キヴォトスの首都D.U.にはサンクトゥムタワーと呼称される連邦生徒会の本拠地がある。建造された時期や目的、その他一切が不明、不可思議な形状に加え、キヴォトス全土から観測可能であるほどの巨大なヘイローを持つなど多くの謎を持つ建造物だが、担っている役割からキヴォトスにおいては不可欠な存在であった。そのサンクトゥムタワーの比較的地上に近い場所に、とある部屋がある。その部屋を使用する機関はある意味ではかつての
正午も過ぎ、人によっては眠くて堪らないであろう時間にその部屋の主は、淡々と自らの業務を処理していた。一連の動きに無駄と言えるものはなく、機械によるものだと言われたほうが納得できるほどに効率的な流れは、最早、機能美の体現と言えるほどだった。また、それを手伝う者な動きも的確であった。何も命じられずとも求めているものを差し出し、また、何も命じなくとも何を差し出したかを理解している。それはまさに阿吽の呼吸だった。もしもその部屋をそのまま映像に流したとしても、視聴者は完璧だと感じるだろう。・・・・・・・・・ソファに座って、優雅に珈琲を嗜む者を除けば、であるが。
これといった会話もなく静寂に包まれた中、滞ることのなかった作業の手は余所者のように鳴り響くドアのノックに遮られる。
「どうぞ、お入りください。」
予定通りの訪問であるため、動揺する要素は無かった。だが、部屋の中にはわずかな緊張が走る。それはこの会談を打診した者への警戒や実力者が持つ特有の
「失礼致します。」
人数は4人。成人男性が一人、よく似ている少女が二人、そして・・・・・・・・・。予測通りのメンバーだった。また、その男性が私を見て驚きを見せた事も予測通りであった。
「お初にお目にかかります。貴方が先生で間違いないでしょうか。」
「・・・・・・はい、些かばつが悪くはありますが、先生と名乗っております。どうぞ、お見知りおきを。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「申し訳ありません、まずはこちらから名乗るべきでした。ご無礼をお許しください。仰々しくはありますが、指揮官と名乗らせていただいています。事情はそちらと同様に考えていただいて結構です。」
「やはり、そうでしたか。先程は不躾な視線を向けてしまい失礼しました。キヴォトスに来てからは始めてだったもので。」
「いえ、こちらも先に貴方の事を聞いていなければ、同じ反応をしていました。どうか、お気になさらないでください。」
「お気遣いありがとうございます。」
「お気になさらないでください。では、そろそろ本題に移りましょう。そちらにお掛けになってください。」
そうして、先生と指揮官は向かい合う形で座る。他の人物は互いのトップの後ろに立っているのだった。座り終えたとき、先生と指揮官は目があったので微笑を浮かべ合う。表面的にはとても友好的であった。だが、内心ではいかに自分の目的を果たすかと計略を巡らせているのだった。
驚いたことに目の前の指揮官と呼ばれる女性にはヘイローがなかった。それはつまり私と同じようにキヴォトスの外部から来たことを示す。よく考えれば、彼女のような人物がいるのはありえない話ではなかった。私だってあの子に連れられてこちらに来たのだから。しかし、今のやり取りだけでもわかるがなかなかに隙がない。これは気を抜けば一瞬で全てを見透かされてしまいそうだ。
「まず、今回は私の為に時間を割いていただきありがとうございます。単刀直入に言わせてもらうと、先日交戦したテロ組織、その残党の捕縛を協力させていただきたいと考えています。その報酬としてミレニアムより流失した特殊装甲を頂きたいと考えています。」
「わざわざ協力を申し出ていただいたこと、誠に感謝します。ですが、お断りさせていただきます。」
「・・・・・・理由を教えていただけませんか?」
「失礼ながら、そちらが私たちと同等の戦力を保持しているとは考え難いです。加えて・・・・・・・・・。」
その時、指揮官の後ろで控えていたユキナとカナが動き出した。その動きはまるで目で追えず、気が付いたら先生は脳天に銃を突きつけられていた。
「貴方はキヴォトスにおいて脅威である可能性があります。例えば、あなたの保有するオーパーツ。確か、シッテムの箱と言いましたか。今私たちのいるサンクトゥムタワーの制御権を乗っ取ることも可能だとか。失礼を承知で言わせていただきますが、保有するオーパーツを明け渡すこと、及び貴方の身柄の拘束、それらを要求します。勘違いしないでいただきたいのですが、貴方に拒否権はありません。ご理解いただけましたか?」
「────指揮官!!」
「トワ、貴方の発言は認めていません。私は先生と話しているのです。」
「っ・・・・・・!」
理不尽に近い要求、いや、命令を突きつけられた先生であったが、微塵も動揺することはなく、寧ろ余裕そのものであった。その証拠におもてなしにと出されていた珈琲をそのまま飲むのであった。その様子に苛立ちを感じたカナが思わず声を上げてしまう。
「自分の状況わかってるんですか?それとも、現実を直視することができなくなっちゃいましたかぁ?」
カナが先生を挑発する。しかし、それでも先生が慌てる様子は無かった。
「これ、美味しいね。君が淹れたのかな?今度、淹れ方教えてよ。」
「このっ・・・・・・。」
余裕の態度を崩さない先生の様子により苛立ったカナはより強く銃口を突きつけようとした。だが、次の瞬間、カナの視界には天井が広がっていた。
「先生はマスコットなのであまり耐久力が高くありません。なので、あまり乱暴はしないでください。」
カナを投げ飛ばしたのはアリスだった。カナが先生に気を取られた一瞬をアリスは見逃さなかった。
「動くな。動けば撃つ。」
ユキナはあくまで冷静だった。こちらの動きに慌てることなく、先生に銃を向けながら、首のあたりを片手で抱え込むように押さえて動く事を牽制したのだ。不測の事態への対処としては正しい。だが、それは先生が思い描いたとおりだった。
「ごめんね。」
「?何を言って・・・・・・。」
ユキナは唐突な謝罪の意図がわからず聞き返そうとした。だが、最後まで話すことはできなかった。いつの間にか地面に転がされていたからだ。
「!?」
「本当にごめんね。痛くない?力加減には気を使ったんだけど・・・・・・・・・。」
「な、何故・・・・・・。」
「少し体術を修めていてね、こういうこともできるんだ。まあ、生徒たちには勝てないし、今みたいに油断しているときを突くみたいのが関の山なんだけど。」
予想外の反撃にさすがのユキナも即座に行動に移すことができなかった。その間にチェックメイトは成された。
「動かないでください。そちらから仕掛けたのです。まさか、こうなる覚悟がなかった、とは言いませんよね?」
「ええ、当然です。」
ケイに銃口を突きつけられてなお、指揮官も先生と同様に動じることはなかった。そんな指揮官に向かって、先生は口を開く。
「これで私達が協力できるだけの力があることは示せましたか?」
「ええ、十分でしょう。あなた達の力を認めます。」
「「「「えっ。」」」」
先生と指揮官、そして不思議ちゃんなアリスを除いてその場の全員が同じ声をあげる。
「先生、そうだったのですか?」
「まあね、でも今示せたのは力だけ。私がキヴォトスを脅かす存在でないことはまだ示さなければならない。ですよね?」
「はい、ですがもう貴方がキヴォトスの脅威でないことはわかりました。言動をみればわかりましたし、そもそも本当にキヴォトスを手中に収めたいのなら、100年前にいくらでもチャンスはあったはずです。」
「ええっと、つまり・・・・・・?」
「はい、念の為に簡単なテストを行ったに過ぎません。まあ、疑念が確信に変わったのなら、先程言ったとおりにするつもりでしたが。」
その言葉を聞き、先程声をあげた全員のジト目が指揮官に向けられる。
「?どうかしましたか?」
「「「「イエ、ナンデモ。」」」」
指揮官さんには意外と鈍感なところがあるのだなあと言う感想を抱く先生なのだった。
「ところでそろそろ照準を外してもらえないでしょうか。撃たれないとはわかっていても、やはり落ち着きません。」
「気がついていたのですか。流石ですね。」
「いえ、ここは比較的地上に近いですから、例えばあのビルからなら腕の良いスナイパーは当てられるだろうなと思いまして。照準がずれたのは、ほんの僅かな時間だった。良い腕をしている、と伝えておいてください。」
「ええ、確かに伝えておきます。」
今のやり取りを聞いたことにより、こいつ等まともじゃねえとアリス以外は思わずにいられなかった。
前回の話のあとがきとまとめさせていただきます。
いつものことながら、本当に遅くなってしまい申し訳ありません。うまく都合をつけて書きたいとは考えていますが、今後もこのような更新スペースになる可能性が高いと考えてください。
私の拙い作品を読みに来てくださった方々には本当に感謝しております。少しでも楽しんでいただければ幸いです。誤字脱字、文章のおかしなところがあれば是非ご報告ください。