【悲報】宇宙人ワイ、小学生屋根ゴミに拾われた模様【助けて】 作:鳩胸な鴨
水着美女コンテスト当日、土井中海岸にて。
以前きた時よりも賑わいを増すビーチに、照りつける太陽。
すっかり夏の様相となったその景色を堪能する心の余裕は、バルルにはなかった。
簡素にまとめた髪。水着の上にレースが走る黒のパレオを纏った、白の肢体。
女らしい起伏こそないものの、整った美しさ故か、近くを通る男性どころか、女性に至るまでがこぞってその姿を惚けた顔で見つめている。
女装が上手くいったどころの騒ぎではない。
自身の女装の完成度にバルルが顰めっ面を浮かべていると。
その不機嫌を感じ取ったのだろう、ケロロがゴマを擦りに寄った。
「…………そ、その、お似合いでありますね、その水着…」
「殺す」
「すんませんマジすんません!!」
青のオーラを揺らめかせ、緑のバカにアイアンクローをかますバルル。
ぎりぎりぎりと、とても肉体から鳴っているとは思えない音が響く中、その背後で冬樹が感心をこぼす。
「でも、普通に優勝できそうなくらいには似合ってるよね…」
「そりゃ、優勝しないといけないからね。詳しい人からアドバイスもらって仕上げたんだ」
「あ、吾郎くんがやったんだ、これ」
「『彼女』、地雷系ファッションしか詳しくなかったからね」
「あー…」
「やめろ。悲しくなる」
「こんな知識なんて修めたくなかった」と付け足し、肩を落とすバルル。
色香を掻き消しかねない哀愁だ。
本番でこのオーラを出さないといいが、と蓮が不安に思っていると。
ふと、その視線の先にあるものを見つけた。
「………なあ、バ…、
「なんだ、お前も似合ってるとか言うんじゃないだろうな?」
「あっち見てみろ」
蓮の視線に沿うように、目をそちらへと向けるバルル。
そこには、見覚えのある二つの人影が、こちらを見て「おーい!」手を振るのが見えた。
「なんだお前ら来てたのかよ!!」
「しばらくぶりだな、蓮、明智。息災だったか?」
人影…水着姿の竜司と祐介がこちらに歩み寄るとともに、バルルの表情がこわばる。
そんな彼の心境を考えないことにしたのか、蓮の肩に乗っていたモルガナが呆れを吐き出した。
「竜司はとにかく、祐介はなんでここに来てんだよ…」
「俺はとにかくってなんだ猫コラ」
「コンクールの結果待ちでな。気晴らしに誘いに乗ったんだ」
「参加者の中にいいモデルがいるやもしれん」と付け足し、ほくそ笑む祐介。
出会った当時を思い出したのだろう。竜司が「ほどほどにしとけよ」と祐介を軽く肘でこづき、蓮に問いかけた。
「んで、そっちは?親戚の姉ちゃんと来たのか?」
「………まあ、そんなとこだ」
流石に「改心事件の調査のために来た」とは言い出せず、言葉を濁す蓮。
一方、竜司は来ている面々を見渡し、ふと問いかける。
「ところでさ、バルルも来てんのか?」
「ああ。そこにいる」
これについては隠すことでもないか、と蓮が視線をバルルへと向ける。
竜司たちがそちらを見渡すも、バルルと思える人影が見当たらないと思ったのだろう。
彼らは首を傾げ、蓮に問い直す。
「…………どこだ?」
「いや、だから。そこに」
蓮が指差すのは、黒髪と白い肌が眩い水着姿の大和撫子。
100人中100人が美女だと評すだろうその姿を前に、二人は宇宙を背負った。
「…………………」
「…………………」
「………そ、その…、ひ、久しぶり…、だな」
この不憫な姿。間違いない。バルルだ。
そう確信を抱いた二人は混乱しながら、恐る恐るバルルに問うた。
「出んの?水着美女コンテスト?」
「不本意ながら、そうなる」
「……………………なんで?」
経緯がまるで見えない。そう言わんばかりに視線を送る彼らに、吾郎が目頭を押さえて続けた。
「僕のとこにきた依頼の関係で優勝を狙う必要が出たんだ」
「あー…、なぁーるほどなぁー…」
「それで参加を決めたわけか」
「あまり深くは聞かないでくれ…。ただでさえ精神が削られてるんだ…」
もう2度とやらないからな、と怨嗟を込めて小さく付け足すバルル。
そんな彼に、竜司がふと気になったかのように問うた。
「じゃ、杏が出るのもその関係か?」
びしっ。幻聴か、亀裂が走る音が響く。
あまりに衝撃的な一言だったのだろう。固まったバルルが目を点にして聞き返す。
「なんて?」
「?いや、だから。杏が出るって」
「なにに?」
「水着美女コンテスト。俺らその応援に来たんだよ」
「…なんで?」
「え、そっち関係じゃねーの?」
「ちがう」
「………………」
「………………」
バルルの返答に、彼が何を考えて女装を敢行したのかを悟った竜司。
彼はありったけの慈しみを込め、バルルの肩に手を置いた。
「なんつーか…、どんまい」
「やめろ、惨めになる」
「噂をすればなんとやら、だな。向こうにいるぞ」
祐介が指差す方へ目を向ける。確かに、見覚えのある面々が揃っているのがわかる。
しかし、その様子は和やかとはとても言えなかった。
「なんか揉めてね?」
「みたいだな」
「様子を見に行こう」
蓮の提案に皆が頷き、怪盗団メンバーが剣呑な雰囲気漂う杏たちへと歩み寄る。
ナンパか何かだろうか。そんなことを思っていると。
「いいわ!!どっちがモデルとして上か、思い知らせてあげる!!」
「望むところ!!吠え面かかせてやるんだから!!」
女の怒号が二つ、ビーチを揺らした。
一つは聞き慣れた、高巻 杏のもの。
もう一つは、怪盗団の面々にとってはあまり聞き馴染みのない声だった。
その一言で言い合うことをやめたのか、互いにそっぽを向いて水着美女コンテストの受付へと向かう二人。
蓮はそれを見て何かを悟ったのか、声を漏らした。
「……あー、なるほど。そういう感じか」
「知り合いか、蓮?」
「去年、杏の特訓に付き合ってた時に会ったモデルだ。確か、ミカって名前の」
「………そういやなんか見覚えあんな」
「それがどうしてここに…?」
「水着美女コンテスト、しか、ないよな」
ここにいる上、「どちらがモデルとして上にいるか」などと言い争っていたのだ。他の可能性など考えられるはずもない。
まさかと思い、バルルが周りを見渡す。
彼の予感は見事に的中し、ちらほらと雑誌コーナーで見た女性がいるのがわかった。
「……例の件の影響か?モデルの女性がやけに多いような…」
「それもあるかもね。…見知った顔が何人かいるし、話を聞いてみるよ」
「ああ、頼んだ」
「…そういやテレビ出てたんだったな、明智。ここ最近出てないからすっかり忘れてたわ」
「獅童がブタ箱にぶち込まれた上に、去年の怪盗団騒ぎがすっかり落ち着いてるからね。おかげでおまんま食い上げ」
「全部お前がやったの忘れた?」
「さあ、なんのことかな?ずっと怪盗団を追ってた身として、今ほど心休まる時はないよ」
「お前ますます似てきたな…」
竜司のツッコミに爽やかな、しかし独特な圧を伴う笑みを返し、モデルたちへと向かっていく吾郎。
残された蓮たちがその背を見届けていると、入れ違いに喜色満面の双葉がこちらに駆けてきた。
「へーいそこのカレシー、あそぼーぜ」
「なんだそのやる気ねーナンパ…。イントネーションも変だし…」
「去年の竜司のマネ」
「忘れてください速やかに」
女性陣からハブられ、ナンパに惨敗し、2匹の伊勢海老で締めくくられた去年の海水浴が竜司たちの頭をよぎる。
なんで知ってんだよ、と釈然としない気持ちに蓋をして懇願する竜司を無視し、双葉はぴったりと蓮にくっつく。
と、そのタイミングでビーチ内を散策していたのだろう、女性陣が姿を見せた。
「蓮先輩、しばらくぶりです!」
「ほんと、ゴールデンウィークぶりだね!」
「久しぶり。皆、杏の付き添いか?」
「ええ。そっちは夏美さんの?」
「あー…、と、そっちもなんだが…」
真の問いに、蓮が半目で視線を向ける。
そこには、今にも死にそうな顔をしたバルルが、受付に行くことを拒否する己の体と格闘している姿があった。
「………あの、まさかとは思うんですけど、明智先生ですか?」
かすみの声に、ビクゥッ、とその体が大きく揺れる。
芳澤姉妹は去年の地獄を知らない。
そのことを失念していた真たちは、果たして言うべきかと悩んでいると。
ばっ、と双葉が蝉のように蓮に抱きついた。
「ゔぐるごがががあ゛ァーーーーッ!!!」
蓮の背から顔を覗かせ、バルルに猿叫をかます双葉。
バルルはそれに冷や汗を垂らし、威嚇する小動物を宥めるように声音を和らげた。
「落ち着け。今日は違う、違うから」
「…………えっ、と。情報量が多すぎてツッコミどころがわかんないんですけど…」
「聞かないほうがいいわ。明智先生の名誉のためにも」
結局。バルルが水着美女コンテストにエントリーできたのは、受付終了時間ギリギリだった。
佐倉 双葉…応援ついでに彼氏に会いにきたら、特大のトラウマを抉られた可哀想な子。初恋を勝ち取った代償はあまりにも大きかった。
雨宮 蓮…いろんなものを必死に耐えてる。
明智 吾郎…いろんなものを必死に耐えてる。
バルル…いろんなものを必死に耐えてる。