リハビリのための小説   作:桜舞

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断罪に巻き込まれるレイちゃん、1年目

卒業記念パーティーなるものが開催されるという事で、私は護衛であるナンバーズの皆さんと、その記念パーティーへ参加する事に決めた。

 

本来なら、卒業生以外は参加自由らしいのだが、どうせ2年後には自分も参加するのだからという気持ちと、その記念パーティーには陛下の名代としてクオンさんが出席するというお話を、この間の彼とのデートで聞いていたから、あわよくばクオンさんを一目見られるんじゃないか、という下心で参加するのだ。

 

だってクオンさん、忙しくてなかなか会えないんだもん…。

王太子だから、陛下のお仕事の代わりや色んな視察、王太子としてのお仕事もあるって聞いてたから、仕方ないんだけど…。

ちょっとだけ寂しい。

 

更に、自分も王太子妃の教育と学業を両立させているから、彼と中々会える日がない。

 

この間のデートも、城の中。

尚且つクオンさんの休憩と、自分の休憩が重なった時だけだった。

 

昔みたいに、お互い暇じゃないから仕方がないとはいえ、本当に寂しい。

 

パーティーという事なので、クオンさんから貰った淡い色のドレスを見に纏い、髪も結い上げてもらってから会場へと入る。

 

「桜坂ー…ぶべ!」

 

卒業生入場まで並べられたお料理でも食べていようかと、そのテーブルへ近づいた時。

後ろから代々木君の、私を呼ぶ声が聞こえた。

 

だが、それが途中で消えたという事は、ナンバーズの誰かが止めてくれたという事だろう。

 

最近クオンさんが現れないからって、何かと代々木君が私へちょっかいをかけようとしてくるから、ナンバーズの皆さんのお仕事が増えている。

今日の事もナンバーズにしか言っていなかったのに、何処で私がこのパーティーに参加するって分かったんだろうか?

 

ナンバーズの皆さんが、代々木君に情報を漏らすなんて事絶対にありえない。

そう造られているし、何よりクオンさんや刑音先生などの親しい間柄の人しか、私に近づくことを許されていない。

 

何処かで盗み聞きでもしたんだろうか…?

 

「いい加減諦めてくれたらいいんですけど…」

「それは無理な相談でしょう、レイ様。何、心配はいりませんとも。私達ナンバーズが、レイ様に集る害虫どもを全て蹴散らしてご覧に入れます」

 

お料理の数々を見てどれにしようか悩みつつ、溜息混じりでポツリと呟くと、私の隣に控えていたアルファさんが綺麗に盛り付けされたお料理の皿を差し出しながら、そう言った。

 

「あの、アルファさん? 物騒です…」

「いえいえ。これくらいでもしなければ、美少女で器量もよし、気品に溢れ精神性が慈愛に満ちているレイ様をお守りする事など、とてもとても…」

 

褒めすぎでは…?

 

自分が美少女なんて思ってはいないし、器量がいいかと言われたら絶対に違う。

気品なんて以ての外だし、慈愛なんて心も持ち合わせてはいない。

 

私が願うのはただ一つ。

クオンさんの隣に立っても恥ずかしくないように、教養を身につけなければ、だ。

 

シャルロットお祖母様も、ユエ王妃殿下も、元が貴族だからというだけじゃなく、所作も何もかも綺麗だ。

これが王族なのだと、お二方の姿勢が物語っている。

 

自分もそこに追いつかなくてはと、ただ必死なだけだ。

クオンさんに恥をかかせてはいけない、と努力し続けているだけだ。

 

あとは、困っている人を見過ごせない性分なだけで。

 

そのうち、卒業生入場の音楽が奏でられ、入り口から卒業生が列をなして入ってくる。

女性の方々は煌びやかなドレスを見に纏って、だけど姿勢は可憐で、まるで色とりどりのお花のようだ。

 

「綺麗…」

「さくらざ…ふぐっ!!」

 

また代々木君の声が聞こえたけど、ちょっと無視しよう。

 

卒業生の方々の後に、学園長先生とクオンさんが入場してくる。

その姿に見惚れていると、ふと彼と目が合った。

 

彼は少し目を見開き、その後優しげな目になって口元をほんの少しだけ綻ばせた。

 

多分、なんでこんなところに私がいるのかという驚きと、会えて嬉しいっていう表情なのだろう。

でも、入学式で私が注意したことを覚えていてくれたのか、その表情が動いたのは微かだった。

 

だから、他の女生徒から黄色い声が上がる事がなく、私はホッとする。

あの表情に気づけたのは、私だけだろうし。

 

学園長先生のお言葉に続き、陛下の名代としてのクオンさんのお言葉があった。

とても格好いいその姿へ更に見惚れていると、いつの間にかお話が終わっていた。

 

というか、ぼんやりしすぎてるな私…。

ちゃんとクオンさんのお話聞けなかった…。

 

機器の持ち込みが許可されていれば、クオンさんの姿を撮って何回でも見返せたのにな、なんて少ししょんぼりとしてしまう。

 

しょんぼりしながらご飯を食べていると、周りがザワザワし始め、なんだと思った私は顔を上げた。

 

「マティルダ伯爵令嬢! 私は貴女との婚約を破棄し、そこにいらっしゃるサクラザカ嬢と、新たに婚約を結び直す!!」

 

人だかりの中心。

赤い髪をした卒業生の男性と、金色の髪を緩く巻いた、これまた同じく卒業生の女性の方が見えた。

 

伯爵家といえば中流貴族のお家だな、と私はご飯を食べながら思い出す。

 

リューネには身分制度があって、王家の下に21貴族と呼ばれている上流貴族のお家がある。

公爵の位を賜っているお家なのだそうだ。

 

元はこの土地に開拓民としてきたお家の人たちだそうで、その中でリーダーだった人が今の王族なんだとか。

 

それから中流が、侯爵家、辺境伯家、伯爵家。

下流が、子爵家と男爵家になっていると、リオン先生の授業で習った、んだけど。

 

どうやら、巷で人気になっている悪役令嬢物語のワンシーンをなぞらえているようだ。

これを本当にやるバカがいるなら見てみたい、とは、本を読むのが大好きなカヅキお祖母様と、シャルロットお祖母様の言、なのだが。

 

目の前でそれが起こっています、お祖母様方…!!

でも、サクラザカ嬢って誰の事?

私以外に桜坂って居たっけな?

 

そう思いつつ、デザートでとったケーキを私はフォークで切り分け、一口頬張る。

甘さが口に広がって、とても好きな味だなと感想を抱いた。

 

流石、腕のいいメリーディエースの料理人の方々。

真似したくても出来ない味だ。

 

私が同じようにしたところで、数ランクダウンの物しか作れないだろう。

それでも、クオンさんは美味しいと言って食べてくれるだろうが。

 

「サクラザカ嬢とは? レオナルド様」

 

金色の髪をしたマティルダ伯爵令嬢様が、婚約者? である赤髪のレオナルドという男性に問いかける。

その次の言葉で、私は大きくむせる事になるわけだが。

 

「そこでケーキを幸せそうに食べている、黒髪の彼女の事さ!!」

「んぐっ?!」

 

予想だにしていない言葉に、私はケーキを喉に詰まらせてしまう。

レイ様、と差し出されたお水を一気に飲んで、喉の詰まりを解消した。

 

「す、すみません、アルファさん…」

「いえ。それよりも…あの男どう処しましょうか」

 

ちょっとキツめな声に、アルファさんの方を見上げると眉が吊り上がっている。

 

わぁ…すごく怒ってる…。

まぁ、無理もないよね。

秘密にしているとはいえ、私はクオン王太子殿下の婚約者だもの。

 

根も葉もない噂で私の尊厳やら何やらが傷つけられたとあっては、ナンバーズの皆さんがお怒りになるのは当然。

ナンバーズにとって私至上主義なのは、いかがなものかとはたまに思うんだけど。

 

彼女の方からレオナルド様の方へと顔を向ければ、優しげとは程遠い、下心に満ちた表情で私へと手招きしている。

その表情に鳥肌が立ち、私はアルファさんの後ろへと隠れた。

 

「あら、彼女嫌がってましてよ?」

「恥ずかしがり屋なだけさ。さぁ、おいでサクラザカ嬢?」

 

そんな猫撫で声で言われても行きたくないです。

 

クオンさんと表情が違いすぎる…!!

声だって下心満載じゃないですか…!!

嫌だ、気持ち悪い…!!

 

マティルダ伯爵令嬢様のお言葉にレオナルド様が言い訳をしているが、もし私と親しい間柄なら絶対皆さん名前で呼んでくれるんだよね。

 

それがないって事はあの人、私の名前知らないな?

 

「はいはい、お前ら落ち着けよ。な?」

 

刑音先生の声が聞こえ、私はアルファさんの陰から少し顔を出した。

どうやら仲裁に入ってくれたようで、両者の言い分を聞いてくれているようだった。

 

マティルダ伯爵令嬢様は、別に婚約破棄してもいいというスタンスで、むしろ浮気性のレオナルド様に飽き飽きしていたそうだ。

一方レオナルド様の方はといえば、私と廊下ですれ違った際運命の恋に落ちたとのことで…。

 

「彼女もそうに違いない! 私たちは運命の赤い糸で繋がっているのだから!!」

「はぁ?! 桜坂と繋がってるのは俺…ぅぐ?!」

 

また代々木君が大声で何か言いかけていたけど、最後まで紡がれるはなかった。

 

今はもっとややこしくなるから黙っていてほしい。

 

ため息をつきたくなるのを我慢して、私は先生とレオナルド様のやりとりを眺める。

 

レオナルド様と先生のお話の最中、ピシッと何かにヒビが入るような微かな音がして、私はそっちの方を見た。

視力がなかった頃から耳だけは良かったから、音の位置を正確に把握できるのだ。

 

そこにはクオンさんが椅子に座ってこちらの様子を見ていたんだけど、よくよく見ると肘掛けにヒビが入っていた。

そして彼の表情も、かなり眉が吊り上がっている。

 

表情を取り繕えないほど、クオンさんがかなり怒ってる。

こんな私を、溺愛してくれているからこそなのだろうけど。

って言うと、

 

『こんなのとか言うな。俺にとっては唯一無二で愛している女性だし、レイはとても努力家だ。だからこそ心配になる。無理も、無茶もしないでくれ。お前が倒れたなんて報せを聞いたら、仕事も何もかも放棄してお前の看病に行くからな』

 

と、小さい頃風邪を引いたと言うお話をした際にそう言われてしまった。

こんな私だから、なんて口上にあげてしまったせいもあるかもだけど。

 

まぁ、その言葉の後に、刑音先生から頭を叩かれていたっけ。

 

「んで、王太子殿下。判決をどーぞ」

 

ぼんやりと過去のことを振り返っていると、いつの間にかクオンさんが壇上から降りてきていた。

先生の言葉に一度頷き、彼はレオナルド様に有罪判決を下している。

 

マティルダ伯爵令嬢様が、浮気の証拠を突きつけていたと後でアルファさんに聞いた。

 

そんなこんなで、断罪のお話は終わったんだけど。

これが後2年連続で起こるとは、この時の私は知る由もなかったのだった。

 

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