この世はクソである。なんてことはない。誰しも一度くらいはそう思うだろう。そう思ったことがないのだったらかなりうまく人生を送っているのだろう。別にそういう人間が嫌いという話ではなく、単純に少し羨ましいというだけの話だ。恨めしい訳では無い。
私も長く生きたものでかれこれ数千年。覚えていることもあれば、忘れたこともある。忘れたことのほうが多いが大半は魔法の研究をしていたからな。過程は忘れても出来上がった成果はしっかり覚えている。
普通、物語で出てくる長命種というのは長くても数百年なことが多い。それでも退屈などで自殺に至るという設定をチラホラと見かける。代表的なエルフや吸血鬼は残念ながら実在しないが、私としては退屈しようがないためあまり理解できない部分だった。
私にとって魔法とは奇跡だ。奇跡であり宝でもあり、唯一のアイデンティティでもある。それは忘れられないあの日に授かったのだから。
昔、それはもう昔だ。世界中を掘り起こせば何かしらの痕跡が出てくるかもしれないがそんな痕跡が残っているかどうかも怪しいほどの昔。幼いながらも私は村始まって以来の自他ともに認める天才だった。辺境だったため村の外で有名になったとかはないが、間違いなく世界で一番だったと言える。学問、農業、狩猟、戦闘などあらゆる面に才能を発揮し、活躍していた。
そんな私は星に祈りを捧げていた。
私が住んでいた村が属する国は一神教。それ以外を信仰した場合は罰がくだされる。とか言う話だった。
そんなことを幼い私が知るはずもなく。薄々感じてはいたがそれでも星への憧れを止めることはできなかった。
星は確かに存在している。昼は太陽の光が強いから見えないだけで昼も夜も私達を見守ってくれているのになんでお祈りをしないんだろう。神様なんて存在が証明されていないのに。
幼い私はこういうふうに考えていた。
年の近い子どもともうまいこと交流し仲良くなって楽しく暮らしていたのに、奴らはやってきたんだ。
王都にいる教会の騎士団。その異教徒専門の討伐部隊。私が捕まればそれで済んだのに、村のみんなは私を守ろうとして死んでいった。全員だ。全員が私を守ろうとして死んだ!数的有利もないのに、練度、装備の点でも勝ち目がないのに。各々武器となるものを担いで死んでいった。
それはそれは絶望した。たかだか宗教ごときでなぜ殺されなければならないのか理解できなかった。
私は願った。誰にも負けない力を。
戦闘にも才能があったとはいえ、所詮は幼い子ども。一対一ならともかく相手は軍隊だ。
だから私は星に願った。
結果、魔法という奇跡を授かった。人ではなくなることもおまけでな。
星、と先ほどから言ってはいるが大まかに恒星と惑星があり、恒星が当てはまる。私もそれになったというわけだ。人の姿をした恒星とでも言えばいいか。わけがわからないだろう?だが、おかげで無限の魔力、様々な状態異常の無効化、睡眠・食事・排泄などなどをしなくていいようになった。風呂にはたまに入るが。やろうと思えばできるがそういうふうに体を再構成しなくてはいけないため面倒くさい。
少し逸れたが話を戻して、魔法という奇跡を手に入れた私はその騎士団すべてを殺した。一人も逃さなかった。戦いが終わった後、魔法を駆使しながら事後処理をした。両親も含めて村の仲間は土葬し墓を作った。騎士団の連中は村の外で骨さえ残らない高温で火葬した。
一人になった私は地下室を作り、泣いた。三日三晩泣いたな。ふとした瞬間の衝動で声をあげて泣きわめいたり、啜り泣いたりした。
そして私は魔法の研究を始めた。イメージ通りに魔法は行使されるが幅を広げることに越したことはない。騎士団との戦いでは剣で切るというイメージで斬撃を飛ばしていた。正直、騎士団と同じことをするのはカッコ悪い。当時の私はそう考えた。その結果、火水土風雷などに広がったが最終的に光に行き着いた。光を収束すれば鎧をも貫く攻撃ができるのでは?と。
原理としては虫眼鏡で太陽の光を集めて紙を燃やすのと同じ発想だった。だが、それでは時間が掛かるし強い光源がないといけないと思った。私の魔法なら実現できるがスマートじゃない。そして何回かの試行錯誤の結果光の奔流をぶつけることにした。要は超高密度の光の束を一方向に飛ばす。現在多用する魔力砲の原型の完成だ。
圧倒的な熱量で焼き溶かす事ができ、蒸発させることを達成した。細くすれば部分的に貫通させることができるし、光だからという理由で鏡を持ってきたとしても熱で溶けて反射はできない。まぁ、当時は一方的な虐殺になりそのような対策をしようとした者はいなかったし、私も試したことはないからわからない。もしかすると最初のコンマ秒の間くらいは反射しているかもしれんが。
そうして魔法の研究に没頭することで現実逃避をしていたわけだが、教会の騎士団が追加の戦力を送ってきた。秘匿されていた執行部隊でもなんでもない正規軍だ。流石に数が多い分執行部隊よりも質は劣っていた。その数なんと10万。アホらしい。
もちろん先程も言った通りただの虐殺に成り果てた。たかだか矢が刺さろうが剣で切られようが人ではないのだからダメージになるはずもないだろうに。そんなことを理解できるはずもなく光の奔流によって消えていった。
最初に放った一撃で戦況は決まった。空気が凍りつき、騎士団が狩るものから狩られるものへと変化していくその僅かな時間だけはとても素晴らしかった。とても心地良い憂さ晴らしだった。
悲鳴、悲鳴、悲鳴。あとは風に乗ってくる人肉が焦げた匂い。絶望し神に祈りを捧げだす者も多かったが、神は無慈悲だったな。助けを寄越してくれないのだから。何故こんなにも熱心に信仰しているのに、と思った人間もいたかもしれない。
私の心中はただ一つ。
ざまあみろ。神なんてクソ食らえだ。
流石に数が多くすべてを殺すことはできなかったため、王都に行くことにした。つまり復讐だ。
誰が命令したのかは知らない。だったらすべて死ね。一般市民は関係ない?そんなこと知ったことではない。
そして王城に乗り込んだ。新しい魔法を携えて。
せっかくだからここからは回想に入るとしよう。
〜~~~~~~~
「お前がこの国の王か?」
王城にいる衛兵、侍従すべてを殺し目的の人物のところのままでたどり着いた。ここにいるのはこの国が信仰する一神教の教皇、王族一族、軍の最高司令官および幹部。私が呼ぶように命令した。
「ああ、そうだ。私がこの国の王、ラインリッヒ4世である。ここがどこかわかっての狼藉か?」
「当たり前だ。でなければわざわざこんなことはしない。」
王というだけありこのような場面においても余裕は崩れていない。この点だけは褒めてやる。
「王に何と言う無礼!跪け!」
「うるさいぞ老害。まぁ、王に名乗らせて私が名乗らないのはいささか礼儀がなってないのは確かだ。私は星眼の魔女。以前の名は捨てた。」
「魔女、か。笑わせてくれる。いいか小娘、お遊戯は家でやるものだぞ?」
「ふん。もっとマシな文句を言え。現にここまですべてなぎ倒してきたのが私だぞ。それを侮るつもりか?」
正直、泣きわめいて許しを請うてくれたほうが楽で清々するのだが、思い通りにはいかないか。
「そこの教皇は神の奇跡使うことができ、そこの司令官は我が国きっての
多勢に無勢、と言いたげだな。常識が通用するならばだが。もはや理を外れた私に常識が通用するはずもない。
「神よ!あの異教徒に罰を!」
ん?体の自由が効かなくなった?魔法ではない何かか…解析には時間がいるな。幸い口は動く。
「王に尋ねる。しばらく前に教会の騎士団の執行部隊が私の村に来て異教徒だとして排除しに来た。それを命令したのはお前か?」
「ふむ。私ではない。教皇、説明せよ。」
「ははっ。この国では認められていない対象を信仰する者がいるとの情報提供を受け、密かに排除しようと致しました。村の人口もさほど多くはなく、そこから得られる税収も微差と考えた次第です。」
「して、結果は?」
「…………執行部隊が全滅、そして追加で派遣した教会の正規軍10万のほとんどが死にました。」
空気が凍ったな。しかし神の奇跡というのはどうやら本当らしい。全力で解析しているにもかかわらずまだ半分しか進んでいない。
「……恐らくですが、そこの魔女と名乗る小娘の仕業で間違いないかと。」
「神がどうのこうのと喚き散らす輩が多くてうるさかったぞ。」
「貴様!王だけでなく神までも愚弄するか!…だが、貴様もここまでだ。」
唐突に感じた後ろからの気配。振り返って見れば普通の騎士の様相にもかかわらず、気配に全く気付けなかったほどの手練れ。その二人が私の心臓と肺を剣で貫いている。そして剣を90度回転させて内蔵を抉り、脇腹の方へと私の体を切り開いた。
「解析完了。神の奇跡とやらは私にはもう効かないぞ。」
「なぜ生きている?なぜ喋れている!?なぜ動けている!?」
ああ。後ろの気配も、腕を組んでこちらを静観する司令官も教皇も、あの余裕を崩さなかった王でさえ驚きの感情をあらわにしている。ふふふふはははははは!
「ああ、全く持って可笑しい。笑い転げそうだ。さて、まずは一人。王の娘から戴くとしよう。」
拳程度の大きさまで絞った光の奔流によって顔に風穴が空いた王女。見目麗しく可愛らしかったのに誰がそんなことをしたんだろうか。
「光というのはとても速い。きっと未来永劫人類には追い越せない速度で直進している。そんな攻撃を回避できる存在がいるか?いや、いないだろう。」
次は後ろの二人。床から天井へ。体を飲み込む大きさの奔流で蒸発させる。
「光は収束させると熱を帯び始めその限界は今のところ無い。つまりどんな盾だろうと防ぐことはできない。高温であれば金属は溶ける。常識だ。」
次に娘の無惨な死で泣きわめく女王。とにかくうるさい。今度は首から上を蒸発させた。両手で顔を覆っていたためついでに手も蒸発したが。
「なぜ星眼の魔女なのか?それはごく単純で眼に星を宿したから。もっといえば私は数え切れないほどにある星々の姫になったのだよ。我ながら痛いとは思うが事実だからな。」
もう面倒くさくなったため教皇と王以外は殺した。蒸発したり一部が残ってたりバラバラだが。
「なぜ神の奇跡が効かないのか。それについても冥土の土産に教えてやる。こちらも同じ理屈にはなるが、たかだか神一柱で数多の星々に敵うわけがないに決まってるだろうが。」
さて、佳境は超えた。幕引きへと進まねば。
「満足したか?」
「それなりには。復讐というのは案外気持ちの良いものだな。」
「化け物が。貴様は地獄に落ちるぞ。」
「言ってろ。愚かな王よ。」
何やら教皇がブツブツ言っているがなにかの詠唱か?物語では魔法の呪文を唱える場面は確かに存在しているが、実際問題隙だらけだから私は不採用だ。
「神よ!我ら尊き信徒の呼び声に応え魔女を葬る力を信徒の代表たる教皇の我に与えよ!」
なるほど。自己強化か。そして概念的にもどうやら私への特攻があるようだ。流石に不味い、というわけでもないのが残念だな。
「これは私見だが。」
光の剣で斬り掛かって来るが素人の動きだ。今となっては避けるのは容易い。
「神の奇跡は、私の魔法と似て非なるものではあるがイメージを現象として発現させている点においては同じだ。詠唱があるかどうかという点も差異ではあるが誤差だろう。」
「何が言いたい!」
「ん?簡単な話だ。私が魔法と呼ぶ。お前が神の奇跡と呼ぶ。その時点で何もない力に色付けがなされているだけに過ぎない。つまり、神の奇跡というのはお前の思い込みだ。」
「な、なに…?」
今となっては惜しく感じてしまうのは魔女という魔法を研究する性のせいだろう。私は事実、星から授かった。それは魔法だと言われた。
目の前の教皇は、そんな事が起きず、生まれながらにしてそういう力を宿していたという事。この宗教の国では神の奇跡だという価値観に囚われてしまう事になった。ああ、なんとも惜しい。
そして、ついでに証明されてしまったな。神が存在しないということが。
「わかりやすく言ってやろうか?私の魔法とお前の神の奇跡、大元をたどればほぼ同じものだ。」
教皇は信じること、思い込むことをやめてはいけなかった。でなければその力は揺らいでしまう。神への信仰心で色付けされているのだから。狂信的な方が何倍も厄介だっただろうな。
「さようならだ。一応感謝しておく。」
私に気づきを与えてくれた。だが、生かしはしない。
教皇が床に倒れた後の静寂に、パチパチパチ、と拍手が響いた。
「素晴らしかった。この国で最高の勲章を与えてもいい。」
「気でも狂ったか?」
「いや、いや。私は何百年も正気だとも。最初の妻が死んだときからいつかいつかとこの日を待ちわびていたのだ。」
「なに?」
そして、溜まりに溜まったものを吐き出すように語りだした。
「私は賢王などと呼ばれているがその正体は予知夢。そして不老の呪い。顔を変え、時には表に出ず裏から操作し、民を騙しながら数百年もの間治世を行ってきたがようやくその役目から降りることができる。二番目の妻は毒殺されることを予知夢で知り未来を変えようとしたが、変わらなかった。私が死ねば未来は変わるのかと思い自殺しようとしたが何らかの力により自分に刃を突き立てることも毒を飲む事もできなかった。…妻の話はもういいか。予知夢、そう問題は予知夢だった。我が右腕の宰相に相談した。国一番の医者にも相談した。異国の研究者にも相談した。できる限りの手は尽くしたのにどうすることもできなかったのだ!そこでだ魔女。私の予知夢についてどう考える?貴様が先程述べた理論には当てはまらないぞ。私を納得させてみよ!」
いや、私は異能の研究者ではなく魔法の研究者なだけなんだが?それも日が浅いというのに。あー全く興が冷めてきたぞ。それに、なんだ?王の威厳というものがさっぱりなくなっている気がする。
「悪いがそれに答えられるほど魔法に精通していない。誰かからの呪いの可能性もあれば、先天的な能力の可能性もある。お詫びと言ってはなんだが事前に準備していたプレゼントがある。」
「私に贈り物?この状況で?」
「
「それは当たり前だろう。…まさか魔女、貴様!」
バルコニーへ出て見上げる王。その顔には驚愕と歓喜が浮かんでいた。
「お前の話を聞く限り他殺でなければ死ぬことはできない、とかそんなところだろう。本来は絶望させるために準備した現状最高峰の魔法。」
自殺は防がれる。そして王という立場故に誰かに暗殺されるという可能性も限りなく低い。
「魔女。賞賛しよう。私は今、この長い人生において最も喜びに満ち溢れている。これほどまでに待ち望んだ死はない!」
魔法『世界の落とし物』。これは隕石を落とす魔法。だが、隕石を呼んでいるんわけではない。隕石を宇宙で構築し指定地点に精密に誘導できる。大きさによっては精密もクソも関係ないのだが。魔力から物質を構築するという魔法を贅沢に応用した結果の産物だ。星眼を冠しているのだから隕石がよく似合っているだろう?
「喜んでもらえたようで何よりだ。」
「ああ。これ以上ないほどの冥土の土産だ。…待て、どこへ行く?」
「もう用はない。あとは好きにしろ。」
着弾まで多少時間がある。最後の晩餐でも楽しめばいい。私は村へと帰る。
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「こんなところだ。」
「えー!その続きは?」
「別に聞いたところで面白くはないぞ。隕石から数百年の間は人が寄り付かず何もなかったからな。」
「あ、あははは。」
だから言っただろうに。
ま、孤独を選び復讐をした魔女の話なんて語るものじゃない。この話はこれまでだ。
「時雨。」
「どうしたの?ほしめさま。」
「授業をはじめよう。」
「げ。ほしめさまの魔法の授業鬼なんだよなぁ。専門分野じゃないのにぃ!」
星眼の魔女
主人公というか原初の魔女も兼ねている魔女。数千年は生きており、現在ではできないことのほうが少ない魔女。そのほとんどを魔法で実現している。
時雨
最後に登場した、4人いる魔女の一人。正しくは時間の魔女。一番若く現代を生きるピチピチのJK17歳。星眼の魔女のことを『ほしめさま』と呼ぶ。
ラインリッヒ4世こと王様
名前は適当。割と不幸というか不憫な王様。あの隕石の後ちゃんと蒸発できた。実は褒美として星眼の魔女に最高級の酒を贈ろうと考えていたがさっさと帰られてしまった。
教皇
星眼の魔女が惜しむレベルで先天的に魔法に関して才能があった人。異端は排除せよという教典に従って行動し、その結果その先で災害が発生してしまっただけで別に不思議なことは何もしてない。なんならこんなことになるとは思っておらず、神の助けが来ないことに信仰心が揺らいでしまうくらいには普通だった人。
この人以降、そういう力を先天的に宿している人間は2人しか星眼の魔女は知らない。
その他
死にました。
というわけで第一話です。魔女は合計で4人なのでそれぞれの話は書き上げたいと思ってます。あとは、どういう歴史を辿ったのかとかそういう補完もしていきたいです。
あらすじにも書きましたが、舞台を現代にしたのは、作品内の現在が現代であるからです。ジャンルの方は今のところ日常に設定中。過去では戦ったりしてますが、別に戦闘メインの小説ではないので。念の為こちらにも書いておきます。
さて、予定は未定とも言いますので悪しからず。では、また。