リハビリのための小説 作:桜舞
174話から184話にかけて撮った
映画のお話です
書いて見て思いましたが、
これシンク主役ではなく
ユタカが主役だな…
これはとある街、とある一場面から始まる。
その日、怪我をした使用人の代わりに花を買いに来ていた、ティナ・ド・ホワイトは足早に家への帰路を急いでいた。
「早くしないと、あの子が怒られてしまうわ」
怪我をしたのも、落ちてきた植木鉢から自分を庇ったためである。
しかしそんな事、実父であるホワイト伯爵が許すわけはない。
使えない使用人など、即座にクビにするに決まっている。
次の曲がり角を曲がり、道をまっすぐいけば家に辿り着く。
ティナはそう思い、進行方向を確認せず角を曲がる。
しかし、その進行方向に人影があるのに、彼女は気付かなかった。
「きゃっ?!」
人にぶつかり体勢を崩したティナは、地面に倒れると覚悟して目をキツく閉じる。
だが、その衝撃はいつまで経っても来ず、むしろ自分を支える温かい腕が背に回されていると気付いた。
「大丈夫ですか?」
男性の声に、恐る恐る目を開ける。
蒼い髪の男性が、こちらを心配そうに見つめていた。
「あ…大丈夫です。すみません、ぶつかってしまって…お怪我はありませんか?」
「自分は全く。貴女こそ、お怪我はありませんか?」
そう問われ、ティナは首を横に振る。
そして、すぐに帰らなければならない事を思い出し、彼女は立ち上がった後男性に頭を下げた。
「大変申し訳ありません。私急がなければならなくて…! あの、私ティナ・ド・ホワイトと申します。何か身体に痛みなどありましたら、ホワイト家までいらして下さい。助けて下さってありがとうございました!」
ティナはそう言い、家への帰路を急ぐ。
男性が自分を見つめ、ニヤリと笑っている事など知らずに。
◆◆◆
その数日後、ティナは使用人と共に街へ来ていた。
ドレスを注文していたのだが、少し不具合があったらしく、ティナにご足労願えないかとデザイナーに言われたのだ。
父であるホワイト伯爵は渋い顔をしていたが、自分が行って最高の物が出来上がるのなら、安い労力だと言って父を説き伏せた。
「お父様は私を大事にしてくださるけれど…少し窮屈よね」
ほぅ、とティナはため息をつく。
デザイナーがいる工房兼店に顔を出すと、先日自分を助けてくれた蒼髪の男性がそこにいた。
なんて偶然と、ティナは目を丸くする。
「おや、貴女は…」
「ご機嫌よう…えぇと…」
そう言えば別れ際に自分の名は名乗ったが、彼の名前を聞いていなかったとティナは少し言い淀む。
「あぁ、自己紹介が遅れまして…グエン・オーガストと申します。レディ・ホワイト」
「まぁ、オーガスト様と…先日はありがとうございました」
ティナはニコリと微笑みながら、再度礼を言う。
傍にいた使用人がどうしたのかと尋ねてきたので、先日あった事をそのまま話した。
使用人達もグエンに礼を言ったので、彼はいいえと言葉を返してくる。
「人として当然の事をしたまでです。それがホワイト家のご令嬢とか関係ありませんよ」
とても人当たりのいい彼に好感を持ったティナは、デザイナーが奥から出てくるまで彼と話す。
それからというもの、ティナはグエンが気になって仕方なくなっていた。
これが初恋というもの?
なんて、御伽話の一幕のようで、ティナはクスクス笑う。
ティナが街へ出かけるたびに、グエンと会う確率が高く、これは絶対運命ね、と彼女は思った。
幾度目かの遭遇で、ティナはついに決意をする。
彼も絶対私に好意を持ってくれているに違いない。
告白してみよう、と。
そして、ティナは意を決してグエンに愛を囁いた。
彼は目を丸くした後、嬉しそうに笑う。
「貴女が自分と同じ気持ちだったなんて…あぁ、神よ。あなたに感謝します。自分も、貴女を愛しています、ティナ嬢」
「まぁ…嬉しい…!!」
ティナが抱き付くと、グエンはそんな彼女を優しく抱きしめた。
彼女が見えない所で、嘲笑の表情を浮かべていたが。
◆◆◆
ある日、ホワイト家とは違う大きな屋敷で、パーティーが行われていた。
主役はグエンの弟であるアーサー・レイスの恋人、アイリーン・ラッセルだ。
彼女の誕生日パーティーを開くと、組員全員に通達されていた。
「ちっ…女のためにわざわざパーティーなんて開きやがって…それなら他の街や国に、薬や武器を流して金を稼いだ方がまだ良いだろうに…」
パーティー会場になってるダンスホールの端で、グエン・オーガスト…いや、グエン・レイスが呟く。
自分達はこの街の裏で蠢くマフィアだ。
今は組織を大きくすることが最優先だろうに。
グエンはそう思いつつ、弟であるアーサーを睨むように見る。
ダンスホールはその名の通り、ダンスをする場だ。
弟が用意した楽団が曲を鳴らし始め、アーサーとアイリーンが中央で踊り始める。
「私のために、こんなパーティーを開いてくれるなんて…嬉しいわ、貴方」
アイリーンは嬉しそうにアーサーを見つめ微笑む。
そんな彼女を見つつ、アーサーも笑いかけた。
「お前のためでもあり、俺のためでもある。存分に楽しめ、愛しい人。今夜は、空の星々も全てお前の物だ」
何を気障な事を、とグエンは憎々しげにアーサーを見る。
そんな彼の両側に、金髪の美女がしなだれかかった。
「そんなに眉を寄せて、何か嫌な事でもあったの? グエン?」
「私達で憂さ晴らしでもする?」
赤いミニスカートのドレスと、チャイナ服を着た美女二人が、グエンを見上げ微笑んでいる。
彼女達は別に自分を好きでいるわけではなく、ただお互い顔が良いからつるんでいるだけの腐れ縁というやつだ。
グエンは肩を竦め、アーサーを見つつ言う。
「しねぇ。ただな、こんなくだらないお遊びをしている暇があいつにはあるんだな、とか思っただけだ」
暫くいてやったのだから、義理は果たしただろうとグエンは出口に向かって歩く。
その後を、二人の美女が寄り添い共に会場から出て行った。
◆◆◆
「まぁ、そんな事が…大変ですね、グエン」
グエンとのデート中、ティナは彼の身の上話を聞き、憐憫を覚えた。
彼はどうやら親の借金を抱え、病気がちの弟の面倒を見つつ生計を立てているらしい。
一体どれほどの借金なのか聞けば、ゆうに10億は超えているのだとか。
「やはり、自分は貴女には相応しくない…こんな貧乏人の男なぞ、伯爵様が認めてくださるわけがないのです…」
ションボリして言うグエンを哀れに思ったティナは、彼の手を取り握った。
「いいえ、グエン。諦めてはダメです。私が援助します。いずれ夫婦に、なるのでしょうし…その…夫を支えるのは、妻の役目ですから…」
「そんな…貴女に負担をかけるわけには…」
グエンはティナの申し出を断ろうとしていたが、彼女は首を横に振り、自分が付けていた大粒の宝石がついたネックレスを外し、彼に渡す。
「これでも多少は借金のかたにはなるでしょう。気にしないで、グエン。うちは伯爵家ですから。お金はいっぱいあるのですよ」
「…すまない、ティナ。必ず、必ず返すよ…! 君を愛している…!」
ティナと別れた後、グエンは早速質屋に行って先程もらったネックレスを現金化する。
勿論、金を返すつもりは全くなく、今話したことも全て嘘八百だ。
「まだまだ搾り取らせてもらうぜ、ティナ…!」
クックッと、グエンは笑う。
その日の夜、アーサーの書斎にアイリーンが訪ねてきた。
「裏切り者、か…。まぁ、良い。泳がせておけ。どうせ、俺には敵うまいよ」
「でも、もし貴方が殺されでもしたら私…っ!!」
アーサーはマフィアのボスである。
その恋人であるアイリーンも、アーサーの正体を知った上で彼の事を愛していた。
どうやら彼女は、アーサーを狙う裏切り者がいると言う話を聞き、居ても立ってもいられず彼の所へ来たようだった。
アーサーの返答を聞いたアイリーンは、悲しそうな顔をする。
「そんなに嘆くな、お前はいずれ俺の妻になるんだろう? ボスの妻が、それでどうする。もう少し強くなれ」
アーサーは彼女の腕を引き、抱きしめる。
「貴方の心配をしちゃ、いけないというの…? どうして、分かってくれないの? 私は貴方を心から愛しているというのに…っ!!」
泣きそうになりながら、アイリーンは彼の服を掴み見上げた。
そんな彼女を見たアーサーは苦笑する。
「心配をするなとは言っていない。お前の気持ちは分かっているさ、愛しい人。俺も、お前を心から愛しているよ。だからこそ、心配するなと言っているんだ。俺が裏切り者に負けるとでも思うのか?」
フルフルと、アイリーンは首を横に振った。
◆◆◆
「一体何用だ、俺は見ての通り忙しい。お前に構っている暇などない」
「そう言うなよ、血を分けた兄弟なのにつれない事言わないでくれ」
ある日の夜、兄であるグエンがアーサーを訪ねてきた。
アーサーは忙しそうに書類を見つつ、それを側近であるビリーに渡す。
会計士に渡す前に、自分で書類を確認しているのだろう。
確認が終わったものを側近に渡し、まとめて持っていってもらう算段でもしていそうだと、グエンは思う。
そんな事をしなくても、もう良くなるというのにお忙しい事だと、グエンはニヤニヤと笑った。
兄の表情に気付かず、アーサーは書類に目を落としながら言う。
「だからなんだと言うんだ。血を分けた兄弟? そんなものになんの意味がある。そんなくだらない事を言う為に、俺の時間を割いているというのか? 愚かなのも良い加減に」
「良い加減にするのはテメェだ」
グエンが懐から銃を取り出し、アーサーに向けて発砲した。
彼の表情を見て警戒していたビリーが、アーサーの盾になり撃たれる。
目の前に倒れたビリーを見たアーサーが、応戦しようと懐に手を入れようとし、更にグエンから撃たれ、二人とも血の海に沈んだ。
「ククク…ふはははは!! これで、このマフィアは俺のモンだ!! お前みたいな生っちょろい運営ではなく、俺がでかくしてやるから安心しろや弟よ!!」
グエンの高笑いが屋敷に響く。
その声を聞き組員が集まっては来たが、下剋上などマフィアの世界などいつもの事。
それが血を分けた兄弟ともなれば当たり前だろう。
組員達は、次のボスはグエンだと認めた。
◆◆◆
宝石もドレスも、金品も、更には家のお金も盗んでグエンに渡したティナだったが、もうこれ以上は渡せない申し訳ないと彼に告げた翌日から、彼と連絡が取れなくなってしまった。
教えられたアパートにも向かったが、そこは誰も住んでおらず途方に暮れてしまう。
「きっと…きっと何かあったのよ。彼は誠実な人だもの。多分、借金取りに捕まってしまったのだわ。あぁ、グエン…!」
屋敷に戻り、父から物凄く怒られ謹慎処分を言い渡されたティナは、部屋で嘆いていた。
そんな時、使用人から信じられない話を聞く。
この間マフィアの抗争があったらしいのだが、そのマフィアのボスがグエンだと言うのだ。
ティナは信じられず、使用人の手引きにより屋敷を脱し、マフィアが運営しているというカジノに到着する。
カジノに入り、VIP室と書かれている部屋の扉を彼女は開けた。
そこでティナが見たものは、高級そうな椅子に座り美女を侍らせているグエンの姿。
いつも彼が来ていたツギハギだらけの平民服ではなく、明らかにオーダーメイドで作ったであろうスーツを見に纏い、美女と笑い合っている。
「そんな…嘘…グエン…」
その声が聞こえたのか、グエンが扉の方を見た。
普段ティナが見てきたような彼の表情ではなく、侮蔑と嘲笑が籠ったような顔だったが。
「なんだお前か。ここは高級カジノだ、お前のような金なしが来る所じゃない」
「グエン…!!」
悲痛な声を上げるティナを、美女二人が笑いながら見ている。
グエンの傍から離れず、ただクスクスと声を上げて。
「お前はただの駒なんだよ、俺を更に上にいかせるためだけの、な」
その言葉を聞き、ティナは頽れた。
あれもこれも全て嘘だったと、やはり使用人の言う事が真実で、グエンはマフィアとして自分を利用していただけなのだと。
そう彼女は考える。
「クスクス…可哀想ぉ。でも、利用されている間は良い夢を見れていたでしょう?」
「私達みたいに美しくないのだから、利用してくれてありがとうございます、と頭を他に付けて感謝を述べるべきよね」
美女二人が嘲笑を込めた口調で、ティナを見下しながら言った。
「そ、そんな…」
ティナはグエンを見上げ、涙をこぼす。
彼を信じて尽くしてきた。
自分が持っていたものと、家の金にも手をつけて彼に渡してきた。
それもこれも全て虚偽で、自分は一体何のために…!
そんな感情が、彼女の胸に渦巻く。
「はぁ…泣けば済むと思っている女程、気持ち悪いものはないな。お前は金を持っていたからその間だけ付き合ってやっていたが…なんだ? 俺が本気でお前と恋に落ちたとでも思っていたか? コイツらみたいに、別段美に特化してるわけでもないのに? はっ! だとしたらおめでたいな。なぁ、そう思わないか、お前達?」
グエンは美女二人を見つつ、愛で始めた。
左にいる女の頬を撫で、右にいる女から流れる金髪に触れながら。
「えぇ、そうねあなた」
「本当に、その通りだわあなた」
二人の女からの視線と、愛した男からの視線を受け、ティナは立ち上がりながらグエンを睨みつける。
許さない、と呟いて。
「許さない? 誰が? お前がか? …ははっ!! 笑える冗談だな。まぁ、良い。お前はもう用無しだ。何処へなりとも行くが良い。まぁ、お前みたいな世間知らず、金が無ければ娼婦に堕ちるしかないだろうがな!」
高笑いをするグエンに背を向け、ティナは転がるようにカジノから走り出た。
父に助けは求められない。
むしろ父の気が済むまで謹慎処分にされるだろうから。
どうしよう、とティナは考える。
屋敷に戻り、仲のいい使用人達に相談した。
大半は泣き寝入りした方がいい、マフィアに関わると碌な事がないと言ったが、ただ一人だけ。
最近入ったメイドが、復讐しようと言ってくれた。
何でも、自分の姉がマフィアの元ボスの恋人だったがそのボスが殺され、姉も悲しみに暮れて行方をくらませてしまったのだそうだ。
ポケットに入るサイズの実銃を渡され、間者のような事をし情報を集めてくれた彼女に礼を言ったティナは、グエンとその他数名の護衛が泊まっているというホテルに着く。
メイドの話によれば、前のマフィアのボスを崇拝していた人達が、彼の護衛に入っているようだと聞かされる。
前のボスが常々、自分がもし殺されたとしても報復など考えてはいけない、と言い聞かされていたからこそ、グエンに復讐しなかったそうだ。
もしグエンが殺されたとしても、その人達は見て見ぬふりをしてくれる。
そう話はつけてあるとメイドから言われた。
部屋番号も聞いていたティナは、そこまでエレベーターで上がる。
扉をノックし、明らかに堅気ではない強面の男性が扉を開けてくれた。
「おい、誰が来…」
グエンが奥の方で声を上げる。
ティナはそこまで早足で駆け、彼の体に体当たりするかのように、抱きついた。
「お前…なんで…?!」
「さようなら、グエン。私が初めて愛した人」
パァン、と破裂音の後に、グエンがその場に蹲る。
血を吐き、撃ち抜かれたそこは血がどんどん滲んでいく。
「お、お前ら…! 早くその女を殺せ…!!」
グエンが自分の部下に命令を下したが、誰もグエンのために動こうとせず、むしろティナを労るように近付き、手に付いてしまった血やら、凶器となった銃を預かっていた。
「な…?!」
「貴方の弟さんの方が、人望があったという事ですわグエン。可哀想な方ね、貴方は」
驚愕を顔に貼り付けるグエンに、ティナは彼にされたような表情で見下す。
高笑いなど、彼女はしなかった。
伯爵家であるホワイト家の、令嬢だったから。
ティナは彼の部下だった人達に別れを告げ、ホテルを後にする。
「とても…とても苦い経験になりましたわ…でも、きっと…私にとっては人生の糧になった事でしょう」
クスリと笑い、彼女は夜の闇に紛れ屋敷への道を歩いていった。
これを関係各所にルトルは配り
貰ったグンジョウは
黒歴史として
自分でさえも絶対に手をつけないであろう
書斎の奥深くに仕舞い込み
あんなものは撮っていないと
忘れてしまいましたとさ