先生たちがトワを救う為には奔走している頃のことだった。
「私を見逃して良いのですか?」
「ええ、構いません。別に貴方に恨みもありませんし。そちらこそ、このまま帰っていいんですか?」
「約束の刻限が迫っています。遅れてしまうなど失礼極まりないでしょう?大体、せっかく馬鹿どもを焚き付けて貴方達を困らせようとしたというのに、逆に嗅ぎつけられるとは思いもしませんでした。これ以上関わって余計なことをされてはたまりません。ですから、しばらくは貴方方とお会いするのは控えさせていただきます。あ、そうです。一つ訂正させてください。私は彼らの長をしていたというわけではなく、知恵を貸していただけなのです。誰があんな連中の同類だというのか・・・・・・。」
「あー、そうですか。まあ、その辺りはどうでもいいです。それよりも・・・・・・・・・私、成り上がりたいんですよ。その為ならどんな相手と手を組んでも構わないと思っていまして・・・・・・。」
「・・・・・・内通者になってくださるということでしょうか?」
「情報の代わりに対価はもらいますよ?」
「・・・・・・貴方の要求はわかりました。ではこれからは何卒よろしくお願いします。」
「思ったよりあっさり決めるんですね。」
「ええ、貴方からは同類の気配を感じますから。」
「そうですか。それは、それは・・・・・・。」
「良き関係を築ける事を期待しています。それでは、そろそろ行かせていただきます。」
そして、そのままドクトルは路地裏の闇へ消えていった。その場に残る少女もいつまでもここにいるわけにはいかないと、いるべき場所へと帰っていく。目論見通りに進んでいくことをほくそ笑み、細目を見開きながら。
あれから、数日が経った。色々あったが何とかなって良かった。ユキナとトワも命に別状はないようなので一安心だ。あれから指揮官さんとは会っていないが、トワの様子を見ていると上手く関係を修復できているようでこちらも安心だ。とは言え、安心できないこともある。それはドクトルという首謀者は捕まっていないということ、そして、またしても色彩が出現したということだ。しかも、今回はアビ・エシュフだ。使用者はトキだったが、トワが使っていたという事は無いらしい。なおさら意味が分からない。
しかも、あの話が本当なのだとしたら─────。
先生はトワの話を思い出していた。トワの病室での事だ。
「あの装備をしている間、私は正気ではありませんでした。確かに私が言ったことは多少なりともあったと思います。ですが、あんな極論に至る事はありえません。その点からおかしくなっていたと言えます。」
色彩は順序に違いはあるかもしれないが、負の感情が増幅される傾向がある。恐らくはそれに作用されたのだろう。
「先生・・・・・・これは他言無用にしていただきたい話なのですが・・・・・・・・・。」
「うん、絶対に誰にも話さないようにするよ。」
「ありがとうございます・・・・・・・・・。私がおかしくなる前、ある人物に会いました。」
「それは・・・・・・・・・。」
恐らくその人物こそがあの子が告げた脅威、又はそれに繫がるものだ。緊張が高まってくるが、そんなところはもちろん見せたりはしない。あくまで落ち着いて、穏やかな態度で聞くようにしなければ。
「その人物の姿は、アリス先輩、あるいはケイ先輩にそっくりな姿でした。話す様子はアリス先輩によく似ていました。」
「──────・・・・・・・・・ありえない。だって、二人ともずっと私と一緒に・・・・・・。」
「はい、ですから、あの時私が会った人物は誰だったのでしょうか・・・・・・?今となってはわかりません。ですが、その人物は私に対して声をかけてきました。覚えているのは、最初の一言だけですが。」
「なんて言っていたの?」
「トキ、先生を探すのを手伝ってください、と。」
話を聞いて、余計に分からなくなった。だってあり得ない。意味が分からない。過去を知る人物はもうほとんどいない。そんな中で今回のような事態を引き起こす様な人物は思い当たらない。・・・・・・どうも事実に迫るためのピースが足りていないようだ。今は一旦考えるのをやめよう。
「先生、ご飯はまだでしょうか?空腹で苦しいのですが。」
「ああ、ごめん。すぐ出すよ、トワ。」
新たな住人に急かされてしまった。しかし、この振り回される感じ、トキもそうだったな・・・・・・・・・。
トワは一応問題は無さそうなのだが、しばらくは経過観察が必要ということだった。事情が事情なので、当然だろう。そして、アリスは誰よりも色彩について詳しい。・・・・・・私の治療方法を探していた為だ。だから、アリスの元で預かるのが最も良いだろうということになった。この施設はミレニアムからも近い。いろいろと便利だという事も後押しとなった。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです。」
「口にあったなら、良かったよ。そろそろ時間じゃないかな?」
「そうですね。では、今日も一日頑張るとしましょう。・・・・・・私には、やるべき仕事がありますからね。」
トワがこちらを見ている。・・・・・・その意図は分かっている。私に仕事が無いという痛いところを突いてきているのだ。大人への不信は改善されているとは言っていたものの、私への当たりは今も時々冷たい。
「そうだね。きっとトワの助けを必要としている人がいるはずだから、今日も一日頑張ってね。」
だが、いちいちそんな事でしょげた反応を見せるわけにはいかない。明るく振る舞うように努める。すると、トワはがっかりしたような微妙な反応を見せるのだが、一体どんな反応を求めているのだろうか?
「まあ、いいでしょう。では行って参ります。」
「うん、行ってらっしゃい。」
といった感じでトワも既に馴染んでいて何の問題もない。取り敢えず、しばらくは平穏そのものだろう。そう思いたかった。だが、私には一つ課題が残っていた。それは・・・・・・・・・
「では、先生。補填の話をしましょうか。」
「・・・・・・・・・ハイ。」
そう回収するはずだった特殊装甲を壊した件だ。必要だったから後悔はしていないのだが、さて何をやらされることやら・・・・・・。
「 そんなにかしこまらないでください。別にできない事を押し付けるというわけではありません。私の代わりに問題を解決してもらいたいだけです。」
「・・・・・・どんな問題かな?」
「そうですね。・・・・・・まずは前提となる話からさせてもらいましょう。現在、ミレニアムには十傑と呼ばれる者たちがいます。最初は四天王だったのですが、いつの間にか増えてしまいました。」
「その言い方だとあんまり名誉のある称号ではないみたいだね・・・・・・。」
「ええ、一言で言うなら問題児の中でも特に厄介な部類の連中をまとめたものです。例えば、貴方が一緒に騒いでいたというエンジニア部の部長ですが、彼女は四天王時代からの古株です。確か、入学式で、ヒーローは遅れてくるものというものだから、などといった理由で校庭でダイナマイトを爆発させながら、ライダーのような格好で堂々と遅刻をしてきた事が始まりだと聞いています。」
「その話も気になるところだけど、私が騒いでたってどうして・・・・・・・・・。」
「噂になっていましたからね。あのエンジニア部と会話ができるおかしな大人が現れたと。」
頭を抱えてしまいたくなった。あの失態が知られているとは。だが、過去は消せない。諦めるしか無い。
「・・・・・・話は戻すけど、その十傑がどうかしたの?」
「はい、その十傑の一人が逃亡中なので、その捕獲を頼みたいのです。」
「オッケー。ただ、私だけだと捕まえるのは難しいな。」
「そこに関してはご心配には及びません。既に協力者を手配しています。」
「そっか。なら問題ないね。」
詳しい事は協力者の生徒が教えてくれるらしいので、合流する日時と場所だけ教えてもらった。これで話は終わりだ。このまま解散しても良かったのだが、ケイも予定は無いらしく、ちょうどいいタイミングなので少し話すことにした。
「そういえばさ、ケイの仕事ってなんなの?」
「私の仕事ですか?そうですね・・・。基本的にはセミナーの使いっ走りのようなものですね。学外を中心に、C&Cほどの武力を必要としない案件を主に扱っています。」
「でもさ。それだけじゃないんでしょ。」
「・・・・・・何故、そのように思うのですか?」
「うーん、私が先生だから、かな。」
「理由になってません・・・・・・。まあ、先生ですから、話してもいいでしょう。少し長い話になりますが、よろしいですか?」
「うん、是非聞かせてほしいな。」
「わかりました。───先に言わせてほしいのですが、どうか他人事だと思って聞いて下さい。あまりいい話ではありませんから。」
このとき、私は話題を間違えたのではないかと思った。だが、ケイは話してくれるつもりだ。今更やっぱり聞かないなどと言ったことはできないし、したくもない。話してくれると言うなら私も真剣に向き合うだけだ。
「セミナーは日々、様々な問題に直面しています。それは資金の不足だったり、イベントの管理だったり、生徒の暴動だったりと多種多様です。その問題の深刻さは大小あると思いますが、どれも蔑ろにはできません。」
「・・・・・・そうだね。」
「つまり、セミナーはその対応に多くのリソースを割いています。ですが、それが起こるとリソースのほとんどを他よりも優先的に回さなければいけないといった事態があります。わかりますか、先生?」
「・・・・・・・・・。」
「愚問でしたね。・・・・・・それは他校との衝突です。勿論、これまでそれが軽んじられたことはありません。それは
話し終えてから、少しの間先生は黙っていたが、やがておもむろに口を開いた。
「ありがとう、ケイ。話してくれて。」
「・・・・・・貴方らしいですね。」
ケイは先生の心中を察していた。先生はきっと酷く心を痛めているのだろう。甘いと言えるほどに優しい人だ。だが、同時に思慮深くもある。恐らく、そういった内心を見せることで私を傷つける事がないように、と考えているのだ。だから今も優しく微笑んで、感謝の言葉だけを述べている。その思いやりがとても嬉しかった。本当は言葉にしてこの気持ちを伝えたかった。だが、それを言葉にして指摘してしまえば、その気遣いを無駄にしてしまう。だから、私はそれについて何も言わない。おそらく先生は私が今こうして考えている事すら察しているのだろうが、そうだとしてもだ。だから、私も微笑みを返す。
このまま、深刻な話は終わりにしてもよかったのだが、私にはまだどうしても伝えたい事があった。いや、知ってほしい事と言うのが、正確かもしれない。だから、話を続けることにした。
「先生、私は今もかつての自分と行動原理は変わりません。
「うん、わかるよ。人には代えられないものがある。それがどれだけ残酷な事でも、人は違いを作ってしまう。でも、それは取り除くべきものではないんだ。だって、それが人であるという事なんだから。」
「ありがとうございます、先生。ですが、大丈夫です。たとえ、私の価値観の中で順位付けがあったのだとしても、守りたいと思ったものは全て守れば良いだけの事です。」
「──────本当に強くなったね、ケイ。」
「長い時間をかけて、ようやくわかったにすぎません。ですが、
そこで続きを話すことを躊躇った。だが、先生には知って欲しい。きっと、
「
「──────。」
「・・・・・・・・・先生。
「──────わかった。私はアリスと一緒にいる事を誓うよ。アリスがもう一度歩き出せるまで、いなくなったりはしない。」
「──────ありがとうございます。」
「でも、それはケイも一緒だよ。」
「それは・・・・・・。」
「ケイは自分の事を無力だと思ってるかもしれない。でも、絶対にそんな事はない。だって、今こうしてここにいる。ずっとアリスのそばにいる。それがどれだけ大切な事か私にはよくわかるよ。だから、ケイ。君がどれだけ否定しても、私は言い続けるよ。ケイがアリスを支え続けてきたんだって。」
「・・・・・・・・・貴方は本当に変わりませんね。・・・・・・そんな事言われたら、本当にそうなんだと思ってしまうではありませんか・・・・・・。」
私はそっと自分の目元を拭った。恥ずかしい事に涙が止まらなかった。更に腹が立つ事に先生は私の頭をそっと撫でていた。全くやめてほしいものだ。そんなふうにされると・・・・・・・・・、
溢れたものが止まらなくなってしまう─────。
「女性の頭に許可なく触るとはセクシャルハラスメントに該当するのではありませんか、先生?」
「うーん、確かにそうだね・・・・・・。ごめん、ケイ。この通り謝るから、許してくれないかな?」
「仕方ありません。今度頼んだ仕事をしっかりとこなすという事で大目に見ます。」
「ありがとう、ケイ。任された仕事は全力で頑張るよ。」
つい、柄にもない照れ隠しをしてしまった。だが、何だかそれでもいいのだという気がするのが、先生という人間の不思議なところだ。・・・・・・先生には口が裂けても言えないが、やはり先生は私にとっても大切な人だ。
・・・・・・
それは、その日の夜の事でした。アリスが帰ってくると、先生を見つけました。
「あっ、先生!今日はどうで・・・・・・し、たか。」
驚いてしまいました。先生は私を抱き締めていました。突然の事で少し混乱します。先生の体は細いです。力のステータスは1です。最弱です。なのに、思ったよりも体はしっかりしていました。顔が熱くなっていくのを感じます。もしかしたら、赤くもなってるかもしれません。こんな顔では先生の顔を見ることができません。なので、抱き返しました。そうすれば顔を見られることはありません。
「どうしたのですか、先生?」
「うん・・・・・・、ちょっとね。少しこうしたくなっちゃって。」
「先生も甘えたくなるときがあるのですね。わかりました。好きなだけこうしていてください。」
「・・・・・・ねえ、アリス。」
「なんですか?」
「私を助けてくれて、本当にありがとう。」
いきなりどうしたのでしょうか?・・・・・・もしかしたら、何か嫌なことがあったのかもしれません。
「はい!アリスも先生に感謝しています。ありがとうございます、こうしてまた会ってくれて。」
二人はしばらくの間、そのままだった。その内心に渦巻く思いに違いはあれども、こうして今触れ合えているという奇跡を噛み締めながら。
本当は気楽な回にするつもりだったのですが、筆が乗ってしまったので、今回は以上のような話にさせてもらいました。次回こそはと思います。ですが、また予定と変わる可能性がありますので、先に謝っておきます。申し訳ありません。
誤字脱字や文章のおかしいところがあれば、是非ご報告ください。