意味深ムーブTS転生者 作:げへかす
最初に言おう。俺は臆病であると。
臆病な性格が得することばかりだったら良かったのに、そう思ったことが何度かある。
石橋を叩いて渡るのは用心するという点で決して悪くないのだが、危機迫る状況ではそうも言っていられない。いの一番に逃げ出せば回避できたことを躊躇したがために避けられなかった、なんてこともある訳で。
誰だって、咄嗟に最善は選べないものだろう。
火事から逃げ遅れたのだって、俺のそんな臆病な性格が故だったと今でははっきり分かる。
「先生。先生は……」
死した俺が死後の世界を彷彿とさせるこの世界に迷い込んだのは、果たして幸か不幸か今となっては分からない。
俺という異物を蓄えたここはどうなってしまうのか、それすらも分からない。
ただ俺はこの世界の行く先を知っている身。
何もせずにはいるなんて御免だ。
それこそ前は動くのが致命的に遅かったのだ。だから早く、誰よりも早く安全確認をしなければならない。
そうすればきっと、今度こそ。
「何があっても、生徒を第一に考えられますか?」
「“もちろん”」
目の前の「大人」は視線を逸らすこともなく、躊躇う様子もなく、自信を持ってそう言ってのけた。
少しホッとする。
たとえ目前の「先生」が先生だとしても「プレイヤー」である先生は、前世では何万人もいた筈だ。俺のように、あの世界からこっちに連れてこられた「プレイヤー」である可能性も考えたが、杞憂だったのかもしれない。
「たとえ、銃弾に撃たれても」
「“まあ生徒の盾になれるなら”」
「生徒のために、生徒の足を舐めることになっても」
「“それが生徒のためにな……えっ?”」
「……良かった、貴方はやっぱり「先生」だ」
懸念の大部分は潰れた。
この先生ならきっと大丈夫。この笑みは安堵の笑みだ。
俺の持つ、原作知識が恐らくこの世界の住人に適応した形であろう「眼」は、俺の意志に関係なく過去と未来を見せてくる。大部分が俺の居ない「正史」だが、時々俺の起こした「バタフライエフェクト」も見せてくれる。
今ほんの少し、未来で彼女らの笑顔が増えたような気がする。
「よし! じゃあ、したかった確認も出来たことだし行こうか。迎えが来てるはずだからさ」
「“???”」
良く分かっていないらしい先生の手を掴み、ずるずると引っ張っていく。
曲がりなりにも色々やってきたんだ、こういう事もあるさ。
俺の出現でいくつか変わった未来もある。
何もしなくても、俺が生きているだけで発生する「揺らぎ」というものはどうしても消すことはできない。
ならばトコトン捻じ曲げてやって、笑える人を増やして苦しむ人を減らす未来を掴みとってやる。
咄嗟に最善を選択が出来ないのなら、初めから両方を全力で掴み取るつもりでやればいいんだ。
なんて結論に至ってしまった俺は体の強度がキヴォトス仕様になったせいか、心もやや乱暴で我儘になってしまっている気がする。
それでも喜ぶ人が増えるのなら、まあ悪くない変化だ。
少し歩いて屋上のヘリポートへと向かえば、見覚えのあるヘリコプターが着陸していた。
きちんと5人、そろってお出迎えのようだ。
「あの人が、先生……」
恐らく一番乗り気でなかったであろうホシノは警戒の眼差しで先生を睨んでいるが、そのほかはまあまあ悪印象ではなさそうだ。
「あっ、先生! こうしてお会いするのは初めましてですね」
「“アヤネ、久しぶりだね”」
こっちは俺の関与の結果ということでうっすら見えていた未来だが、チュートリアル時点でアヤネも参戦していた。そういう意味でも一つ飛ばし二つ飛ばしくらい出来て、無駄に傷つく人が減ったのではないだろうか。
便利屋と接触する機会はその分減っただろうが、まだ巻き返せる機会はある。
先生たちの自己紹介をよそに、今後の予定を考えていると、ちらちらとこちらを伺っていた二番目に乗り気でなさそうなセリカが近寄ってきた。
「あの大人、本当に問題ないんでしょうね……」
「疑いたくなるのも仕方ないよねー、けどまあ連邦生徒会長が指名した人だから、大丈夫じゃない?」
「んなっ、この期に及んで他人事……!?」
まあまあと肩を叩きながらヘリの前へと戻していく。
「“そういえば、メア……だっけ? 制服が違うけど……アビドスの子たちとは?”」
「元同窓生兼、同じ委員会所属の仲間だよ。正確には、留学生かな」
ついこの間、「戻って来い」と母校からのお達しが来たため仕方なしにゲヘナ制服を身にまといゲヘナ生へと戻っている。
アビドスで卒業ぎりぎりまでいるつもりだったので、少し残念だが仕方がない。
「盛大な送別会を用意してもらったし、ね。凄い偶然で先生と入れ替わりになる形になっちゃったけど、本当に謀ってないからね?」
「一部で“最悪の陰謀家の
「本当、誰がそんなことを言い出したんだか……」
ホシノがジトッとした目で睨んでくるが、本当に身に覚えがないんだよ。
一時期あまりに忙しすぎて記憶にとても自信がない時期があったものの、そのあたりに何かあったのだろうか。うーむ、思い出せん。
思えば長かったような、短かったような。
前世込みの年数で言えば間違いなく短いだろうが、学生生活としてはだいぶ長かった。
この世界がヘイローを持つ少女たちが生活する学園都市だと理解したとき、色々頑張った結果こうなったわけだが、アビドスの過去を大きく変えることは出来なかった。結果の収束とか言う奴だろうか、あの過去はどうしようも回避できなかった。
その分ホシノのメンタルケアは頑張ったつもりだ。
主に頼ることの重要性を説き続けた。この世界の子は、なまじ一人一人に能力がありすぎる。精神的な面に反して、出来すぎてしまうんだろう。それで本編時空では皆が悩み、先生を頼り友達と話し、切り開いていく展開が多かった……ような気がする。
決定的な過ちを起こす前に、今のホシノなら踏みとどまれる。きっと。もし駄目だとしても、先生もいるんだ。
頼れる「先生」が登場したおかげで先生が関与する部分はほぼ安全になったと考えていいだろう。
俺の生み出す「揺らぎ」で見える未来が破綻する前に可能な限り種は撒いたが、俺には「義務と責任」を果たせる権力を持たない。権力に近い地位は近いうちに手に入るかも知れないがまず期待は出来ず、こればかりは「先生」に頼るしかないのだ。
色々情報はそろえておいたし、後は先生が生徒を導いてくれるだけだ。
……と個人的には思っているのだが、これで本当に良いのだろうか。
小さくため息をつく。
「“どうしたの?”」
「……いやね、うちの母校の治安は結構あれでさ。まぁ来たら分かるよ、私がどうして滅入ってるか」
俺の持つ神秘の一つ「未来視・過去視」はいまや強制的に見せられる原作知識でしかなく、それ以外は時々俺自身により発生した「揺らぎの結果」が見えるくらい。そんな曖昧な力なもんだから、当然周囲に明かせるわけもなく。
隠していない方の「守護」の神秘も、そこまで有用と判断される要素でもない。打たれ強さは決して良い方に働くだけではない。俺は何度も身をもって体感した。
振ってくる火の粉を払うだけでも精一杯になってしまうだろう。そう考えると、まだ自治権奪還についての策をああでもないこうでもないとしている方がまだマシだ。
そんなわけで俺という生徒を傍から見ると、「ちょっと硬い変人」でしかないのだ。
そんな奴が、自由と混沌を校風とするゲヘナ学園に戻ってみろ。格好のサンドバッグになる未来しか見えない。
ふと思ったが、神秘ってそう何種類も有しているものなのだろうか。
キャパオーバーすると何故か爆発してアフロヘッドになる、というのも神秘に含めると三つも神秘を有しているが、果たしてどうなのか。
ちなみにアフロヘッドの呪いと呼ぶこれは17年生きる今でも原因は謎である。
「うーん……いやっ、まともな人達の末席に招待されてるし。そこまで悪いようにはならないでしょ」
「出た、メアの百面相。人には自分一人で抱えるなとか言っててこれだからねぇ、おじさん……メアの方が心配になっちゃうよ」
「脳内シミュレーションしてるだけだから。今は心優しき風紀委員長に助けられるところまで見えた」
「あっそう……」
まあ間違ってはいないだろう。
とかそんなこんなで顔合わせも終わり、アビドスの子らは問題解決に向けて先生とシャーレの権限を所望していて、先生もそれにこたえようとしている訳だ。
「じゃあ、そろそろ解散で良いかな。……またね、皆」
「ん、また完全犯罪直前までいった銀行強盗の話聞かせてね」
「そ、それは今言わなくても良かったんじゃないかな!! ね、先生もいるし!!」
「……わかった」
「よりによってシロコ先輩になんて話をしてんのよ……」
「以前は覆面作るまでで終わりましたからねー、今度ヒフミちゃんも呼んでやりましょうか」
「しないからね!?」
ああ、先生に植え付けておきたかった俺の常識人のイメージがボロボロと音を立てて崩れ去ってしまう。
「これからはゲヘナ生として、ゲヘナのイメージアップにつなげようと思っていたのに」
頭を抱える。涙も出ているかもしれない。
「……ゲヘナに用がある時は連絡してね」
「諦めた」
「治安最悪だもん、イメージアップ戦略は土台無理かも」
真面目な人は校舎に依り付かないって話もあるしな、あの辺。
ゲヘナに呼び戻された理由は分からないが、メタ的な視点を考えるなら、ぶっちゃけ俺の頭に生えた羊のような角と腰から生えた蛇のような尻尾が原因だろう。ケモミミの多いアビドスより、角の生えた人が多いゲヘナ向きな見た目をしているのは自負している。
尻尾や角のある生活をしているせいか、女子の生活になれるのも早かった気がするがどうなんだろうか。
改めて、飛び立つヘリコプターに手を振り、先生を見送った。
「さてと、俺もそろそろゲヘナに帰るか……」
ところ変わってゲヘナ学園。
「この壁は?」
「書類です。一通り頭に入れて頂きたく」
「……え?」
俺の頭は久しぶりにアフロヘッドになった。
誰かのヘイローが砕けた。
誰かの叫びが聞こえた。
絶望し、誰かの神秘が恐怖へ反転した。
それで、それで――
「“ここは…………ッ?”」
初めて人の声を聞いた気がする。
振り返ると、驚愕と怒りの表情を浮かべた先生が居た。
ここはいわば「先生」が助けられなかった未来、あるいは致命的な間違いが見逃された未来だ。そんな表情になってしまうのは仕方がないのかもしれない。
「先生? なんで先生がここに……?」
「“……メア?”」
今でこそ俺自身の神秘に凝縮されてしまったが、悪夢としていまだ消えることのない前世の記憶達。
そういえば、セイアと精神世界の中で交流していたし先生が来てしまうのも時間の問題だったのかもしれない。
「あぁ、なら隠しようがないのか」
大きくため息をつく。
現状の俺が生徒である以上、必要以上に体調管理やら危機回避に意識を割いて可能な限り先生の手間をかけないようにしていたが、これまでなのかもしれない。
具体的に言うと、先生に心配させてしまう。
それをもっと他の生徒に向けてほしいところではあるのだが、この悪夢の中では特にヘイローの調子が悪いのも事実。目に見えてヒビが入っている。
何度か「色彩」に関するバッドエンドも見ているが影響は不思議と受けていない。これは俺が生粋のキヴォトス人ではないのが理由だろうか。分からないことが多すぎて、正直辛くなってくる。
一人で抱え込むのは、もう限界だろうか。
「いうなれば、バッドエンド、悪い結末、起こしてはいけない未来。本来は楽しい未来も見えたんだけどね」
本編時空に入ったからか、高校に進んで以来フラグが立ちまくりバッドエンドの悪夢ばかりを見る。それで気が滅入って、余計に悪夢の回数が増えるという悪い循環だ。
「ここのところ毎日見る未来だけど、先生がいる限り、こういう事にはならないよ」
「“……どうして”」
俺はかつて責任ある立場じゃなかったし、いまもそうだとは決して言えない。
だけど、助けたいと思った人を助けられずそのまま斃れた。その時の気持ちは良く分かっているつもりだ。
悪夢の中で揺蕩う「先生」を眺めながら、俺の横に座る先生に何となく呟いた。
「「先生」が「先生」だったら、こんな未来認めたくないでしょ?」
その声は、震えていたかもしれない。
日隠メア 17歳
ゲヘナ学園所属、風紀委員会にスカウトされた外交役のような存在。
アビドス高等学校への留学経験があり、他にも何かと顔が広い。
控えめで常識人なようでいて、その適応力や各所への根回し等はかなりの辣腕。
仕事ぶりに反してストレス耐性は低く、ストレスが限界を迎えると何故か爆発する。
陰で陰謀家と言われるほどの辣腕外交役のTSオリ主ものなんて描けないのでプロローグでエタです。続きません。
シナリオ
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可能な限り本編通り
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ほどほどに逸脱OK
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滅茶苦茶にするべき