LoL 短編集 作:サモナー
「死」には様々な形がある。ジンは数々の劇を手掛けてきたが、時に彼は思いがけず共同で制作を行う時があった。
弾丸が12人目の演者の最期に彩りを散らした瞬間、空気が張り詰める。万物が息を潜めた音がして、自分の喉もキュッと締め付けられる。
(来た)
仮面の下で口角が吊り上がる。
跳ねる蹄の音がどこからともなく鳴り響き、背後から獣が走り去ったような風が吹いた。
彼は逸る呼吸をそのまま、銃弾を込め、次の演者にスポットライトを当てる。
踊るように
「One.」
大輪の百合が咲き誇り、緋色の桜の花びらが散る。しかしそれは風切り音が聞こえるとともに美しい碧の光を溢れさせた
歌うように
「Two.」
こんどは人を幹として、梅を咲かせる。零れる梅が時雨となるが、それは地に落ちる前に鮮やかな蒼い焔となって消えていく
描くように
「Three.」
心臓の彼岸花の中から黄金色の大きな蝶が1つ羽ばたいた。それは空中で美しく舞い…白群色が光ったと思うと、撃ち落されたように儚く地に落ちた
奏でるように
「Four!」
白い蓮がいくつも咲き誇ると、死にきれない様子の演者が藻掻く。そして一瞬何かに怯えるような顔をした途端、蓮は墨をこぼしたように深藍に染まっていった。
舞台に幕が下ろされ、辺りには一切の呼吸すら許さぬ静寂が訪れる。
目の前の光景に目を輝かせ、息を吐くのも忘れて銃のトリガーから人差し指を離した。
ジンは姿勢を正す。それから踵を鳴らして特等席に向かい、深深と優雅に頭を下げた。
感謝を込めて。
この会場にジン以外の人間はいないが、彼はこのような場合、何時だってそうしてきたのだ。そうせねばなるまい…最高の観客には最高の敬意を払うのが当然だ。
どこからともなく溢れんばかりの拍手が降り注ぐ。虚空の底から滾々と。万雷の喝采だ。
彼は自分が知らぬ間に笑っていることに気がつく。
いつも通り、拍手が止んでから彼はゆっくりと頭を上げようとした。
そのときだ。彼の耳に、聞きなれぬ声がふたつ聞こえた。
「今回も素晴らしかったです、ジン」
「最高のフルコースだったな!」
「いつか貴方の散り際に立ち会うのが楽しみです。きっと貴方の最期のかがやきは、これの何倍も美しいのでしょうね」
「お前は身軽で素早い。狩りがいのある鬼ごっこを期待してるぜ」
ハッとした顔でもう一度向かった時、そこには16の作品以外何も無かった。
そこは依然として無音であったが、万物が安寧を取り戻したように息を吐いたのが彼の耳に届く。
「…」
ジンは仮面とマスクを外し、胸に当てて目を閉じた。死の残滓漂う空気を肌で感じるために。
そして深呼吸をひとつすると、目を開き、微笑む。
「勿論、最高のオペラをご覧に入れよう…嗚呼しかし、しかし。他の『死』では駄目だ。最期を飾るのは『子羊と狼』でなくては…必ずや完璧な舞台にしてみせよう。だからせめて我が最期の演目には、絶対に、駆けつけて貰いたいものだ。」
千里の向こうから遠吠えひとつ。応と響いた気がした。
ジンは気づいていない。
彼がとうの昔から、既にシルシを付けられた者であるということを。
彼らは観客にして共演者。孤高の芸術家の序幕より彼を見つめ、そして…フィナーレを飾る者。
言われずとも、かの死の化身は…キンドレッドは彼を逃がすつもりなど無いのだ。