キヴォトスにおいて、先生という職業は激務であった。その量はこちらを殺しにかかっているのではないか、とありもしないことを考えてしまうほどであったのだ。通常なら余裕を持って終えられるスタートを切り、人より数倍速いペースで進めてもまだ足りない。
───ならばどうするのか?
・・・・・・その答えは徹夜だ。
それにより、業務を滞りなく進めることができた。最初は倒れてしまうことも何度かあったがやがて慣れた。それに愛する生徒たちのためだと思えば、全く苦だとは感じなかった。
・・・・・・まあ、その愛と、何よりも激務によってやられた頭によって足を舐める等の奇行があったような気はするが、大丈夫だろう。・・・・・・・・・・・・・・・多分。
そんなこんなで、キヴォトスに来てから、私は睡眠をまともに取れたことがほとんどない。
つまり、何が言いたいのか、と言うと・・・・・・・・・。
───好きなだけ寝られるって最高だ!!!
先生はほんの少し目覚めた頭でそんなことを考えていた。目はまだ開けていない。開ける気もない。先生を追い詰める業務は存在しないからだ。
なんて心地良いだろう。ふかふかのソファ、私を包む毛布、そして、柔らかく温もりを感じる枕・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・ん?
そこで何かがおかしいことに気がついた。自分は寝る前に毛布を用意した覚えはないし、枕から温もりを感じるのも変だ。
ゆっくりと目を開けると、晴天の如く澄みわたった瞳がこちらを覗き込んでいた。
「おはようございます、先生!昨日はよく眠れましたか?」
即座に状況を理解した。自分は膝枕をしてもらっているのだ。
人形のように美しい顔は普段よりも近くにあって、顔にかかるサラサラしていて、しなやかな髪はいい匂いがする。後頭部にあたっている太ももも気持ち良くて先生は内心、動揺していた。
だが先生も大人だ。そんな心の内をおくびにも出さず、冷静に返事をする。
「おはよう、アリス。うん、ぐっすり眠れたよ。ここで寝ちゃってて、迷惑じゃなかった?」
「いいえ、大丈夫です。次はちゃんと寝る場所を用意しますね。」
「ああ、助かるよ。」
会話をしながら、ゆっくりと体を起こす。眠気はすっかり飛んでいったようだ。その後、アリスが用意してくれていた朝ご飯をいただき、身支度をすませた。
「さて、準備完了っと。アリス、これから何か用事あるかな?」
「特にありません!」
「そっか。じゃあ、少し確認したいことがあるから聞いてもいいかな?」
「はい、もちろんです!」
「助かるよ。それじゃあ、私の今後の生活についてなんだけど・・・・・・。」
先生としてはあまり世話になりたくはなかったのだが、今の自分にはお金がないこと、現在の環境に慣れてないこと、今後も体の検査は必要であることなど他にも様々な理由があるため、しばらくはこの施設で暮らしていくことにした。どうやら、ここはアリスの家も兼ねた研究施設であるらしく、本当に申し訳なかったのだが行くあてなど何処にもないので厄介になることとした。
「それで、ずっとここにいるのもなんだからさ。外に出てみたいんだ。いいかな?」
「ですが先生、まだ目覚めたばかりで体も弱っているはずです。しばらく休んでいたほうがよいのではありませんか?」
「早めに今のキヴォトスに慣れておきたいんだ。それで、案内頼みたいんだけど・・・・・・。」
「わかりました、任せてください!それでは冒険にいきましょう!」
この施設はミレニアムの近郊に立地しているらしいので、まずは現在のミレニアムに行くことにした。
やはりというべきか、ミレニアムにつく前から見たこともないような装置や、映画の中にしかなかったようなものがそこかしこにあった。内心、かなり興奮していた。大人になっても男子の
・・・・・・ミレニアムにつくまでは。
かつて初めてミレニアムを訪れたときは、事前にある程度下調べをしてから行ったし、まだ経験も浅かったため緊張もしていた。よって、醜態を見せることはなかったのだ。
・・・・・・だが、今回は抑えられなかったらしい。
「うおおっ!!!!!、すごい!!!、まるで夢みたいだ!!!!」
現在、エンジニア部の見学に来ているのだが、先生の興奮は最高潮に達していた。目の前には某カードゲームにでてきた実体化するホログラムや、某仮面のヒーローのように変身できるベルト、そして某機動戦士に登場しそうな機動兵器などが広がっていた。アリスの頼れる大人を見る目や、ミレニアムの生徒たちの知らない大人を警戒したり、好奇心を向けたりする目は、すでに子供を微笑ましく見る目に変わっているのだが、全く気にかけることもない先生なのであった。そんな中、先生の感動に共鳴し、熱く語り合う者たちがいた。もちろん、エンジニア部の部員たちだ。その熱は収まることを知らず、数時間にわたって
「・・・・・・ごめん、アリス。つい、盛り上がっちゃって・・・・・・。」
「いいえ、先生が楽しんでくれたならよかったです。・・・・・・ふふっ、まるで子どものように楽しんでいましたね、先生。」
「ぐふっ・・・・・・。」
満面の笑みでなんの悪意もなく放たれた言葉が心に深く突き刺さる。・・・・・・本当に気をつけないと。
その後、昼食を済ませた二人はゲーム開発部に顔を出すことにした。この時間ならモモリがいるとのことだ。
そうして、歩いていると建物から誰かの大きな声が聞こえる。なんだろうと思い、顔を上に向けると顔面に強い衝撃を受けた。・・・・・・前にも似たようなことがあったな。アリスが私の体をゆすりながら呼んでいるが、やがて声が遠のいていく。
こうして、先生は突如やってきた飛来物──プライステーションによって、その意識を刈り取られたのであった。
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