おはな の おはなし   作:沙時灯

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ガンライコウ【パラレル学園】その2

発明というものは発案(アイデア)だけでは実現しない。

原理や仕組みを理解し、それを理解した上で新しいものや改良を考えていく。

基礎なくして応用はなし。全てのものはそうして発展してきたのである。

 

街に溢れている様々な製品。あれも全て発明品と言っていいだろう。

そういうものを手に取り、観察や分解したりすることで理解を深める。開発者の工夫を知る。

紡がれた完成品を紐解いていくことで、それが作られるまでのドラマを見ている気分になれるのだ。

 

あたしは観察をとても重要だと思っている。それは発明の基本だから。

だから興味が出たものは自分でスケッチをするようにしている。

スマホで写真を撮れば時間もかからないし、鮮明に物体を手元に残せる。まさに文明の利器だ。

でもあえてスケッチにするのは時間をかけて注視することで気付くことがたくさんあるからだ。

手早く終わらせることだけが美徳ではないと思っている。だからこのスケッチ用の鉛筆もナイフで削っているのだ。

スケッチをしている間は集中していることもあって文字通り周りが見えなくなっているし、時間も寝食も忘れてしまうことが多い。

家族や友人にも散々注意されたのだけど、性分だからどうにもなりそうにない。

 

でも最近はふと彼のことを考えて手が、観察が止まってしまう。

今まではこんなことはなかった。なにせ発明に対して必死だったから。それが私の存在理由だったから。

発明は好きだしアイデアもたくさんある。だけどあたしにはそれを実現させる才能は欠けていた。

歴代の血筋はみんなすごい発明や発見をして世の中に認められてきた人ばかり。

「お前は気負わなくていい」とおじいちゃんは言ってくれたけど、あたしは負けたくなかった。

人一倍努力してきたつもりだったけど、実を結ぶことはあまりなかった。あたしはおちこぼれなのだ。

 

あたしはまだまだ未完成なのに、彼のことで集中できない時間が増えてきている。

彼のことは気の合う同好の士だとは思っているけれど、この状態は困る。だが何がトリガーになって『そうなる』のかが全くわからない。

原因がわからなければ防ぐこともできないので、こっそり彼を観察したりもした。でもわからなかった。今まで他人に興味を示してこなかった罰だろうか。

 

わかったのは彼は目立つわけじゃないけれど、行動のひとつひとつに人柄が出ていること。

モテるわけではないけれど、悪く言われることもない。きっといい人なのだろう。当然女子からの支持も悪くない。どちらかと言えば評判はいい。

そんな彼が古い道具や発明品に興味があるのは公にしていないようだけれど。知っているのはあたしだけ、そんなことも言ってたわね。

 

「・・・今日はここまでね」

 

スケッチは今の考え事のせいで捗りそうにない。最近はずっとこうだ。

あたしはこのまま原因もわからないことで時間を消費し続けるのだろうか。あたしにはそんな時間はないというのに。

 

人生は有限だ。残せる発明品の数にも限りがある。

ご先祖様たちも「もっと発明をしていたかった」と言い残して死んだ人ばかりだと聞く。

早くあたしも発明家として完成しなければならないのに、いつまで未完成なのだろう。

 

「で、私の出番ってわけだね~」

 

「ええ。何かヒントになりそうなポイントとかはあったかしら」

 

発明は孤独だ。自分との戦いと言ってもいい。

だけど協力者は心強い。自分とは違う着眼点を持っているから。なので今、目の前に居るゼンマイさんに相談を持ちかけた。

彼女は発明を通じて知り合った同じ開発者という夢を目指す同志。年齢も近いし何かアドバイスをもらえないかと、近々の出来事を事細かに全て話してみた。

 

「発明一筋なガンライコウちゃんらしいよね~。やっぱり脈々と連なる叡智の山『賢山(ケンザン)の一族』って感じがする~」

 

「それはただの学生のあたしには重い名よ・・・それで、なにかわかりそうかしら」

 

「簡単だよ~。でも私が教えるのは意味がないかな~って」

 

「・・・・・は?」

 

理解ができなかった。簡単なのに教えることができないことなんてあるのだろうか。

 

「意味がわからないのだけれど」

 

「彼のことが気になって仕方ないんでしょ?それはもう答えだよね!」

 

いやそれがわからないのだけれど。だって彼は─────

 

彼はあたしが好きなものを気に入ってくれて。受け入れてくれて。認めてくれて。

あたしの話を聞いてくれて。足りないあたしの作ったものを評価してくれて。

あたしの、あたしを─────

 

気付くと心臓が高鳴っていた。顔が熱くなっていた。頭が彼でいっぱいになっていた。彼のことでオーバーヒートしていた。人からは常に冷めていると言われてきたあたしが。

目の前にいるゼンマイさんのことも意識から外れていた。そう、いつもの集中している時のように。

 

観察は発明の基本なのに。あたしはあたしの心を観察できていなかったのだ。これでは発明家失格だ。

あたしはあたしの心を観察していく必要がある。集中力を取り戻すために。自分の気持ちを確かめるために。

でないと発明家として、人間としてのスタートラインに立てない。

 

「あたしが─────彼のことを」

 

明日もスケッチは捗りそうにない。

 

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