─────あたしはどうしてしまったんだろう。
工房のイスにもたれながら考える。ここはあたしの一番好きな場所。
学校にいる時はヘッドフォンで曲を流し、深めにパーカーを被ることで自分の世界を作るあたし。
でもここにはおじいちゃんやひいおじいちゃん、もっと前の世代のご先祖様。そんな人たちの発明品や道具で溢れている。
目を閉じる。すると使い込まれた木の匂いがする。機械油の匂いがする。
決していい匂いではないけれど、あたしはこの匂いが大好きだ。
そのままここで座っていると、おじいちゃんたちがそばに居てくれるような感じがして落ち着く。
あたしが世界で一番、落ち着ける場所。
─────あたしはどうしてしまったんだろう。
ふと目を開け、机の上にある小箱を見る。あたしの作った秘密箱だ。
うちは代々、発明家の家系で誰もが多種多様ではあるものの、何かしらの開発に関わっている。
あたしもそうなることを望まれたはずだし、言われなくても子供の頃から発明に興味津々だった。
だからこの秘密箱も発明なんて大それたものではないけれど、あたしの作った作品のひとつだ。
それに彼が挑戦したのが3日前。結局、解き方がわからないままタイムアップで諦めて帰ることになってしまった。
難易度としては中級ぐらいだけど、彼には難しかったようだ。相当悔しがっていたのを思い出す。
小箱を手に取ると、その時の彼の台詞までも明確に思い出せる。「今日は帰るけど、次は絶対解いてやるからな!」と。
必死な彼の顔が笑いを誘う。まるで小さな子供のようだった。
教室で図面を書く際に使う鉛筆を削っていたら、あたしの形見のナイフに興味をもった彼が話しかけてきたのが最初。それからたまに話すようになって、会う機会も増えていった。
彼は古いものに関心があるようだったので、先日この工房に招待したのだ。
来て早々この工房のものに興味を示し、あたしの話をずっとずっと聞いていてくれた。それはおじいちゃんたちの功績を認められたようで。あたしの好きなものを受け入れてくれたようで。
そんな彼がこの工房のもので一番興味を示したのがこれだった。何故か気恥ずかしさの中に嬉しさがあった。
「次ということは、またここに来るということよね・・・」
そう思ったら小箱に彼の温もりが残っているような感覚に襲われた。持つ手が熱くなってくる。
その熱はあたしの腕を、胸を、頭を熱くする。
まただ。彼のことを考えるとどこにいても、この工房でさえ落ち着かなくなる。
あたしが落ち着ける場所はこの世界からなくなってしまったのだろうか。
「でも・・・彼と一緒にいると安心できる感じがするのよね・・・家族とも違う。あれは何なのかしら・・・」
一昨日も昨日も冷静に分析してみたけど答えにはたどり着けなかった。なにせ生まれて初めての感覚だったから。
─────あたしはどうしてしまったんだろう。
いつか解る日が来るのかしら。─────
あたしの心の秘密箱の仕掛けがコトリと動く音がした。