色彩化したケセドの顕現から数日が経過した。セミナーの協力のもと、様々な調査を行ったが、新たな発見は何も無い。
彼女が告げた厄災はこれで終わったのか・・・・・・?
いや、それはありえない。あの程度ならば私がいなくても対処できたはずだ。それ自体が脅威なのではなく、後の脅威に繋がるといった可能性も考えられるが、その線も薄いだろう。現在のミレニアムならば、私が介入しなかったとしても多少の被害に抑えられるだろう。無論、生徒が傷つくことを許容するなどはありえないのだが、やはりこのレベルの事態で彼女が動くとは考えづらい。
ならば、今回は予兆に過ぎないのだろう。今はまだ、いずれ来る厄災の輪郭すら捉えられない。だが、必ず今を生きる生徒たちを、────そして、かつての生徒たちが愛したこのキヴォトスを必ず守ってみせる─────。
「先生、検査は終了しました。もう動いていいですよ。」
鈴を転がすような声によって、思考の奥に沈んだ意識が浮上する。
「ああ、アリス。ありがとう。」
先生は現在、アリスの検査を受けていた。私の体が辿った経緯は特殊なものだ。今はなんの異常も感じられないが、これから何も起こらないとは言えない。どのように転ぶかわからない状態だ。定期的に検査を行うことで変化を見逃さないようにしなければならない。
「どうだった?」
「はい、日常生活を送るにあたっては支障はありません。ですが、体に強い負荷を与えることはだめです。先生の今のHPでは、耐えられない可能性があります。」
「わかった。なるべく気をつけるよ。」
「・・・・・・先生?」
アリスがジト目で私を見る。・・・・・・この視線には覚えがある。例えば、ある生徒に領収書から散財がバレたときに向けられた類のものだ。
「なるべく、ではありません。絶対です!」
「あははは~・・・・・・。」
つい先日にあんな事を言っておきながら、またやってしまった。ほとほと呆れるが、この悪癖はそう簡単には直せそうにもない。
「ところでアリス、一つ聞きたい事があるんだけど・・・・・・。」
「はい!なんでしょう。」
「・・・・・・ケイはどうしてる?」
「ええっと、それは・・・・・・。」
それはしばらく気になってはいたのだが、なかなか切り出せなかったことだ。私が目覚めてから、ケイは姿を見せることはなかった。アリスもケイのことを話すことはなかった。ある程度、覚悟はしていた。でも、もしかしたらと希望を捨てられなかった。しかし、今のアリスの反応で確信を得た。
ケイはアリスと同じように、肉体的な寿命というものはないだろう。だが、生きることは多くの予想外に直面することだ。その中には突然に人生に幕を下ろしてしまうようなこともあるだろう。
「ごめん、アリス。つらいことを思い出させてしまって・・・・・・。」
「・・・・・・?先生?」
こうして大切な生徒の死に向き合うことはつらいが、アリスは今もその歩みを止めてはいない。私も前を向かなくてはならないだろう。
「私は大丈夫。本当だよ。」
「あの・・・・・・先生、ちょっと待ってください。」
アリスは今の私を慰めようとしてくれる。本当に気丈で優しい子だ。これ以上、彼女に気を使わせるわけにはいかない。
「さて、やることをやろう。きっと、ケイもそうしたほうが喜ぶ。」
私が気持ちを切り替えて動こうとしたとき、扉が開いた。
「勝手に私を殺さないでください。貴方は相変わらずですね・・・・・・。」
「!?」
目の前には、アリスと瓜二つの少女がいた。あれ・・・・・・、これってもしかして・・・・・・。
「先生・・・・・・、ケイは体に不調をきたしていたので、長期メンテナンスをしていただけです・・・・・・。」
「えっ、じゃあさっきのは・・・・・・。」
「すみません。そのまま伝えると先生に心配をかけてしまうのではないかと思ったので・・・・・・。」
うん、どうやら私の早とちりだったみたい・・・・・・。様々な感情が胸中を渦巻いているが、まずは・・・・・・。
「やあ、ケイ。久しぶり。元気そうで良かったよ。」
「はぁ・・・・・・。お久しぶりです。先生。お変わりないようで何よりです。」
動揺を抑えて体裁を整えてみるのだが、ケイは呆れた目を私に向け続けていた。思わず苦笑いを浮かべずにはいられなかった。穴があったら入りたいとはまさにこのことだろう。
しかし、無事なのは本当に良かった。再会できたことは心の底から嬉しい。こころなしかケイも喜んでくれているように見える。本当にそう思ってくれてるといいな。
それから、三人はこの再会に心を踊らせながら、思い出話に花を咲かせるのであった。
数時間前、長期メンテナンスを完了した私は先生と
それは、先生の命をこの手で奪うこと。
彼の知るキヴォトスはもう存在しない。その事実に打ちひしがれ、深い絶望や孤独に苦しんでいるのならば、その苦しみから解放してあげたい。私にとって
これは
しかし、実行しなければならない。彼は傷ついた心を抱えたまま、それでも歩んでゆくだろう。あの人はそういう人だ。
考えているうちに目的地に到着する。扉の前に立ったとき、止まりそうになった。だが、行かなければならない。再び決意を固め扉を開けようとしたとき、中から声が聞こえた。
「・・・・・・ケイはどうしてる?」
懐かしい声だ。聞くだけで安心を感じさせる温かな声。思わず、入ることを躊躇ってしまう。そのまま動けないでいると、話の流れがおかしな方向に進んでいた。
・・・・・・状況を把握。どうやら、先生は私が死んでいると勘違いしている。思慮深いくせに、たまにおかしな結論にいきつくところは変わらないようだ。・・・・・・この場合は、すぐに会いに行けなかったことも悪いのだが。
一気に馬鹿らしくなって、躊躇なく扉を開ける。先生は私を見て呆けた顔をしていた。呆れてしまうが、私が危惧していたように絶望に押し潰させているようなことはなかった。あの頃と何も変わらず、前を向いていた。明日へと進もうとしていた。どうやら、彼の強さを見くびっていたようだ。
先生、貴方はそのままでいてください。そして、どうか
・・・・・・ですが、
読んでくださり、ありがとうございます。今更ではありますが、キャラの解釈に間違いがあったら申し訳ありません。少しでも楽しんでいただければ幸いです。誤字が見つかった場合はぜひご報告ください。