【悲報】宇宙人ワイ、小学生屋根ゴミに拾われた模様【助けて】 作:鳩胸な鴨
「クロウ、手筈は整えているな?」
「ああ。既に警官が囲んでるよ。とっとと終わらせよう」
「……これから捕まるって宣告されてんのに余裕そうだな、お前」
「予定調和だ。怖がる必要あるか?」
「いや、あるだろ…」
嫉妬の悪魔が君臨する賭博場にて。
揃って手袋をいじるジョーカー、クロウを前にスカルが冷や汗を垂らす。
窮地に立たされているとは思えないほどに平静だ。
皆が2人に呆れ混じりの感心を抱く中、ふとモナが疑問をこぼす。
「ソルジャーは?」
「現場にいたら怪しまれるからってことで、別行動だよ。冴さんは僕達で倒せ…ってさ。
…クイーン、大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫。…お姉ちゃんの改心がうまく行くといいけど…」
「そこは冴さんに賭けるしかないね。
…万が一のための保険だから、どうなるかわからないけれど」
ここではオタカラの奪取を諦めることになる。
故に、新島冴が改心するかどうかは、これから行われるであろう形式だけの尋問にかかっている。
どうにもならない現実にクイーンが歯噛みする中、パンサーがクロウに問いかけた。
「今更だけどさ、ストレガ…ってのが干渉してきたりしないの?」
「ないね。世間に公表できない形で始末する…なんて真似は向こうも避けたいだろうし」
「選挙を勝ち抜くための箔として選んだ獲物だ。手元で殺すまで安心しないだろ」
「…今から殺されると宣告を受けたのに肝が据わってるな」
「怪盗団のリーダーだ。そんくらいの度胸が丁度いいぜ」
モナが自分のことのように胸を張り上げるのを横目に、ジョーカーは賭博場へと振り向いた。
「行こう。大仕事だ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
『絶対的な正義で叩き潰してあげるわ!!』
「仕掛けたイカサマ秒で見破られたとは思えない切り替えっぷりだな…」
嫉妬の悪魔と化した新島冴の咆哮が、ルーレット台を模した舞台に轟く。
血に濡れて錆びた武装。そこから覗く鋭い目に、剥き出しの牙。
B級ホラー映画にでも出てきそうな容貌のそれを前に、ナビが呆れの声を漏らす。
先ほどまでは賭博場にふさわしく、ルーレットを交えた勝負をしていたのだが、ジョーカーの観察眼には敵わず。
ガラス板によるイカサマを即座に見破られ、シャドウ冴は逆上。
こうして本性を露にし、彼らへと襲い掛かった。
実姉の変貌ぶりに顔を歪め、動きが鈍るクイーン。
一方、実妹であろうと構ってられないと言わんばかりに、嫉妬の悪魔が携えた凶刃がクイーンの体へと迫る。
「しまっ…」
「ロビンフッド!!」
『ぐぅぅ!?』
がっ、とロビンフッドのタックルが冴の体を大きく吹き飛ばす。
クイーンがそれに目を白黒させていると、クロウが怒鳴り声を浴びせた。
「ぼさっとするな、死ぬぞ!!」
「う、うん…」
テレビで見る優男とは思えぬほどに鬼気迫る顔を前に、呆けた声を漏らすクイーン。
と。飛ばされたシャドウ冴が地面を叩き、ルーレットを回し始める。
転がる玉が収まったのは、核熱属性を示すポケット。
嫉妬の悪魔が睨め付ける先に気付き、ナビが声を張り上げる。
『私の正義は示した…!
灼熱の地獄は、悪を裁くためにあると!!』
「核熱来るぞ!下がれ、ノワール!!」
「うん!」
ナビの指示を聞き、咄嗟に下がるノワール。
瞬間。先ほどまでノワールが立っていた場所に、核熱の光が降り注いだ。
「あぶなっ…」
『喰らえぇ!!』
「きゃっ!?」
ノワールが安堵を吐く暇もなく、銃弾が核熱の光を裂く。
咄嗟にペルソナを出して受ける中、シャドウ冴の懐に潜り込んだスカルが得物を振りかぶり、その体を打ち上げた。
「おらぁっ!!」
『ぐっ!?』
「ピクシー!!」
打ち上がったシャドウ冴に白の光芒…メギドラオンが降り注ぐ。
流石にベルベットルームの住人のような威力とはいかないが、それでも鍛えたペルソナの一撃。
煙纏うシャドウが地面に落とされ、がしゃぁん、と音を立てる。
終わったか、と皆が悟るより先、ジョーカーが声を張り上げる。
「下がれ、来るぞ!!」
『まだよ!私は勝たなければならないの!!』
「お姉ちゃん…」
シャドウが吠え、ルーレットが再び回り始める。
尊敬すべき正義だった父を失い、徹底的な競争社会たる法曹界に生きてきたが故の歪み。
嫉妬に飲まれた姉の姿を前に、クイーンが見てられないと言わんばかりに拳を握る。
ポケットの絵柄が指し示すのは、万能。
シャドウが咆哮すると共に、全方位に向けて銃弾と斬撃が飛び交う。
『私は正しい、正しいのよッ!!』
「うぉおっ!?」
「きゃあっ!?」
「ぐっ…」
普段の苛立ちが威力へと変換されているのだろう。
強い衝撃がクイーンたちの体を弾き飛ばす。
これで劣勢が覆ったと思ったのだろう。シャドウは牙を開き、嘲笑を見せる。
『勝てば官軍!私の正しさを邪魔するなら…』
「前後関係を間違えているぞ」
「正しさを決めるのが勝者であるだけですよ」
『………!?』
ちゃき、とシャドウの後頭部に二つの硬い感触が当たる。
シャドウが横目でそちらを見ると、無傷のジョーカーとクロウが銃を構えているのが見えた。
『嘘…、当たったはずじゃ…!?』
「覚えがある攻撃だったんでな。避けるのは簡単だった」
「彼女らには囮を頼んだんです。何人かまとめて当てれば満足すると思ってね。
もっとも、掠めただけだからそこまでダメージはないだろうけど」
クロウの言葉を受け、シャドウが倒れ伏した怪盗団らに目を向ける。
が、しかし。そこに怪盗団の姿はなく。
シャドウが困惑するよりも先、冷えた感触が装甲越しに伝わる。
『なっ…』
「残念よ、お姉ちゃん。私の知ってるお姉ちゃんは、もっと強かった」
「嫉妬に飲まれた悪魔、新島冴。その歪んだ心、我々が頂戴する」
啖呵を吐き捨て、全員がその場を駆け回る。
抵抗しようにも装甲が少しずつ削られ、地面へと落ちる。
軈てその嵐が収まると、じゅわ、と音を立ててシャドウの装甲が溶け消えた。
「お姉ちゃん!!」
膝をつきながらも、よろよろと立ちあがろうとするシャドウ冴の手を取るクイーン。
それを横目に、ジョーカーは踵を返した。
「終わったな。行ってくる」
「しっかり死んでこいよ」
クロウのあんまりなエールを受け、ひらひらと手を振るジョーカー。
次の瞬間にはその姿が天へと消え、崩壊の予兆すら見えない静けさが辺りを包んだ。
数分後。『怪盗団のリーダーを捕らえた』というニュースが全国を駆け巡った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……これが、怪盗団の歩みだ。洗いざらい話したぞ」
時は戻り、尋問室にて。
洗いざらい全てをぶちまけた蓮を前に、冴は渋面を作った。
「絵空事のような話だったけれど…、実際に該当するような怪事件が起きていたのも事実。認めるしかなさそうね…」
「作り話を語れるような状態じゃない。こちとら意識がぼんやりしたままなんだ」
腕をまくり、注射痕を見せる蓮。
目もどこかくすんでおり、冴を認識するので手一杯なのだろう。
そんな状態で真実をぶちまけた蓮に、冴は怪訝な表情を向けた。
「…どうして、私には話そうと?」
「勝ちの目は残しておきたいだけだ」
満身創痍ながらも、一切の諦めが見えない。
力強い瞳と言葉を前に、冴は初めて苦笑を浮かべた。
「……呆れた。この状況を詰みだとは思ってないのかしら?」
「ちょっと肝を冷やしただけだ。テーブルに水ぶちまけたのとそう変わらない」
「覆水盆に返らず…、なんて言葉があるけれど?」
「拭くことはできるさ」
まだ何かある。
この事件に潜む闇を暴くための何かが。
そのことを悟った冴が問い詰めようとするや否や、がん、がん、と扉がノックされる。
「……時間みたい」
「だな。早く出ていくといい。巻き添えで消されたくはないだろ」
「ええ。…今度はじっくり話せるといいわね」
冴はそれだけ言い残すと尋問室を出る。
暫しの静寂。運命の分岐点。
死を目前とした蓮は机にもたれ、笑みを浮かべた。
「死ぬのは初めてだな」
その言葉を掻き消すように、尋問室の扉が勢いよく開け放たれた。
雨宮蓮/ジョーカー…死亡が確認された。ストレガが確認したところ、尋問室には判別すらできないほどぐちゃぐちゃにされた遺体があったという。