「・・・はい、今はまだ」
「・・・・・はい。失礼致します」
一礼の後、扉に向かう。焦りから足早になりそうな歩を気力で抑え込む。
気取られてはいけない。これ以上、失望などさせてなるものか。
涼しい顔で扉を閉め、緊張と呼吸を解放する。
夕暮れの騎士団長執務室での出来事だった。
「団長様はお優しいから『焦らなくていい』と仰ってはいるけれど・・・」
自己紹介はこのぐらいにして、いまの私はひとつの問題に直面していた。
過去の歴史や現在の騎士団の実例から言ってもほぼ例外はなく、ごく一部で『開花』ができていない者がいる程度らしい。
その『ごく一部』に私、タケは入っていた。
戦闘能力の点で言えば『開花』している者と同程度の強さ・能力になることは可能で、事実私も他の
しかし『開花』している証である『才能を最高にまで高めた姿』に成れないでいた。
『開花』はまさに花が開くが如く、成長したという証。成長途中の者からすれば目標や憧れと言ったもの。
「古代花騎士特有の休眠期間の副作用であれば諦めもついたのでしょうけれど・・・」
そんなことはなかった。他の古代花騎士の仲間たちは皆、開花を済ませている。
そしてその華やかな容姿で戦場を駆け抜けていた。
別に着飾りたいという話ではなく、『証』を立てられないことがつらかった。
忠誠、忠義の花言葉を冠しているのにそれを堂々と示すことができないなど・・・
私にとってはとてももどかしく、団長様への申し訳なさでいっぱいだった。
「はぁ」
憂いの顔と共に、自らの不安を夜空に解き放つ。ここのところ、月を見上げてもため息をつく日々が続いていた。
月明かりを浴び、風の音を聞いて、今が平和であることを噛みしめる。
目覚めてからはそんな夜が好きだったというのに。
「まさかこの私が、一騎当千と謳われ戦いの中に生きていた私が。嫁入り前の乙女のように自分が身にまとう装束を夢想する日々を送るだなんて」
一見すると白無垢にも見える古代花騎士の象徴である今のこの姿も、むしろ不釣り合いにしか思えなくなってしまった。
開花を済ませている花騎士たちは皆美しく自信に溢れ、私から見て眩しいものがあった。
どこかで「いつか自分にも訪れるはず」と信じて疑わなかった部分があったのだろう。
いまだに開花できないでいることに焦りを感じているのがその証拠だった。
「やはり私の強さは自らが積み重ねたものではないから・・・なのでしょうか」
私の力は迷い込んだ竹林で口にした生命の源泉によるもの。
そのせいで私は強大な魔力と亡霊武者を率いる『力』を得てしまった。
それがなければただの娘として生き、死んでいたはず・・・
だが紆余曲折があって改めて私自身の『力』として身についた。
そのことは団長様を含め、大精霊の試練に関わった者の周知の事実。
「・・・・・ならばやはり私自身の中で何かが障害になっているのでしょうか・・・・・」
500年という時間の経った現代への不安。溺愛した姫の行く末が解っていないという精神的な喪失感。考えられることはいくつかある。
以前、世界花のベル様に尋ねてみたこともあった。しかし、
「こればっかりは色んな原因や物事が関わっとるからなんとも言えへん。でもタケちゃんもいつかちゃぁんと来るから心配せんときな?」
という答えだった。
「今は大人しく待つしかないのでしょう。あの月も一晩で満ち欠けするものではありませんし。」
「けれど・・・・・」
「一日でも早く団長様に私の晴れ姿を・・・」
そう言って見上げる今夜の月も美しかった。静かに、でも煌々と輝くその月は人を魅了するのに十分すぎる存在だった。
あの月の美しさに負けないような姿を団長様に見せれる日を夢見て、今夜も帰路につく。
足取りは不思議と軽くなっていた。
※2026年2月24日 開花実装おめでとう