彼方でもう一度あなたと。   作:Taichi2469

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汚染

 ブラックマーケットから少し外れた場所にある建造物がある。周辺は廃墟同然の建物が並ぶだけで人が寄り付く事はほとんどなかった。その建物も一見したところでは他と違いはない。しかし、実態は違う。そこには、確かに武器や人員の出入りがあった。だが、それらは巧妙に隠されていたもので、これまでは誰が感づくことも無かった。よって、ここ一年近くは物静かなものであった。

 

 しかし、今日この日、世界の法則を崩壊させるが如き一撃を皮切りとして、その静寂を打ち破られることとなる。

 

 辺りには土煙が舞い、瓦礫が散乱している。地面が衝撃の威力を物語るように抉られていた。巻き込まれた者もいたようで、何体かが動けずにいた。けたたましい警報音が鳴り響く。それは侵入者の到来を告げるには十分なものだった。

 

「襲撃だ!総員、直ちに────グァッ!」

「よし・・・・・・、それじゃあ、制圧して。」

 

 始めに最大火力を叩き込み、こちらのペースを作った。相手にも冷静に対処しようとする者がいるだろうことは予想できたので、真っ先に行動不能にすることで相手の指揮系統が揃うことを阻止した。ここまでは先生の狙い通りだ。

 

「おっと、これ以上は好きにやらせないぜぇ!」

 

 状況が乱れる中、声を張り上げながらこちらへ反撃を繰り出す者がいた。周囲の遮蔽物へと身を隠した後、攻撃の主を観察する。例の特殊装甲を装備しているようだ。持ち前の防御力を頼りに、堂々と撃ち続けている。やはり特殊装甲の特性は厄介なものではある。しかし、こちらも無策で来た訳では無い、対応策はある。

 

「アリス。」

「了解です!」

 

 アリスは攻撃を続ける兵士の前に出る。その兵士は攻撃をやめ、しかし、動きを見せたときは即座に対応できるようにアリスの動きを伺っていた。

 

「どうした、びびってんのか?」

「そのセリフ、ペリソナ5のシェードみたいです!」

「ああっ?何を言って────」

「ペリソナ5を知らないのですか?ペリソナとは女神復活シリーズの派生作品で5はその20周年記念作品となります。ジャンルはRPGで、その特徴は人の心を・・・・・・・」

「おい、何をごちゃごちゃ言ってんだ!」

 

 痺れを切らした兵士は粗雑な動作で照準をアリスに合わせ、引き金を引いた。しかし、放たれた弾丸はアリスの体に命中することはなく、地面を抉るのみだった。避けられた事に兵士は僅かに動揺しつつも、即座に次の攻撃に移ろうとした。しかし、動作が遅れた一瞬は反撃を繰り出すには十分すぎる隙だった。

 

「光よ!」

 

 光がロボットの体を貫き、半壊させる。そして、最早動くことすらままならず、その場に崩れ落ちていく。

 

「つまり、面白いのでぜひプレイしてみてください!」

 

 その言葉をはっきりと聞き取りながら、機能を停止させていく。意識が消えゆく寸前に抱いた感想は、最後まで何いってんだこいつ、だった。

 

「とりあえず一通り片付いたかな。データを引き出してみるから、ちょっと待ってて。」

 

 辺りを見渡すと、比較的損傷の少ない個体を見つけた。アロナに確認を取ると可能だということなので、そのままお願いした。

 

「そういえば、アリス。さっきは見事だったね。」

「はい、相手に話しかけるのは先生を参考にしました!」

「それは少し照れるね。じゃあ、攻撃を避けたのはユウカに教わったの?」

「その通りです!さすが先生、お見通しですね!」

「避け方が似ていたから分かったよ。相手の動き方や癖、銃口の向きとかをよく見たうえで次の動きを“計算”する。キヴォトスに初めてきた頃から一緒に戦ってもらったからね、結構見慣れたものだよ。・・・・・・・・・しかし、本当に効いたようで良かった。」

 

 アリスの持つ光の剣はレールガンと分類されている。始めて私がそれを見たとき、これは本当にレールガンなのだろうか、という感想を抱いた。何せレールガンとは、物体を電磁気力で加速させて撃ち出すものだと思っていたからだ。しかし、アリスの光の剣から射出されているものは、どう見たって光線(ビーム)だった。これなら、いつぞやに異世界からやって来た、とある少女の超電磁砲(レールガン)のほうがよっぽど私の認識に近いものだっただろう。・・・・・・まあそれはいいとして、今重要なのは、光の剣は光学兵器だという点だ。これはつまり、物理的な衝撃を無効化する特殊装甲に対しても有効的である可能性が高い。

 

 ・・・・・・このことを話したとき、ケイには苦い顔をされた。当初の目的は回収であったため、やはり破壊は望ましくないらしい。そこをなんとかと頼み込むと、渋々ではあったが許してはくれた。しかし・・・・・・・・・

 

「そういえば早速壊したようですね、先生。補填の話、お忘れなきようお願いします。」

「・・・・・・・・・ハイ。」

 

 壊した分だけ、後で補填する事が条件となったのだった・・・・・・・・・。お金ではない形でいいと言っていたが、一体どうなることやら・・・・・・・・・。

 

「ケイ、壊した分ならアリスが払いますよ?今のアリスには所持金に余裕がありますから!」

「いえ、王女(アリス)。これは先生でなければ意味がありません。それに、先生はいつも言っていたではありませんか。責任は私が取るからね、と。」

「───もちろんさ!だから、アリス。気にしなくても大丈夫だよ。気遣いありがとう。」

「そうですか・・・・・・・・・。それなら、わかりました。」

 

 少しばかりの去勢を張りながら、現状の情けなさを噛みしめつつ、引き続きデータの引き出しを待っていると、アリスがひっそりと私の耳元で、

 

「ですが、もしも本当に困ることがあったら、その時は頼ってください。ケイにはばれないようにこっそりと力を貸します。」

 

 と、ケイには気づかれないように囁き、微笑みながら周辺の警戒へと戻っていった。

 

 ・・・・・・・・・・・・アリスの優しさがとてもありがたく感じる反面、より深く自分の情けなさを感じるのだった。本当に、経済的にも、社会的にも、精神的にも・・・・・・・・・。

 

““先生、データの分析、完了しました!””

「ありがとう、アロナ。」

““はい!””

 

 アロナの声をきっかけに思考を切り替えつつ、得られたデータから敵の把握を進める。そして、敵の配置は概ね理解することができた。

 

「みんな、どうやらこっちは外れらしい。」

 

 この作戦においての最優先事項、それは首謀者の捕縛だった。聞くところによると、これまで組織的に活動されながらも、その尻尾を掴めずにいたのはその者の手腕によるものが大きいらしい。この作戦が始まる前の段階では相手の拠点を二箇所あることまでは判明していた。しかし、そのどちらに首謀者がいるかまでは判別できなかった。その為、作戦は二手に分かれて行うことにした。首謀者がいた場合は当初の目的通りに、そうでなければ、増援を阻止するためその場の者を無力化する。そのように決定した。そして、今得た情報からはこちらにいるとは考え難い。十中八九、あちら側にいるだろう。

 

「・・・・・・そう、ですか。」

 

 トワが呟くように反応する。表情に変化はなかった。しかし、始めて会ったとしてもわかる。あの様子は明らかに落胆している。そして、あちらに行きたがっている。もちろん、こうなる事は予想できていた。だから、こんなときにどうするかは決めている。

 

「トワ、行っていいよ。」

「っ!─────先生、それは・・・・・・・・・。」

「確かに私の言うことは本当は間違っていると思う。でもね、このままここにいたら後悔するんじゃない?」

「・・・・・・・・・。」

「こっちは私たちだけでも大丈夫。だから、君が望むようにするんだ。」

「──────先生。」

「うん。」

「ありがとうございます。」

「いってらっしゃい。」

 

 トワは翻り、駆け出す。その心には、まだ迷いもあった、躊躇いもあった、恐怖もあった。それでも、今度こそ逃げない。その覚悟が彼女の歩みを確かなものとする。遠のいていくトワの後ろ姿を見送りながら、先生は今のトワならばもう大丈夫だと確信した。

 

「さて、それじゃあ引き続きお願い、アリス、ケイ。」

「はい!」

「言われるまでもありません。」

 

 そうして、三人も制圧を再開していく。この時点で予測できる範囲に問題はなかった。順調といって差し支えないだろう。

 

 

 

 

───────だが、悪夢は前触れもなく訪れる。

 

 走り出してから、少ししてからのことだ。路地裏の前を通りかかったとき、何かが引っかかった。そこにいてはおかしい人がいた気がした。思わず足を止めてしまう。何の変哲も無い路地裏。しかし、異様なものを感じずにはいられない。理由はわからない。今はこんなことをしている場合ではない。そのはずなのに、その先へと歩いてしまう。その奥に誰かを探してしまっている。何か得体のしれない焦燥感を抱きながら角を曲がると、そこには確かにいた。最初は戸惑いつつも声をかけた。すると、こちらへゆっくりと振り向いた。そして目が合ったとき、私は自らの過ちを本能的に悟った。あのとき止まることなどせず、本来の目的地へと走り続けるべきだったのだ。これは私がどうにかできるものではない。強く後悔するがもうどうしようもなかった。その目は既に私を捉えている。そして、目の前の彼女が口を開く。微笑みながら、とても嬉しそうに。それはこの場から感じる常軌を逸した空気からかけ離れた、しかし、だからこそ他の何よりも異常を感じさせる様子だった。

 

 だが、目の前の彼女について思考できていたのは、これが最後だった。

 

 発せられた声を聞いた瞬間、その言葉の意味を私が理解したかなど関係無く、私の意識をかき乱し始める。何かが私に入り込む。内側から、崩れ、裏返り、染められていく。必死に抵抗するが、奔流にのまれたときに藻掻けば藻掻くほど沈んでゆくように、私の意識は異物へと汚染されていく。混濁していく最中、今私のするべき事を強く想起した。

 

 私は、大切で、守りたい・・・・・・・・・・・・・・・守りたい、守りたいとは何だっただろうか?違う、壊すべき、いや、それも違って・・・・・・・・・・・・・・・わからない、わからない、わからない、くるしい、くるしい、くるしい!なんでくるしいんだろう?私はどうしたいのだったか・・・・・・・・・・・・。

 

 胸に手を当てながら、今一度自分を見直す。すると私の心はある衝動によって満たされていたことに気付いた。それは私を縛り、苦しめ、迷わせる全てを消してしまいたいという欲求。あの子を生命を奪った者も、あのとき決断を下した指揮官も、行こうとする私を止めたかつての仲間も、そして、何も守れなかった無力な自分も!大切なものは全て消えてしまえばいいとそう思わずにはいられない。決めた。全て、全て壊してしまおう。そして、真っ白になるんだ。その後に私も消えよう。

 

 ─────私の生に価値などありはしないのだから。

 

 答えにたどり着いたとき、私の手足、いや、体は新たな力を纏っていることに気付く。初めて見るものだが、何故か使い方はわかる。これは良い。バイザーが見せる未来予測は私が望む破滅の未来を映し出している。後はこの予測をなぞり、現実としていくだけだ。

 

 トワの心はかつてないほどに晴れわたっていた。

 

 ─────それが暗く歪みきった悍ましい晴天であったとしても、である。

 




 お気に入りの登録者数が100件に到達していることを確認しました。私の作品に対し、こんなにも多くの方が期待してくださっているということが本当に喜ばしくもあり、励みになります。今後も未熟ながら、ご期待に添えるように頑張っていこうと思います。
 
 オマージュ元が少しわかりにくい形になってしまいましたが、そういうのもあるのかと適当に流しておいてください。
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