【悲報】宇宙人ワイ、小学生屋根ゴミに拾われた模様【助けて】 作:鳩胸な鴨
大佐が可哀想な目に遭うだけの話です。
「ただいま」
「おかえりー。…はぁ、どうしたもんかな」
久方ぶりに世界を渡る旅から戻ったバルルを出迎えたのは、ため息混じりの嘆きだった。
吾郎が顔を顰めて資料と向き合うのを前に、バルルは思わず声をかけた。
「どうした、そんなに難しい顔して」
「いや、依頼のことで少し困っててね。
元は白鐘家に届いた依頼なんだけど、直斗さんたちも忙しいみたいで、僕にお鉢が回ってきたんだよ」
言って、資料の表紙を見せる吾郎。
バルルはそこにある一文を読み、目を細めた。
「『改心事件』…か」
「そ。マディス社のアプリ…『EMMA』が普及してから全国各地で起きるようになった事件なんだけど…、これはその中でも解決が急がれてるやつなんだ」
「私に言ってもいいのか、それ」
「親父に手伝いを頼もうかと悩んでたとこなんだよ。正直お手上げだったから、遠慮なく頼らせてもらおうかと思って」
「ふむ」
軽く返事をして、渡された資料を読み込む。
全国各地で起きているという、ほんの小さな、一部の熱狂で済まされそうな異変。それら全てにおいて、「急激に何かに心を奪われたように熱中し始める」という共通点があるという。
この事件においても、それまで土井中海岸にそこまで入れ込んでいるわけでもなかったグラドルが、こぞって土井中海岸のPRに熱中しているらしい。
彼女らの共通点はなにか、とバルルが資料を読み進めていると。
吾郎によるメモだろう走り書きが目に留まった。
「…………おい。これはなんだ?」
「……そういうことなんだよね」
バルルが青筋を浮かべ、指差した一文。そこには、こう書かれていた。
─────共通点:今年に開催された水着美女コンテスト優勝者
この一文だけで吾郎が何を求めているか悟ってしまったのだろう。
バルルは怒りにプルプルと震え、吾郎を睨め付けた。
「また女装しろと…?」
「いや、前みたいにキツいやつじゃなくていいからさ。どうしても女手が欲しいんだよ」
「怪盗団の連中に頼めばいいだろうが」
「このケースだと高巻さんはキレるし、新島さんだと慣れて無さすぎてボロを出しかねない。双葉ちゃんは論外だし、奥村さんは…脳天カチ割りに来そうだから除外。芳澤さんたちも大会が近いから手伝いなんて頼めない」
ならシャドウワーカーに、と言おうとして、やめる。
現在所属している女性陣にこんなことを頼めば、揃って白い目で睨まれるのは確実。
酷ければ、しばらくはことあるごとに蒸し返されるだろう。
バルルは暫し唸ったのち、項垂れるようにして頷いた。
「…………わかった、やる」
「恩に着るよ。…いや、ほんとに」
獅童の件と言い、こういう役ばかり回ってくるのはなんなんだ。
そんな呆れを抱く中、バルルはふと、あることに気づく。
「ところでこれ、優勝しないと意味ないんだよな?」
「まあ、そうだね。被害者がここしばらくの優勝者ばかりだし…」
「…少しでも確率を上げた方がいいだろう。私のツテも使おう」
「ツテ?」
「ああ。……愛想尽かされないようにしないとな…」
「………マジでごめん」
「謝るな。惨めになる」
自分のために尊厳を削る父を前に、吾郎は思わず涙を落とした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「土井中海岸水着美女コンテスト、ね」
「そ。卒業前に挑戦してみようかなって。
それでね、皆にアドバイスをもらいたいの」
その頃、ルブランにて。
杏に呼ばれ、集まった怪盗団女性陣の視線は、とある特設サイトが表示された携帯に注がれていた。
「土井中海岸水着美女コンテスト」。双葉にとっては馴染み深い催しである。
今年もやるのか、と双葉が感心する横で、杏以外の女性陣が不安を次々とこぼす。
「私、あんまり詳しくないわよ?ある程度、トレンドは追ってるつもりだけど…」
「私も、付き合いで知ってるくらいだから、力になれないと思うな…」
「私は論外だぞ。そーじろーと蓮が似合うって言ってくれたのしか買ってないし、そのほかぜーんぶキャラコラボのダサTだ」
「そ、その、私たちも力になれないかと…」
「似合うかどうか、どんなポーズなら魅力的に見えるかくらいの率直なものでいいの。
ちょっとでも勝てる材料を増やしたい」
「お、おお。燃えてんな………ん?」
なんとなしに携帯の画面をスクロールさせていた双葉がふと固まる。
彼女の目が捉えたのは、金色の箱。優勝賞品として貼られたその写真が何かを悟り、双葉はあんぐりと口を開いた。
「は、はぁあああっ!?!?」
「びっくりしたぁ」
「どうしたの、双葉?」
「こ、これっ!優勝賞品のガンプラ!!」
ずいっ、と優勝賞品を指差し、携帯を見せつける双葉。
ガンプラに関する知識が皆無な彼女らは、訝しげに首を傾げた。
「すごい金ピカな箱だね」
「何これ?」
「純金コーティングされた限定ガンプラ…。
見た感じ未開封だから、下手すりゃ100万超える…」
「ひゃっ、ひゃくまん!?」
「それがなんで優勝賞品に…?」
「地域おこしのために秘蔵の品引っ張り出してきたとかじゃないかな…?」
「そんなことあるんですかね…?」
「このビーチだと余裕である」
「あるんだ!?」
土井中海岸の責任者は、秘蔵の品を地域おこしに利用する風習でもあるのかと疑う程度には身銭を切ることにためらいがない。
その度、物欲に正直な緑のバカが幾度となく釣られている。
しかも今回は、プレミアが付きまくり、どれだけの値打ちかも正確にわからない物の未開封品。確実に出張ってくる。
双葉とて、オタクの1人としてこの品を確保したい気持ちは十二分にある。
しかし、これは水着美女の頂を手にした者だけ。自分のストレートな体型では万に一つも勝ち目はないだろう。かと言って、勝者にそれをねだるのも気が引ける。
物欲に揺らぐ双葉を前に、杏が淡々と問いかけた。
「双葉。欲しかったりする?」
「する…!」
「じゃあ、全力で応援してくれる?」
「する…!!」
「ズルは?」
「しない!!!」
「よし」
最後の返答が食い気味だったことに満足したのだろう、杏が深く頷く。
あまりの本気っぷりに疑念を覚えた春は、事情を知っているのか、特に訝しむ様子もない真に問いかけた。
「杏、かなり燃えてるね。何かあるの?」
「十中八九、夏美さんが参加するからね。
アメリカのモデルと渡り合った経験があるって聞いて、それで参加を決めたみたい」
「なるほどね…」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「おでがい、夏美殿ぉぉおおーーーッ!!」
「イーヤーだっつってんでしょうが!!」
「帰って早々なんなんだこの地獄は」
「毎年やってるぞ」
「毎年やってんの?」
その頃、日向家では新参者に洗礼が浴びせられていた。
とは言っても、大したことではない。
例の如く、緑のバカが年甲斐もプライドも尊厳もかなぐり捨て、夏美に泣きついているだけのことだ。
ただし、その勢いはいつもより激しい。
干からびる勢いで体液を撒き散らす緑のバカを夏美があしらう光景は、新参者であるモルガナからしても見慣れたものだ。
ただ、今回は熱量が違う。
最初こそは、ケロロが搦手を使い、日向家の面々を海へと誘導するつもりだったのは見て取れた。
だがしかし。夏頃にケロロが夏美をハメて土井中海岸に連行するのは、ここ10年間の恒例行事と化していた。
毎度なんやかんやケロロに付き合わされてきた夏美も、流石に我慢の限界が来たのだろう。彼女がケロロの誘いをにべもなく蹴ったことで、彼の思惑は実現せず。
結果。諦めきれないケロロは、泣き縋り、駄々をこねるという暴挙に出た。
このバカの姿を見て、「地球侵略に来た宇宙人だ」とは誰も思わないだろう。
モルガナは肉球で眉間を押さえ、深いため息を吐く。
「で、なんで泣き叫んでんだコイツ」
「知らない」
「モルガナ殿ォ〜ッ!!夏美殿に海に行ってって言ったってェ〜ッ!!何言ってんのかわかんないけどビシって言ってやってェ〜ッ!!」
「ねーわ」
「ほらっ、モルガナ殿もこう言ってる!!」
「蓮くん、ホントにそう言ってる?」
「そんなふうに見えるか?」
「…………ないね」
認知世界でのモルガナを知らない日向家の面々には、彼の声は届かない。
猫の状態でも言葉を届ける道具はすでにある。蓮の受験勉強に付き合って帰ったばかりのモルガナが、それを身につけていないだけだ。
声が聞こえないことをいいことに、モルガナの発言を捏造しようと目論んだ緑のバカに皆が呆れていると。
その空気を引き裂くようにして、蓮の携帯が軽く震える。
蓮が携帯を開くと、見慣れた三文字が表示されていた。
「バルルからだ」
「大佐から?」
ここに帰ってきていないということは、吾郎と共にいるはず。
一体何の用だろうか、と疑問に思いつつ、蓮は電話に出る。
「もしもし?」
『蓮、しばらくぶりだな。
受験勉強はどうだ?普段の成績にあぐらをかくような真似はしてないだろうな?』
「仕事前に道具の手入れを怠るバカがどこにいる」
『ならよし』
「「「……………」」」
「し、視線が物語ってる…!『コイツより軍人っぽいなぁ』って言ってる…!!」
自身に向けられた冷ややかな視線を読み取る能力はあるらしい。
ケロロが戦慄いて見せるのを傍目に、蓮はバルルに要件を尋ねる。
「で、どうした?」
『少し厄介な案件に当たった。余裕があればでいい。力を借りたい』
「それはいいが…、別の世界の案件か?」
『いや、こっちのだ。…今、日向家にいるか?』
「ああ」
『ならちょうどいい。夏美に替わってくれ』
「夏美姉さんなら近くにいるぞ。スピーカーにしようか?」
『頼む』
蓮は言うと、電話をスピーカーモードへと切り替え、夏美に視線を向ける。
夏美は不思議そうに小首を傾げ、バルルに問いかけた。
「なに?どーしたの?」
『………夏美。これから私は、非常に情けない頼み事をする』
「え、なに!?アンタにそんな前置きされると怖いんだけど!?」
何かとんでもない無茶振りの前振りのようにしか聞こえない。
夏美が身構えて数秒。
溜めに溜めたのか、それともよっぽど頼むが嫌だったのか、バルルの絞り出すような声が響いた。
『ど…』
「ど?」
『土井中海岸水着美女コンテストに、私と参加してくれ…ッ!!』
「…………………………ん???」
ツッコミどころが山のようにある懇願に、夏美どころか、その場にいた全員が思わず惚けてしまう。
あまりのことで鈍ってしまった頭で暫し情報を噛み砕いたのち、夏美は一つずつ浮かんだ疑問をぶつけた。
「えっ、と、誰と、私が?」
『私と、夏美だ』
「………水着、美女、なのよね?」
『そうだ』
「アンタ男じゃん」
『……………女装、する』
「なんでそこまですんの!?そこまでして出る理由なんかあるの!?」
そこまでバルルが身を削る理由がまるでわからない。
夏美の叫びに、バルルは先ほどとは違い、淡々と答えた。
『土井中海岸で、「改心事件」が起きてる。
その謎を解き明かすため、優勝する必要がある』
その情報に皆が驚きに目を見開く。
そんな中、話を聞いていた緑のバカが、恐る恐るバルルに問いかけた。
「…あ、あのー、大佐殿ー…?
図々しいようですが、優勝賞品は吾輩にいただけないでしょうか…」
「その前置きして本当に図々しいパターン初めて見たわ…」
「軍曹…」
黄金のガンプラがどうしても欲しいらしく、気色悪い笑みを浮かべて携帯に擦り寄るケロロ。
その光景が想像できたのだろう。バルルはため息混じりにそれに答えた。
『やるにはやる』
「いやっほう!!」
「大佐!?」
まさかの一言に驚愕が、ケロロには歓喜が走る。
が。次の一言でそれは霧散した。
『ただし、それ含めたガンプラをお前のやらかしの担保にしろ。それが条件だ』
「たんぽ?」
『今度やらかしてみろ。お前の全ガンプラ売り飛ばしてその補填に充てるからな』
「……………ハ、ハイ、キヲツケマス」
バルル大佐…息子が持ち込んだ案件のせいでまた女装するハメになった人。泣きそう。優勝候補。
日向 夏美…バルルの頼みなら、と渋々引き受けた。優勝候補。
高巻 杏…なんでもチャレンジ精神で自分から挑みに来た子。優勝候補。