おはな の おはなし   作:沙時灯

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※このお話はブルームストーリーズ『桃源郷と忘れじの都』を起点とした一連のネタバレを含んでいます。

※今回の挿絵は ぬゐめ 様より提供していただいたものを使用しています。
素敵なイラストをありがとうございます。


ガンライコウ =別離=(挿絵あり)

着慣れない服に袖を通す。それが日常ではないことを意識させる。

普段は自前の着物を着崩しているあたしだけど、今日ばかりはしっかりと着こなしている。

 

「どう?変じゃないかしら」

 

団長さんに問いながら履物を履く。手間取ったので少し予定の時間より遅れている。

そう、今日は二人で騎士団による葬儀に参列するのだ。

 

 

害虫の群れによる被害で壊滅してしまったアマワシの街。

その犠牲者たちを弔う葬儀を桃源郷と騎士団の共同で行うことになり、団長さんと第一副団長であるあたしは参列することになっている。

ミヤさん(ミヤマヨメナ)の花騎士としての復帰と、亡き夫である騎士団長と団長さんに接点があることもあって、今回の葬儀の開催に至ったのだ。

 

葬儀は滞りなく進んだが、献花の際にミヤさんが泣き崩れていたのが気の毒でならなかった。

記憶を無くしながらも生き延び、その失った記憶を取り戻すことで愛した人を亡くしたことも思い出してしまったのだから当然と言えよう。

そんなミヤさんにとってはつらい葬儀になるのは当然懸念されていた。

しかし事実を事実と受け止めなければ前に進むことはできないだろうという結論もあったが、なによりミヤさん自身が望んだことだった。強い女性だなと思った。

 

 

帰り道。団長さんと二人で歩きながら『人の死』について考えてしまう。

あたしは早くに両親を亡くし、ケンザンの技術や知識を満足に継げなかった。

若くして天涯孤独の身という境遇に追いやられたが、独りの時間の方が長かったから寂しいと思うことはなかった。

それよりも代々続くケンザンとしての才を十分に継げなかったことへのプレッシャーの方が大きかった。

あたしの代で何百年も続いた叡智を途切れさせてしまうのか?

それこそ両親にもご先祖様にも顔向けができなくなってしまう。

そんなことばかり考えて生きてきた。

 

そして団長さんに出会った。

 

団長さんと過ごすうちに、自分が発明以外に思考を割くようになったことに驚いた。

団長さんを好きになって、当代のケンザンではなくガンライコウとして自信が持てた。

団長さんと結ばれて、あたしは寂しかったんだと気付いた。

 

少し前を歩く団長さんの背中を見て想う。

あたしたちもいつか『死』が二人を分かつ時がくるのだろうか?

 

団長も花騎士も不死身ではない。

一般的な生活ではなく、戦いに身を置いていればその可能性は飛躍的に増す。

至極当然なことに今更気付いてしまう。

 

あたしが団長さんと一緒にいられなくなる?

 

寒々しい風があたしと団長さんの間を駆け抜ける。

団長さんの背中がどんどん離れていく。小さく、遠くなっていく。

 

 

あたしは置いていかれたの?あたしが置いて行ったの?

 

いやよ。

 

あたしは団長さんと一緒に居たいの。

 

ねぇ団長さん。

 

 

団長さんがぼやけてはっきり見えなくなる。声も届いてないのかどんどん離れていく。

 

 

団長さん。

 

だん・・・

 

 

真っ暗な、真っ暗な闇があたしの視界を奪う。

ああ、あたしはまた独りに─────

 

 

【挿絵表示】

 

イラスト:ぬゐめ 様

 

体を揺すぶられてハッと目を見開いた。

必死な顔の団長さんがあたしの両肩を掴んでいた。

どうやらあたしはいつの間にか立ち止まって、力なくうずくまっていたらしい。

 

「・・・あたしを・・・ひとりにしないで・・・」

 

必死に絞り出した言葉はそれだった。

もっと「大丈夫よ」とか「ちょっと立ち眩みがした」とか言えばいいのに。

驚いた様子を見せた団長さんは、すぐにあたしを抱きしめてくれた。

そう。あたしが欲しかったのはそれ。

愛する人の温もり。そばに居るという感触。あたしは独りじゃないという安心感。

あたしが欲しいものをちゃんと解ってくれる。そんな団長さんが好きだった。

 

 

どうやらあたしは感傷的になりすぎてしまっていたらしい。

葬儀の雰囲気に飲まれてミヤさんに自分の未来の可能性を重ねてしまったのだろう。

あたしは団長さんと出会って心が弱くなってしまったのだろうか?

 

「確かに失うことは怖いけれど、だからこそ大切にしたいと思う心も強くなったのよ」

 

心配そうに手を繋いで歩いてくれる団長さんの手を強く握り返し、腕を絡ませながら歩いていく。

帰り道も、未来への道も、例え別れの日でも。

ずっとこの人と共に。

 

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