おはな の おはなし   作:沙時灯

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※今回は団長視点のお話になります。


ガンライコウ【パラレル学園】その3

「・・・・・ねぇ。退屈じゃないのかしら?」

 

手を止め、視線だけこちらに向けたガンライコウが言う。そんなことないよ、と笑う。

 

「・・・・・変な人よね」

 

視線を手元に戻し、再びナイフで鉛筆を削り始める。嘘など言っていない。この時間が楽しみだから。

不定期に開催されるガンライコウの居残り鉛筆削り。まだ数回しか遭遇していないが、見かけたのなら付き合うことにしている。

スケッチ用の鉛筆を放課後の教室で削るのが気分転換にいいそうだ。そしてそれを横で見るのを許されて今ここに居る。

自分の席で削るガンライコウの左側にイスを置き、そこで同じ時間を過ごす。

 

「ヒマだろうからって用意した新作パズルもそこに置いたままじゃない」

 

いやいや、ずっと触っているだけでなく解くのに思考する時間だって必要なのだ。

 

「・・・・・まぁ、いいけれど」

 

不満そうなガンライコウの手元に視線を落とすと、細い指が器用にナイフと鉛筆を動かして先を整えていく。

工作が得意ということもあって見事なものだ。彼女の『仕事』は美しい。

感心しているのは鉛筆の出来栄えだけではない。ガンライコウの指の美しさもだ。

普段、道具や機械を触っていれば多少手が荒れたりするのも仕方ないはずなのだが、ガンライコウのは細く・長く・美しいとしか形容できなかった。

きっとケアもしっかりされているのだろう。作業をする指もある意味では大事なツールのうちだから。

 

「道具の手入れを怠るのは発明家失格よ。万が一でも作業中に道具が壊れたりすれば、それは事故に繋がるわ」

 

そんなことを言ってたのを思い出す。珍しくガンライコウが厳しい表情を見せていたので、よく記憶に残っていた。

 

放課後の教室ともなれば夕日が差し込む時間にもなる。紅く染まる教室に紅い髪のガンライコウが更に紅く染まる。

クラスメイトにはクールというか無気力で通っているガンライコウ。その実、開発者としての信念は熱い。

どうやら代々続く開発者の家系らしく、自分もゆくゆくはその道で大成するのが夢だそうだ。

真っ赤に燃える髪色はそれの表れなのかも知れない。

 

そんな髪とは対象的に、その瞳は透き通るような色を有していた。

まるで氷のような冷ややかな眼。初めて間近で見た時は驚いた。それはまるで宝石のように思えたから。

普段は睡眠不足が理由(との自己申告)で半目がちのガンライコウなので、知っている者も少ないと思われる。

だから気付いた時は隠された秘宝を探り当てたような高揚感があった。

 

よく話すようになって気付いたが、作業で伏し目がちになると睫毛の長さに気が付いた。意識するたび息を飲む。

それまで同級生の女子を色っぽいと思うことなんて、それまで一度もなかったのに。ガンライコウの左側に座るのも、この眼を見ていたいからだ。

彼女をずっと見ていたい。パズルを解くのに乗り気ではないのもそれが理由だ。解いてしまうとこの時間を過ごす理由がなくなってしまいそうで。

 

シャリシャリと鉛筆を削る音が、ふと止まる。

 

「ふぅ。今日の分は終わったわ」

 

美術品のような横顔を独り占めできる時間はここまでらしい。達成感でやんわりと笑うガンライコウを見て胸の奥が締め付けられる。美しくもかわいい。たどり着く答えはいつもそこだった。

恋と呼ばれる感情。それに気付くのにあまり時間はかからなかった。だが彼女は色恋沙汰には無縁のように思えたし、自分でもそう言っていた。

研究ばかりでそれ以外に時間を使っているヒマなどない、と。彼女の障害になってしまうのなら、この恋は秘めておくべきだと思う。こんな時間を共有する友人、それで十分なのだ。

 

「ところで」

 

ガンライコウが告げる。

 

「次にウチに来るのはいつになるのかしら」

「その、少しは片付けないといけないし。少しぐらいは準備させてほしいというか」

「いつもこの野暮ったいカッコじゃ恥ずかしいというか・・・あたしもちゃんとしてるところを見せたいってとこもあるし」

「もっとゆっくり話をしたいのもあるし・・・だから・・・次のお休みとかどうかしら・・・?」

 

ガンライコウを紅く染めていたのは夕日だけではなかったのを知ったのは、ずっとずっと後のことだった。

 

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