意味深ムーブTS転生者 作:げへかす
アビドス編エピローグ的なサムシングです。
「メア先輩、よくここ来るけど暇なの……?」
「何というか、消去法……?」
ボサボサになった頭を掻きながら、裏メニューこと「ナイトメア
辛味噌やら辣油やらがあるんだったら辛めの奴を作ってくれと頼んだ結果生まれた特製ラーメンだ。おそらくこんな名前がついてるが、俺以外に食べるやつはそうそう居ないだろう。
流石に美食研究会もここには来るまい、来たとしてもお眼鏡に適いそうな気もするがあえて言う必要もないだろう。
そんなことを考えつつも、一度啜れば辛さで思考がいくらか麻痺する。頭をリセットしてサッパリさせるにはやはり激辛料理だ。
チラリとメニューを見ればいくつか新商品が並び、店内も住人が限りなく減っているアビドスでは珍しく繁盛しているようで多くの客も見える。
ずるずる、と顔を真っ赤にさせ汗をだらだら垂らしながら、辛さで頭の中を埋め尽くすかのようにもさもさと食べていく。
急いでいる時は食事なんて味のことなど気にせず空腹を満たすためだけの作業になる。こうしてのんびり食べられる時間が確保できるというのはとても良いことだ。
とはいえ流石にのんびり食べ過ぎていたようで、気付けばピークは過ぎ客席も疎らになっていた。
スープを飲むか飲むまいか数度悩み、ちびちびと飲み始めていると「先輩」と声が掛かった。
柴大将から休憩でももらったのか元々休憩時間だったのか、頭巾を脱いだセリカが横に座る。店内を見渡せばもうほとんど客はいなくなっていた。
ひとまず、一つの山場は超えた。と言って良いのだろうか。
「……お疲れさま。このまえの騒動とかも含め色々、ね」
「フン、応援にはきてくれなかったくせに……」
曲がりなりにも後輩は後輩。
いつものツンな様子だけでも間違いなく可愛く思えるのだが、こういう姿は余計に可愛く見えてくる。思わず頭を撫でてしまったが、すぐ払われてしまった。
業務上や根回し等で最近よく万魔殿と関わる機会が多かったので、こっちも毒されていたのかもしれない。
「言い訳にはなるけど、あれは謹慎のせいだから私のせいって訳じゃないんだよね……」
「ゲヘナに戻って早々何してるのよ……。相変わらず難しい事ばかりしてるの?」
「そうでもないよ。仲間作りが基本、あとは情報取集で。ほかは……謝罪行脚、テロリストのマーク、万魔殿との交渉……あばばばば」
「うわっ!」
ボフン。
口元がちりちりして、爆発。
最近は爆発してばかりだから髪型にアフロの癖がついていないか非常に心配になる。幸い酷い癖毛という事もなく櫛さえ欠かさなければ問題はないのだが、面倒なのは間違いない。
元に戻りかけていた髪がまたちりちりになったのを煩わしく思いつつ、乱暴に手櫛で押さえつければいくらかマシにはなった。
相変わらず「どんな体質してんのよ」などと横から聞こえるような気もするが、それは俺だって知りたいことだ。
「……今回のことで、メア先輩が前に言ってたこと少し分かった、かも」
「ん? ……あれ私、なにか言ってたっけ」
「『咄嗟に最善を選ぶのは難しい』って奴」
はて、いつ言ったのやら。
俺は前世の最期、一瞬でも自分の命と大切な人の命を天秤に掛けてしまった。
結果的に、俺は煙に焼かれてこの世界にやってきてしまった上、思わず戻ってしまったあの火事の中、大切な人も助けられなかった。
二の足を踏んだせいで、と俺が躊躇しなければ最善の結果を出せたと言える傲慢さは持ち合わせていないが、少なくとも俺の行動は最悪の結果を呼び寄せた。
俺はもうあの惨めな思いをしたくない。
そんな自分勝手な思いから、走り回ることを決めた。咄嗟に最善を選べないのなら初めから両方を掴むために動く。とにかく足掻くことを決めたのは今思うと随分前のようにも感じる。
「あの時便利屋に発破かけられてなかったら、ホシノ先輩が戻って来なかったら、私はどうしてただろうって……。ホシノ先輩は、『切羽詰まると、人はなりふり構わなくなる』って言ってた」
そうしてかつての生徒会が手放してしまった土地の権利については俺も良く知っている。
土地の権利をアビドス高校に戻せないかと四苦八苦したが、契約自体は正当で合法。買い戻すには目下の問題点である「お金」が結局必要になるという結論に至った。
ふと、スープをすくっていたレンゲを持つ手が止まる。
俺の中で、先生は「生徒のため咄嗟に最善を選べる人」という認識だ。正史の先生は「選べる人」だったと間違いなく言えるだろう。先生の言葉や行動が生徒を救い、助けることが出来ていた筈だ。
そして俺は可能な限り最善に進みやすいように、「最悪な結末」を潰すように動き回っていた。便利屋の参戦もそうだし、ホシノを黒服に渡すまいとあれこれしたのもそうだ。先生が動けば全て上手くいく可能性はある、だが俺という存在がいる以上「正史」と全く同じにはなりえない。
それに先生でも、起きてしまったことは無くせない。それはどうしようもなかったのだ。
アビドス高校に関しては最終的な戦いは大きくなったが結果的に被害は小さく収まった、と個人的には認識している。
ただ、ふと考えてみれば。
今こうしてセリカが悩んでいるのは、俺の行動のせいではないのか。
冷めた辛いスープを一気に口に含んだ。
脂が口の中に張り付いてくるが、一方で口いっぱいに広がった辛みで一気に汗が出てくる。
よし、頑張ろう。
スープを飲み切ったことに達成感と満腹感を覚えつつ、ふと聞いた話を思い出した。
「にしても、便利屋68から柴関に、か」
「便利屋?」
「うん、ちょっと知り合いでね」
我ながら金の処分やら便利屋への負い目やらの解消法でナイスな作戦だと思ったのだが、あのアル社長とやらは「これ以上借りは作らない」だとかなんとか言って柴大将に全て任せたらしい。
ということはつまり、最終的に金の流れは正史とほぼ同じような流れになった訳だ。
「最初は嫌な奴かと思ったけど、最後には助けられちゃったし。ただ悪い人達って訳でもないのかしら」
「無慈悲には無慈悲を、だっけ。あれだけの戦力あったのに、危ない時あったんだ」
「そりゃあ……あるわよ。相手は軍隊、おまけにあの時はホシノ先輩と先生がいなかったし……何より、咄嗟にあの大人に言い返せなかった、から」
セリカの話を聞く限り便利屋68の株上げも起こったようだ。起こった事象に関しては問題ないのかもしれない。
心残りといえば、ホシノを除く対策委員会メンバーに少し辛い思いをさせたことくらいだろうか。
しかしながら、あの状況でホシノを引き止めるには先生が必要だった。ホシノに関係する細かい動きは先生頼みであった上、カイザーPMCを物理的に叩く口実にはあの局面が必要だっただろう。
事前に学校付近が戦場になる可能性、アビドス自治区外にカイザーPMCが兵力を集め待機している事実を伝えておくくらいが俺ができる仕事だった。
後から聞いた限りでは。
ホシノは契約までは進んだが先生が文字通り無事に契約を解消、先走ったPMC理事がアビドス高校への侵攻を開始し、対策委員会プラスアルファがそれを迎撃、撃退した……となる。
今後の書類上の流れは、正史とほぼ同じである可能性は高い。
件の理事長とは何度か立ち会ったことがあるが何かと俺やアビドスに敵意を向けていたため、ホシノが黒服の手に渡るまでもなく実力行使に至るのではと考えていたが、流石にそこまでではなかったようだ。
……それにしても、黒服め。
こちらから先生との邂逅は何度も提案したのに無視しておきながら、いざ先生が自主的に赴くとなると両手を上げて歓迎するとは。
このことからゲマトリアは、俺との接触を意図的に避けている可能性があるかもしれない。
単純に先生を贔屓しているだけかもしれないが。
「はぁぁぁ、悪い大人には騙されるし、アヤネには説教されるし、借金は返しきれないし。やっぱり一発逆転しか……」
「それでアヤネに説教されたんだよね?」
「分かってるわよっ!!」
ふぅ、とため息をついた。
気を持ち直し席を立ったセリカを見送りながら、会計のために席を立つ。
先ほどと同じように落ち着いた店内を一瞥していると、ふと。
「「「「「あ」」」」」
それは片手で髪を掻き上げ特盛ラーメンを今まさに啜ろうとしていた陸八魔アル、それとその仲間たち。
とっくの昔にアビドスは去っていたと思っていたのだが、ここはもしかすると生徒を引き寄せる場所なのだろうか。あるいは単純に常連となったか。
偶然か必然かはさておき、もう一度は会っておきたかった生徒たちではある。
「眼」による知識がもたらされない限り、能動的な接触は不可能だと思われていた邂逅は思わぬところで達成されたらしい。
ナイトメアSPを食べているわけでもないのにも関わらず汗をダラダラと流し始めたアル社長に、俺はゆっくりと近づくことにした。
便利屋68はアビドスの一件以降、文字通り雲隠れした。
以前の便利屋68の事務所の正確な位置を割り出し上手く追い詰められたのは「未来視」という名の前提知識あってのものだった。
依頼を受けるためのプラットフォームも存在しているし、便利屋を締め上げる表だった目的さえなければ突撃することも出来たのだろうが。
「あの金はその、えっと……」
「一応言っておくとアレ処分に困ってただけだから、どう使って貰っても良かったんだけど」
「え!?」
「ほら、やっぱり私の言った通りだったでしょ。まあ面白かったからいいけど~」
「……あっいや、き、今日は何の用かしら」
あの金の使い方に一悶着あったのだろうか。
ニヤニヤし始めるムツキ、ため息をつくカヨコ、慌て始めるアル、おどおどするハルカ。ハルカに至っては取り戻しを提案してくるから、正史みたいな流れになるかとヒヤヒヤしたが。
まあそのことは良い。
「少し聞きたいことがあってさ」
そう言って、このところの頭痛の種であった地図を広げる。
ここ最近で爆破やら暴動のような事件が起こった場所、赤い丸でチェックをしたところを指差した。便利屋68が関わっているのかの確認だ。
料理研究会……ではなく、美食研究会に関してはハルナとも個人的に繋がりはあるし、突撃先を聞いたり逆に情報を流すことで、ある程度の関係は保てている。
全く制御は出来ていないし息をするようにトラブルを起こすのでもはやどうすることも出来ないが、無の状態と比べればまだある程度の予想は立てられるようになった。
他の問題は温泉開発部やら便利屋68、時にヘルメット団といった不穏因子。
「どれも記憶にないわね。ここ最近は特に仕事も請け負ってないし」
「なら良いか。……ん、まさか食い逃げじゃないよね?」
「この私がそんなことするわけないでしょ!? 大将から無料券を貰ったの!」
お金も受け取っていない、仕事も最近やっていないと来れば少し不安だったが杞憂であるようだ。取り出したスマホを下げ、大将に目をやればサムズアップされた。
いや今どうやったんだ?
ポチポチとスマホを弄りながら他風紀委員を呼び寄せることも考えたが、連絡を取るまではせずそのままポケットへとしまった。
「風紀委員会としては指名手配犯を放っておけないんだけど、一人じゃ捕まえられないしなぁ」
「……風紀委員会なのよね。あなた」
「いやぁ、私は裏方仕事が性に合ってるから」
じとっとした目を向けてくるアル。
便利屋に関してはここで捕えずとも、依頼時の動き方はある程度把握している。
依頼の達成に関してはあまり信頼は出来ないが、必要となれば依頼する形でほどほどには行動を誘導できるだろうと踏んでいる。
実際問題、硬さはあるとはいえドンパチの場に行くことはほぼない。
大体事後処理か事前対策の場に出張るくらいだ。以前の便利屋68事務所への押入りはともかく、俺が戦うことはそうない。
俺が体を張る事と言えば道端で暴動が起きた時の様な突発的な何かに巻き込まれた時くらいだろうか。主に民間人やら部外者やらを庇ったり、実行犯の攻撃を俺一人に向けさせたりすることしか出来ないが。
「風紀委員長に迫るくらいヤバい奴って噂は所詮噂ってこと?」
「そうそう」
最近妙に喧嘩を吹っ掛けられたり、逆に必要以上に恐れられたりしていたのはその噂が原因だ。
俺個人に関していえば、銃はまだ一度も使ったことはないくらいに無害ではあるのだが、「こいつを倒せば拍が付く」なんて言いながら襲い掛かってくる奴がごく一部居たのはそういう訳だろう。
箔をつけるのが目的なのに、ヒナではなく新人の俺の方に来る辺り小賢しいというかなんというか。
大体そういう奴は攻撃を耐えて説教すれば言う事は落ち着くが、面倒なことこの上ない。
「い、いえ……あ、あの時の爆弾は本来、対風紀委員会に……その、用意していたものなので……ハイ」
「そんなので自分の拠点吹き飛ばすなよ……」
身内も俺と同じようにドン引きしているが、大丈夫なのかそんなグループで。
「ひ、一つ聞いても良いかしら」
「ん?」
「悪のフィクサーって噂も、本当にただの噂なの?」
「根も葉もない噂だからね?」
「……そう」
露骨に残念そうな顔をするなよ。
番外編にするかは悩みましたが、今後も続くなら必要な回ということでそのままナンバリング。
ただ、色々読み直していると読み違えていたり勘違いしていたりしていたことばかりでだいぶ続くか怪しくなってきました。エタ説が濃厚です。
未来視もどき持ちゲヘナ学園生が、真の未来視持ちが居るエデン条約編で色々出来る気がしない。
もっとコメディチックに書きたいのにどうしても暗くなってしまう。コメディとシリアスが行ったり来たりする青春模様を書きたい……!
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シナリオ
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可能な限り本編通り
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ほどほどに逸脱OK
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滅茶苦茶にするべき