リハビリのための小説   作:桜舞

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リハビリのための小説

ヘンリエッタ・ルピナス・ブリリアント。

リューネ王国第15代国王、グンジョウ・デルフィニウム・ブリリアントの妹で、7大悪魔の1人ベルゼビュートの生まれ変わりでもある。

常時空腹を抱えており、幼子の時分は常駐医であり龍種でもある要刑音(かなめけいね)に付き纏い、空腹を満たそうと襲いかかったりもした。

 

 

と、そんなぼくも35歳になりました。

今では少し落ち着いている、と思う。

ケーネ先生には、迷惑をかけているとは思うけれど。

 

「お腹すいたなぁ…」

 

リューネ王国、21貴族の1人である立花家元当主、

立花夏月(たちばなかづき)

ぼくたちの母様の大親友である。

ぼくたちは親しみを込めてカヅキおばさんと呼んでいるけれど、そのカヅキおばさんだったか、ケーネ先生だったか。

神から神託をもらって、神が紡ぎ出した剪定事象を消してくるようにって言われて。

いつもお腹が空いているぼくにそのお鉢が回ってきた。

20歳くらいからそのお役目をしているわけなんだけれど…

 

「味に飽きたなぁ…」

 

剪定事象だから、要石(かなめいし)になっている人物を消してしまえば、その世界は保てなくなって消えてしまう。

ぼくはその人物ないし、竜種であるケーネ先生を食べてしまえば終わり。

だが。

 

「全部一緒なんだよなぁ…」

 

例えるなら、ケーキ。

酸っぱいケーキもあれば、甘すぎるケーキもある。

焦げっぽいケーキもあれば、何の味もしないケーキもある。

 

でも、そんなケーキも食感が一緒なら萎える。

世界だから、別の味付けを試すというわけにもいかない。

一度ケーネ先生に相談してみたけど

 

「いや、俺に相談されても困るんだが? 俺医者だからね?」

 

との返答だった。

ぼくの護衛役である立花家のユーカちゃんなんて、自分を食べればいいとしか言わないし…昔食べてから不味いって話したと思ったんだけど、記憶違いだったのかな?

 

「んー…どこかにいい食べ物転がってないかなー?」

 

兄様に聞かれたら拾い食いはダメって言われそうだけど、小さい頃なんてお皿ごと食べてた気が…。

 

何となく城の中を歩いていると、兵士の休憩所の扉が少し開いていた。

そしてぼくは、テレビから映る光景を目にしたのだ。

 

「ダンジョン…?」

 

テレビに映っていたのは、第二次統合騒乱(だいにじとうごうそうらん)で各地に出現したダンジョンを攻略する様を配信する、と言う趣旨の動画で、兵士の皆さんも楽しそうにみている。

 

「ねぇ、聞いてもいい…?」

「うわ、ヘンリエッタ姫?! な、何か御用でしょうか?!」

 

失礼だな、そんなに驚かなくても取って食ったりはしない。

人間は不味いんだよ、酸っぱいし鉄臭いし。

 

「何をそんなに熱心にみているのか、興味持った。

教えて欲しい」

 

かくかくしかじかで教えてもらった話に、ぼくは興味を持つ。

世界を食べるのは少しサボっても問題はない。

むしろ最近少なくなってきて、どうしようかと思っていたところだ。

これは渡りに船というやつでは?

 

「ありがとう、君にヴェスタ神の加護があるといいね」

 

母様曰く、あの筋肉マッチョの加護なんて高が知れているらしいけど。

 

 

 

 

 

「たーのもー」

 

と言いつつ、医務室の扉を開ける。

 

「厄介ごとなら帰れ。俺は今忙しい」

 

書類と睨めっこしてるケーネ先生。

周りの看護師さんや薬剤師さんたちも苦笑いしている。

 

これはさてはあれだな?

それ片付けないと、トーカ先生のとこに帰れないから何とかして片付けようとしてるな?

 

トーカ先生はケーネ先生の奥さんで、ケーネ先生が溺愛してるせいか全く歳を取らないらしい。

龍の加護とか何とか言ってたっけ。

そしてぼくの兄であるグンジョウ兄様を、お兄ちゃんと呼ぶ人だ。

何でかは教えてもらえなかったけど。

 

「厄介ごとって言うか、日本に行きたいんだよね」

「日本だぁ?」

 

書類から顔を上げてこちらを見る。

 

「唐突にまた何で」

「んー…世界の味に飽きたから、味変したくて? ほら、スイーツバイキングでもよく言うじゃないか。スイーツとカレーの梯子したら、無限に食べれるって」

 

それでも人間の胃の容量からしたら、無限とまではいかないとは思うけれど。

ぼくは破産させられるくらいまでは食べれるよ? もちろん。

 

「いや、日本に行きたい説明になってないぞヘンリ」

「んー…ダンジョンの魔力が食べたいんだよね。日本のダンジョンってどんな味がするんだろうって、ぼく今すごくワクワクしてるんだ」

 

体の動きで表現してみてるんだけど、周りからはそう見えてないらしいってことがこの前わかった。

ちゃんと笑んでるつもりでも、ぼーっとしてるようにしか見えてないんだって。

カヅキおばさん曰く、次元が一つか二つくらいズレたところにぼくがいるせいだろう、って言ってた。

ぼくからは触れられたり話しかけたり出来るんだけど、相手側のチャンネルが合わないと声とか表情がわからないんだってさ。

一回、母様にぼくの声ってどう聞こえてるのって聞いてみたら、

 

「あたしには可愛らしい声に聞こえるけれど、他の人たちは機械音声みたいに聞こえてるみたいよ。表情も動かないし、ヘンリエッタ姫は機械人形(オートマータ)か何かなのですかって聞かれたわ」

 

と、カラカラ笑っていた。

よく笑ういい子なのに、と母様は言う。

それ言った人、王族に対しての不敬罪に当たる気がするんだけれど、母様たちは気にしないみたいだ。

結構大らかだよね、うちの母様。

ぼくみたいなの産んでも、気味悪がらずにちゃんと育ててくれたんだから。

 

「俺にその決定権があると思ってんのか?」

「先生はぼくの保護者じゃないの?」

「大の大人が何で保護者つけなきゃいかんのだ。大体、保護者ならグンジョウが適任だろうが。お前の兄貴なんだから」

 

それもそうか、と納得する。

先生は、ぼくがそれこそ受精卵の時からのお付き合いだから、勝手に保護者扱いしてた。

本来の保護者である母様はもうそろそろお迎えだろうし、次の保護者はグンジョウ兄様か。

 

「わかった、兄様に許可とってくる」

「そうしろそうしろ、あー桃華に会いたい…」

 

頑張れ先生。

まぁ、遅くなったところでトーカ先生は差し入れ持ってきて、先生とイチャイチャしまくるんだろうから、帰れなくなったところで関係ないかもだけど。

先生の横の扉、自宅直行だってみんな知ってるし。

 

 

 

さて、兄様の執務室前に到着したけれど。

 

「何か御用でしょうか? ヘンリエッタ様」

「今陛下は執務中であらせられます、御用がおありなら(わたくし)共がお聞きしますが」

 

堅物で有名なマリエルと、陽気なアーニャ。

どっちも父様たちの護衛をしてた人たちの娘だ。

なんか知らないけど、王族の護衛は基本女の人しかなれないらしい。

例外なのが、シャナ姉様の護衛役だったツルギ義兄様とアンナ姉様の護衛役だったスイカ義兄様。

あとは女の人が護衛についていた。

 

ぼくの護衛であるユーカちゃんも女の人だし。

 

母様の時のジンクスで、専属護衛になれたらその王族と結婚できるとか何とか。

本気にしちゃってたのがユエ義姉様とユタカ義姉様だって聞いたことはある。

 

「………」

 

さて、どうやって伝えよう。

ぼくの声、この2人には上手く伝わらないんだよな。

強硬策に出るのは、流石に兄様に迷惑だし…。

 

うんうん唸っていると、ぼくの横に誰かが来る気配がした。

そちらを見て、ぼくは少し顔を歪める。

光に透かしたら金色になる薄茶色の髪に、金色の瞳を持った超絶美人…ぼくの護衛役である立花裕夏(たちばなゆうか)ちゃんがそこに立っていた。

何でぼくが顔を歪めたかと言えば

 

「ヘンリエッタ様は、陛下に火急の用事がございます。貴方方に言伝(ことづて)を頼んでいる(いとま)はございません。速やかにお通しくださいますよう。それとも、王族であるヘンリエッタ様を蔑ろ(ないがし)にしてまで、貴方方は陛下を独り占めなさりたいのかしら?それはそれは、王妃殿下のご不興を買いたいと(おっしゃ)るの?まぁ、それならそうと仰れば宜しいのに!(わたくし)が王妃殿下であらせられるお姉さまにお伝えいたしますのに!」

 

僕のことが好き過ぎて、暴走列車みたいに暴走しまくるからだ。

こういう所が、立花家の血だと言わざるを得ない。

兄様に会いたいだけなのに、何でこうも煽り散らすような真似をするんだろうか。

流石にぼくの立場も考えて欲しい。

 

「な、そんな事は…!」

「いくら前立花卿の娘だからって、言っていいことと悪いことがあると思うんだよねー」

 

それはそう。

彼女らは職務を全うしてるだけなのだから。

煽るユーカちゃんが悪い。

 

ぼくはペシリとユーカちゃんの肩を叩く。

 

「なぁに、ヘンリ?」

 

ニコリと笑ってぼくの方を見るユーカちゃん。

黙っていればお淑やかそうに見えるのに、口を開けばいつもこう。

こういうところが、カヅキおばさんの血なんだよなといつも思う。

 

「ユーカちゃん、ぼくの言葉を彼女達に伝えて。ぼくの事を好きなら、言うことを聞いて」

「勿論よ、ヘンリ!!」

 

立花の家って…毎度思うけど愛情のベクトルがおかしい気がする。

絶対カヅキおばさんの血か、教育が悪かったせいだ。

 

「兄様に、国外に行く許可を貰いに来た。ぼくは半分悪魔だから、城の外に行くにも許可が必要だと考えた。むしろいらないならそのまま行くけど、その如何(いかん)を兄様に問いに来た。だから通して欲しい」

 

と、ユーカちゃんを通して尋ねてみる。

護衛2人は顔を見合わせて、少し困り顔だ。

それもそうだろう。

本来ならこんな事で、兄様の手を煩わせたくはないだろうし。

でも事実だから仕方がない。

 

「良いよ、通してあげて」

 

中から声が上がる。

2人はその声に一礼して、扉を開けてくれた。

その扉を潜り、中に一歩踏み入ったぼくはスカートの裾を摘んでカーテシーをした。

隣ではユーカちゃんが胸に手を当て、敬礼を取っている。

 

…TPOは守るんだよな、この一族。

 

「珍しいね、ヘンリが僕に会いに来るなんて」

「陛下におかれましては、ご機嫌麗しく存じます。此度は政務の手を煩わせてしまい申し訳ありません」

 

そしてぼくもTPOは守る方だ。

ちゃんと学習したもんね。

先生やおばさんに滅茶苦茶怒られたしね。

 

「別に(かしこ)まる必要はないよ、ヘンリ。兄妹だし、ここには僕達しかいない、そうだろう?」

「…うん、兄様」

 

最近また老けた気がする。

笑い皺が深くなっているし。

息子であるクオンも手伝っているはずなんだけど、王の仕事は多忙なんだろうなぁ。

 

「で、扉の外で言ってた事なんだけれど…国外って、どこに行くつもりなんだい?」

「日本」

 

兄様が笑顔のまま固まった。

ぼくそんなにおかしな事言ったかな?

 

「…何で日本に行くんだい?観光のため?」

「ううん、ダンジョン食べに行くの」

 

あ、兄様が頭抱えた。

ごめん、ユエ義姉様、ケーネ先生。

兄様の頭痛の種増やしちゃったかもしれない。

 

「陛下、発言をお許しいただけますでしょうか?」

「…まともな事を言ってくれるなら良いよ」

 

兄様もユーカちゃんがまともじゃない事は理解しているらしい。

でも、ユーカちゃんのまともさがどのくらいなのかは多分理解できていない。

昔のユエ義姉様達を基準に考えない方がいいと思う。

あれよりぶっ飛んでいるはずだから。

 

「ヘンリエッタ様は、それはもう可愛らしくて健気でおとなしく、可憐で清楚でこの世のものとは思えないほどの美少女でございます。そんなヘンリエッタ様が陛下に対して我儘を言ったことがあったでしょうか! いや、無いに等しいほどにございます!ヘンリエッタ様が我儘を言うことがあったなら、それを全力で叶えるのが兄というものではございませんか?陛下!!」

 

ちょっと黙って欲しい。

むしろ、ユーカちゃんの実兄であるスイカ義兄様を呼んできた方がいい、今すぐ。

 

あと、ぼくは美少女というには烏滸がましいほど年を食っている。

この体の年齢で35歳、魂の話で言うならその数千倍だ。

 

この場に母様の使い魔であるレヴィがいなくて良かったと思う。

こんなの、彼女からすれば喜劇以外に他ないだろうから。

いや、兄様の使い魔のグリードがいても同じか。

兄様の魔力保有量が少ないから、滅多な事では顕現しないけれど。

 

「世界を食べるのでは、ダメなのかい?」

 

話は再びぼくの方に回ってくる。

ぼくはこくりと頷いた。

 

「世界を食べるのに飽きちゃったんだ。例えば…そうだなぁ…味が別でも、食感が同じなら兄様は何回までで飽きる? うーん…クラッシュゼリー飲んでるみたいな食感って想像で。毎食それ」

「三日目で飽きる自信はあるよ」

 

苦笑いで足を組む兄様。

普通の人間はきっとそうなんだろう。

 

「私はヘンリがくれたものなら味が変でもドロドロでも喜んで食べるわよ!毎食!!」

 

聞いてないし、流石にぼくも頭が痛くなってきた。

というか、スイカ義兄様どこ行ってんの。

 

「裕夏ちゃん、物理で黙らせられるか魔法で黙らせられるかどっちがいい?」

「ヘンリにならどちらでも!!」

 

ぼくのドスが効いた声にもめげず、目をキラキラさせて両手を組み、跪くユーカちゃん。

彼女の何がそうさせるのかわからないけれど、ぼくに対して盲目的な忠誠心と信仰心を抱いている。

生まれた時に魅了をかけた覚えもないから、これが彼女の素なんだろうけど、度が過ぎるのはいただけない。

 

「はい、裕夏ストップ」

 

今まで何してたのかわからないが、やっと現立花卿である立花水夏(たちばなすいか)が現れた。

ユーカちゃんを後ろから羽交締めにしている。

 

「ちょっと、お兄様?! 今からヘンリにお仕置きされるところなんだから邪魔しないでよ!!」

「陛下の御前で何やってるの。君、不敬罪で首飛ばされたらどうするの」

「ヘンリの手なら是非やってもらいたいわ!!」

 

やらないよめんどくさい。

 

「立花卿、来て早々申し訳ないけれど、ユーカちゃん連れてってもらえないですか?陛下と大事なお話ししてるんです」

「御心のままに」

 

ユーカちゃんを羽交締めにしてるせいで敬礼もまともに出来ないようだったけど、その場から連れ出してくれてぼくは内心ほっとする。

 

ユーカちゃんのことは嫌いじゃないけど、あんまり騒がしいと疲れる。

悪魔のぼくが疲れるなんておかしい話だけれど。

 

「最近、世界が生成されるスピードが遅くなってきたんだ。だから、少しサボっても問題ないレベル」

「ダンジョンか…日本でなくとも、リューネ国内にだって複数箇所あるだろう? そちらではダメなのかい? あぁ、誤解ないように言っておくけれど、君を国外に出したくないと言っているわけじゃない。日本に行く前に、ダンジョンとはどういうものなのか国内で経験してからでもいいんじゃないかい? って提案しているだけなんだ」

「わかってるよ、兄様」

 

何回か顕現して見る人間の世界、その中でも王家というやつは低級悪魔が喜ぶような泥沼に陥ってる時がある。

ある時は、血で血を洗う争い。

ある時は、政争で相手を蹴落とし合ったり、毒殺、暗殺、ハニートラップ…数え上げたらキリが無いくらいだった。

 

でも、このリューネにはそれがない。

父様の時代にはあったみたいだけど、ぼくの兄弟の時代には全くと言って良いほどそんな争いは生まれなかった。

王妃が母様だけ、というだけじゃない。

兄姉弟妹の仲が良いのだ。

こんなぼくでも、兄弟順で言えば一個上のラゼッタ兄様は可愛がってくれてるし、他の兄姉も同様だ。

 

「兄様の案も一理ある。なら、リューネのダンジョン食べて、飽きたら日本に行っても良い?」

「別に良いけれど…ちゃんとユーカちゃんは連れて行くんだよ? 君の護衛役だからね、あれでも。あと、身内に何かあったらすぐに戻ってくること。食事に夢中で忘れてました、って言う事態だけは避けて欲しい。母様やカヅキおばさん、ユーリおじさんももうお年だ。何かあってもおかしくはないからね」

 

ユーリおじさんはともかく、カヅキおばさんや母様は神から貰った能力の値が半端ない。

早々にお亡くなりになることはないと思うけど。

 

「兄様がそう言うなら、気を付ける。ユーカちゃんにもそう言っておく。もし国外にいて、緊急事態で戻らなきゃいけない時。おばさんの艦である武蔵でも間に合わないって場合は、転移術で戻ってきても良い?」

「…流石にそれは、ダメとは言えない。君が日本に行く時、話は通しておこう」

 

日本の首相にだろうな。

ごめんね、兄様。

迷惑かけて。

 

兄様の執務室を辞した後、ユーカちゃんを拾いに行く。

多分スイカ義兄様に怒られてるだろうから。

まぁ、ユーカちゃんは全く気にしていないどころかぼくへの愛を声高らかに言っているだろうけれど。

 

 

 

予想通りのユーカちゃんを拾い、ぼくは早速ダンジョンを管理するギルドに行く。

 

「邪魔するでー」

「邪魔するなら帰ってー。って、ヘンリエッタ姫じゃないですか。何ですか、立花老みたいなこと言って。耄碌しました?」

「エコー。流石に、姫はやめて欲しい。そんな歳じゃない」

「ヘンリは幾つでも姫よ!!」

 

黙ってて欲しいので、アイアンクローをユーカちゃんにかます。

五月蝿い輩(身内に限る)はこれで黙らせろ、と母様とカヅキおばさんから言われてる。

主にユーカちゃん対策として。

 

「で、今日はどんなご用件で?姫が捕食できる対象は今のところいないですよ?」

 

エコーがカウンターに肘をつきながら、手を振る。

お行儀が悪いと思うけど、まぁ、これが彼の性格なのでぼくは気にしない。

ユーカちゃんはエコーを睨みつけていたけれど。

 

「リューネのダンジョンに入りたい。ギルドカードは持ってる。入れない?」

「フツーは一回検査とかするんですけど、姫なら大丈夫でしょ。むしろ、姫が食い尽くしてくれるんだったら、ギルドも管理しなくて済むんじゃないですかね?」

 

ダンジョンに入る目的とか言ってないのに、エコーは察して言う。

これが、リューネのギルド本部受付の力なんだろうな。

 

「何でもかんでもわかるわけじゃないですよ? 姫が絡むやつは大体、姫の食欲と関係あるでしょ? 俺はそれを知ってるからそうじゃないかなって思って言っただけです」

「…それでも、ぼくの思考を読めるのはすごいと思うよ? ユーカちゃんはまだ無理っぽいし」

 

護衛兼相棒になるように、カヅキおばさんはユーカちゃんをぼくの護衛役にした…のだと思う。

母様とカヅキおばさんは、阿吽の呼吸で戦闘ができたというし。

 

「こんなにヘンリを愛しているのに!!」

「じゃ、案内しますんでどーぞー」

 

ユーカちゃんの絶叫を気にもせず、エコーはギルドに併設されてるゲートの前までぼく達を案内してくれた。

 

「一応、中で死亡しても死亡扱いにならずゲートまで戻って来れるようになってます。手に入れた戦利品とかは、パクらないでちゃんとギルドに提出してください。金にするか、持って帰るかはその時に言ってもらえれば対応します。次の階層に行くにも、ゲート通らなきゃいけないんで一掃しないで下さいよ、姫? 敵と味方、その階層にいる探索者にはマーカーが付いてます。それ見て判断してください。あと、エリアボスってのが各階層にいるらしいんで、倒さなきゃ先進めないって思ってください。あとなんか質問は?」

「ない。わかりやすい。流石エコー」

 

ちゃんと受付のお仕事してて偉い偉い。

おねーさんなぼくは褒めてあげよう。

 

「見た目だけで言えば、俺の方が年上なんですけど。姫、まだ16って言っても通るぐらいの童顔なの、自覚してます?」

「こういうの、なんて言うんだっけ…合法ロリ?」

「どこで覚えたんすか、そんな言葉。一国の姫なのに」

 

どこだっけ…兵士の人たちが見てたテレビだったっけ…。

女の子なのに、めちゃくちゃ歳が上で合法ロリと呼ばれていたような…?

 

「まぁ、聞くより見る方が早いと思うんで、いってらっしゃーい」

 

エコーに見送られて、ぼくはゲートを潜る。

目の前に広がるのは、鬱蒼とした森だった。

 

「…トリスタン領の森を再現してる?」

「そうね、確かにうちの領っぽいわね」

 

ユーカちゃんの方を見ると、どこから取り出したのかビデオカメラを片手に持ち、ぼくを撮影しているようだ。

撮られ慣れてはいないけど、ユーカちゃんのする事に一々目くじらを立てていたら、日が暮れるどころじゃない。

何日もここに足止めになる。

相槌を打つ人だとでも思おう。

ぼくはそう決めて、森の中を進む。

 

「お腹すいてきたなぁ…」

「ヘンリ、私を食べる?」

「どんなにお腹すいてても、絶対ユーカちゃんは食べない」

 

餓死の危険性があったとしても絶対。

おばさんと約束したし。

 

「愛されてるのね、私!!」

「違う」

 

断言する。

ぼくはユーカちゃんを愛していない。

友達としては好きだけど。

というか、愛とか恋とか、人間の感性はよく分からない。

ぼくはただ気ままに、何かを食べられれば良い。

 

人間を食べないのは、不味いという事もあるけど、ぼくの魂まで消滅させられるおばさんと約束したからだ。

もし、ぼくが人間を食べ始めたら、その存在事消す、と。

 

おばさんの言う事は絶対だ。

有言実行が服を着ているようなものだ、その言葉は必ず守られるだろう。

例え、彼女自身が死していたとしても。

 

「あ」

 

適当な動物型の魔物を見つける。

視認できた瞬間、その魔物の魔力、生命力、体細胞の全てを吸収する。

それでも空腹は無くならないけれど。

 

暴食の魔眼、とでもいうのか。

この能力が使えるようになったのは、世界を食べ始めてからだったけど意外と役に立つ。

幼い時の自分になくて良かったなとは思っている。

じゃなかったら、とっくの昔にケーネ先生やカヅキおばさんから殺されているだろうから。

グラトニーとでも名付けておこうかな。

 

「相変わらずどういう原理かわからないけれど、素敵よヘンリ!」

「…これ見て化け物と言わないユーカちゃん、余程変人だとぼくは思うよ」

 

毒を吐くヘンリも素敵、なんて言われてぼくは軽く肩をすくめた。

まぁ、まともなユーカちゃんなんて想像できないから、別に良いけど。

 

と、そんな行程を何回か経て、階層ボスの部屋の前まで来る。

 

「ヘンリ…ごめんなさい。私はここまでだわ…」

 

ボス部屋の中をチラリと見たユーカちゃんは、ぼくにそう言ってきた。

 

珍しい。

いつもならどんなに嫌がっても、絶対ついてくるのに。

 

「でも、ヘンリの勇姿は撮りたいから私の使い魔は同行させるわ…あぁ、口惜しい…」

 

そこの執念は凄いなぁ、と思わないではない。

というか、この反応…。

 

「もしかして、ボス部屋のボスって虫?」

 

ボス部屋の方を指差し、聞いてみる。

ユーカちゃんが大きく頷いた。

しかも顔が若干強張っているという事は、相当無理な奴。

 

「節足動物類…百足(ムカデ)か蜘蛛って所かな…」

「やめて! 言わないで!!」

 

今までの経験上、考察して口に出したけど当たってたみたいだ。

ユーカちゃんは耳を塞いで、後ろを向いてしまう。

 

ここ、一応セーフティポイントらしいけど、そうじゃなかったら死んでる所だと思う…まぁ、いいか。

ユーカちゃんだし。

 

「じゃあ、行ってくるね。終わったらダンジョン自体食べるから、自分の身は自分で守って欲しい」

「わかったわ。ギャンソン! ヘンリを守るのよ!!」

 

白い鳥型の使い魔、ギャンソンが呆れた様に主を見ていた。

その足には、さっきまでユーカちゃんが持っていたビデオカメラが括り付けられている。

 

「まぁ、わからないでもないけど。手出しはしなくて良いよ、ギャンソン。寧ろ、後ろに下がってて。巻き込んだら君に悪い」

「ガァー」

 

ギィィィ、と軋む扉を開けて中に入る。

その巨躯を見た瞬間、ぼくは即座に理解した。

 

うん、これユーカちゃんには無理な奴だ。

 

黒い体毛に覆われ、デカい腹に鋭い牙。

8つの目がぼくを見、ぼくの存在を認識する。

 

「蜘蛛か…」

 

30メートル級の大蜘蛛が、ギチギチと不快な音を出して威嚇してきた。

いきなり腹から白い糸を出し、ぼくらを捕獲しようとする。

ギャンソンは高く飛び上がり糸を回避したけど、ぼくは顔を庇いながらわざと捕まった。

ぼくを間抜けと思った大蜘蛛だったけど、すぐ異変に気付いたみたい。

足の数本がなくなっている。

その巨体を支えきれず、大蜘蛛は(かし)いでいった。

 

もちろんぼくの仕業だ。

目で見た範囲を食ってやったのだ。

 

虫だから、何が起こっているのか理解できていない様で、ギチギチと牙を鳴らしている。

 

「あぁ、もう良いよ。君不味いね。誰だよ、蜘蛛の味はカニとかエビとか言った奴は」

 

無事だった片手で、蜘蛛を覆う様に隠し握り潰す。

その瞬間、蜘蛛の存在は消え失せた。

吸収したのだけど、人間以上蛙以下だな。

魔力量はまぁまぁ。

味は最低。

 

「ギャンソン、ユーカちゃんが納得するくらいの範囲で撮れたかい?」

「ガァー」

 

ぼくの肩に止まって鳴くギャンソン。

満足気なので、ちゃんと撮れていたんだろう。

 

「さて、ユーカちゃん呼んできて。先に進もう。多分数分したらまたお腹空くだろうから」

 

合流したユーカちゃんから謝られ抱きつかれ、鬱陶しい思いをしながら最深部へ潜る。

あとは以下略なボス戦を繰り広げた後、ぼくはダンジョン自体を食べた。

急に消失したダンジョンにギルドは大騒ぎだったらしいけど、やったのがぼくだとわかったギルド長と、ちょうど同じ時に潜ってた冒険者の人たちは納得してくれたらしい。

理由は教えてくれなかったけど。

 

 

 

「…ユーカちゃん。何この盾?」

 

金色の、何かをモチーフにした盾をぼくに渡して、ユーカちゃんはニコニコとカメラを回している。

ユーカちゃんがぼくを撮り始めて早数ヶ月の出来事だった。

 

「とある動画サイトに、ヘンリの勇姿と可愛らしさを上げ続けた結果よ! 何だったかしら…登録者数100万人いったからかしら?」

「…それ、ぼくの許可なしだよね? っていうか、王族を勝手に撮って鑑賞するだけに飽き足らず、収益化してるって、兄様聞いたら卒倒ものだと思うんだけど」

 

いや、卒倒まではいかないかな。

頭痛くする程度だろうか。

 

「ヘンリのファンが国内外に100万人もいるって凄いと思うの! あぁ、でも一番の理解者であり、ファンであり、ヘンリを愛しているのは私だけれど!!」

 

声高らかに言わなくても良い。

 

その破滅願望は、一体なんなんだい?

 

と聞きたいくらいだけど、面倒臭くなりそうだから聞かない。

 

と、廊下が騒がしくなり、ぼくの部屋が唐突にノックされる。

足音からして、来た訪問者は少なく見積もって三人、多くて五人か。

まぁ、誰が来たかは想像に(かた)くないから、ぼくは入室を許可した。

 

「失礼します、ヘンリエッタ様。突然の訪問、お許し下さい」

 

…わお。

まさかこの人が来るなんて。

 

「お父様、何の用かしら? 私が今まさにヘンリエッタ様に愛を囁いているところでしたのに」

「裕夏、ちょっと君は黙っていようか」

 

ロマンスグレーが似合うおじさま、こと。

立花裕里(たちばなゆうり)

あの立花夏月の配偶者で、頭が上がらない人たちのうちの1人。

そして、ユーカちゃんの実の父親だ。

 

「パパ、多分ヘンリは何も関係ないわよ。この子が独断でやったに決まってるわ」

 

グンジョウ兄様の配偶者、ユーカちゃんの実姉であるユエ義姉様までいらっしゃる。

王妃のお仕事大丈夫なんだろうか。

あとその通り、ぼくはなんも関係ないし、今聞かされたところなんだけど。

 

「ヘンリエッタ様、ユエはこう言っておりますが…」

「ぼくも今知った。別に撮られる事は構わないけど、その後の判断は彼女次第かな、とは思う」

 

バコン、と良い音がして振り向くと、スイカ義兄様がユーカちゃんの頭を叩いていた。

 

「いったーい! 何するのよお兄様!」

「君が一体何してるんだよ?!」

 

これ、お説教が入るなぁ…。

説教するなら部屋出て行ってくれないかなぁ…。

 

「一応止めるのもお前の仕事だろ、ヘンリ」

「先生…忙しい言いながら、こういう騒動に捕まるんだから先生も気の毒だね」

「そう思うなら、騒動自体起こさないでくんない?」

 

ぼくが起こしてるんじゃなくて、ユーカちゃんが引き起こしてるんだから言われても困る。

ぼくはユーカちゃんの護衛対象だけど、責任者でも保護者でもないのだから。

 

「裕夏、流石にこれは看過できんぞ。まぁ、面白いことではあるし? 私は許容範囲内だとは思うがな」

 

その声を聞いた瞬間、ぼくは内心、うげっと思ってしまう。

車椅子に乗りながらだが、カヅキおばさんが遅れて登場したのだ。

相も変わらず年齢不詳感がすごいなぁ。

 

「嫌そうな顔だな? ヘンリ」

「…別に」

 

嫌いってわけじゃ無いけど、苦手な部類なんだよなカヅキおばさん。

ぼくを殺せる人でもあるから、なんだけど。

 

「本当に申し訳ない、ヘンリエッタ様」

 

言いながユーリおじさんが頭を下げる。

 

「下げなくても良いよ、ユーリおじさん。そもそも、ぼくは半分悪魔だから、人間の事情ってやつに興味ないんだ。ぼくはベルゼビュート、食欲の悪魔だからね」

 

情がないってわけではないけど、それ以上でも以下でもない。

だから、好きにすれば良い。

ぼく自体に害がなければ全てどうでも良い。

ぼくはそういう奴だから。

 

「では処遇はこちらで決めさせていただいても?」

「ユーカちゃんを処刑とかにしなければ。こんなのでも、ぼくの護衛役だろう? いなくなってもらったら困るんだ」

「ヘンリがいいなら、私は別にいいと思うけどな? 大体、王族が動画をやってはダメなんて法律はないだろう? ましてやそれを収益化してはいけないなどと…裕夏、収益は何に使った?」

 

ユーリおじさんが、締めてユーカちゃんを連れ帰ろうとした時、カヅキおばさんがニヤニヤしながら口を挟む。

確かにその収益の行方は、ぼくも知らない。

 

「全てヘンリに捧げたわ!!」

「聞いてないし見てないと思うんだけど」

「ヘンリがどれくらい食べられるかチャレンジこの間したじゃない? あれで全て飛んだわ!!」

 

胸を張り、誇らしげに宣言するユーカちゃん。

 

あぁ、確かにこの間好きなだけ食べてもいいって、いろんなの買ってきて目の前に並べられたっけ。

全部完食したけど、1時間後にはもうお腹空いちゃったなぁ。

 

あとは立花家の問題だろうって事で、ぼく以外は退室してもらった。

騒がしい一家だな、もう。

 

 

 

ぼくがダンジョンに潜り始めて、ちょうど一年が経った。

あの後、収益は全てぼくに還元するという約束で、ユーカちゃんの動画撮影続行の許可が降りたらしい。

 

自分の私腹なんて肥やすわけないじゃない!

と、ユーカちゃんは怒りに怒りまくったらしいけど、よくグンジョウ兄様が許可したものだなと思う。

ユエ義姉様達が口添えしたんだろうけどね。

 

「日本に行ってもいい…?」

 

ある日、グンジョウ兄様の執務室に呼び出されたぼくは、応接用の椅子に座らされた。

目の前の机に、色んな書類を広げられ説明されていく。

 

「そう。日本に行ってもいいよ。許可証と滞在費用、期間は君が飽きるまでって事で。そんな条件を向こうが飲んでくれて助かったよ。ただし、犯罪まがいのことや犯罪自体に首を突っ込まない事。した瞬間強制帰国だからね」

「わかってる」

 

むしろぼくよりユーカちゃんに言って聞かせたほうがいい気がする。

 

「ありがとう、グンジョウ兄様。寛大な心だと、ぼくは思う。今代に生まれて来れて、ぼくは幸せ者だね」

「今生の別れっぽい挨拶はしないでくれないかな…君が言うと、本当に起こりそうだ」

「言うなら母様に言うよ。兄様が死ぬ前には一度帰るから」

「だから…」

 

わかってて言ってるから、そんなに突っ込まなくても。

苦笑してるところを見ると、ぼくのジョークは通じているみたい。

よかったよかった。

 

「じゃあ、明日出発するから。またね、兄様」

「あ、ちょっと待ってヘンリ」

 

兄様の執務室を辞そうとした時、兄様に呼び止められる。

一体なんだろうと振り向くと、すごく真剣な顔をしている兄様の姿があった。

この顔は、国王の顔。

責任を持って行動する人の顔だ。

 

「…何でしょう?」

 

兄様の傍らに行き、跪く。

ぼくは国王の妹である前に、リューネの臣民でもある。

陛下の命は絶対。

これは悪魔の契約とも同じとも言える。

 

「日本に行くなら、少し調べてきて欲しい事がある。これは世界の崩壊と同様のものであると心得て欲しい」

 

ぼくは静かに頷きだけを返す。

自分たちの世界が、本筋だと捉えてはいけない。

大きな大木の、ほんの先の枝葉に過ぎないのだから。

 

何が間違えだとはわからないけれど、それでも人の道を外れてしまったら剪定されておしまい。

そんな木の葉の上の世界なのだ。

ぼくらの世界は。

 

「母様とカヅキおばさんの関係性は、レヴィから聞かされているという前提で話をさせてもらう。母様の妹が何某かの方法で、カヅキおばさんの原型を作り出したらしいと、母様の星読みで告げられた。君は隠密が得意だろう? どういう経緯でそれが作られたのか、なんの目的なのか、調べることを命ず。出来るなら、研究資料も写して持ってきて欲しい。以上だ」

「御意。しかしながら陛下…ユーカちゃんがいる時点で、ぼくに隠密は無理だと思います」

「待てくらい出来るだろう、立花家の者だろうし」

 

だから、昔のユエ義姉様を基準にしちゃダメだってば。

あれより本当に言うこと聞かないよ。

という言葉をグッと抑えて、ぼくはまた御意と返した。

 

「ってわけだから、荷物まとめてくれる?」

 

兄様の執務室を今度こそ辞して、ぼくはその足で城にあるユーカちゃんの私室に向かい、そう告げる。

 

「3分待って、ヘンリ!! すぐに纏めるわ!!」

「いや、すぐに行くとは言ってない」

 

気が早すぎる。

チケットだって今から取るというのに。

 

「チケットなんて取る必要はないわ!うちの戦艦で行けばすぐよ!」

「君にその所有権はなかったと思うんだけど」

 

今はカヅキおばさんから、スイカ義兄様に所有者が代わったはずだ。

立花の産業も、アンナ姉様とその子供達で回しているようだし、ぼくたちがねじり込める隙間なんてないない。

 

「大丈夫よ! 少し待ってて!!」

 

待ったところで結果は変わらないだろうに、ユーカちゃんは意気揚々と部屋を出ていく。

メイドさんにお茶を入れてもらって、お菓子の類を食べて小一時間。

ぷりぷりと怒ったユーカちゃんが帰ってきた。

 

「お兄様はケチだわ! ヘンリが乗るのだから、戦艦を貸してと言ったら自分でチケット手配して飛行機で行けって言われたの! 王族に対して不敬だと思わない?!」

「不敬なことを何度もしでかしてるユーカちゃんに言われたくないと、スイカ義兄様も思っているだろうな」

 

三十過ぎてもいう事聞かない妹って、世間一般的に見たらとてもイタイ人なんだろうな、との考えがよぎって首を振る。

ぼくもどっこいどっこいだから、人の事は言えない。

 

「仕方ないわね…チケットなるべく早く取ってくるわ、そしてハネムーンに行きましょうねヘンリ!」

「ハネムーン違う、ダンジョン食べに行くの」

 

ぼくのツッコミも聞かず、ユーカちゃんは部屋を飛び出していく。

 

…あんまり暴走するようだったら、意識を奪う方向も考えなきゃなぁ…あぁ、面倒臭い。

というか、なんであんな性格なんだよ。

カヅキおばさんの教育が悪かったのと、神のせいだきっと。

 

 

 

「別に見送りなんていらないのに…」

 

翌朝、日本行きのターミナルにシンク兄様とリーゼ姉様、アンナ姉様と先生がきた。

ユーカちゃんと言えば、立花の兄姉からお説教まがいのお小言を貰っている最中で、また何かやらかしたらしい。

よくコリもしないものだと感心する。

 

「日本に行くなら、篠原の家にでも挨拶行ってみたらいいんじゃないかしら?母様の生家でもあるのだし」

「お姉様、お母様がこちらに来てから一切交流がないのですよ? 行ったところで不審者扱いされておしまいです」

 

リーゼ姉様とアンナ姉様が話している内容がタイムリーすぎて、ぼくは引き攣った笑いしか出て来なかった。

篠原邸には忍び込む予定だけど、どう忍び込むかは現地に行かないとわからない。

と、そんな時耳元でシンク兄様が囁いた。

 

「もし忍び込んで見つかったら、母様の娘だと言い張れ。遺伝子情報を開示でも構わん。多分、母様の妹とお前の遺伝子は近いものだと提示されるはずだ」

「…シンク兄様、昨日グンジョウ兄様から相談受けたね?」

 

じゃなきゃ、あの部屋に盗聴器を仕掛けてあるかだ。

 

「可愛い妹が一人で日本に行こうとしてるんだ、心配にもなるだろ?」

「一人じゃないけど」

 

一応ユーカちゃんと一緒に行くのだ。

一応、ね。

 

「グンジョウはあれの危険性を理解できていない。無論お前もだぞ、ヘンリ」

「じゃあ、何か首輪でもつけておいてよ。流石にぼくも手に余っているんだ、先生だってそう思うだろう?」

「まぁな。だが、あれの主人はお前だ。何とかしろ」

 

何とかしろって言われても無理だよ。

言っても実力行使しても無理なんだから。

 

搭乗ができるアナウンスが流れ始め、シンク兄様がぼくの頭を撫でてくる。

 

「まぁ、たまには帰って来いヘンリ」

「元気でね、風邪をひいちゃダメよ?」

「ひいたところで向こうにもケーネがいるのだから心配はいらないわよ、お姉様。ヘンリ、誰かに迷惑をかけるのは許しませんからね。そんなことをしたら、戦艦に乗って貴女を強制連行します」

 

アンナ姉様、それ激励なんだろうけど、脅しにしか聞こえないよ。

 

姉様達がぼくをぎゅっと抱きしめてくれる。

ぼくも二人を抱きしめ返した。

 

兄様も姉様達も、心配してくれているのが伝わってくる。

うん、ぼく、ここに生まれて良かった。

 

大好き、兄様、姉様達。

 

 

 

みんなと別れ、ぼくとユーカちゃんは飛行機に乗り込む。

目指すは日本。

 

「話には聞いてるけれど、どんな所かしら? 楽しみね、ヘンリ!」

 

ユーカちゃんの言葉に、ぼくはコクリと頷く。

さて、日本のダンジョンはどんな味だろうか?




短編とは…?
筆が乗りすぎると、一気に千文字書いてしまう…。
なろうは、1ページ二千文字が限度って書いてあったけど、私書きすぎでは?
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