おはな の おはなし   作:沙時灯

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ガンライコウ =規格外の叡智・II=

「・・・・・ん」

 

夢の世界から現実へと切り替わる。

けれどその境はあいまいで。

 

「ああ、あのまま机で寝てしまったのね」

 

いっそあれが夢だったのなら、そう思ってしまう。

昨日あたしはそれまでずっと背負ってきた『ケンザン』を失った。

その『ケンザン』はハゲイトウさんが継ぎ、不完全にしか『ケンザン』を継げなかったあたしは用済みとなったわけだ。

 

「きっと今はひどい顔をしているのでしょうね・・・」

 

爆発した感情に任せて泣き喚き、あの場を後にしてこの工房へと帰ってきた。

その後はこうして作業机のイスに座ってただただ泣き続けた。

そしてそのまま寝てしまって翌日の朝というわけだ。

 

突っ伏していた机からイスに体を預け、天井を見ているとまた眠気が襲ってくる。

泣くにも体力が必要だということだ。しかもあれだけ泣けば消耗も相当なものだろう。

このまま二度寝というのも悪くない。あたしにはもう急かされる理由はないのだから。

 

「今までは1分1秒も惜しんで発明や研究に没頭していたのに

 たった1日で随分とのんびり屋になったものね」

 

今までの反動・・・いやそれだけではない。

あたしにとっての全てだった『ケンザン』を失ったことで、あたしには何も残っていないだけ。

こうして自己解析ができる程度には落ち着いたということか。

時間が解決する、なんて言葉は正しいのだなと実感する。

 

 

 

そう、あたしにはなにもない。からっぽなのだ。

 

 

 

昼過ぎ。

騎士団に顔を出し、申請を済ませ帰路についた。

一身上の都合で花騎士(フラワーナイト)をやめたい、と。

そして既に事情を知っているであろう騎士団は簡単には受理してくれなかった。

『ケンザン』でなくなったとしても花騎士(フラワーナイト)『ガンライコウ』としての生き方を薦められた。

確かに客観的に見ても自分が1人の戦士として働ける自信はあった。

害虫から人々を守る。立派な仕事だし、その力があるのなら正しく使うべきだ。

だけど今のあたしにはその生き方を選ぶだけの気持ちにはなれなかった。

からっぽになってしまった今のあたしには戦う意思すら持てなかったから。

 

 

 

夕方。

工房でダイゾーとザンセツ、その他の絡繰(からくり)の総メンテナンスを始めた。

ダイゾーだけでも結構な時間がかかるのだ。工房にあるもの全てとなればいつまでかかることになるのか自分でもわからない。

普段なら絶対にできないことをできるのは、ある意味ではありがたいことだった。

 

発明家と花騎士(フラワーナイト)、二足のわらじは実際大変だった。

片方だけでもハードな生活に陥りがちな職業を兼業しているのだから当然だ。

我ながらよく続けてたと思ってしまう。

 

「おかげで睡眠や食事に関してはひどいものだったけれど」

 

生活状況を仲間の花騎士(フラワーナイト)に話した時の驚いた顔が忘れられない。

わかってる。女性にあるまじき実態だったことは。

でもあたしには全てを引き換えにしてでもやり遂げたいものだったから。

 

 

 

翌朝。

メンテナンスはまだ終わらない。

発明品のひとつひとつに思い入れが、思い出が、苦労が、喜びが、達成感があることを噛みしめる。

 

ザンセツのここの傷はあの時の。

ダイゾーの腕は何度作り直したっけ?

言うなれば発明品はあたしの子供たち。全部が愛しく、全部が大事なもの。

それを丁寧に、丁寧に手入れしていく。

順番待ちの行列だったあたしの子供たち。

その列は着実に減っていっていた。

 

 

──────────ガンライコウの花言葉:『情愛』──────────

 

 

 

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