おはな の おはなし   作:沙時灯

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※このお話はメインストーリー五部・任務2『進化する世界』のネタバレを含んでいます。


ガンライコウ =ケンザンとスイバチ=

「いいわ、始めてちょうだい」

 

ベルガモットバレー王宮に特設された広間にあたしは立つ。

 

「ほな、いくで!」

 

眼の前に立つのはベルガモットバレーの世界花の化身、ベル様。

その周囲には世界各国から集められた歴代ケンザンの残した設計図、からくり、発明道具、からくり部品、ケンザンの痕跡になるものが山積みになっている。

 

ベル様の権能でそれらを魔力化し、練り上げてあたしに注入するという儀式。

そう。今からやろうとしているのは歴代ケンザンの叡智を全て統合し、現代に賢人スイバチを発現させること。

ベルガモットバレーを儀式の場に選んだのもケンザン、そしてスイバチの痕跡が色濃く残っているからである。

 

「はああああああああああ!!!」

 

ベル様がケンザンの遺したものからその知識を魔力として練り上げる。

こんな芸当は世界花でもないとまず不可能だし、ベル様自身からも「できる保証、成功する保証はない」と強く言われた。

だが考えつく方法はこれしかないし、これしかないのならやるしかない。

賢人と語り継がれる7人の中でも特に秀でたというスイバチに並ぶには普通のやり方では足りないのだ。

 

「ガンちゃん!受け取りぃ!」

 

ベル様が頭上に練り上げた魔力を突き出した両手からあたしに向かって放射する。

 

「くうううっ・・・・・」

 

あたしは苦痛に顔を歪める。

全身に知識という名の魔力が流れ込んでくる。

ケンザンとしての知識を不完全にしか受け継げなかったあたしが今、歴代ケンザンの知識を取り込もうとしている。

 

「にぃさん!そろそろや!」

 

ベル様が団長さんに合図を送る。

近くで待機していた団長さんが今度は外に向かって合図する。

程なくしてあたしは全身を包み込むような光の柱に打たれた。

 

「うあああああ!!!」

 

その光の正体は照射範囲を絞ったホエイルカノン。

歴代ケンザンの知識をただの一人の人間に詰め込むなんて当然耐えられるわけがない。

そこで考案したのがスイバチの叡智を利用する方法だ。

現在はバナナオーシャン西に沈んでいる蓬莱花。

そこに残っているクリスタルのエネルギーを現地のクジラ艇で回収、通常より出力を絞った細いホエイルカノンをエネルギーとして発射。それを別のクジラ艇で回収、再発射を繰り返してバナナオーシャンからベルガモットバレーまで中継させるという大掛かりなリレーでこの場に繋いでいる。

クジラ艇が量産されている現代だからこそできる反則技だ。

このエネルギーで膨張する魔力を無理矢理抑え込んでスイバチとして安定させるまで耐えるという命がけの作戦。それが今行われているこの儀式の正体。

 

「ガンちゃん、きばりや!千年の知識の大波に、生み出すことへの欲望に飲まれたらあかんえ!」

 

「あああああ・・・・・ああああああああああ!!!!!」

 

既に消し飛びそうになっている意識と自我。

今まで生きてきた中で一番の痛み、苦しさ。

全身が引きちぎられそうな感覚と知らなかった様々な情報で押し潰されるような感覚。

 

代々続く発明家ケンザンとしての血筋に生まれ、両親からそのケンザンとしての叡智を引き継ぐ前にあたしは独りになった。

その時からずっと劣等感と共に生きてきた。歴代で一番の出来損ない。例えどんな理由があろうとそれは確かな事実としてあたしにのしかかって来る。

その足りてない部分を補おうと必死にやってきた。でも結局はほどほどのモノしか造れなかった。一般的な目線からすれば高度なことでも、ケンザンというレベルで語れば猿の積み木だった。

 

でもその足りてないことが幸いして歴代ケンザンにはなかった『他者の知識を入れる余地』があると気付いた。

そして現代でスイバチの高すぎる才能が求められる事態に世界(スプリングガーデン)が直面した。

運命だと思った。あたしの生まれた意味を見つけた気がした。

この馬鹿げた儀式もあたし自身の考案。実行するのもあたし。

ケンザンになれなかったあたしはスイバチになる。

そう思っていたのだけれど───

 

「ぐ・・・あ”あ”あ”あ”あ”─────!」

 

「ガンちゃん!」

 

 

あたしは

 

 

 

あたし・・・

 

 

 

 

 

あ・・・

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

まっしろだった

 

なにもないばしょ

 

うえもしたも みぎもひだりも

 

なにもなかった

 

じぶんのからださえも

 

どうしたんだろう

 

そっか

 

あたし きえちゃったのか

 

 

「まだ消えてはいない」

 

 

だれ?

 

 

「スイバチになって何を成すのか」

 

 

みんなの やくに たつのよ

 

 

「現存するスイバチの技術の解析も十分にできないレベルの文明で、か」

 

「この時代になっても愚かなものたちしか居ないのか」

 

 

そうね あなたからすれば あたしたちなんて おさないこどもいか でしょうね

 

でもね あたしたちは みんなで のりこえてきたのよ

 

すべて ひとりでできる あなたとはちがって ひとりでは なにもできなかったから

 

だからこそ みんなで たすけあうひつようが あったのよ

 

そして そのすばらしさに きづいた

 

じぶんたちの せだいでは できなかったことも

 

こうせいに つたえることで のぞみをたくし つないできた

 

それが いまこうして あなたにならぶ そんなことを かのうにしたのよ?

 

 

「成程、それがお前達の積み重ねた『発明』ということか」

 

「非常に興味深い。まるで想定していた以上の事象だ」

 

「だがどうする?お前はもう消えてしまうぞ?」

 

 

きえないわ

 

あたしには やるべきことがある

 

たいせつな ひとたちに しあわせを ぷれぜんとするの

 

そのためにも こんなところで きえるわけには いかない

 

 

「ほう?予想外に長持ちするとは思っていたが、その自我を保てる理由はなんだ?」

 

「なんなのだ?その不確かなのに確かに存在するものは」

 

 

あいよ

 

りょうしんが みんなが だんちょうさんが あたえてくれたもの

 

あたしは それを けっして てばなさない

 

あたしを ガンライコウを かたちづくるもの

 

それがあれば 発明家で 花騎士で あたしがあたしで居ることができる

 

そこがあなたとの差よ 愚者スイバチ

 

あたしには みんなが居る だから あなたと同じにはならない!

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「ガンちゃん!ガンちゃん!」

 

涙目であたしを覗き込むベル様や団長さんが見える。

そっか、気を失っていたのね。

あれほど苦しかったのに今はむしろスッキリしている。まるで乱雑に積み重なったものが整理されたような。

 

「詰め込んだケンザンの知識のデフラグが終わったということね」

 

口にしたことのない言葉がするっと出てくる。知らなかったのに知っている言葉。

 

「なるほど、これならこの世界の文明がオモチャに思えるのも納得だわ」

 

不思議そうにあたしを見つめる団長さんやベル様にあたしは伝える。

 

「大丈夫、あたしはあたしよ。賢人スイバチの叡智を得て、改めて名乗るわ」

 

花騎士(フラワーナイト)ガンライコウ、ただの発明家よ」

 

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