こんなに納得の行かないことが世の中にあるだなんて。
開発者一族の端くれとして誇れないまでも、一般的なレベルよりは知識も経験もある自信はあった。
適切な材料、適切な作業環境、適切な設計図。これらが揃っているのに全く成果を得られないだなんて。
「どうして・・・どうしてなの?あたしはここまでなの?」
大体なによ『少々』って。正確なグラム数を記載しなさいよ。他のはちゃんとグラム指定してたじゃないの。
それに何?『飴色になるまで』とか『きつね色になるまで』とか。抽象的すぎるでしょう?
口伝しかない昔ならいざ知らず、現代なら写真とかRGBで指定するとかいくらでもあるじゃないの。
そんな個人感覚に依存する説明なんてナンセンスだわ。安定した仕上がりになるわけないじゃない。
どうして現代になっても古い時代の説明のまま進化しないのかしら、料理って。
目の前の黒焦げ、半生、味がおかしい『なにか』を見ながらしみじみと思う。
「あたしに料理は無理ね」
─────先日のこと。
教室でふと聞こえてきた彼と彼の友人の他愛のない会話。
「女子の手作りのお弁当とか憧れるよな」と。
「そういうものなのね」
以前のあたしならそれで終わっていた。でも今のあたしには聞き流せない言葉だった。
彼が自分のお弁当で喜ぶ姿を見たいと思ってしまったのだ。
そうなったら居ても立ってもいられず、すぐにスマホで検索した。
開発に全てをかけた人生だったから、当然料理なんて経験は調理実習ぐらいで。
いくつか道具の扱いは慣れているけれど、自分の興味外の授業に消極的だったあたしはほとんどを班の人に任せていたのだ。
自分が料理をすることになる未来は描いていなかったから。
だって今なら冷凍食品のクオリティも高いし、レンジでチンすればおいしいものが安定して食べれるのよ?それで十分でしょう?
発明は人の生活を豊かにする。そういう部分に憧れてあたしは開発者をやっているのが大きい。
そう、そうなのだ。あたしは開発者なのだ。料理人ではない。
「ということで料理動画をいくつか見て手順を参考にシステム化。それを可能にできるメカを開発・設計して完成させたわ。
お料理用マシン『自動たまごや機マーク
あくまで全自動でないのがポイントね。味は好みに合わせて調整できるようにしてあるわ。甘いのがいいとかしょっぱいのがいいとか。
言ってくれれば次からはそれに合ったものを用意するわ。遠慮なく言って頂戴」
そう言ってあたしはご飯におかかふりかけ、卵焼きが10切れ入ったお弁当箱を見せて彼に見せたのだけれど。
彼は数秒固まった後に爆笑したわ。確かに卵焼きだけのお弁当しか用意できなかったのは悪いと思ってる。
でもそんなに笑わなくても。あたしは恥ずかしくなってまた俯いてしまう。
しかしすぐに彼は「ガンライコウにしか作れないお弁当だね」と言って全部キレイに食べてくれたのだ。
彼はこうして不出来なあたしも認めてくれる。安心とともに心が高鳴る。うれしかった。
おいしそうに食べてくれる彼を見ていると、料理はこういう誰かが喜んでくれることを想像して作られてきたのだろうなと考えてしまう。
つまり料理も発明のひとつなのだ。ならばあたしも料理で彼を喜ばせてみたい。そう思うのだった。
「で、あたしはノロケ話を聞かされるだけの役かな?」
「違うわ。次のお料理マシンはどういう料理を作れるものにすればいいかの相談よ。ジニアさんは女子力が高いのだから、定番で外さないやつとか知っていそうだし」
「んー、確かにあるけどねー。でもさーガンライコウさん」
「何?」
「料理ごとにマシン作ってたら工房がお料理マシンで溢れちゃうけど?」
「なっ─────」
恋をするって大変だわ。