家賃4万円以下、築20年の格安アパートに住む貧乏学生。
建付きの悪い扉を力いっぱいに開けて、目にした光景はまさにそんな一昔前の物語の人物のようなボロ部屋だった。
古びたボロボロの卓袱台に異臭を放つ腐りかけの畳。
見るからに中身の入ってない厚さ数ミリの座蒲団。
隅には蜘蛛の巣、壁には落書き、風通し最高の割れた窓。
黒板の縁にはチョークの一本も見当たらない。
予想以上だった。
もちろん悪い意味で。
思わず一歩下がり、クラス札を確認。
──ヒビが入った木製の札、左の留め具が外れてるから斜めに垂れ下がってる。
2-F。
自分がこれから一年間在籍するクラス名が確かにあった。
目を細めても擦っても変わらない。
この、埃臭い部屋が2年Fクラスに与えられた教室なのだ。
鞄に押し込まれた封筒の中身にも、Fクラス。
封筒の宛名は当然自分の名前。
鉄人がしてやったり顔で手渡して来たんだから人違いのはずもない。
Fクラス。
そう丁寧に毛筆された用紙を見て、自業自得だと理解しつつも肩を落とした。
私立文月学園はAを最上位、Fを最下位とした六つのクラス序列が2年と3年に存在している。
クラスの振り分けは年度末に行われる振り分けテストで決められる。
個人的見解だけれど、各クラスの偏差値はAからFへ順に65以上、56~64、50~56、45~49、41~45、40以下。
これは全科目を使った総合科目での偏差値だ。
俺の推定だから多少のずれや特殊な事例も含まれてる可能性が高いがだいたいこんなものだろう。
なので入学試験の時も面接重視の傾向が見えていた。
たしか向上心盛んな生徒が我が校に好ましいと募集要項に書いてあったと記憶している。
文月学園はにわかには信じがたいが進学校らしいので、クラスで序列を作り明らかな格差を作って、向上心を焚き付ける、という名目なんだろう。
そんな考察はさておき、俺の学力はB下位からC上位だと自負している。
なら何故俺がFクラスなのかというと、一言で言えば素行が悪かったのだ。
授業妨害はしていない。
あまり登校してなかったのだ。
これには深い訳などはなくサボり癖が度々発症しただけである。
文月学園は試験校だ。
クラス序列制度や、あるシステムなど様々。
噂で外国に姉妹校があるとは聞いたこともある。
スポンサーが当然付いており、極力悪い話は出したくないはず。
そしてさっき述べたように学力のバラツキが大きい。
つまり、多少サボって成績が悪くても意外と進学出来るんじゃないかと考えたのだ。
現に退学生は一人も出ていなかった。
結構な頻度でサボっていたのとバカやったこともあり、生活指導担当に目をつけられた。
名は西村宗一。
またの名を、鉄人。
身長189センチ、体重97キロ。
趣味はトライアスロン。
リンゴを素手で握り潰してその果汁をジュースのように飲んでいたとの目撃例がある。
そんな人間やめた人間に拳骨で制裁されていた。
その鉄人からクラスの振り分けが渡された時だった。
「お前はBクラス、と言いたいところだが。
しかし!昨年の素行の悪さを加味してクラスに悪影響が出る可能性が高いと職員会議で話し合った結果、特別措置としてFクラスとされた。
これに反省して素行を改めるんだ!いいな?」
とのこと。
キチンと学校に行ってればこんなことには……
今さら後悔してため息をつく。
がたっ、がたっ。
教室に入口の扉が開こうとしていた。
そういえば建付けが悪いのに閉めてしまった。
後から来る人を考えてなかった。
「あー、その扉建付け悪いから──」
力いれないと開けられないと思うぞ。
そう続けようとしながら手伝う気で立ち上がると、
がっ。
「──」
扉が跳んだ。
唖然として言葉を失う。
「少しやり過ぎたか」
足を突き出した、赤髪を逆立てたツンツン頭。
見知った顔どころか見慣れた野生顔だ。
奴が苛ついて蹴飛ばしたのは体勢からして明白だ。
野生人は呆れたこちらに気付き、
「ようこそ、我がFクラスへ」
ニヤリと笑い、騒動の絶えない一年間を俺に確信させた。
優子ヒロインものもっと増えないかなー、と思って自分で書いてみようと思ってやってみた結果。
捏造設定説明の方が長いってどういうことだ。
最初なんで短めになりました。