意味深ムーブTS転生者 作:げへかす
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ただないものは力んでも出ないため、流石にもう無理な気がしてきました。
何度か考えたことがある。
原作知識に起因するこの「未来視・過去視」は、本当に未来や過去のことが見えているのか、と。
百合園セイアの予知夢こと未来予知は、改変など不可能。受け入れるしかなかった筈だ。だから夢に見たことは間違いなく起こり、起こった。ただそれは予言者でなく預言者、メッセンジャーという意味であるのならば、まあ矛盾はないかもしれない。
既に決定した未来を世界から伝えられる。決して人のことは言えないが、過ぎた力だと思わずにはいられない。
ブルル、と切り忘れていたスマホが鳴った。
「……あの」
「あぁごめん、少し考え事をしてた」
目の前に座る陸八魔アル。
虚勢か上司としての意地か、伸びた背筋や張った胸、表情に翳りはない。ため息をつきそうなのをグッと堪えて、言葉を考える。
事務所の周囲には人員を敷き、逃げ道は一見すれば穴がないように塞いでいる。すでに口座の凍結されている便利屋68が物資を得るのに利用しているところへ少しずつ圧をかけ、巡回経路も少し弄り下手に動き回れないようにし、少しずつ追い詰めていった結果がこれ。
「答えは、決まった?」
投降するか抵抗するか。
俺だって嫌な予感はしていたが、完全に未来が読めるわけではない。セイアの見る絶対の預言とは違う、俺の采配で揺らぐ予知。揺らいだ果てに、便利屋の首を絞める役が回ってきた訳だ。
「……囲まれてる。相当不利だよ」
「ついでに言うと、私は相当頑丈でね。ちょっとやそっとの攻撃じゃ目眩しにしかならないよ。銃を構えるのは早いんじゃないかな」
「あは~……」
百合園セイアならこういう未来も知っていたのだろうか。
俺は生徒の悩む顔を見たくてあれやこれやをしてきた訳ではないのだが、こうなってしまうのは俺が色々と行動をした結果でしかない。
本当に嫌な役を買ってしまったものだ。
ただ、悪い事ばかりでもない。揺らぎは巡り巡って色々な効果をもたらしてくるらしい。
大きくなりそうなのを堪え小さくため息をつき、席を立ち敢えて背を向ける。俺の持つ制圧には向かない拳銃が見えるがこの場合は構わない。ここから先は俺の無害さをアピールしておいた方が良いだろう。
事務所の外に待機している風紀委員の部下を一瞥しつつ、シャッとカーテンを閉めた。
『め、メアさッ──』
「総員、そのまま待機」
インカムから色々声が聞こえるが、無視だ無視。
インカムを外しスイッチを切った後テーブルの上に転がす。
アコだって他校の自治区付近で結構無茶苦茶やったんだ。俺だってこの程度の無茶苦茶ならやってもいいだろう。
「とまぁ、ここまでは風紀委員会の話。ここからは私の話をしよう」
投降とか言ったって絶対聞きやしないだろうし、俺にとっては茶番の様な気もするが、それでも敵役のような振舞をする必要があると言うだけで心苦しくなる。
息を整えつつ、先ほどまでの威圧的な態度は抑える。
「一つ、提案をしたいんだ」
「っ、提案とは随分ね」
決して断れない提案を一つ、だったか。
俺はあそこまで悪趣味ではない。偶然役回りのせいでそういう状況になってしまっただけで、やろうと思えばここでなくとも出来たことだ。
調査の結果、名前は隠してあるが便利屋はカイザーコーポレーションから依頼を受けていることは分かっている。それに襲撃も一度失敗している。状況は俺の知る限り大分似通っている筈。
ただ、少し気になる部分もあるのだ。
「あーいや言い方が悪かった、ほんとここからは個人的な事情なんだ」
どうせ便利屋68はここで投降することはないだろう。
便利屋は大立ち回りをすることが多いが、その中でも明確な敗北を背負ったことはあまりなかった。つまり、武力行使を行ったとしてもこちらがひたすら損をするだけに終わる気がする。
なんてことを言えば、特にアルは呆然とした表情を浮かべていた。
「個人的に便利屋68が投降するとは思ってない。だから、雑談ついでにお願いを、と思ってね」
以前ノノミから受け取った袋、アビドスの子達が図らずも得てしまった銀行の金のことを思い出す。
「覆面水着団」に関係する事象は起こった。どれだけ裏が分かろうと借金の額は変わらず返済期限は待ってくれない、おまけに払った利息が闇銀行に流れていると知れば、元と同じような流れになったのだろう。
アレは本来であれば、ゴタゴタの果てに便利屋68から柴関ラーメンへと渡っていた筈だ。
それが今は俺の手元にある。
今回、柴関ラーメンは爆発しておらず、あの金もアルの手に渡らなかった。だが、表向き「便利屋68の捕縛」を目的としたアコの暴走では、アビドスと共闘を果たすくらいには縁が結ばれている。
だから、どこまで同じことが起こるのか不安なのだ。
ホシノは黒服との連絡を絶ってはいない。ホシノが黒服の提案に乗ってしまうのは、非常に不味い。
黒服には先生へより興味が湧くような情報を渡しているから、ホシノを利用する前に先生と接触することを期待したがそれもうまく行っていない。
ここらでもう一つ方向性が正しいのか「揺らぎの果て」が見えてほしいところだが、俺の神秘はうんともすんとも言わないのだから、困ったものだ。
と言う訳で、起こる前の布石。
ゆっくりと頭を下げた。
「アビドスの子達に何かあった時、手を貸してほしいんだ」
「……へ?」
身構えていたアルは素っ頓狂な声を上げるが、それを無視して続ける。
「アビドスの問題が片付かないうちにゲヘナに帰ったから、何かと心配でね。この間みたいなこともない訳じゃないだろうし」
「……そういえば、最近風紀委員に入った子、元はアビドスに居たって」
「そうそう」
「確か、フィクサーとか陰謀家とか言われてたんだっけ?」
「それ誰から聞いたか教えてくれない? マジで風評被害なんだけど」
アルの表情が大きく変わった気がするが、まあいいだろう。
フィクサーって何だ、基本的に正規の手続きしかしたことないのだが。
ともあれ、このお願いを聞く聞かない関係なく便利屋は上手く逃げるだろうし、目的は達成したと言って良いだろう。
あの金も元はブラックマーケットの金だし、ここで便利屋68の資金源にしてもらうべく渡しても良かったような気もするが、ここで渡すとそれこそ取引になりかねない。
もし渡すのであれば、ごたごたが終わった後、あるいは詰めの直前が良いだろうか。
俺は臆病で小心者なんだ、正直あんな金正直一秒でも早く手放したい。人を使うにも金は飛ぶように消えるが、あの金を使う度胸は流石になかったらしい。
ノノミから受け取ったのはノノミに渡されたから、という部分が大半ではあるのだが、理由ははぐらかされて結局聞きそびれてしまった。俺が何か色々裏で走り回っているのもノノミは知っていたし、必要だと思われたのだろうか。
もしかして、あの噂の出所はノノミ……?
いや、流石にノノミはそんなことはしないだろう多分。
「まっまあ、そのぐらいなら聞いてあげても……」
「はぁ、社長がそれでいいのなら良いか」
混乱気味のアルと、明らかに警戒の目を向けてくるカヨコ。
突然カーテンを閉めたりインカムを外したり裏取引の様な「お願い」をしたりと好き勝手しているのだから仕方がないとはいえ、もしかしてカヨコにはあの噂が事実だと思われているのだろうか。
それは不味い、非常に不味い。
「カヨコ、一応言っとくとあの噂はマジで根も葉もない噂だからね」
「確かに、尾ひれはついてそうだ」
窓の外をチラリと見つつもそう呟くカヨコを見て少し一安心。
じゃあそろそろ、と、撤退の準備を始める便利屋を他所に、インカムを耳に装着し直していれば、カヨコから声をかけられた。
「一つ聞きたいんだけど、この包囲陣を立てたのは……日隠メア、あなたで合ってる?」
「うん、そうだよ。……もしかして、バレた?」
意味深な微笑みで返された。
「社長も気づいてると思うけど、この人は私たちを逃してくれるみたい」
「……まあ、お願いのところから薄々と勘づいてはいたけれど」
元より、ここに来るまでに覚悟は決めているのだ。
元々の時空より持ち出せるものを減らさせてしまったり、こういう状況を作り出してしまったのは俺の行動の結果でもある。
インカムのスイッチを付ければ、キンキンとした声が聞こえてきた。
「……交渉は決裂」
『メアさん、やっと通じた!! もう突入しますよ!!』
「アル様!」
「あはっ」
形ばかりに銃を構えれば、ムツキとハルカがこちらに銃を構え、問答無用でぶっ放してくる。
こういうところはゲヘナ由来なのかキヴォトス由来なのかアウトロー由来なのかは分からない。ただ容赦のなさは突入してきた他の風紀委員にも間違いなく見られただろう。
ひとまず保身の面はある程度問題ないとして、あとはドンパチやってるうちに逃げてくれれば。
「ウッソォ……、全然効いてない」
「ちょっ、私の事務所が……ッ。ああ、もう、ハルカ!」
「はい!!」
「あっ、マズ──ッ」
ハルカの手にあるリモコン。
咄嗟にそれらしきモノの位置を探る。
すぐ近くに風紀委員の子がいた。腕を掴んで引っ張り込み、俺が盾なるよう覆い被さった直後。
大きな爆轟。
爆破の衝撃と、降ってくる瓦礫の感触に耐える。
確かに「目眩しにはなる」と言ったが、流石に事務所丸ごと吹き飛ばすとは思わないだろう。
煙を吸い込んでしまったせいで咳き込みつつも、素早く呼吸を整える。相変わらず俺の体に怪我はない。せいぜいいつものように髪がちりちりになったくらいか。
「大丈夫?」
「ひゃ、ひゃい……」
耳が爆音でおかしくなっているのか変な返事だったが、庇った子は傷もなく問題ないようだ。
こういう時に自身の頑丈さには何度も助けられているのだが、いかんせん限定的すぎる。
「あー……単独行動に、指名手配犯の取り逃し、大量反省文コースだな」
まあしかしながら便利屋のみならず、今後の巡り合わせ的に見逃した方がいいと判断すれば、同じことをしてしまうような気がする。場当たり的な仕事しかできないのは非常にもどかしい。
そうなるとヒナ委員長のストレスが溜まるであろうことは容易に想像がつく。
先生のことだから既にヒナと邂逅を果たしているだろうが、メンタルケアの方は問題ないのだろうか。
「先生に頼り過ぎかなぁ……」
そう言えば、と通知があったのをすっかり忘れていたスマホを取り出す。
そこにはモモトークの通知が一件、ホシノからのメッセージが届いていた。
「やぁやぁ、久しぶりだね〜」
「懐かしむほど離れてないでしょ」
ホシノからデートの誘いが来た。
反省文から逃げる理由を得た、と言う訳ではないが、反省文のために軟禁されるまえに会っておきたかったのは事実だ。
対策委員会編では、ホシノの選択が良くも悪くも大きく事態を動かす。
ホシノがその選択をしなければ、どちらにせよカイザーPMCに乗り込んで、悪事が明らかになり、理事長は失脚し、という流れになるのだろうか。
「最近調子はどう? おじさん気になっちゃうな〜」
「忙しくてやってらんないよ、アビドスはどんな感じ?」
「うーん八方塞がり、かなぁ。手続き自体は正当みたいだから……」
もうそこまで行っていたか。
これは俺を頼ってくれたと考えて良いのだろうか。先生ではなく、俺という点に先行きの不安さを覚えるが、及第点だろう。
黒服との取引は、アビドスの膨れ上がった借金を肩代わりするという甘言に釣られ、アビドスが楽になるならと起こった。現状借金を正当に返し続けるには明らか無理があるせいでもある。
そして何より黒服に手を引かせつつ、カイザーPMCをぶっ叩き不正を公にせねば、先はないようなモノ。
それを起こせたのがホシノの選択、先生の選択、みんなの選択だった。
「私が融資しようか?」
「ノノミがあげた金使おうとしたでしょ〜、アレは使わないって決めたの。たとえ今は……部外者のメアだったとしても、受け取れないよ」
「そっか」
名前を隠して、足長おじさんのような感じで融資しても、きっと察して受け取ろうとしなさそうだ。
この案は諦めることにしよう。
「そう言えば……メアは黒い服を着た大人、知ってる?」
「……一度だけ、会ったことはあるね」
確か、ホシノの付けた呼び名を後から自称し始めたのだったか。
「脅されたりとかしてない?」
「ないない。どっちかというと私が脅してる方かも」
「うへ〜、良くやるよ……」
「ゲマトリア終了」と「外から来訪者」の二つの未来知識を元にブラフにブラフを重ねて言いくるめた形だが、まあ脅したといえばそうだろう。
俺の神秘は俺自身が認めるように特殊仕様らしく、ゲマトリアの「崇高」への到達にホシノを求めるように、俺にも関心があるらしい。
まあどうもブラフに関係なく、俺の神秘は不安定らしく、研究するには確実性が足りないようでゲマトリア側から手を引いた、というのが正しいかも知れない。
「……実はその黒服から、取引を持ち出されてねぇ」
「……そういうことは先生に相談しなきゃ」
やはり相談。
ぽっとでの先生より私を信頼してくれたのは誇るべきか否か、今はとにかくホシノが取引を受けないように説得する以外に方法はないが。
「それに非公式な部活から、生徒会所属の子が居なくなるとマズい」
「え、は……?」
「正式な生徒委員会のメンバーが居なくなったら、もっと強引な手に出てくると思う。大人たちがホシノを引き抜こうとしているのは、きっとそれのせい」
神秘の研究とかは伏せたほうが良いだろうが、そもそもPMC理事長の方はそちらの方が目的である可能性は高い。黒服はそれに乗じている形だった筈。
なら思いとどまってくれるよう、情報を渡していくしかない。
「それに黒服も合法合法言ってるけど、裏では非人道的な実験をしているらしいし。正直、ホシノがまともな待遇を受けるとは思えない」
「……そっか、色々調べてたんだ」
少し表情に笑みが戻ってくるホシノ。
「うーん、やっぱり「大人」は信用できないねぇ……」
「あ! いや、でも、先生はいい人だよ!」
「や、それはもう何となく分かってるけどさぁ」
何度も先生の指揮を受けたり、対策委員会として一緒に過ごしたりしているからそれもそうか。
「じゃあ聡明なメアさんには、今後の私がどうするかも予想ついちゃってるのかな」
「え、ううーん。予想かぁ……」
もしやホシノには俺の神秘に勘付いているのだろうか。
ホシノが居なくならない、となると若干の不安も残るが、カイザーコーポレーションには連邦生徒会の調査が入らないと事態の解決とは言えないだろう。
そうであるならば。
「『対策委員会総出でPMC襲撃、ついでにアベンジャー出動でカイザーてんてこ舞い』ってとこかなぁ」
「うへぇ〜全然想像がつかないや」
「ホシノ先輩、送別会企画もそうだけど、一番メア先輩のこと引き止めたがってたじゃない。あれでよかったの?」
「よくはないけどさ〜……。まあ、本人が戻る気なら仕方ないよ。それに、今生の別という訳じゃないしさ。文明の利器でいつでも連絡取り放題、いや〜いい時代になったもんだねぇ」
「いつの時代の人間なのよ……」
「単に恥ずかしかっただけじゃないんですか〜?」
「そ、そんなことないよぉ〜」
「悪のフィクサーに屈しない真のアウトローであるかっこいいアル社長」が見たい!と思ったけど、相手は悪のフィクサーじゃなかったので無理でした。
全部難しいです。
最後のやり取りは最初の話に入れてたと思ったけど入ってなかったので今回入れました。傷心中構いまくるという罪な行為をしているのでちょっとホシノからの矢印大きめですが、よくある本人無自覚案件です。
対策委員会編がどうなるかもうわからなくなってしまったので流石にもう続きが思いつかなくなってきました、エタです。
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シナリオ
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可能な限り本編通り
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ほどほどに逸脱OK
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滅茶苦茶にするべき