おはな の おはなし   作:沙時灯

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ガンライコウ =規格外の叡智・V=

春───。

 

「みんな、ちゃんと居るかしら?」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

「せんせー、きょうはどうするの?」

 

「今日は原っぱまでお散歩して、そこで絵を描きましょう」

 

「おえかきとかつまんないよー」

 

「あら、そんなことはないわよ?じっと見つめることで新しい発見があるの

 今まで知らなかったことを知るのは、とてもおもしろいのよ?」

 

「ほんとー?」

 

「ええ。先生もそうやって色んなことを覚えてきたわ」

 

そう言って子供たちを引き連れ、近くの草原まで歩く。

キチンと列を作る子。よそ見ばかりしてフラフラする子。仲良しの子とおしゃべりする子。

みんなそれぞれの個性がある。見ていて本当に飽きない。

 

あたしは今、小さな村で学校の先生のようなことをしている。

実際のところは学校 兼 孤児院と言ったところなのだけれど。

春庭(スプリングガーデン)はまだまだ害虫による被害も多い。様々な理由で両親を亡くした子を預かったり、親が居ても面倒を見れない家庭の子を預かったりしている。

 

「さぁ、みんな自分で興味を持ったものを描いてみて?

 お花でも、草木でも、なんならこの原っぱを描いてもいいわ

 自分が面白いな、なんだろう?って気持ちになったものを描いてみましょう

 あ、でもあまり遠くまで離れないようにね?」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

散り散りになっていく子供たち。今日は天気もいいし、少し風もあって過ごしやすい一日になりそうだ。

そんなことを思いながらあたしもスケッチブックを取り出す。絵を描くのはあたしだって好きだから子供たちに負けていられないのだ。

 

少し経った頃。周りを見ると思った通り、飽きて追いかけっこをする子が居た。

でも特に怒ったりはしない。それはそれで自由だから。

逆にあの子は熱心に大きめの岩を描き続けている。形が面白かったのだろうか?

追いかけっこをしてた子たちもしばらくするとまた絵を描き始めていた。

それでいい。誰かに押し付けられるのではなく、自分の意志で選ぶことの大切さ。

そういうものをあたしは教えて、育てて行きたいから。

 

「キャーーーッ!」

 

「ッ!!」

 

悲鳴!?反射的に声のした方を見る。害虫!

そう頭で認識した瞬間、既にあたしは走り出していた。花騎士(フラワーナイト)の身体能力は衰えてない。

 

(小型の害虫・・・ちゃんと事前にこの近辺の安全は確認してあった

 つまり何らかの理由でここまで降りてきたか、何かに追われてきたか・・・

 例えなんであれッ!)

 

「ギギッ!!」

 

「未来を摘み取らせは・・・しないッ」

 

一閃。手にした刀の斬撃で仕留める。分割した害虫の死亡を冷ややかな眼で確認しつつ、後続が居ないかを確認する。

 

「この一匹だけのようね」

 

刀を鞘に収めながら、あたしは状況の安全を確認した。

 

「もう大丈夫よ。安心して?」

 

「せんせぇ~~~」

 

泣いている子を抱きしめ、頭を撫でてあげる。怖い思いをさせてごめんなさいね。

 

「せんせーすっごーい!そのカタナってホンモノだったんだ!」

 

「ちっともつかわないからニセモノだっておもってたー

 みせてみせてー」

 

「ダメよ?これは何かを守る時だけ使うものなのよ?」

 

そう。実際あたしはずっとこの刀も花騎士(フラワーナイト)の能力も使ってこなかった。もちろん万一の時を思って時々確認はしていたけれど。

今でも世界花の加護を受けていることに驚きと感謝を感じながら。

 

(ベル様にとってはまだ「うちの子」ってことなのね・・・ありがとう)

 

 

 

子供たちを引き連れた帰り道。話題はあたしの話で持ち切りだった。

みんなあたしの周りにくっつくようにして取り囲み、あれもこれもと質問攻めにされた。

 

「せんせーカッコよかった!あたしもフラワーナイトになりたい!」

 

「せんせーのえ、じょうずー!どうしたらこんなにうまくかけるの?」

 

たくさんの話をしながら、あたしは想う。

今日の出来事でこの子たちに色んなことを思い、体感させてしまった。

でもそれはネガティブな意味だけじゃなくて。

お絵かきが楽しかったり。お絵かきは自分に合わないと解ったり。害虫という脅威はすぐ近くにあることと知ったり。花騎士(フラワーナイト)という存在を目に焼き付けたり。

 

例えケンザンでなくなったとしても。

自分に子供が居なかったとしても。

あたしは後世に何かを伝え、遺すことができる。

ケンザンの発明だけが後世に伝えられたわけじゃない。

普通の人々が普通の生活の上での知恵や発想が、何かを便利にしたり誰かの役に立ったりしてきた。

今ある文化・文明は人々の歴史の積み重ね。その中に優れたスイバチやケンザンのものが存在しても、その大きな知恵の一部に過ぎないことにあたしは気付けた。

 

あたしの全てだったケンザンだけど今にして思えば重い重い枷、『呪い』でしかなかったのかも知れない。

それに囚われなくなったあたしは、ケンザンという発明家から落ちこぼれたことでやっと『(ひと)』になれた気がする。

あたしはケンザンより、スイバチよりずっと大きな『(ひと)』の叡智に辿り着いたのだ。

この叡智は持ち主の命が失われることがあっても、受け継いだ誰かが次に伝える。

例え全ての命が失われたとしても・・・その痕跡はいつか必ず蘇り、また受け継がれていく。

その大きなもののひとつとして、今あたしは存在している。

それがとても誇らしいのだ。

 

「さぁ、帰ったらおいしいご飯を作らなきゃね。みんなは何が食べたい?」

 

たくさんの未来を引き連れたあたしの足取りは軽かった。

 

 

 

──────────ガンライコウの花言葉:『不老不死』──────────

 

 

 

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