ全体に灯りが灯る。どうやら影時間が終わったらしい。

 

「本当って……いいんですか? 色々……

 

「さあな……ああすまない、紹介が遅れてしまったな。私は桐条美鶴、この寮に住んでいる者だ。それで彼女が……」

 

「……岳羽ゆかりです」

 

 よろしく、と二人に片手ずつ差し出して握手を求める。それが意外だったのか、二人が顔を見合わせている。何か対応を間違っただろうか……? 

 

「……?」

 

「ああ、すまない。同年代で初対面の者に握手を求められたのは初めてで驚いてしまった。よろしく」

 

 そう言って左手を握り返してくれる。その様子を見て、岳羽さんは渋々といった様子ではあったが応じてくれた。

 

「……ごめん、嫌だった?」

 

「えっ、いや、そういうわけじゃ……ごめん、やっぱ初対面の男の人と握手はちょっと嫌かも……」

 

 握手は友好の証、というイメージだったけど、誰にでも当てはまるわけじゃないらしい。

 ……そういえばこの時期の岳羽さんって結構気難しかったっけ。

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

「──で、あれが私達が通う月光館学園。人工島の上に立ってるなんてすごいよね」

 

「うん。……あの、昨日はごめん」

 

「え? ……あー、握手()のこと? そんな重く捉えないで。最終的にしたのは自分だし、むしろ私の方こそ言い過ぎたっていうか……」

 

 少しバツが悪そうに笑い、目を細めている。そういった経験がないため、いまいち他人と仲良くなるための距離感が掴めない。それでなくても僕がこれから関わる人達は心のどこかに大きな地雷が眠っている人が多いのだから。……僕が何もしなかったから。

 

「……ありがとう」

 

「?」

 

「僕、そういうのよくわからないから、はっきり言ってくれるのは助かる」

 

「そう……なんだ。でもせっかく転入して来たんだから、新しい友達作ってみたら……って、大きなお世話か」

 

「……頑張ってみる」

 

 画面越しだと少々ヒステリックな面が目立つ彼女だったが、実際こうして話してみると、ほぼ初対面の相手を案内してくれたり話してくれる良い子だと感じる。

 岳羽さんも僕がなんとかしなければ、あと一年もしないうちに滅びを迎える。いや、それ以前に数日後に迫ったペルソナ覚醒イベントを乗り越えられなければ最低でも原作の流れが大きく変わり、下手したら二人とも死ぬ。

 

 ……僕にできるだろうか。

 

 軽く微笑みながら学園の説明をしていた岳羽さんが訝しげにこちらを見る。どうやら急に黙り込んだ僕を不審に思ったらしい。

 ……あの、別に酔ったわけじゃないです岳羽さん……。

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

「よっ、転校生!」

 

「えっと……」

 

 荷解きをしなくてはと寮に帰ろうとしたところで、聞き覚えがある声に呼び止められた。そうか、学校に来たのだから当然この邂逅も今日か。

 

「オレ、伊織順平。ジュンペーでいいぜ」

 

「……順平君、何か用?」

 

「オレも中2ん時に転校してさ、センパイとしてこれは声をかけるしかない! って思ったワケ」

 

 裏表なく人に優しくできるというのは間違いなく順平君の美点だ。事実、彼は特別課外活動部において重要なムードメーカーだった。……裏を返せば、彼が何かしらネガティブになっている時の雰囲気はかなり重くなるのだが。

 

「なーにが先輩よ、誰彼構わず馴れ馴れしくしてるだけじゃん」

 

「お、ゆかりッチじゃん。今年も同じクラスとは奇遇ですな」

 

「……岳羽さん。今朝は、ありがとう」

 

「お礼なんていいって。道、大丈夫そう? 覚えられた?」

 

 こくりと頷く。正直あまり覚えていないけど、言っても余計な心配をかけるだけだろう。

 

「そーじゃん! おふたりサン、今朝は一緒に登校したんだって? そこんとこ詳しく!」

 

「そーいうんじゃないっての。なんでもそういう話に結びつけすぎ」

 

「……道わからないだろうって、案内してくれた。昨日は夜遅くに着いたから、道確かめられなかった」

 

 岳羽さんに続いて、順平君に言われた通りに詳しく成り行きを話す。昨夜のことは話すなと今朝釘を刺されていたが、これくらいならいいだろう。

 

「結城君、昨日の夜のこと……言ってないよね?」

 

 そっちが言っちゃうんだ……。

 首を動かす僕の反面、順平君は時が止まったかのように固まっている。

 

「昨日の夜!? へー、はー、ふぅーん……」

 

「ちょ、違うからね!?」

 

「……?」

 

 僕のよくわからないところで話が盛り上がっている。こうして見ると、僕なんかより順平君の方がよっぽど仲良さげで噂されそうなものだが。……まあ順平君には何よりも大事な人が出来るから、恋仲になることはないのかもしれないけど……僕が何もしなければその人も死んでしまう。どうするべきなんだろう。

 

「とにかく! 結城君とは何でもないから! 私、用事あるから行かなきゃだけど、変なウワサ広めないでよね!」

 

 そう言い残して岳羽さんは教室から出て行った。

 

「ひー、怖い怖い。……で、ジッサイどーなん? 実はゆかりッチ、コレじゃないの?」

 

「……? わからないけど、岳羽さんは小指じゃないと思う」

 

「いやいや、そういうイミじゃなくて!」

 

「どちらかと言うと、岳羽さんはコレ」

 

「どういうイミかなんとなくわかったけどサ……なんで親指?」

 

「良い人」

 

「だからそゆイミじゃないってーの!」

 

 この会話、ちょっと友達っぽいかも……。色々不安だったけど、人間関係はどうにかやっていける……かもしれない。

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

 2009年4月8日

 

 ようやく慣れてきた学校を終え、一人で寮に向かっているが、足取りは重かった。

 寮には至るところに監視カメラがあり、音も拾う。迂闊なことを喋れば、あの理事長がろくなことをしないかもしれない。その内容がどうあれ、原作の流れから大きく外れることになるだろう。

 

「……どうでもいい、どうでもいい……」

 

 一人になると考えるべきことが多すぎて押し潰されそうになる。だからこうして、結城理(かれ)の口癖を呟いて、心を軽くする暗示とこの身体の持ち主を思い出す作業を同時に行う。

 誰にも聞こえない声量でブツブツ呟きながらしばらく歩けば、寮の姿が見えてくる。

 

「……あ、帰って来ました」

 

「なるほど、彼か……」

 

 噂をすれば影がさすとはこのことか、先程まで思い描いていた人物が岳羽さんと共にラウンジのソファに腰掛けている。正直、あまり話したくはないが、初対面で嫌う素振りを見せるのもおかしい。

 

「私は幾月修司。君らが通う学園の理事長をしている者だ。まあ、かけて」

 

「……」

 

 言われるがままソファに腰を掛ける。……どうでもいいけどふかふかだ。

 

「部屋割りが間に合わなくて、申し訳なかったね。もう少し時間がかかりそうだ」

 

「……」

 

「この際だ。何か訊いておきたいことはあるかい?」

 

「……別に」

 

「おや、そうかい? まあ、困ったことがあれば同年代の友人の方が訊ね易いか。幸い、ここには君を含めて4人住んでいるからね」

 

 言いながら、理事長は腰を上げる。どうやら帰るようだ。

 

「では、よい学園生活を。慣れるまでは無理せず早めに休んだ方がいいよ?」

 

 扉から出て行く理事長を見届け、ようやく少し緊張が解けた気がする。その様子を誰か──というか一人しかいないが──見ているのか、視線を感じる。当然それは岳羽さんなわけで。

 

「……何?」

 

「あ、ごめんねジロジロと。これ違うかもなんだけど……結城君って理事長苦手?」

 

 どきり、と心臓が僅かに跳ねる。

 苦手という意識はなかったけれど、警戒しなきゃいけない人物ではある。そういった態度の違いを感じ取られたのだろうか……? なんにしても、気をつけないと。

 

「そんなことはないけど」

 

「そっか。なんとなく素っ気なく感じだからそう思ったけど、私の勘違いだったみたい」

 

「疲れてたからかも」

 

「まだ慣れないよねー。わからないことがあったら聞いてくれていいから! 今日は部屋でゆっくりしたら? 私も部屋に戻ろっかな」

 

「ありがとう。おやすみ」

 

 会話もそこそこに、岳羽さんが階段を上って自室に戻っていく。それを見送った頃には、もう跳ねた心臓は元通りになっていた。

 

 ……僕、思ったより隠し事ヘタかもしれない。

 

 

 

 ♪♪♪ 

 

 

 

 ──目が覚める。

 だがそれは朝の訪れを示すものではなく、目覚めた場所は自室ですらない。

 その場所を形容するのは難しいが、ざっくり言うなら『青を基調とした超巨大なエレベーターの中』だろうか。

 

「ようこそ、我が『ベルベットルーム』へ。私の名はイゴール。お初にお目にかかります」

 

 正面の豪勢な長椅子に腰を掛けた長鼻の老人──イゴールさんがこちらを見つめている。悪い人ではない(多分)と思うけれど、嘴のような形をした鼻と少し血走った眼をしているので少し怖い。ただ、ある意味一番お世話になる人でもある。

 そんな彼の傍には真っ青な衣装に身を包んだ女性が立っている。僕の目線に気づいたのか、イゴールさんが再び口を開く。

 

「ご紹介が遅れましたな。こちらはエリザベス。同じくここの住人だ」

 

「エリザベスでございます。お見知り置きを」

 

 過剰とも言えるほど丁寧な言葉遣いで自己紹介を終え、再びイゴールさんの話が始まった。

 

「貴方は今からこの『ベルベットルーム』のお客人だ。貴方は『力』を磨くべき運命にあり、必ずや、私の手助けが必要となるでしょう」

 

 この二人……というか、イゴールさんの話すことは言葉の意味は理解できても婉曲的で本質がわかりづらい。正直、理解できない部分も多かったが、それでもこの言葉は耳に残った。

 

「貴方が支払うべき代価は1つ……『契約』に従い、ご自身の選択に相応の責任を持って頂く事です。他の誰でもない、貴方自身のね」

 

「……」

 

「貴方は非常に興味深い心の在り方をしている。ゆめ、己を見失わぬよう……」

 

 意味深に言いながら、かなりの大きさをした鍵が浮遊して来て渡される。この部屋が非現実的な風景だからか、何気に初めての超常現象にそれほど驚かずに済んだ。

 

「では、またお会いしましょう……」

 

 急に眠りに落ちる時のように意識が遠のき、視界が黒く染まっていく。自分が溶けて無くなっていくような感覚に抗うように強く鍵を握りしめ──意識が、落ちた。

 

 

 

 眼を覚ますと、あの一面が青で染められた部屋ではなく、寮の自室だった。時間もそろそろ起きなくてはいけない頃だ。

 

「……」

 

 あそこに行けたということは、僕にもペルソナ使いの素養があると自惚れていいのだろうか? いや、どちらにせよ、やれるという前提でやっていくしかないんだ。

 

 だって、今夜は満月だから。

 

 

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