嫌な予感がして制圧のペースを上げてきておいて正解だった。そのおかげでこうして今この場に立てている。・・・・・・ギリギリでアロナがバリアの展開を間に合ったから良かったものの、もしも後数秒遅かったらと思うと考えるだけで恐ろしい。
しかし、あれはアビ・エシュフ・・・・・・何故、ここに・・・・・・しかも、あれは間違いようもなく色彩だ。だとすれば、あの状態は危険だ。もしも、反転してしまっているとしたら──────。
「プラナ、トワは・・・・・・。」
““状況を推測。恐らく完全に反転はしていません。しかし、楽観できる状況でないのは確かです。””
「─────わかった。ありがとう。」
私の危惧は何とか避けることが出来ているようで安心した。しかし、楽観はできない。すぐに助けなくては。まずは状況の把握からだ。
「トワ、君がここに来たのはこんな事の為ではなかったはずだ。」
トワを正面から捉える。その様子は少し叱っているようで、そして、優しく諭すようであった。それは、トワが道を外れてしまう事を心の底から止めたいと願う切実な思いの表れだった。
「先生・・・・・・この場はひいてください。貴方に危害を加えるつもりはありません。」
「悪いけど、それは出来ない。私は先生だからね。間違えてしまいそうな生徒を放っておくなんて出来ないよ。」
そうだ。そんな事できるはずも無い。そんな事をするくらいなら、今すぐに死んでも構わないと本気で思える。
「 ・・・・・・ああ、貴方はそういう人でしたね。あの時も同じようなことを言っていました。殴ってしまった事、本当に申し訳なかったと感じています。」
「確かにあれは良くないことだった。でも、私は気にしてないし、君自身が反省しているというなら何の問題もないんだ。・・・・・・それにあそこまでしてしまう理由が君にはあった。それはよくわかってるつもりだ。君は理由も無く他者を傷つける事はしない。・・・・・・だから、今回もあるんだろう?こんな事をする理由が。」
「そうですね。確かにあります。ですが、それは貴方には関係のないことです。他人が土足で人様の事情に踏み込む事は失礼というものではありませんか、先生?」
「確かにそれはとても失礼な事だね。でも、私はもう部外者ではないつもりだけど?」
「・・・・・・本当に顔が厚いですね。それがかのシャーレの先生が誇る処世術ですか?」
「そんな大層なものじゃないよ。ただ、先生として生徒に踏み込む事も大切だというだけだ。もちろん、何でもそうすればいいということではないけどね。」
「・・・・・・・・・いつも余裕そうなその態度。心の底から気に入りません。その内にどのような醜悪な思惑を隠しているか、見通すことが出来ません。やはり、大人は信用できませんね。」
「そんな悪い事をするつもりはないんだけどね・・・・・・・・・。」
会話をしていく中で、先生はトワを分析していた。やはり、私では彼女を説得する事は難しい。勿論、先ほど言った通り私はこの一件を他人事だとは思っていない。最初は違ったかもしれないが、今はこの件に関わる全員が幸せな結果を得られるように出来る事は何でもやるつもりだ。しかし、トワの意識の中では私は部外者のままだ。これでは私が何を言ったところで、彼女の心まで届かせることは出来ない。であるのなら・・・・・・・・・。
「アリス、ケイ、しばらくトワを引き付けていて欲しい。私はその間に倒れてるユキナを助ける。高い回避能力を持っているかもしれない。ケイの高い演算能力が鍵になるはずだ。」
しばらくは二人に場を預けることになる。だが、当然二人の傷つくようなことはあってはならない。二人だけではない。この場にいる私以外の誰であろうと傷つくようなことがあってはいけない。万が一の時は私がこの身に変えても──────。
覚悟を決める先生だったが、そんな先生にケイは意外な言葉をかける。
「
「・・・・・・へっ?」
大して面白くもない冗句、しかもそれがケイの口から・・・・・・。余りに予想外だったものだった為、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「冗談です。ですが、貴方は一人で背負い過ぎるきらいがあります。少し力を抜いてください。それともそれが出来ないほど、私達は頼りないですか?」
「そんな事はない。凄く頼りにしてるよ。・・・・・・でも、そんなふうに感じさせたのならごめん。」
「先生、ケイはもっと頼ってほしいと言っているのです。アリスも先生に頼られたいと思っています。以前にも言ったように先生には自分を大切にして欲しいですから。」
どうやら、またやってしまったらしい。約束したというのに、私という人間はどうしようも無い。この悪癖はそう簡単には抜けそうにもないようだ。
「─────そうだね。もっと頼ることにするよ。だって、二人とも私の自慢の生徒なんだから。」
その言葉にアリスは満面の笑みを見せ、ケイは当然だと言わんばかりに短くため息をついた。本当に二人らしい反応だ。
「それとケイ、私の為に慣れない冗談をありがとう。」
「・・・・・・慣れない、は余計です。」
ケイは心外だという態度だった。その様子が何だか面白くて笑いそうになる。だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。揶揄うのはこの後の楽しみにして、そろそろ動くとしよう。
「じゃあ行こうか。作戦開始!」
その宣言と共に三人は動き出した。アリスとケイ、二人がトワと戦闘を開始する一方、まずは先生は指揮官に声をかけた。
「お怪我はありませんか?」
「はい・・・・・・救援感謝します。」
気丈に振る舞ってはいるが、その顔色はお世辞にもいいとは言えない。直前まで命の危機であったのだから、特段おかしいことではない。しかし、理由は別にあるような気がした。
「いえ、お気になさらないでください。それよりも二人が引き付けてくれている内にユキナを。」
「そう、ですね。行きましょう。」
彼女の存在がトワを救う為には不可欠だ。だが、この人は折れてしまったのではないだろうか。そんな懸念があった。だから、ひとまずは動きを見てから本題を切り出すことにした。
戦闘の始まりはアリスの攻撃からだった。
「光よ!」
だが、トワは難なくその攻撃を躱す。しかし、その攻撃は布石に過ぎない。避けた先を予測してケイがその地点を射撃する。しかし、それすらも躱された。そしてトワは体勢を乱すことなく、反撃を繰り出す。だが、アリスがレールガンを遮蔽物とすることで攻撃を防ぐ。レールガンは頑丈なもので、表面に傷をつけつながらも欠損はなかった。だが、そのまま攻撃を続けられてしまえば、アリスが攻撃することはできない。だが、アリスは一人ではない。レールガンの裏に身を隠していたケイが、攻撃の合間を縫って的確な射撃を行う。急所を捉えた精密射撃。しかし、やはり避けられてしまうのだった。だが、避ける為に一瞬間ができた。その隙にアリスも反撃に転じる。乱れ撃ちだ。しかし、それも冷静に対処される。
「やはり、こちらの攻撃を予測できているようですね。」
「はい、まるでこちらのコマンドが全て覗かれているみたいです。」
それからもアリスとケイは連携を取りながら、攻撃を繰り返した。しかし、ことごとく命中することはなかった。
「私は先輩方と敵対する意図はありません。ですから、この戦闘は終わりにしませんか?」
「なかなかの余裕ですね。しかし、私達も諦めるつもりはありません。」
「何故ですか?先生が私を止めようとするからですか?」
「アリスは先生がきっかけでこの件に関わりました。ですが、今はそれは関係ありません。後輩が苦しんでいて、間違えそうになっているのを助けたい、それだけです。それはたとえ勇者でなくても変わりません。」
「・・・・・・本当にお優しいですね、先輩方は。ミレニアムに転校してきた私に今の場所へと引き合わせてくれたのも先輩方でした。本当に感謝しています。先ほどは戦う気はないと言いましたが、撤回させてください。私には、その優しさすらもう必要ありません。ですから、どうかご覚悟を。」
トワも本格的に戦う姿勢を見せた。ここからは力戦となるだろう。
「ケイ、そろそろいけますか?」
「はい、パターン計測完了しました。データ収集はこれで終わりです。」
「では、ここからが本格的な攻略の開始ですね。」
「何をするつもりかはわかりかねますが、無駄です。私には勝利への道筋が計算できているのですから。」
「計算、ですか。ではそちらの計算がどれほどのものなのか、私に見せてもらいましょう。もっとも、私にかなうとは思いませんが。」
「ユキナ、大丈夫ですか?」
倒れているユキナを安全な場所に移動し終えた後、指揮官がユキナの上体を起こしつつ声をかける。すると、意識が戻ったようでゆっくりと目を開けた。
「・・・・・・指揮官・・・すみません。躊躇してしまいました。」
そう言いながら、ユキナが力なく笑う。それを聞いた指揮官は後悔するように顔を歪めた。
「貴方が謝る必要はありません。私こそ、貴方の気持ちを理解できていなかった。当然です。かつての仲間なのですから。・・・・・・・・・私は本当に駄目ですね。」
「指揮官・・・・・・。」
その瞳には、己への失望がはっきりと浮かんでいた。先生は危惧した。やはり指揮官はもう戦えないのではないか、と。
しかし、結論は下されるにまだ早かった。
「ですが、私はまだここにいる。まだやるべき事がある。ですから、項垂れている事はしません。・・・・・・ユキナ、私は間違っていました。私は重荷を自分だけが背負う事が正しいのだと信じていました。ですが、貴方やトワに気付かされました。今更、気付いてしまいました。貴方達は私の重荷も一緒に背負おうとしてくれていました。それを拒絶してしまっていたのです。」
「ふふ、今更気づいたのですか?」
「ええ、そんな態度がトワの大人への不信を作ってしまっていた。ですから、もう遅いかもしれませんが、今度こそトワと本当に向き合おうと思います。私の思いを隠すのではなく、伝えてみようと思います。」
ユキナは微笑んでいた。その微笑みはそれで良いのだと肯定している、そんな微笑みだった。
「ユキナ、貴方とも話したいと思います。貴方とは言葉を交わさなくても大丈夫などと思っていましたが、やはり言葉にしなければいけないのだと思います。ですから、今度たくさん話しましょう。」
「─────ええ。楽しみにしています。」
「では、ここで休んでいてください。先生、行きましょう。」
先生は頷いた。もう心配はなかった。後はやれる事をやるだけだ。そして、二人は今も戦いが続く場へと向かう。
「先生、同じ責任を負う者として話を聞いてもらえませんか。」
「もちろんです。私でよければ話してください。」
「私は大人の責任というものを履き違えていました。私は責任を私が全て負えば良いと思っていました。ですが、それは機会を取り上げていることと変わりません。」
「今はどのように考えていますか?」
「私がすべきなのは責任を奪うことではなく、責任を負いきれなくなる時にこの手で支えてあげることなのだと考えました。彼女達はいつか責任を負う立場へと変わっていく。その時に責任を負うという事がきちんと出来るように私は見守る。失敗してしまいそうな時は全力で助ける。それが私が見つけた答えです。そして、彼女達は私と共に失敗を背負おうとしている。ならば、それに応えて返すべきものを返そうと思います。」
その表情や言葉の何処にも迷いはなかった。私から言葉をかける必要はないだろう。だから、返答はしなかった。
「・・・・・・こうやって、シャーレの先生に話を聞いていただいた上に、その力を貸していただけるなんて、私は幸運に恵まれていますね。」
「そんな立派なものではありませんよ?」
「謙遜しないでください。私は貴方の事を私よりも前に似た立場で数多くの功績を残した偉大な先達だと思っています。残された記録はたくさん読み漁りました。初めてお会いした時も、あのような事はしなくてもいいのではないかと迷ったものです。・・・・・・結局は念の為、ということにしましたが。」
「あの、記録ってどんな事が書かれているのですか?」
指揮官は友好的な表情のまま、何も言ってはくれなかった。何だか不安になるが、追及するのはいずれでいいだろう。
「私の無駄話にお付き合いくださり、ありがとうございました。では行きましょう。」
「そうですね。」
そして、二人はその歩調を速めていくのだった。
トワは困惑していた。これまで予測が外れることは無かった。だから、攻撃を避けることができていた。そのはずなのに、何故か少しずつ被弾が増えている。先輩の動きが予測からずれずれていく。
「何故・・・・・・。」
「わかりませんか?」
銃口を向けながら、ケイ先輩が問いかけてくる。予測は6発の弾丸の軌道をラインで描いている。だから、その予測に従って、回避を行う。だが、何故か全て私の体に命中していた。想定外の衝撃に一瞬動きを止める。そして、その隙を見逃すほど先輩方は甘くは無い。アリス先輩の攻撃が来る。だが、当たるわけにはいかない。何とか回避する。息が切れて、余裕はかなり失っていた。
「私は相手の動きを計算するという事が得意、というか可能なので普段から戦闘はそうしています。そして、それは予測を踏まえた上で貴方がどう動くかを予測する事も可能です。つまり、その機械程度では私を超えることはできません。」
「・・・・・・・・・。」
「降参してください。このまま戦闘を繰り返したところで意味がありません。」
「・・・・・・降参はしません。それにそれだけの演算を繰り返して、先輩にかかる負荷も軽いものではないと思いますが。」
「そうですね。貴方が私を倒す事は出来るかもしれません。ですが、本気を出しているのが私である内に終わりにするが貴方の為ですよ。」
「どういうことですか・・・・・・?」
「私を倒してしまえば、
「ずいぶん甘いのですね。お二人共本気でくればよいのではないですか?」
「・・・・・・アリスはできればそうしたくはありません。」
アリスの表情はケイの言うような事態になる事をを本心から望んでいないことを物語っていた。
トワは僅かに迷った。このまま戦って良いのだろうか、と。しかし、すぐに思い直した。私はもう決めたのだ。もう止まることはできない。
戦闘を再開する。そうしようとしたときだった。
「トワ。」
私を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、そこにいたのは指揮官だった。
「指揮官、尻尾を巻いて逃げたと思っていましたが。今更、どうしたというのですか?」
指揮官は私を見ていた。正面から一切目を逸らすこともなく。いつもそうだ。そんなところが彼女の強さを私に見せつけてくる。
「ごめんなさい。」
「・・・・・・何がですか?」
「私は貴方を信じることができていなかった。私が全て背負うなどと思い上がっていた。貴方は私の元を去りましたが、逃げていたのは私の方です。責任という言葉を盾に、貴方と向き合う努力を怠っていました。」
そう言いながら、指揮官は私の前に立つ。途中で先輩方が止めようとしていたが、先生がそれを制する。今更、話し合えとでも言うのか。
「だから、どうしたというのですか。先ほど、言ったではありませんか。貴方はいつも正しい。私はそれを受け入れられなくて、貴方はそれを曲げられない。私達は交わらないのですよ。」
「─────本当はあの子を残すという判断が正しいなどと思ったことはありません。」
「・・・・・・・・・・・・え。」
「無力な私にはどうしようもなくあんな方法しか思いつかなかった。ごめんなさい・・・・・・本当にごめんなさい。」
私は戸惑った。あの指揮官が涙を、流していた。私の知っているどんな表情よりも酷く歪んでいて、それでもやはり目を逸らすことはなかった。
「後悔しています。あの時、私は正しいだけだった。でも、それは間違いだったのです。私が正しかったのだとしても、その選択は正しくなかった。他に正解などなかったとしても、確かに間違いだったのです。・・・・・・私はこの後悔を消す事などできません。たとえ、この後どれだけの人を救ったとしてもです。」
わかってしまった。彼女もまた、私と同じだったのだ。私と同じ様に心に癒えない傷を抱えていた。その痛みに耐えようとしていただけなのだ。
「トワ、貴方は私達は交わらないと言いました。でも、今からでもきっと私達は分かり合えるはずです。私は貴方を信じて、私の今にも折れそうな弱い心を隠す事をやめようと思います。だから、どうかもう一度私を信じてくれませんか。痛みを分かち合ってはくれませんか。私の、そして、貴方自身の弱さを受け入れてはくれませんか。」
ああ、そんな事・・・・・・そんな事・・・・・・・・・!!
「・・・・・・遅いです・・・・・・・・・遅過ぎます。なんでもっと早く言ってくれなかったのですか・・・・・・。ずっと、私は・・・・・・・・・、私は・・・・・・・・・!」
そこから言葉は紡げなかった。溢れる涙が止まらなかった。立っていられなくて、膝をついた。心に広がる温かさを拒むことができなかった。
「バイザーを取ってもいいですか?」
私は頷くことしかできなかった。そっと優しく私の視界が解き放たれる。
「貴方の顔を初めて見た気がします。」
おかしな事を言うものだからつい笑ってしまった。
「何を言っているんですか。」
私の言葉に指揮官もつられて笑っていた。でも、何だか分かる気がする。私も指揮官を見ていたようで、見えていなかったのだ。
気が付くと身に着けていた力は何処にもなかった。でも、それでいい。もういいんだ。そんなものはもういらないのだから。
先月に出すつもりが遅くなってしまいました。次回はこうはならないように気をつけたいと思います。いつも通りではありますが、読んでくださりありがとうございます。誤字脱字や文章のおかしいところがあれば是非ご報告ください。