バタバタが落ち着いたあと、先生はこの100年間のキヴォトスの大まかな流れを聞いた。なかには、アビドスの復興がかなり進んでいるということや、ゲヘナとトリニティがエデン条約締結に成功したなど、嬉しくなるような話もあれば、100年前にあれだけ被害を被ったにも関わらず、カイザーコーポレーションが新たな名前で事業を始めただの、裏でゲマトリアの暗躍が見受けられる事件があっただの、聞いてて呆れや苛立ちを憶えるような話もあった。
そして、そこからは、かつての生徒や、その意志を継いだ子たちの軌跡が垣間見え、自分がいなくなった後も、困難に負けることはなかったのだと安堵するのであった。
───いずれか、これまで関わり合いのあった学園を訪ねるとしよう。
「───と、先生のいない間、キヴォトスはこのような事がありました。そして、先生とシャーレについてなのですが、・・・・・・。」
アリスは少し言いづらそうな様子を見せたが、おもむろに話し始めるのだった。
「・・・・・・先生は表向きには死亡したと公式声明を発表し、その生存は先生と直接交流のあった生徒のみに知らせ、秘密裏にミレニアムで治療方法を研究していました。・・・・・・シャーレは、先生が倒れてすぐにその業務を凍結、更に数カ月後には多くの惜しむ声や反対声明がある中、解体が決定しました・・・・・・。」
「・・・うん。概ね予想通りか・・・・・・。」
私が生きていると知っていれば、汚い大人たちがそこを利用しようとしてくるのは明白だったので妥当な判断だっただろう。そもそも、シャーレは“彼女”が私をキヴォトスで起こる事件に介入させるためのものだった。私がいなくなった時点で、あれほどの権力を持つ組織を残す理由はない。
「ハイ、ハイ!!シャーレって何?」
「・・・・・・モモリ。さては、近代社会の授業、真面目に受けていませんね。」
「ギクッ・・・。」
「だめですよ。レベリングは地道に行わなければなりません。」
「へっ、へーんだ!勉強ができるかなんて、いいゲームを作れるかに関係ないもんね〜!」
姿はモモイそっくりだと思っていたが、まさかゲーム作りをしているところまで同じだとは・・・。しかし、アリスも立派に先輩しているな〜。・・・・・・ていうか、シャーレってもう教科書の話なんだ・・・・・・。
など、アリスとモモリのやり取りを見ながら、心の中で百面相を浮かべる先生であったが、ここは一つ先生らしく、
「モモリ、シャーレって言うのはね・・・・・・。」
軽くシャーレについて講義するのであった。
そして、概ねシャーレについて理解してもらえた後のモモリの第一声は、
「じゃあそれって、先生がやりたい放題ってこと?」
・・・・・・うん、まあ、間違いじゃないだけど、もう少しこう、なんというか・・・・・・。
「モモリ!いくら先生だからってそんな言い方はいけません!」
このとき、アリスは先生は優しいから許してくれるけど、そんな言い方は失礼だ。というニュアンスで言ったつもりだったが・・・、
・・・私って、そんなに怪しく見えるのかなぁ・・・・・。
そんなことはつゆ知らず、少なからずショックを受け、次はより振る舞いに気をつけないと・・・・・・、などと考えている先生であった。
「さて、話をもとに戻すけど、シャーレの設備や施設はどうしたのかな?」
特に先生が気になっていたのは、クラフトチェンバー、そして、シッテムの箱だった。他の人物が扱えるとは考えづらいが、もしそれらを自分以外が使用している状態にあるならば、正しい運用ができているか確かめる必要がある。
「シャーレのほとんどは、連邦生徒会にその所有権を移されました。ただし、先生の私物、クラフトチェンバー、シッテムの箱はこちらの施設で預かっています。」
よかった。悪用されているということはなさそうだ。
「あっ!、そうだ。アリスちゃん!アリスちゃん!そろそろいかないと!」
「!、そうでした。すみません、先生。アリスは後輩のクエストを手伝いにいかなくてはなりません。本当は先生ともっとお話していたいのですが・・・・・・。」
「大丈夫。私はどこにもいかないからね。また後でたくさん話そう。」
「───はい!では、アリスは後輩たちのもとに行きます。先生、この施設は自由に使ってください。先生の今後の立場や、どう暮らしていくかは次に話し合いましょう。それでは!」
「あっ、アリス。」
アリスが目的地に急いで向かおうとしていたところを先生は呼び止めた。
「はい。何でしょう、先生?」
「今度ゆっくりと時間が取れるときにさ、聞かせてほしいんだ。───アリスのこれまでを。」
その言葉を聞いたアリスは、変わらないと言うにはずいぶんと大人びていて、でも、変わったと言うにはかつてと変わらない天真爛漫さが感じられる、そんな笑顔を浮かべていた。
「───はい。先生には必ず、アリスの冒険を話したいと思います。だから、待っていてください。」
「うん。ふたりともいってらっしゃい。」
見送りを終え、先生は思い耽っていた。アリスはもう大人になっている。機械の身体であるために、その見た目にこそ変化はないが、
それは、責任を背負う者の
立派になったことを嬉く思う反面、きっと多くの苦難があったのだろうと思う。すべての苦しみから生徒を守ることはするべきではない。それは、生徒たちの成長をさまたげるだけだからだ。
しかし、
そばで大人として支えてあげたかった。アリスだけではない。この手の届く限りの生徒を助けたかった。
そんな気持ちが苦みを伴って心の中で広がり続けていた。
思考を切り替えていかなければ、と思った先生は施設の把握を始めた。
一通り見て回りながらわかったことは、、ここでは高度な研究──おそらく、私の身体の治療に関係することだろう──が行われていること、そして、衣食住が揃っていると言うことだ。
この施設は、少しシャーレに似ているような気がした。そんなはずもないのに、懐かしさのようなものを感じながら最後の部屋に入る。どうやら、ここに私にまつわるものがまとめてあるらしい。
部屋の中で見つけたものは、記憶とほとんど変わっていなかった。とても丁寧に管理してくれていたことがわかり、感謝の念でいっぱいになる。
そんな中、目的のものが見つかった。どうやら、しっかりと充電されているらしい。
そして、先生はついに、その見た目にそぐわない規格外な性能を備えるタブレットの形をしたオーパーツ・・・・・・すなわち、シッテムの箱を起動するのであった。
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