おはな の おはなし   作:沙時灯

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ガンライコウ =規格外の叡智・III=

カチャン。工房のドアが(かぎ)のかかる音を奏でた。

こうした鍵による施錠も発明のひとつだ。特定の形状をした鍵とそれに対応する内部構造の組み合わせが動作して施錠・解錠が行われる。

こうして建物の出入口を施錠することで中の安全を確保する。これで守られるものがたくさんあるのだ。

 

(何かを守ることができる。誰かの幸せにつながる。そういうところが好きで発明を続けてた部分があったのよね)

 

鍵穴から鍵を抜きながらそんなことを想う。つい発明に絡めて物事を受け止めてしまう。

あたしの人生は常に発明と共にあったから。

 

でもこれからのあたしはその発明から離れ、その代わりになる『なにか』を探す旅に出る。

昨日で工房内の発明品のメンテナンスは終わったからだ。

そもそも発明品の総メンテナンスも、しばらく工房を空けるからこそのことだった。

 

ケンザンの資格を失くし、これからどうするかを考えた時に旅に出ようと思った。

ここに居るとどうしても発明のことを考えてしまう。でももうあたしにはその必要がない。それが耐えられなかったのだ。

 

幸い花騎士(フラワーナイト)としてのお給料は良かったし、発明には資金が必要だったから基本的に貯金はしてあった。

そのおかげでフラフラと放浪の旅に出たとしても十分やっていけるだけの金額はあったから決断できたのだった。

 

(とは言っても特に目的地もないのだけれど・・・)

 

そうなのだ。今まではケンザンの発明品があると聞けばケンザンの末裔としてそこに。

町で施設が壊れたと聞けば修理ができる修理工としてそこに。

害虫が出現したと報告があれば花騎士(フラワーナイト)としてそこに。

なにかしらの目的があって行動することばかりだったから、自由気ままに過ごしていい・動いていいと言われても困ってしまうのだ。

 

(『自由』って思ったよりも『不自由』なものなのね。それともこんな風に思うのはあたしだけなのかしら?)

 

そんなことを考えながら工房を離れる。ダイゾーもザンセツも旅先ではまともなメンテナンスもできないだろうと工房でお留守番をさせることにした。

最低限の工具や部品を背負って旅をすることも考えたが、それでは結局発明家から離れられていないもの。

苦楽を共にした『家族』とも言えるダイゾーとザンセツすらも置いていかなければ、あたしはいつまでも発明から離れることができない。

それでは意味がないのだ。あたしはもう発明家ではない。ただの一人の人間としてこれから旅をしていくのだから。

 

(雁来紅の名は伊達じゃないわ。そう、あたしは自由な渡り鳥になるの。あたしはこれから色んな場所を見て回るのよ)

 

そんなことを思いながら軽い足取りで大通りへの道を進む。

いつもの大風呂敷を背負ってないとこんなにも身軽なのかと。

これから行くこの道の先にはたくさんの景色や出会いがあるのだと。

この大空のように晴れやかな気持ちで足取りを進めた。

 

 

 

なのになぜだろう。あたしの頬に一筋の涙が零れた。

ガンライコウの花言葉は『気取り屋』のはずなのに。

 

 

 

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