命のこたえなんていらない 作:ペルソナのおじさんコミュはいいぞ
当時賛否両論あったあの作品を今の技術で見られるのは嬉しいことです。
私事ですが、拙作の評価ありがとうございます。おかげさまで満月の色になりました。また、感想も返信は控えていますが全て目を通させていただいています。
自分なりのペースで書いていきますので、DLCまでの暇潰し程度に読んでいただけたら幸いです。
2009年4月9日
……今日は朝から心臓が早鐘を打つ感覚が抜けない。
理由は自分でも明確で、今夜が初めての満月だから……つまり、結城理がペルソナ能力を開花させる日だ。
「よ、調子どうよ。ヒマなら帰りどっか寄ってかねぇ?」
「今日はちょっと……」
「なんか用事か?」
「……ちょっとポロニアンモールで買い物」
「おっ、グッドタイミングってやつじゃね、それ! ちょうどソコ行こうかなって考えてたんだよな」
どうやら付いてくる気のようだ。まぁ、いくら買い物を早く済ませて寮に帰っても、結局時間までヤキモキしているだけだろうし、それなら一緒に遊んで少しでも気を紛らわせた方がいいだろうか。
「じゃあ、行こう。順平君」
♪♪♪
「っしゃー! オレっちの勝ち! もしかして、オマエこういうの苦手?」
「ゲームセンターは初めて」
初めての格闘ゲームをほぼパーフェクトで負け、逆に勝った順平君は機嫌良さそうに声を張っている。レバーやボタンを忙しなく動かすこの感じはちょっと苦手かもしれない。
「なら他のゲームもやってみようぜ。こんだけあれば一個くらいハマるのあるでしょ」
「じゃあ、これ」
「いいでしょう。なんでもかかってきなさーい!」
──と、10分前は息巻いていた順平君だったが。
「あ、ちょ、おま! 答えるの早すぎ! 考える時間もねーじゃん!」
「……そう? あ、伊能忠敬」
「ちょー! 喋りながら答えんなって!」
さっきまでとは一転して、順平君の悲痛な叫びがクイズゲームの筐体の周りに響く。早押し形式の対戦モードのため、順平君に一問も答えさせることなく進んでいき、結局全問終えるまで続いた。
「初心者には優しくしろって言葉の意味が身に染みてわかったぜ……ゲームってボコられたらツマンネー……」
「……僕は楽しかったよ?」
「でしょうねぇ!」
「……で、ナニ買いに来たん?」
「常備薬」
「クスリってこと? そんならあそこの青ひげって店に大体あるぜ」
記憶を辿ると序盤は品揃えが悪かった印象だったが、どうやら普通のドラッグストアくらいの品は普通にあった。順平君を外で待たせているので手早く薬を買う。遊んでいる間には気づかなかったが、店を出た頃には暗くなり始めていた。
「うっし、買うモンも買ったし、いい時間だしで解散のタイミングだな! あんま遅くなっても寮暮らしのオマエはドヤされるかもだし」
「うん。色々ありがとう」
「いいってことよ! そんじゃ、また明日な……つっても、駅までは一緒か」
駅までなんでもない話をしながら歩き、そこで順平君と別れる。なんとなく姿が見えなくなるまで彼を見送り、僕も自分の帰路に着く。
「『また明日』、か……」
『また明日』を迎えるために今日頑張らないとな。
空を仰げば、満月が顔を覗かせようとしている。完全に夜になる前に早く帰ろうと、いつもより早く動かしている足は少し軽く感じた。
♪♪♪
睡眠薬を用いて強制的に引き起こした眠りが大きな揺れによって途切れる。眠りが浅かったからか、それともこの日をずっと意識してきたからか、寝起きにも関わらず状況はすぐに理解できた。
「結城くん! 何も言わずに着いてきて! 時間がないの!」
「わかった」
下から迫り来るナニカから逃れるため、岳羽さんと屋上へと走る。緊張と興奮で気が逸り、大きな揺れや窓ガラスが割れる音に戸惑う岳羽さんの手を引き、ひたすら屋上へと駆けた。
「ちょ、結城くん、痛いよ!」
「……あ、ごめん……」
屋上に着いてもなお岳羽さんの手を固く握りしめたままにしてしまい、痛がらせてしまったらしい。握られるのが嫌だと言われたことを思い出し、二重で申し訳ない。
──そんな考えは、一際大きな地響きに掻き消された。
「なに、この音……!?」
あまりにも大きい揺れでわかりづらいが、段々とここに近づいて来ている。そしてついに、デスから分かたれた始まりの12体──その内の1体が今、眼前に現れた。
「結城くん、下がって!」
岳羽さんは向かってくるシャドウと僕の間に立ち、ふくらはぎのホルダーから銃の形をした召喚器を抜く。しかし、額に銃口を突きつけたところで恐怖心が岳羽さんの動きを縛り付ける。
「──────!!」
「あ……結城くん、逃げ……」
言い切ることなく、岳羽さんがシャドウの巨大な手に吹き飛ばされ、その衝撃で手放した召喚器が僕の足元まで転がる。ソレの本来の持ち主は全身を擦り傷だらけにしながら気を失っていた。
「岳羽さん……」
初めて、自分が何もしなかった結果傷ついた人を眼前で見た。でも、僕が直接見て来なかっただけで、この十年間で僕が見て見ぬ振りをしてきた物のほんの一部に過ぎない。
何のために? ──決まってる。今日この時、これから先のためだ。
だから僕には報いる責任がある。今傷ついている彼女に、これからできる仲間に、そして何より……僕が体を乗っ取ってしまった彼に。
できるかなんてわからないけど、やらなくちゃいけないんだ。こんなところで岳羽さんは死なせない。
──そしてついに、始まりの引鉄を引いた。
⇔
……気を取り戻した瞬間、全身からズキズキとした痛みが襲い掛かってくる。でも今は、その痛みのおかげですぐに意識がハッキリとする。
「
見渡すまでもなく、彼はすぐに見つかった。普段は反応が薄い顔には驚きの表情が貼り付けられ、右手には多分私の召喚器を握っている。何より、先輩達が戦う時のように光の奔流が彼の周りを渦巻いていた。
「ペルソナ……」
ソレはヤツらに抗うための力。私が未だ使えていない力でもある。
結城くんのものであろう機械仕掛けの体を持つ人型のペルソナが爆炎を幾度も放つ。ダメージ自体は通っているみたいだけど、一撃入れる度に攻撃をしている側の結城くんの顔が見るからに青くなって行く。
「うう、ああぁぁぁぁぁぁ!!」
「結城くん!」
苦しそうな呻き声を上げ、頭を抱え始めた彼を見てペルソナを使いすぎた反動じゃないかと思ったけど、異変はそれだけにとどまらなかった。
「Grrrrrrrrrrrr!!!!」
「なに、あれ……」
憎らしいほど綺麗な満月を背景にして、結城くんのペルソナを内側から食い破るようにナニカが現れる。
──アレも結城くんのペルソナなの……?
ペルソナの見た目は千差万別。どんな姿をしていても不思議ではないのだが、違和感を覚えたのはそこではない。何か雰囲気が違う……根拠としては薄弱もいいところだが、確かにそう感じてしまった。
手に持った剣でシャドウを切り裂いているだけではない。体から引き離された肉片とでも言うべきものを握りつぶし、食いちぎる様はとても人の身から出たモノとは思えない。野生動物がペルソナを召喚したと言われた方がまだ納得できるくらい酷い有様だった。
「──Arghhhhhhhhhh!!!!!!!!!!! 」
大型シャドウの血の雨を降らせ、雨は地面に到達する前に霧散して行く。シャドウが駆逐されたことを確認したかのようなタイミングで、正体不明のペルソナは元の機械仕掛けの体を持つ姿へと戻っていった。
「ぅ……」
「──結城くん!?」
呆然としていた私の意識を引き戻したのは彼の苦しそうな呻き声だった。
痛む体を無視して彼のもとに駆け寄るが、そのことにすら気づいていないのか頭を抱えて蹲っている。
「結城くん、結城くん! ねえ大丈夫!?」
「──岳羽さんッ!」
彼の肩を揺すり、意識の有無を確かめていた時だった。いきなり弾かれたように結城くんが動き出し、私を思い切り突き飛ばしてきた。突然のことで反応出来ず、お尻と背中を強く打ちつけてしまい、鈍い痛みが新しく襲ってきた。
何するのという文句の言葉は、目の前の光景に引っ込まされる。
さっきまで私が居た場所に大火が昇っている。その炎は私を突き飛ばした結城くんの右腕を包み、皮膚を焼いていた。
新手が来たのかといくら周りを見渡しても、結城くんと彼のペルソナ以外見当たらない。月を背景に佇むペルソナの無機質な目を見た瞬間、嫌な予感が身体を突き動かし、飛び跳ねるようにその場を離れた。コンマ数秒後、また火柱が増える。
「結城くん、なんで⁉︎やめてよ‼︎」
「……ごめん。今、なんとかしてみるから……」
激痛によって脂汗を流し、浅い呼吸を繰り返しながらも彼は再び召喚器の引鉄を引いた。刹那、彼から再び光の奔流が溢れ出し、月光に染められた屋上をさらに白く塗り潰す。
それは、一対の蛇だった。その巨躯を複雑に絡み合わせ、歪な人型に当てはめている異形のペルソナ。
『我は汝、何時は我……我、滅びの運命を歩む愚者より生まれ出でし者……ウロボロスなり!』
「やれ……!」
結城くんの指示で二匹の蛇に分かれたペルソナのそれぞれが機械仕掛けのペルソナに絡み付き、締め上げていく。
「──────!」
「うっ……‼︎」
もちろん向こうも無抵抗じゃない。触られるのを嫌がるように、自分が巻き込まれるのもお構いなしに爆炎を結城くんのペルソナに何発も放つ。その度に苦しげな声を漏らす彼の様子を見れば、ペルソナが受けたダメージが彼にも反映されていることが簡単にわかった。
「締め上げろ、ウロボロス……!」
やがてバキリと硬いものが砕ける音と共にウロボロスと呼ばれた結城くんのペルソナが拘束を解いた。機械仕掛けのペルソナは重力に従って地面に向かって落ちて行き、空中で粒子となって消えていく。それとほぼ同じタイミングで結城くんのペルソナも姿を消した。
「ハッ、ハッ……たけばさん、だいじょ……」
「結城くん‼︎」
言い切る前に倒れた結城くんに駆け寄り、ようやく彼の容体をしる。
「うっ……」
鼻血の跡やペルソナ越しに受けたダメージの傷も何個もあるが、特に酷いのはまともに炎を受けてしまっていた右腕だった。嫌なものが焼ける臭いが鼻をつんざき、実際ところどころが黒ずんでいる。
血の気が感じられない青ざめた顔に患部の状態、加えてペルソナ能力の濫用。このままでは死んでしまうのではないかという恐ろしい考えが頭を埋める。
「死なせてたまるもんですか……! 私だって……!」
彼のそばに転がっている召喚器を手に取り、銃口を額に当てる。不思議と震えはなかった。怖いとか、結城くんみたいにペルソナが言うことを聞かないかもしれない不安は、『彼を救わなきゃ』という使命に塗り潰されてどこかに消える。
──そして、引鉄を引いた。
この日に覚醒するのがオリ主だけとは言っていない